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異世界子育て奮闘記  作者: 楠木 茉白
1/1

冒険の始まりへ

ある日妻が妊娠し、そして出産。

そして異世界へ…。

「何でだー!」

俺の名前は建川太一、28歳、妻子持ち、普通の中流家庭に産まれ、父が太く一辺倒な男になれと言う在り来りな理由で「太一」と名付けられ、男3人兄弟の次男としてこの世に生をなし、在り来りで普通な学生時代を過ごし、建築関係の普通の会社に入社、盲腸で入院していた時に俺の担当をしてくれた看護師の美幸と意気投合恋愛し、結婚、そして念願叶って授かった愛娘の一美、まさに普通だった俺の人生が最高頂に達していたまさにその時。

これはあきらかにおかしい、さっきまで病院で退院の手続きをして、出口から出たはず、なのに何だ、何故だ、何故大草原にいる。

「わーんわーん」

愛娘の一美も訳もわからず泣いているのであろう。

人生の最高頂を超えすぎて、大草原に飛んできてしまったのか?

ありえない、有り得るわけが無い!

「ちょっと!大きい声出さないでよ!あーよしよしびっくりしましたねぇ」

美幸よこんな時に何故そんなに冷静でいられる?

出産と言う最強の大仕事を終えたからか?

母は強しと言うがここまでとわ。

「ごめんね、一美ちゃーん、パパが悪かったねぇ」

「ほんとよ」

どんな時でも愛娘は可愛い、まさにエンジェル。

「いやいや、どうするの?ここどこだよ?」

「んー、大草原?」

「ですねぇ」

まいった、訳が分からない。

病院の自動ドアから出たら、そこは大草原だった。

ないないないない!

有り得ない!

漫画に出てくる、どこにでもドアだったのか?

そんなまさか!

「そうか!」

これは夢か!

とりあえず顔をつねってみた。

「いやいや」

強くつねってみた。

「いやいや」

力強くつねってみた!

「いやいやいやいや!」

頬っぺがちぎれるんじゃないかぐらい引きちぎろうとしてみた!

「いぎゃー!」

激痛だ!

顔に穴が空くかと思う程に、痛い。

「ねぇ!とりあえずここにいても仕方ないし、暗くなったら困るから移動してみない?」

何と心強いのか美幸、訳もわからずパニックを起こしている俺とは違い、何たる冷静かつ適切、神々しく見える、まさに聖母のようだ、母は強しと言うが。

「そ…そうだな」

しかし、冷静になって考えてもここはどこなんだ?

もしかしてドッキリなんじゃないかとカメラを捜したが清々しいまでの大草原。

昨日VRでも着けて寝たかなと思い、目のあたりを触ってみたものの、何もなく、そもそもVRなんて持っていなかった事に気付く。

ここは日本なのか?海外なのか?そもそも現代なのか?いろんな考えが頭を駆け巡るが、分からない。

「美幸大丈夫か?」

忘れていたが美幸は出産を終えたばかりの体、疲労はかなり残っているだろう。

にも関わらずこの大草原、美幸は本当に大丈夫なのか?

「んー…一美よく寝てるし、大丈夫、ありがとう」

母は強しと言うが、もはや娘の事を1番に考え、俺への労いの言葉も忘れない、感謝しかない。

俺の頬には自然と涙が、腫れ上がった頬にしみる。

「どこか人がいそうな所を探そう」

「だね」

そうだ美幸にばかり頼ってはいられない。

俺は一家の大黒柱なんだ、時代が男女共同参画社会であっても、俺が愛するこの2人を守るんだ!

「だーーーーーードーーーー!」

「何あれ?」

「ドーー!……ドラゴーン!」

父さん母さん、僕は駄目そうです。

「ドラゴン?」

「ドラゴン!」

その巨大なドラゴンは僕達の遥か頭上をゆうゆうと飛んで行った。

「はっ!そうかここは異世界か!」

「異世界?」

「あーそうだよ!ここは異世界だ!ドラゴンだっていた、ファンタジーの世界なんだよ!はははっ、良かった、なんだ異世界だったのか……」

いーや!いやいやいやいや!異世界!

ないないないないないだろう!

