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ゾンビになったと追放された俺は人類を救えるかもしれないけど人類は救いようがない  作者: しゃぼてん
4章 感染防止の自衛行動

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31 俺はゾンビ

 10分くらい後。俺と結生はマンションの入り口の影に立って休んでいた。

 ゾンビからは逃げ切った。この辺りには、ゾンビはいない。

 後は寧音が近くまで来たら、俺は結生を置いて逃げればいい。

 なぜか、そう考えた時に俺は胸の辺りに不快感を感じたけど。

 ふだん運動をしない俺が、あれだけ押したり走ったりしたから大胸筋とか肋骨周囲の筋肉が痛んだのかも。

 いずれにせよ、寧音の姿はまだ見えないし、いつ追いつくかはわからない。


 そもそも、俺たちは今、どこにいるんだろう。

 俺がスマホで現在地をチェックしようとした時。結生のスマホが鳴った。

 「お姉ちゃんから着信です」と、結生のスマホがしゃべった。


「お姉ちゃん?」


「結生! 無事か?」


 寧音の声が聞こえる。別にスピーカーモードじゃないのに、はっきりと聞こえる。

 俺は、そこで、結生にまだ大事なことを言っていなかったことを思い出し、慌てて小声で話しかけた。


「あ、そうだ。高木には、俺のことは内緒に……」


 俺がそう言っている横で、結生はすでに明るい声で答えていた。


「お姉ちゃん? うん。わたしは大丈夫。木根先輩といっしょだから………」


 とたんに、寧音の絶叫がスマホから漏れ聞こえてきた。


「木根!? すぐにそいつから離れろ!」


 かなり必死な声だ。

 当たり前か。

 妹がゾンビと一緒にいると知ったら、俺だって必死になって「早く逃げろ!」と叫ぶ。

 ……むしろ、絶望しかないな。こんなに純粋で人を信じやすい妹がゾンビと一緒にいたら、絶対に助からない。


 結生はほがらかに言った。


「大丈夫だよ。木根先輩は良い人だから」


 寧音の絶叫が聞こえた。


「大丈夫じゃない! 良い人じゃない! そいつはゾン……」


「お姉ちゃん? もしもし? お姉ちゃん?」


 突然、寧音からの応答がなくなったらしい。結生は心配そうにつぶやいた。


「どうしたんだろう……」


 結生は何度も寧音と通話をしようとした。

 だけど、結局、寧音に連絡はつかなかった。


「お姉ちゃん……。困ったな……。スマホを落としちゃったのかな」


 俺も困った。

 寧音に俺の正体がバレてしまった……。

 次はもう、一目見るなり寧音は俺を殺しにかかるだろう。

 いや、むしろ寧音は姿を隠してこっそり近づき、いきなり俺を襲撃してくるかもしれない。

 

「先輩、どうしましょうか?」


「うーん……」


 どうしたものか。

 もしも寧音が結生の位置を把握できるなら、俺が襲撃されて危ない。

 結生をどこか安全な場所に置いて、俺は別の場所から監視するか……。

 でも、寧音がいつ到着するかわからない。本当にスマホをなくしていたら、GPSで追跡はできないだろうし。

 だったら、結生を避難ゲートにつれて行ってしまった方が早いかも。

 俺は皮膚を隠していれば、ぱっと見ではゾンビだとわからないから、ゲート手前で俺だけ立ち去れば……。


 考えながら、俺は無意識に頭に手をやって、そこで気がついた。

 帽子がなくなっている。

 ゾンビと押し合っている内にとれてしまったらしい。


「帽子、しまった……」


 俺は思わずつぶやいてしまった。


「どうしました? 帽子?」


 そう尋ねながら結生が手を伸ばして1歩、俺の方に近づいたのを見て、俺は2歩下がった。


 結生は俺がゾンビだとは気がついていない。

 でも、帽子もサングラスもないこの状態では、他の人はすぐに俺がゾンビだと気がつく。

 もう結生を避難ゲートにつれて行くのは無理だ。


「……なんでもない」


「そうですか?」


 結生は心配そうだ。俺が困っていることに気がついている。視覚に頼らない分、声から感情を読むのが上手なのかも。

 それから、俺達はしばらく沈黙していた。

 休んでいるふりをしながら、俺は悩んでいた。


 結生に俺の正体を告げるべきか否か。

 そんなことより今は、この後どうすべきか考えるべきだと思いながら。

 俺は自分がゾンビだと告げないことに、うしろめたさを感じていた。

 俺のことを信じている結生を見ていると、罪悪感が大きくなってくる。

 耐えられないほどに。


 別に俺は結生を騙してはいない。少なくとも、俺はウソはついていない。

 だけど、騙しているような気がしてくる。

 結生は俺のことを高校の先輩だと信じている。

 それは事実だ。

 ただ、俺がゾンビなだけで。


 だけど、俺は自分が思っていたよりゾンビなのかもしれない。

 気を抜いたら感染拡大行動をとるかもしれない。無意識のうちに感染拡大を企んでいるのかもしれない。

 俺はもう、自分が信じられなかった。

 ひょっとしたら今の俺は、寧音が言うように、結生を騙して誘拐しているゾンビなのかもしれない。


 それに、何も知らないままじゃ、俺が何もしなくても、結生がうっかり感染するかもしれない。

 結生はソーシャルディスタンスなんて守らない。無防備に俺に近づいてくる。

 俺がいつ完全ゾンビ化して「ぐへへへ、体液交換、うー!」とか言い出すかもしれないなんて、夢にも思わずに。

 それに、俺の皮膚はところどころ、浸出液みたいなのが出てぐちゅぐちゅしている。これに触れるだけで、感染のリスクがあるかもしれない。


 でも、俺はできれば、結生には俺がゾンビだということは言いたくなかった。

 俺は自分がゾンビだっていう事実には慣れている。

 ゾンビだからと人に襲われるのにも慣れてしまった。

 でも、俺だって会うなり人に拒絶されたくはない。

 俺は結生に拒絶されるのが怖かった。

 

 だけど、何も告げずに一緒にいたら、結生を危険にさらすことになる。

 だから、結局、俺は正直に言った。


「俺は、ゾンビなんだ」


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