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冷たい部屋に招かれて  作者: 古新野まーち
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青年の地獄のような一日が始まる

目の前にいる老婆は、人間としての形を保っていなかった。崩れた顔面から滲みでた体液は腐臭を放っている。全身を見ても、まともと言える箇所は皆無である。どこか欠損や損壊しており、もがき苦しむ手は指が足りないから滑稽に見えるほどである。

部屋の主の惨状に秀太は絶句した。

「じゃあ、この人の世話を頼むな」

女の、非情な一言に彼は激しい後悔に襲われた。



――――


猫を殺すだけのことがこれほど恐ろしいのかと秀太は震えていた。愛らしいモリゾウ――彼の祖母の飼い猫――の顔が浮かび、彼のミャァオという空耳が聞こえた。

ペットショップで購入した猫缶はマグロとビーフ。寄ってきた猫をこのバタフライナイフで切り裂いてしまうだけだ。

砂場のある公園だから、野良猫たちが糞をするために現れる。12月末の夜風に身体が凍えるものの、背中をつたう汗が止まらなかった。すでに1時間は待っていた。


何度もシュミレートした。餌に夢中の猫を地面に押し付け、首を、ナイフで。

動きは想像できる。でも、猫はどうか。息絶える瞬間の血、声、その心。

モリゾウの顔が浮かぶ。少年のころの秀太が名付けた。ちょうど愛知万博が行われており、テレビによく出ていたキャラクターの名前をそのまま拝借した。忘れっぽい祖母でも、いつ飼い始めたか、すぐに思い出せるようにという彼なりの工夫でもあった。

ミャァと聞こえた。またどうせ空耳だろうと振り向くと、黄色い瞳の図太い猫がいた。

ふてぶてしい性格らしく、臆することなく彼の足元にある餌によってきた。

秀太は意を決した。ジーンズのポケットにしまったバタフライナイフを取り出した。利き手で猫を地面に押さえ付けようとした。


しかし、猫は鬼気迫るものを感じたようで、彼の手のひらを引っ掻いて逃げていった。猫に逃げられるシュミレートはしていなかった。

猫を追うことはなく、むしろ地面に座り込んでしまった。テレビCMよりも短い時間だったが、はりつめていた肩や痺れた腿が痛む。

ため息をついた。下宿先からそう遠くない公園だから、とぼとぼ帰るのは苦でない。

くよくよとしつつも立ち上がろうとしたとき、ザッと砂を踏む足音がした。

後ろには女がいた。

――見られていた。

秀太は狼狽し、立ち上がることもままならず前転の下手な小学生みたくこけた。

女は何も言わずバタフライを握った手を踏んで、力技でそれをとりあげた。

「ちょっと、話いいかな」

終わった、仰向けのまま彼は内心で呟いた。今夜は新月であった。

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