冷静を装えない、下唇は噛み切れんばかりに血が吹き出ている。

「太一、大丈夫?」

大丈夫な訳ないだろ!母は強しといえど!母は強しといえど!何故冷静でいられる?

美幸へ?美幸さん?

一美はすやすやと天使の様に寝ている。

「本当に大丈夫?」

「あ…ああ」

「でもここが異世界だとすると元の世界に戻る方法はあるのかな、早く人がいそうな所に移動しなきゃね」

「そうだね…とりあえずこのままドラゴンが飛んで行った方向と逆を進んで行こう」

あれは本当にドラゴンだったのか、もしかしたら飛行艇じゃなかろうか?でも俺産まれてから1度も飛行艇なんて見た事ないな、今も飛行艇って飛んでる所ってあるのかな、むしろ飛行艇見た事のある日本人っているんだろうか?

そんな事を考えながら、4、5キロほど歩いたが見渡す限りの大草原だ。

「美幸、大丈夫?」

「うん…なんとか」

流石の美幸も疲れが見えてきたようだ。

「一美抱っこしようか?」

「大丈夫、太一は両手にわたしの荷物持ってくれてるし、一美は寝てるから大丈夫」

なんと妻の鏡だ、聖母のようだ、まさに聖母だよ!

しかし、そんな事は言ってられない、いくら美幸であっても出産を終えた身では、早くなんとかしなければ、俺がなんとかしなければ、幸い美幸の入院中の荷物には、水分と少量のお菓子と粉ミルクがある。

だがこんな大草原では、いつまで持つのか…。

「……あれ…あれ!あれはなんだ!岩か!街だ!」

と大年の空飛ぶヒーローを見たような反応をしてしまったが、街だ!確実に大草原の先に街が見える!

「やった!助かった!まま街だよね!」

「そうだね街だ」

美幸にもようやく笑顔が戻った。

俺達は自然と足取りも速くなり、希望に胸を膨らませた。

だが街が近づくにつれて俺は不安かられた。

もし人がいなかったら、もし人でなくモンスターだったら、そんな不安を持ちながらも、なりふりはかまっていられなかった。

まずはこの状況を打破しなくては、家族は俺が守らなくては。

「着いた」

「ふぅ、街だね」

そこはなかなか大きな街で東京一区くらいはありそうで、中世から近世かけたヨーロッパの雰囲気だ。

「太一!人がいるよ!」

「助かったぁ」

しかし、どうしたものか、話しかけるにしても言葉は通じるのか?

辺りを見渡してみたが、見たことのない文字ばかりだ、なんとなくアラビア語に見えなくもない。

アラビア語で話すべきか?

いやいや、アラビア語なんて知らない話せる訳ない。

そんな不安な俺をよそに、イカついガテン系の大男が近ずいてきた!

「うっ」

自然と後退りしてしまった、どんどん近ずいてくる、近い、近い!近過ぎる!ここここ殺される!

いやいや話さなくては、もうやけだ!日本語でいいや!話せ!

「あわわわ、あのののの、そそそそそそその、いいいい」

緊張のあまり訳のわからない事を発してしまった。

「なぁに言ってんだお前?流れ者か?」

訳のわからない事を言ってしまったから怒らせてしまった!

っん?日本語?

「それにしてもお前ら変わった服装だな、どこからきたんだ?」

日本語だ!この大男は確実に日本語を話している。

「あのの、ここ言葉分かるんですか!」

「はあ!当たり前だろ!変な話し方をしているがこの辺のもんじゃないな」

「あ、いやこれは緊張して…あの日本の東京という所からきました」

とりあえず、俺達以外に転移した人がいるかもしれない、日本の事は話しておこう。

「ニホンノトウキョウ?知らないな、どこにあるんだ?」

知らないのか……この大男の知り合いには日本からの転移者はいないようだ。

俺は来た方を指差し答えてみた。

「ずっと遠くの東の方からきました」

「そっちは西だ」

「太一…」

静寂が続く。

「……いやぁ!ちょっとボケてみましたー!あはははは」

もはややけだ、だが言葉が通じる喜びでひとまず安心で、浮かれてしまった。まだ問題は山積みだ。

「おほん!まあ、この辺のヤツじゃないってことだな」

「はい…」

そうだ、まずはここがどこでどんな異世界か、現状を知る事だ。

「お前らみたいな流れ者、この街じゃ珍しくもないがな」

「あの…ここはどこなんでしょうか?」

ん!?なんだ今質問はまずかったか?なぜそんなに驚いた顔をする?

