16 スーパーマーケット
俺は遠回りをしてスーパーにたどり着いた。
買い物をする気分じゃなかったけど、家まで警察についてこられる方が困る。だから、俺は追っ手がいないのを確認しながら移動し、スーパーまでやってきた。
俺は、スーパーの入り口付近を見わたした。警官の姿はない。
でも、スーパーの向かいに、買い物用の座れる手押し車に座ったお年寄りがいる。お年寄りは微動だにしない。
俺はお年寄りの様子を観察した。
最初は、非感染者のお婆さんかと思った。
でも、たぶんゾンビだ。自信がないけど。
お年寄りは、もとから皺やシミが多くて、ゾンビになっても外見があまり変わらないから……。
周囲に異変はないので、俺はスーパーに入った。
スーパーの自動ドアは稼働していた。でも、当然、レジに店員はいない。
店内の電気はついていて、陽気なスーパーのテーマソングが延々と流れている。今のこの世界には場違いすぎて、むしろ不気味に聞こえる曲だ。
俺は入り口でカゴを手にとり、欲しいものをカゴにいれていった。
商品は十分に残っていた。
ほとんどの非感染者は、買いだめするより避難することを選んだようだ。
野菜売り場には売れ残った野菜がたくさんあった。
でも、なぜかニンニクとネギの棚はきれいに空だった。たぶん、魔除けの効果を期待してみんなが買っていったんだろう。
ゾンビに効果があるとは思えないけど。
だって、俺は今、無性にニンニク料理が食べたいんだから。
俺は果物売り場で、日持ちのしそうなドライフルーツ、それから、いつか食べてみたいと思っていた高価なトロピカルフルーツをカゴに入れた。母さんは、ちょっと高すぎて手が出ない、と言って買ってくれなかったやつを。
……今のうちに食べたい物は食べておかないと。今を逃したら、もう一生食べられないかもしれないんだから。
(次は、シリアルの棚をチェックするか)
そう考えながら、角を曲がろうとしたところで、俺は慌てて足をとめた。
足もとに、幼稚園児か小学校低学年くらいの子どもがしゃがみこんでいた。もう少しで、踏んでしまうところだった。
無人だと思いこんでいた俺は、ぞっとしながら、あたりを見渡した。保護者の姿はない。
「ブーブー」
子供の周囲には色んな商品が転がっている。ハムや納豆、野菜で、町を造って遊んでいるようだ。今は、車に見立てたハンバーグを移動させて遊んでいる。
(なんで、こんなところに子どもが?)
俺は、子どもの前にしゃがみこんで、顔を見た。
「ブー!」
俺はレトルトハンバーグを投げつけられた
「ブー! ブー!」
「ごめん、ごめん」
俺はハンバーグの一撃ではずれてしまったサングラスをかけなおしながら、謝った。謝る必要はないけど、この子がやたらと怒っていたから。
それはそうと、この子どもは、やっぱりゾンビだった。
ほっと安心して、さらに買い物をしながら歩いて行くと、お菓子売り場の床にも、二人、ゾンビキッズがいた。好き放題にお菓子を食べ散らかしていて、しあわせそうだ。
俺もお菓子を買おうと、お菓子の棚の前に立ったとたん。
子どもゾンビたちは、歯をむきだしにして、激しい剣幕で唸ってきた。
「わかったよ。別に、お菓子を奪ったりしないから」
俺は急いでお菓子売り場から離れた。
あーあ。色々食べたいお菓子があったんだけど。
買えたのは、子どもが興味を持たないせんべいだけだ。
(しかたない。ジュースで我慢するか)
心の中でそうつぶやいた瞬間。俺は、何かフラグをたててしまったような気がした。
飲料売り場に行くと。案の定、両手にジュースを持って飛行機みたいに走り回っている子どもゾンビがいた。
飛行機ゾンビは、俺がジュースの方に近づくのを見るなり、戦闘機が銃撃するような音を出して威嚇してきた。
「わかったよ! あきらめればいいんだろ!」
俺はすみやかに退散した。
ゾンビキッズめ。まだたくさんあるんだから、お菓子とジュース、ちょっとぐらい分けてくれてもいいのに……。
でも、小さな子どもと真剣にお菓子の取り合いをするのは格好悪いし。
今のうちに食べたい物を食べておきたいのは、ゾンビキッズも同じだろうから、ここは年長者として、お菓子とジュースをゆずってあげよう。
それはそうと。
俺は首をかしげた。
なんでここにいるのは、子どもゾンビだけなんだろう。
大人ゾンビは一人もいなかった。
ゾンビになったから、捨てられたのか? だとしても、わざわざスーパーに連れてくるとは思えない。
それに……。
俺はもっと重要なことに気がついた。
子どもゾンビは、大人ゾンビと違う。
ゾンビキッズは走り回っている。大人ゾンビは、のっそりとしか動かないのに。
それに、ゾンビキッズは、はっきり俺を認識して威嚇をしてくる。
しゃべりはしないけど、唸り声のバリエーションも豊かだし、遊んだり、好きな食べ物を選んでいる。
つまり、子どもゾンビは、それなりに知能が高い。
子どもゾンビは運動能力も知能も、大人ゾンビより高いのか……。
俺は、ポケットから手帳を取り出し、ゾンビ観察記録ページに、ゾンビキッズの特徴をメモした。
ちなみに、近藤家ゾンビの記録は、マンションを出る前に書いてある。
俺は最後に保存食を手当たり次第にカゴにいれてレジに向かった。
このスーパーには無人のセルフレジがあったから、俺は持ってきた母さんのカードを使って会計を済ませた。
買った物をつめこんだリュックを背負い、両手に買い物袋をさげ、俺はスーパーを出た。
スーパーの向かいには、まだ手押し車に座ったお年寄りゾンビがいた。さっきから、ちっとも動いていない。
何かを待っているのだろうか。
ひょっとしたら、ゾンビキッズの保護者かも。ひ孫ゾンビがスーパーから出てくるのを待っているのかもしれない。
それか、単に日向ぼっこしているのかな。
さて、帰ろう。
だけど、避難ゲートのある広い道は通れない。
遠回りになるけど、別のルートを通るしかない。
俺は物音に気をつけながら、あたりを警戒しながら注意深く歩いていった。
でも、帰り道は拍子抜けするほど平和だった。
路上には、ところどころにゾンビがいたけど。警官や非感染者の姿は見えなかった。
道路を通行する車がない分、小鳥や猫が路上で好き放題にしていて、むしろパンデミック前よりも、のどかで平和なぐらいだった。




