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ゾンビになったと追放された俺は人類を救えるかもしれないけど人類は救いようがない  作者: しゃぼてん
3章 ゾンビ禍における出会いの形

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25 白杖の少女

 俺は人の気配を避けながら、ビルの並ぶ町の中心を歩いていった。

 しばらく進んだところで、ゾンビの唸り声が聞こえだした。


(この辺りは、まだゾンビがいるのか)


 ちょっとほっとしながらそう思ったその時、小さな悲鳴が聞こえた気がした。


(悲鳴? ……非感染者がいる?)


 俺はどうすべきか迷った。

 なんだか助けを必要としている人がいるっぽい。

 だけど、俺はスーパーマンでもアンパンマンでもないんだから、助けを求める人がいる場所は、むしろ避けるべきだ。むしろ全力で逃げるべきだ。

 安全のためには、非感染者がいるところには行くべきじゃない。


 だけど、結局、何を血迷ったのか、俺は声の聞こえた方に向かった。


 警戒しながら進み、狭い通りから大きな道路が見渡せる場所に出たところで、俺はさっきの悲鳴がなんだったのか理解した。

 ゾンビの集団から一人の少女が早歩きで逃げていた。華奢な体型の、たぶん中学生くらいの少女だ。

 一本の細く長い白杖を素早く振って前方を探りながら逃げている。


(あの子は、非感染者だよな?)


 ゾンビだらけの隔離地区内を少女がひとりで歩いている。しかも、たぶん、あの杖から判断すると、目の見えない少女が。

 ちょっと信じられない。

 (これは幻覚か?)と思って、俺は頭を激しく振ってみた。

 でも、見間違いじゃない。

 なぜか視覚障害のある少女がゾンビだらけの町を一人で歩いている。


 少女の後ろからはゾンビ男達が涎をたらし唸り声をあげて追いかけてきていた。

 ゾンビの数は5体。メタボ体形の男、チンピラ男、70才くらいの爺さん、後は、中年サラリーマンゾンビが2人。

 ゾンビの動きは緩慢だから早歩きで逃げる少女に追いつくことはできない。

 だけど、距離もひろがらない。

 前方の様子がわからない少女は、走って逃げることができないからだ。 


 少女を追いかけるゾンビ男達は、俺が見たことがないほどに興奮していた。

 唸り声のコーラスはかなりの大音量だ。

 そんな感染拡大行動への興奮が激しく迸る感じのゾンビを見ていて、俺は思い出した。

 感染拡大のためのゾンビの典型的な行動は、噛みつきと体液の交換。

 もしも非感染者の少女を、体液交換の欲求に支配されたゾンビ男達が襲ったら……。

 単純に殺される以上に酷い目にあってしまう。


 少女の前方は、壁に衝突した車が塞いでいた。

 白杖の先がタイヤにぶつかり、少女は戸惑ったように立ち止った。


「前に車がある! 左に曲がれ!」


 俺はとっさに少女にむかって走りながら叫んだ。


「急げ! すぐ後ろにゾンビが迫ってるぞ!」


 俺の言い方は、まずかったかもしれない。と、俺はすぐに気がつくことになった。

 焦った少女は、瓦礫に躓いてよろめいた。


(焦らせるような言い方をするんじゃなかった……!)


 ゾンビ男達が、バランスをくずしてひざまずく少女に寄っていく。

 先頭に立って少女を追いかけている一番素早いゾンビは、メタボゾンビ男だ。

 動けるデブ系メタボゾンビは、もうほとんど少女に追いついていて、その巨大な体で今にも覆いかぶさろうとしていた。

 俺は全速力で駆け寄り、少女の腕を手でつかんで引き寄せた。

 いきなり俺にひっぱられた少女は小さく悲鳴をあげた。


「悪い!」


 俺はメタボ男ゾンビと少女の間に自分の体をいれ、メタボゾンビに背中で体当たりをしながら少女にむかって叫んだ。


「このまま、まっすぐ進め!」


 俺は、少女の両肩をそっと前に押し出した後、後ろから押してくるメタボ男を突き飛ばそうとした。だけど、メタボゾンビは重厚な肉厚で、むしろ俺が跳ね返されそうになった。

 メタボゾンビの後ろからは別のゾンビ達がやってくる。俺はメタボゾンビを追い越して前に出ようとするサラリーマンゾンビを靴の裏で蹴りつけた。

 でも、さらにチンピラゾンビとバーコード頭ゾンビがメタボゾンビの巨体の後ろからやってくる。


 俺は悟った。ゾンビの足止めは、無理だ。

 でも、少女とゾンビの距離はまだ1メートルくらいしか開いていない。

 この距離じゃ、もう一度少女が転んだら、もうどうしようもない。

 なんとかゾンビとの距離を取らないといけない。


 俺は少女に駆け寄り、手を取った。


「走れるか?」


「はい。前方に何があるか教えてください」


「しばらく障害物はない。車道の真ん中だから。まっすぐいけば大丈夫。俺の手をつかんで」


 少女が俺の手を手袋の上からつかんだ。

 ゾンビの手が少女の背中に届きそうなほどすぐ後ろに迫っている。それを見ながら、俺は焦らずわざと落ち着いた声で言った。


「走ろう」


 少女は走り出し、俺は少女のスピードにあわせて走った。

 走りだすと、徐々にゾンビ達との距離は広がって行った。

 走りながら後ろを確認し、俺は安堵の息を吐いた。


 しばらくして、ゾンビたちから距離がとれたところで、俺はこの辺りに避難するのによさそうな喫茶店があることを思い出した。

 俺の記憶が正しければ、金属の丈夫そうなドアと格子付きの窓がある店だ。

 俺は少女に声をかけた。


「ちょっと先で右に曲がろう」


「はい。わかりました」


 交差点で俺は少女に声をかけ、一緒に右折した。

 さらにしばらく走ると、喫茶店の入っている小さなビルが見えた。その辺にいくらでもある3階か4階建てくらいの小さなビルだ。

 俺はそのビルの前で少女に声をかけた。


「ここでとまろう」


「はい」


 俺は歩道から喫茶店を見下ろした。半地下のところに喫茶店はある。

 俺の記憶通り、喫茶店のドアは、ちょっとやそっとでは壊れそうにない金属製だ。

 俺は路上で一度周囲を確認した。

 一番近くにいるゾンビでも数十メートルは離れている。ゾンビのスピードなら、ここまで来るのにけっこう時間がかかる。ちょっとの間なら少女を待たせても大丈夫そうだ。


「ここで待ってて。だいじょうぶ。ゾンビとは距離がある」


 俺は階段をおりて金属製のドアに駆け寄り、ドアが開くかを試した。

 ドアノブを回しながら押すと、意外なことにすんなり開いた。

 俺は店内を素早く確認した。誰もいない。

 俺はドアの外に出て、こちらに向いて立っている少女に声をかけた。


「その先に、くだりの階段があるんだけど、降りてこられる?」


「はい。こっちでいいですか?」


 少女は、白杖で階段の位置を探った。


「ああ。一歩先から下りの階段。そのまま、まっすぐ。あと3段」


 俺は階段をおりた少女の手をつかみ、店の中へ誘導した。

 店内に入るとすぐ、俺は金属扉を閉めカギをかけた。


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