「お前!ここがどこかも知らずにきたのか!?」

「ひい!すみません!」

大男の顔が怖過ぎて反射的に土下座をしてしまった!

美幸も一美も見ているのに!反射的にヘタレな部分が出てしまった。

もはや恥ずかしさと、情けなさで顔が上げられない!美幸の顔が見れない!

「お前何してんだ?」

「いや!怖くて!貴方が怖くて、そしてこんな姿を見せてしまった妻の顔を見るのが更に怖くて!」

穴があったら入りたい!いや穴があったら突き刺さって、地中深くまで潜って、コアに突撃して消滅したい!

「何言ってんだ、とりあえずうずくまってないで顔をあげろ、なんだ、俺も悪かった、少し驚いただけだ、別にビビらす気はなかったよ、安心しろお前の嫁さん向こうで赤ん坊の面倒見てて、お前の事は見てない」

「あ、はい」

助かったー!消滅は避けらた。

なんだかこの大男は顔は怖いが実は良い人なんじゃないか?

「まあなんだ、ここがどこかも知らないで来るなんて珍しいからな」

「そうなんですか?」

そんなに不思議な事なのか、ここはどこなんだ。

「まあ、ほんじゃあ!改めて教えてやろう!」

「よろしくお願いしまーす!」

気を引き締めて。

「多くの流れ者が辿り着く街、すべてはここから始まる!人呼んで始まりの街!ファーストウェインだ!」

「……すごい!」

今のリアクションであっているのかわからないが、異世界ファンタジー感のある街であるのはわかった。

まるでゲームの始まりのような…!

というこはもしかして!

「あの…」

「ん、なんだ?」

「もしかしてこの街って、冒険者ギルドってあります?」

すごい緊張感だ、なんだ、その顔はどっちだ、えっ?どっち?どっちなの?

「ここは始まりの街だ」

それさっきも聞いた!

「あるに決まってるだろ」

いーーーーーやったー!

きたきたきた!

「いーーーーーやったー!あのあの冒険者ギルドでは、冒険者として登録できて、自分の特性にあったジョブになれたりとか?」

「あ、ああ、良く知ってるじゃないか」

俺の予想通りだ!

この世界はTheファンタジー!わくわくしてきた!

これから俺の壮大な大冒険が始まる。

「フッふふふふ」

「本当に大丈夫か?」

そうなれば、やる事は決まった!

「すみません!それで冒険者ギルドってどこにありますか?」

「それならあっちの通りを少し行った所に看板が出てるから、すぐに分かるぞ」

「あっちですねありがとうございます!」

「太一どうするか決まった?」

安心しろ美幸!一美!これからは勇者太一がお前達を守る!

「任せろ!」

「う、うん」

さあ行こう!勇者太一の始まりの冒険へ!

「美幸!一美!さあこっちだ」

「太一なんだか、突然頼りがいが出てきたね♪さっきまでは土下座してて大丈夫かなって思ったけど、頼りにしてるね♪」

見られてたー!

「まぁなんだ、とりあえず冒険者ギルドに行こうと思う」

「冒険者ギルド?」

美幸はゲームについてはかなり疎い、さっきまでのヘタレぶりを打開するチャンスだ。

一美、パパのこれからに期待してくれ!

「あ!すみませーん…あの僕達まだこの国の字が読めなくて…看板ってどんなのですか?」

「あん?あー盾に2本の剣がクロスして刺さったロゴが書いてあるヤツだ入り口に受付の美人さんがいるからすぐに分かる」

「ありがとうございます」

「太一…」

気を取り直して、さあ!行こう!冒険の始まりへ!

