青年の地獄のような一日が始まる
秀太は、自分が正常な判断を下せていないことを承知の上で、それでも疑問を解決せずにはいられなかった。
キッチンから柳包丁や文化包丁や肉切り包丁など数々ある包丁のうち、いちばん頑丈そうなサバイバルナイフを持ち出して、廊下にでた。摺り足で老婆のいる部屋に近づいていった。凍てついたフローリングは、先ほどまでは気にならなかったが埃でザラザラしている。
アルコールで感覚が麻痺していたため、臭いはあまり気にならなくなっていた。しかし、その代償に寒気を過敏に感じる。
二階でサキが寝ている。もし何かあっても、彼女がなんとかしてくれるだろう。自分の遺体の処理をする彼女を想像して、きっと無表情でやってのけるのだろうなと納得した。
扉に触れた。木製だった。
ドアノブは、メッキの剥がれた感触。
軽いはずの扉は、建物が歪んでいるせいなのか、慎重に開けると鉛をこするような音が生じた。
やはり老婆はいる。咳をして、獣のように唸り、何よりサバンナで猛禽に啄まれていそうな動物のように無残な姿である。その挙動が、先ほどまでの印象と少し変わった。もがき苦しむ様に慣れたのかもしれない。
恐る恐る近づき、iPhoneで明かりを照らした。禿げた頭から順に見下ろしていくと、彼女の左脚が妙な方向に、雑なマリオネットのように頓珍漢な方に向いているのがわかった。
老婆は手を振り回した。欠損のある手の攻撃をかわして、老婆に包丁を向けた。そして、恐々と、左脚をみた。
五本、杭が刺さっていた。大腿や脹ら脛や脚の甲などに。秀太は右脚を探した。老婆は右脚を自分の尻の下に敷いていた。そして右の足はアキレス腱から下が無かった。




