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ゾンビになったと追放された俺は人類を救えるかもしれないけど人類は救いようがない  作者: しゃぼてん
4章 感染防止の自衛行動

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35 へたくそな狙撃手

 俺が考えこんでいると、結生は俺にたずねた。


「先輩、どうかしましたか?」


「なんでもないよ。ますます高木と合流できそうにないなって思ってただけ」


 本当は、結生に今の現実を教えるべきかどうか、考えていた。


「あ、お姉ちゃんに電話してみます」


 結生はスマホを声で操作して、寧音に電話をかけた。

 寧音は電話にでなかった。

 スマホか寧音自身に何かが起こったのは間違いない。問題は、何が起こったのか。


「バッテリー切れかな?」


「それはないです。わたしもお姉ちゃんも家を出る前に満杯にしました。たぶん、落としちゃったか、壊れちゃったんです」


 結生が言うように寧音がスマホを失ったなら、俺にとってはラッキーだ。

 だけど、寧音がゾンビと戦闘中で手が離せないだけ、という状態なら。

 もしも寧音がGPS追跡アプリで結生の位置を把握できる状態だったら、広瀬達と一緒に俺を殺しにくるかもしれない。

 寧音の武器は木刀だけど、広瀬と一緒にいた奴らは銃を持っていた。あんな奴らに奇襲を受けたら、俺は逃げ切れない。


「結生。ちょっとスマホをかしてくれないか? 俺の連絡先をいれときたいんだけど」


 俺は、結生のスマホのGPS追跡アプリを無効化するために、ウソをついた。


「はい、どうぞ」


 結生は俺を疑いもせずに、スマホを差し出した。

 だけど、結生のスマホは操作を全部しゃべる。俺が何をやっているのか、逐一報告してくれるので、全部バレる。

 結局、俺はごまかすのをあきらめ、結生に正直に言った。


「あとさ、GPS追跡アプリが入ってるか確認していい? 俺は誘拐犯扱いされてるから、寧音に俺達の居場所がバレると俺が奇襲攻撃を受けるかも。もちろん、合流できるように後で高木に居場所を教えるけど。俺が逃げられる時間を作ってから」


 正直、断られると思っていた。だって、結生にとってはGPS追跡アプリが入っている方が都合がいい。

 しかも、俺が言っていることは、なんか怪しい。正直に言っただけなんだけど。

 俺が同じことを言われたら、(こいつ、やっぱり怪しい。ただの誘拐犯かも)と思う。

 でも、結生はあっさりうなずいた。


「いいですよ」


「いいの? 本当に?」


「はい。まだ先輩と二人でいたいので。せっかく会えたから……。でも、たしかに、お姉ちゃんは怒っていると思うから、お姉ちゃんがやってきたら、わたしを盾にしてください。そうすれば、お姉ちゃんは手も足もでません」


「いや、そういうわけには……」


 俺は結生のスマホを操作し、GPS追跡アプリを探した。それらしいアプリはすぐに見つかった。


(やっぱり、これで結生の居場所を把握していたのか)


 俺はアプリで寧音の居場所を探したけど、表示されていなかった。


「高木の居場所はわからないか」


 俺はとりあえず、結生の現在地が表示されないように設定を変更した。

 俺の連絡先を登録し、結生にスマホを返却した後。結生は俺にたずねた。


「そういえば、先輩も避難するところだったんですか?」


「いや、俺は知り合いの家に行くところだったんだ」


 俺はとっさに微妙に行き先をごまかした。高木寧音や広瀬に行き先を知られるとまずい。


「先輩は避難しないんですか?」


「俺は感染者だから、避難できないよ。ゾンビは隔離地区の外に出ようとすると、殺されるか逮捕されるんだ」


「そんな……。そんなの、ありえません」


 結生はショックを受けたみたいだ。

 たしかに、昔ならありえない話だった。あまりにひどい扱いだ。ちょっとウイルスに感染しただけで移動の自由がなくなるだけじゃなく、殺されるようになるなんて。

 でも今ありえないのは、結生の常識だ。


「今は、そういう状態なんだ。移動しよう。とりあえず、どこか安全な場所を見つけないと」


「……はい」


 結生は暗い表情でうなずいた。

 俺は結生と一緒に移動を始めた。



 このあたりにも、ゾンビはいない。

 建物の外壁には銃弾の痕がある。道路には焦げ跡があり白骨が落ちていた。

 ここでゾンビ狩りが行われていたのは間違いない。

 でも、今は周囲には誰もいない。


 進むべきか? 

 引き返すべきか? 

 敵はどこだ?