「太一、それにしてもなんで冒険者ギルドなんて行くの?」

やはり、ゲームに疎いだけあって何も知らないな、美幸さん。

ここからは天をかける勇者の俺の出番だ、こういった世界の大定番は決まってる。

冒険者ギルドに登録し、そこで好きなジョブに転職して冒険へ。

俺達がこの世界に転移した意味、そういう事だろ神様。

「冒険者ギルドに行って登録して、自分にあった職業についておけばこれからの生活にも役にたつだろうし、元の世界に戻る方法も分かるような情報も手に入るかもしれない、何もしないよりはましさ、何も分からないんだ、最善を尽くすしかないさ」

「やっぱり、私達の世界とは違うんだね…」

そうだよな…

浮かれてて忘れてたが、さすがの美幸も初めての出産を終えたばかりで、この世界で生活できる保証も無い、住む所、家計、育児、不安な事ばかりだよな。

突然何も分からない世界に来てしまったんだ。

「大丈夫さ、何とかなるよ!」

「そうだね…」

「俺たち家族なら絶対に大丈夫だ!お前達の事は俺が守るよ」

「太一…ありがとう、くよくよしててもしょうがないよね!

早く冒険者ギルドに行こう」

そうさ、冒険や勇者なんかよりも俺のするべき事は家族を守ることだ。

俺は硬く心に誓った。

「ん?盾に剣の刺さったロゴ…あれか!」

「冒険者ギルド?」

なかなか立派な建物だな、中世の神殿みたいな、そして受付のブロンドヘアの美人さん!!

本当に美人だな!

なんとも言えない色気、そしてとても素晴らしいスタイル♪

えへへへ

「太一!」

いかんいかん

「おほん!あのすみません、ここは冒険者ギルドですか?」

うわ!近くで見ると更に美人!あぁいい香り。

うっ!美幸の視線が痛い。

顔が自然と緩んでしまう。

「はい、冒険者ギルドです、冒険者登録ですか?」

声まで♪

いかんいかん、俺は家族を守ると心に誓ったばかり、妻子がいるんだ。

「はい!そうです!」

「でしたら、銀貨5枚になります」

やはり手数料がいるのか、財布には3万と673円。

紙幣は使うのは無理だろうな。

500円玉1枚、100円玉1枚、10円玉7枚、1円玉3枚。

使えるのか?

「あの…これって使えますか?」

とりあえず渡してみるか。

銀貨ではないが、硬貨ならもしかして使えるかもしれない。

それに日本の硬貨を見て何か知っていたら儲けものだ。

「んー、こちらは使用できません、どこかの硬貨のようですが」

期待は外れてしまった。

そう甘くはないか…どうしたものか。

「でしたら、冒険者登録後にクエストを受けて頂いた後にその報酬でお支払いいただくという方法もありますが」

「本当ですか!ではそれでお願いします!」

勢いあまって手を握ってしまったが、なんという手の温もり、そしてシルクのような肌、そしてなんという美しい香りだ

「太一!」

「あ!いやいやこれは貴方が美し、いやいや嬉しくてつい、すみません」

「いえいえ、結構ですよ、皆様やはりこの場所を目的で旅をなさってお越しにいらしゃいますので、よく感銘なさって、手を握って下さいます」

多分それは貴方だからだと思います。

「多分それは貴方だからだと思います」

「え?」

「太一、ちょっと」

しまった!心の声がそのまま出てしまった。

美幸さんの視線が痛い。

「うっうわぁーん!」

一美も怒っているようだ。

「よしよし、あのすみません、個室とかってありますか?」

「あら、可愛い赤ちゃんですね♪授乳室でしたら、入っていただいた所にすぐにございますので、そちらをお使い下さい」

「ありがとうございます」

授乳室まであるのか!

こんなファンタジーな世界にまで、似つかわしくない、育児にとても優しい施しが!

「授乳室まであるんですね」

「はい、育児をなさっている女性冒険者様も多くいらしゃいますので、冒険者ギルドとしてはそういった方々にも働きやすい環境を整備させていただいています」

「そうなんですね」

なんだか俺が思っていた、異世界とは違うが…育児しやす環境なのはとても助かるが、なんだろうか、この少しモヤモヤした感じ。

「はい!私自身もこの育児のしやす環境には助かっています」

なにー!?

「あっ、ご結婚なさっているんですか?」

それはそうだ、これだけの美人を放っておく訳がない。

俺も何ショックを受けている!

俺には大切な可愛い妻と可愛い子供がいるじゃないか!

だけどどうして…どうして…涙が出るんだろうか。

「大丈夫ですか?」

はっ!いかんいかん、落ち着け!落ち着くんだ!

「あの、ここで転職とかできると聞いたのですが」

「はい、すみません話が少し脱線してしまいましたね、貴方がとても話しやすかったもので」

やめてくれ!そんな事言わないでくれ!禁断の、禁断の感情が湧き上がってしまうじゃないか!

「太一、何してるの?」

「あいや」

「奥様、授乳室の場所は大丈夫でしたか?」

「はい!しっかりしてくださっていただいて、オムツ交換の為のベビーベッドも整備されていて、本当に助かりました」

なんだか、異世界でないような感じがするな。

「そう言っていただけると、嬉しいです、当ギルドマスターも子育てをなさっていて、育児のさなかクエストをこなしていた時大変苦労なさったみたいで、これからの子供達の事を考え、育児サポートができる環境を作って下さいました」

「ギルドマスターさんは素敵な方なんですね♪」

なんだか、女性陣で話が盛り上がって、入っていけないな。

「ギルドマスターは女性の方なんですね?」

話題に入れたかな。

「いいえ、男性ですよ」

なにー!

「そうなんですね♪男性なのに女性の苦労を良く分かっていて、細部まで気の使いようもされいて」

「はい、昔は冒険は男性のもの、育児は女性のものと、固定概念があったようなのですが、マスターが実力のある人に男も女もない、育児はみんなでするものだ!と多くの人達を説得なさって、今の環境を作って下さいました」

現代の日本よりも進んだモラルある世界じゃないか…

なんだか…異世界だと浮かれていた自分が情けない。

ギルドマスターはイケメンで知性的な爽やか人なんだろな、今では多分素敵なジェントルマンになっているんだろな。

「すみません、転職のお話でしたね」

「あっいえ」

もうなんだかいろいろ恥ずかしくて。

「御二方は冒険者ギルドは初めてでいらしゃいますね」

「はい」

「でしたら、始めから詳しく説明させていただきますね!改めまして私はマリアーナと申します」

マリアーナさんか…素敵だな。

「当冒険者ギルドは冒険者の方に魔皇石により、適切なジョブに転職していただき、ジョブに合わせた、潜在能力を引き出します」

「あの潜在能力って、魔法とか使えるようになるとかですか?」

「人によっては使える方もいます、ですがほとんど方がいきなり使えるという事ではありません、やはり何事にも鍛練は必要です」

魔法が使える、いよいよこの時がきたか。

「ジョブに転職していただいた後、私ども冒険者ギルドとしては登録している冒険者様達にはレベルにあったクエストの斡旋や、適した職業ギルドの紹介などを行っています」

「職業ギルドとは?」

「職業ギルドはすべての冒険者様が単独でクエストを行えるという訳ではないので、そういった方を採用し、集団でクエストを行う組織体です」

会社みたいなものか。

「モンスターの討伐なんかもあるんですか?」

「もちろん、そういったギルドもありますが、多くは商業ギルドなどの、生活面に必要なものですね、モンスター討伐は基本的には王国軍が担っております、熟練の冒険者や討伐専門のギルドも王国軍からクエスト要請などもあります」

王国軍か…という事はもしかして、この質問はするべきかもしれないな。

なんとなくだが、軍があるということは、対峙している組織があるはず、おそらくそれは俺たちが転移された理由なのかもしれない。

「あの…おかしな質問をしてもいいですか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「あの…」

言葉に詰まってしまう、聞いていいものなのか。

「この世界には魔王はいるんでしょうか?」

聞いてしまった。

もしいなければ、変に思われる。

いや、どちらにしても変に思われるだろな。

「えっ?この世界?」

マリアーナさんには俺たちの事を話ておいた方がいいかもしれない。

「実はマリアーナさん、突然なのですが…俺たちはこの世界の人間ではありません」

言ってしまった。

マリアーナさんは驚くだろうな。

どんな世界かも分からない世界で、自分たちの正体を話すのは危険な事だと思う、どんな扱いを受けるかわかったものではないし、隠しておくことが安牌な事はわかってる。

俺たちの世界で異世界の人間だとマジに答えれば、馬鹿にされるか、異常な人間だと思われるか隔離なんてこともあるだろ。

危険な賭けだが、初めてあった人だが、なんだかマリアーナさんになら大丈夫な気がした。

「そうなのですか…」

失敗したか!やっぱり変に思われたか。

「やはりそうでしたか!」

「えっ?どういうことですか?」

「実は私こう見えても、フォーチュンテラーでして、人を見ることには長けているのです、御二方ともこの国の方々とオーラといいますか、この世界の方々は各地の精霊の加護を受けていましてそれぞれの精霊の力を感じれるのですが、御二方はそれとは別の精霊とはまた違う、神々しいというのでしょうか…」