 どこへ行くべきだ?


 迷いながら俺は進み、広い道路に出た。片側2車線ずつの広い道路だけど、路肩にバスが停車している。

 どこにも衝突していないけど、バスは全焼。バスの中に焼け焦げた死体が見える。

 他に、道路にはゾンビの死体があった。

 血だまりができているところ、出血が続いているところを見ると、このゾンビはまだ殺されて間もない。

 だけど、この道路に人影はない。


「この辺りで物音や声は聞こえるか?」


 俺は結生に尋ねた。物音の距離や方向を判断する能力は、俺より結生の方が格段に上だ。

 俺が一人で判断するより、結生の意見を聞いた方がいい。


「近くでは聞こえません。でも、後ろの方、遠い所に誰かいるかもしれません」


 敵がいるのは後ろ。ということは、前進するしかない。

 俺はバスの後ろを通過していった。

 バスを通り過ぎて数歩進んだところで、突然、路上で小石が跳ねた気がした。

 パンッと音がした。

 そして、今度は、地面に落ちていた空き缶が、とび跳ねた。

 パンッと音がした。


(これが意味するのは、なんだ……?)


 俺は、はっとして、結生の手を離しながら、振りかえって叫んだ。


「結生、後ろに走って逃げろ! 壁ぎわに隠れろ! 銃撃されている!」


 俺は身をかがめ結生と反対側にむかって走りだした。

 身を隠すところのない道路の真ん中を俺は走って横断していった。

 俺が囮になって結生から注意を引き離すために。

 たぶん、狙われているのは俺のはずだから。

 再び、パンッと音がした。

 俺には当たっていない。

 パンッと音がした。

 俺はまだ無事だ。


 俺は走り続け反対側の路肩にとめられていた車の影へと転がりこんだ。

 すぐに、車に銃弾が突き刺さる激しい音が鳴り響いた。

 俺は近くのビルの影へと走りこんだ。

 俺がビルの影に入った瞬間、銃弾を浴び続けた車が爆発した。

 

 俺はビルの壁に肩をくっつけてしゃがみ、結生の方を見た。

 結生はバスの向こう、道路を挟んで反対側の建物の影に隠れている。

 あそこなら、とりあえず安全だろう。


(敵はどこだ?)


 この道路には銃を持っている奴なんていなかった。銃声の音も小さかった。

 ということは、遠方から狙撃してきたということだ。

 空き缶の跳ね具合と爆発した車の位置から、銃撃してきた方角は見当がつく。

 俺はカバンの中からデジタル双眼鏡を取り出し、ビルの反対側から別の建物の影にまわりこんだ。

 俺は双眼鏡で、銃弾が飛んできた方角を探った。


 数百メートルくらい先。広い道路がカーブになる場所。

 そこにあるビルの屋上に、立ち上がる人影を見つけた。

 その人影は俺と同じ高校の制服を着ていて、赤い腕章をつけている。

 広瀬と一緒にいた高校生達と同じ腕章だ。

 手には、照準器のついた大きなライフルを持っている。

 そして、そいつの顔は……犬養だ。


 犬養がライフルを持って屋上に立っていた。

 誰かが犬養の後ろからやってきた。犬養はそちらへ振り返り、何かしゃべった後、歩き去って行った。


(俺を狙撃していたのは、犬養か……)


 どうりで、狙撃が下手くそなわけだ。

 遮るものがない道路を横断していった俺に、一発もかすりもしなかった。

 あいつはアーチェリー部だけど、銃の扱いは素人の高校生だからな。


(だけど、なんで、普通の高校生がライフルで狙撃してるんだよ。おかしいだろ)


 俺は心の中で文句を言った。

 だけど、この世界はとっくにおかしくなっている。

 俺は深呼吸をして冷静に考えた。


 さっき広瀬と一緒にいた高校生達と犬養、みんな同じ腕章をつけている。つまり同じグループだ。

 あいつらは全員銃火器で武装している、と考えた方がいい。

 警察か国防軍が落とした銃を拾った……にしては、量が多すぎるし、警察や国防軍がそんなにまぬけだとは思えない。

 ゾンビは弱くて大人しくて、国民も従順で暴徒化していない。だから軍も警察も混乱状態になんてなっていない。じゃあ、なぜ……。

 

 考えこむ俺に、結生の声が聞こえた。


「先輩! 先輩! だいじょうぶですか?」


「だいじょうぶだ。今行く」


 俺は身をかがめたまま、辺りの様子を素早く探り、結生のもとへと移動した。

 犬養の仲間の地上部隊が俺を探しに来る前に、早く移動しないといけない。


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