神々しいだなんて♪これはもしかして、俺たちやっぱり勇者的な♪

「神々しいですか♪」

「太一、多分、日本だし地主神かな、お宮参りどうしよ」

うっ、ファンタジー感を一気に壊すような事を。

美幸はやっぱりいつでも母親だな。

くっ、それに引き換え俺はファンタジーにわくわくが隠せない。

「お宮参り?」

「はい、この子まだ今日病院から退院したばかりで、土地の神様と言うんですかね、まだご挨拶をしてなくて」

「それでしたら、ファーストウェインでは産まれたばかりのお子様は街の北にあります、精霊シルフィードが祀られている神殿で洗礼を受けておりますが」

「そうなんだ、でしたら行ってみますね」

「はい♪お子様は」

「一美といいます」

「一美様とおっしゃるのですね、確かに一美様はまだ加護を受けらておられてないようですし」

うっ、母親トークで盛り上がり始めてしまった。

しかし、日本でもお宮参りとかで、ちゃんと加護受けているとは、御利益ってあるんだな。

神様ありがとうございます。

ってことは、俺はアマテラスの加護を受けて、いやスサノオかも、なんだかかっこいいな♪

スサノオだな!勇者というよりも、剣聖的なグフフフ。

「あの…」

「あっ!すみません、度々話が脱線してしまって…」

「いえいえ、全然私はとっても助かりました♪」

「はい♪」

あれ、なんだか俺だけ、空気の読めないヤツみたいな。

「この世界には魔王はいます」

「あっ、やっぱり」

「魔王がいるなんて、怖い」

魔王がいるということはやっぱり俺たちがこの世界に来た理由って。

「この世界、エステルレシアでは王国軍と魔王軍による度重なる戦争が行われておりました、現在冷戦状態にあり大きな戦闘はありませんが、最前線のこの街のあるオルテシア大陸の遥か北の大陸、ドルマンディでは小規模の小競り合いがあるようですが」

「本当ですか!よかったね太一」

「そうだな…」

なぜだろう、大きな戦闘がないのは、いい事なのだが、少し残念なのはなぜだ。

「あの僕たちみたいな、別の世界から来た人とかいるのですか?」

「すみません、私の知る限りでは初めてのことです」

「そうなんですね」

マリアーナさんでも知らないか、冒険者ギルドの受付していたらそういう情報は知ってそうだったが、この世界の事を知る事ができるだけでも収穫か。

「申し訳ございません、ですがもしかしたら、マスターでしたら何かご存知かも知れません、魔皇石の選定前に今はマスターがいらっしゃいますので、ご挨拶がてら、お話しを聞いてみますか」

「はい、いらっしゃるのでしたらご挨拶もしなくちゃね」

「うっうん」

イケメンジェントルマンのマスターか、帰る方法とまでは行かなくても、何か分かるかもしれないしな。

「お願いします」

「では、アンナ交代をお願いします」

「はーい」

これまた、ブラウンヘアの美人、清楚系美人のマリアーナさんとまた違った健康的で可愛い感じだ、アンナさんか♪

「こちらへどうぞ」

「太一!行くよ」

「おっ、おう」

いかんいかん。

気を引き締めなくて、ジェントルマンなマスターと会うんだ。

紅茶でも出してくれそうな、セバスチャン系かな。

それにしても広いエントランスだな、装飾もオシャレだし、カフェバーもあるのか、大きな両階段の踊り場には看板と同じロゴが、建設業の俺としてはテンションが上がるな。

「それにしても広いですね」

「うん、すごくオシャレだし、私たちもこんな感じのお家に住んでみたいなぁ」

俺の給料では、何年ローンでもこれは無理だね。

「気にいっていただいて、昔この辺りの領主のお屋敷だったもので、初代ギルドマスターがファーストウェインに攻めてきた魔王軍を討伐した際に献上されたそうなのです」

「道理でオシャレななかにも要塞感があるんですね」

「そうなんだ」

「太一様は建物に詳しいのですね」

「あいや、職業柄」

「こちらです」

奥の部屋がギルドマスターの部屋か。

「マリアーナです、入ります」

いよいよセバスチャンとご対面か、さぞかしジェントルマンなのだろうな。

「なんだ、マリアーナ」

おおおおおおお!全然セバスチャンなんかじゃない!

どう見ても、白髭を携えた海賊団の船長じゃないか!

片目に刀傷の大男、葉巻を二本吸いながら、葉巻ってそんな感じかぁ!

怖い怖過ぎる、子育て熱心って言うよりも、崖から落として育てそうな、聞いてたジェントルマン要素と違う!

皆を説得じゃなくて、命令だろ。

「そいつらはなんだ?マリアーナがわざわざ連れてくるなんて珍しいじゃねぇか」

「はい、こちらの御二方は」

マリアーナさんがこれまでの経緯を話してくれて、いる間あまりの恐怖に何も聞こえなかったが、美幸は普通にしている。

母は強しと言えども、ドラゴンと同じくらいの威圧感だ。

葉巻って香りを楽しむ物じゃなかったか?

凄い吸ってる、なぜ2本?

「ふー、そうか、そいつは大変だったな、まだ赤ん坊も産まれたばかりなのにな、まあワシらでやれる事ならサポートしてやるよ」

「マスター!」

「あっ!こいつはすまねぇ、赤ん坊がいるのに」

「すみません」

素手で葉巻を握り消した!怖!灰皿あるだろー!

「別の世界からの転移ね、んー、そーいや、ガキの頃に妙な男がいたな」

「妙な男ですか?」

「ああ、お前らとは全然違うかっこは違うが、たしか日の本の国から来たってたな」

日の本の国!?随分古い言い方をする人だが、日本の事かな、多分江戸時代くらいまでそんな言い方をしてたのかな?

「多分僕らと同じ世界だと思います、日本の事だと思います」

「そうか、そいつは家来に裏切られただかなんだかいってたな、ハゲだかサルに」

サルにハゲ?本当に変な人だな。

「そう言えば、焚き火を見ると裏切らた時を思い出すらしい、変な歌も歌ってたな、人間50年だかなんだか」

んー!!ハゲとサルに裏切られた、火を見ると思い出す!人間50年!

「その人、自分の事魔王って言ったりしてなかったですか?」

「そうだな…言ってたな!全然魔王に似てもないくせに魔王って名乗ってたな!ガハハハハハハ!」

「太一それって…」

織田信長じゃね!

絶対織田信長だ!こんな所で日本の大ミステリーの真相が…本能寺のあと信長転移してたのか。

「その人、その後どうしました?」

「ああ、転職して、カフェで働いてたが、晩年はなかなか美味いハーブティーを作って、独立してたな」

信長、第六天魔王辞めて、カフェ店員になったのか…以外だな。

「元の世界に戻る方法とかってあったりしますか?」

「すまねぇが、分かんねぇな、役にたたなくて悪いが」

「いえいえ、いろいろ分かったので」

大事件の真相とか。

「まあとりあえず、戻る方法が見つかるまでは、冒険者として頑張ってくしかねぇな、こんなに可愛い嫁さんに赤ん坊もいんだしな」

「可愛いだなんて」

「そうですね」

美幸なぜ照れる、こんなワイルド中のワイルド系が好みだったか?

「なんか情報があったら教えてやるよ、マリアーナ、魔皇石まで案内してやれ」

「はい、ではこちらへ」

しかし、信長がこの世界に転移してたってのは驚いたが、信長って400年くらい前だよな、ってことは転移に時代は関係ないってことか?分からないな。

「あの、マスターのお歳は」

「マスターですか、80歳です」

もしかして400歳くらいかなと思ったけど、80歳ってことは、ってか80であの貫禄何歳まで生きるんだ!?

子供頃ってことは信長が転移してきたのは70年くらい前か…ますます分からないな。

「80歳なのにお若いんですね!それにとても優しくて気がきいてて、素敵な方ですよね」

なんだ、美幸、俺に嫉妬させようというのか、たしかに美人には見とれたが、なんだ。

「ええ♪こちらの部屋になります」

ここがついに、転職するのか。

部屋自体はそんなに変わらないが、なんだか大きなクリスタルみたいなのがあるが、これが魔皇石か。

「これが魔皇石ですか…なんだオーラとか見えませんが凄いのは分かります」

「それは…マスターの私物です」

違うんかい!

「太一…」

なんだよこれ、私物って何に使うだよこれ!

「こちらです」

なんだか思ったより普通の水晶だな。

「これですか…」

「水晶みたいなんですね」

「はい、こちらが我がオルテシア大陸の大精霊シルフィードによって造られた魔皇石です」

へー、凄い物って、以外と地味な物が多いがこれもまたそうなのか。

「これからどうすれば?」

「はい、魔皇石に触れて念じて頂ければ」

それだけでいいのか?なんだか単純だな、そもそも俺たちシルフィードの加護受けてないのに大丈夫なのか?

日本の地主神の加護と喧嘩したりしないかな?

罰当たりにならないかな?

本当に大丈夫かな?

「一美抱っこしてて、これでいいですか?」

うおい!美幸さん!男前過ぎでしょ!いつからそんなに…

悩む俺を、後目に魔皇石が凄い光りだした。

「何か魔皇石に文字が浮かび上がってきました」

「美幸様はヒーラーの素質があるようです、でしたら私の言うように唱えて下さい」

美幸はヒーラーか、やはり看護師だけあってこちらの世界でもそうなるか。

本当に天職なんだな。

「精霊シルフィードよ我に汝の力を与えよ、とお願いします」

「精霊シルフィードよ我に汝の力を与えよ」

更に光りだした!美幸まで輝いて大丈夫か?

「はい、終了です、これで美幸様は無事にヒーラーに転職なさいました」

「大丈夫?」

「うん、なんともない」

なんだか思ったより簡単な感じだな。

「美幸、ちょっと魔法使えるかやってみてよ」

「えー無理だよ」

「美幸様は素質がありそうですね、もしかしたら使えるかもしれません、初級魔法のヒールなど使ってみてはいかがでしょうか?」

おお、回復魔法♪戦闘パーティではかなり重宝される。

最高のパートだな♪

「ヒールと念じてみて下さい、太一様を癒すつもりで言葉にしてみると初めての時には発動しやすですよ」

「なんだか恥ずかしいな…」

まあ、確かにアラサーで必殺技の名前を口に出すなんって普通に恥ずかしいな。

「大丈夫だよ、今更夫婦で恥ずかしがらなくても♪」

「そう?じゃあ、ヒール」

おお、顔赤らめながら手の平を向けてる美幸に少し萌えてしまう。

しかし、なんだか癒されてる気が心じゃなくて本当に身体が、ここまで歩いて痛めた足腰、そして靴擦れがみるみる治っていく。

「凄い、美幸使えてる」

「えっ嘘、本当に?」

「素晴らしいですわ!美幸様ヒールを完全に使用できています!」

凄い!本当に魔法を使っている。

ついにIt’sファンタジー!

「次は俺の番だな」

ふふふっ、ついにきたな、この時が勇者太一の番が!

この世界への転移、偶然なんかじゃない。

俺をここまで導いた意味。

神様女神様、そういう事だろ?

あとは俺に任せておきな。

じゃあ始めようか!

おお!魔皇石が光りだした!しかも美幸の時よりも凄く!スパークしてやがるぜ!

文字が浮かび上がってきた!

「んー」

マリアーナさん、勇者って書いてあるんだろう。

ふふふっ驚いて言葉も出ないかい?ホレてもいいが、俺は妻子持ちだぜ。

「んー」

どうした?なぜそんなに難しそうに首を傾げる。

「なんと言いますか…」

俺たちがこの世界へ招かれた意味それはなんなのか?

偶然、必然、運命、これから何が待ち受けているのか?

俺は伝説となるのか?

……

とりあえず、父さん母さん僕はメーカーになりました。


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