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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第3章 民の軍、神の軍、そして神の子
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34.ルーツェの○○・Ⅲ

二周読まれるとあっと思うところがあるかもです。

 



「リサ、今晩はいつにも増して立派な夕飯だな」


「ええ、未来から我が子を迎えたのですから」


 ランドール家の夕飯は実に家庭的だ。リサは家事全般において突出した才能を見せるが、料理に関しては特に優れている。


 今日の夕飯はブイヤベースのような料理をメインとしたものだ。もう何年も美味しいと思える料理を味わったことのなかったルーツェからすれば、これほど舌を溶かすものは無い。


「とても美味しいです、お母様」


「それは良かったわ。未来ではきちんと食べてるの?」


 その質問に対する正しい返答は『全然』であるはずだが、それを口にするのはどうにも憚られる。そんなルーツェの微妙な表情から読み取られたのだろう。リサはルーツェの顔を覗き込んだ。


「ルーツェ? 食事だけは何があってもキチンと取るのよ、そこはお父様の真似をしなくてもいいから」


 父親の物真似とは、はてなんのことだろうか。


「私とて望んで食事を取らない晩を作っているわけではない。あれも訓練の一環だ」


 思い出した。軍人の父親はその訓練として休暇の間も一日おきに夕飯を抜かなければならないのだ。ルーツェが小さい頃によく両親が喧嘩していたのを覚えている。


「心配なさらずお母様。大丈夫ですよ」


 そのほかにも女性関係や仕事など、日常的な様々なことを質問された。中には答えられないようなものもあったが、出来るだけ答えるように努めた。


 その理由は明らかかつただ一つ。母親として息子に向けられた愛情に、この一瞬だけでも応えるため。


 ルーツェは幼き自分をぼんやりと眺める。エビの殻をうまく剥けず、鼻息を荒くしながら手元を汚している。その光景は美しいかと言われたら全くそうではない。むしろ下品だ。


 だがなんというか、無邪気な少年が未来のことを心配することなど知らずに目の前のエビに没頭しているというのは胸に入り込むものがあった。


 この時間が奪われなかったら、どれだけ自分は幸せだったろうか。ついそんなことを考えてしまう。それがどれだけ自分勝手で、どれだけ情けない感情であるかなど、そんなことはもう知っている。


 そうではないのだ。理性から編まれる結論と、感情から他の過程をすっ飛ばして浮き出る結論は必ずしも一致しない。否、むしろそれは一致しない場合が多い。


 だからこそそれにつけ込んでルーツェは願った。この幸せがいつまでも続きますように、と。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




 その日の晩、ルーツェは客室での生活が許可されたのでそこのベッドに横になっていた。


 ここは、何なのだろうか。あり得る場合は二つ。


 一つ目、高所から落下し死亡した自分の魂が見る幻想。

 二つ目、ウル・ディーメアが見せる幻想。


 いずれにせよ幻想であることに変わりはない。過去にタイムスリップするということはあり得ない。何故ならば既に打ち立てられた真実を根本からねじ曲げることなど不可能だからだ。全て長田快の言葉だが、それは因果に縛られて不可能らしい。


 それはそれとして、どちらの場合でも対応できるよう策だけ練っておこう。


 一つ目ならば。それは簡単なことだ。ルーツェは己の死を悔やみ、神子としての責務を全うできなかった罪を背負い、そして家族と永遠を過ごす。これ以外に答えなどあろうか。


 二つ目ならば。それは、難しい。今まで戦ってきた者の中にこのような術を使う者はいなかった。話にも聞いたことはない。したがってどうすれば良いのかさっぱり見当もつかない。


 はてさてどうしたものか。そう考えていると、家中にビービーという爆音の警報が鳴り響いた。


「なんだっ!」


 否。それは一人で尋ねる必要もない。侵入者だ。


 プリセッターでいつもの装い、当然仮面も、を纏い剣を鞘から抜いて両親の部屋へと向かう。いつでも誰かを斬り伏せることが可能だ。


 ルーツェはこの音に聞き覚えがある。それは人生で一度だけ聞いたことのある音だった。忘れもしない、あの晩、両親が目の前で斬殺された日に聞いたものだ。


 体の中を憎悪が渦巻く。剣を握る拳はギリギリと音を立て、仮面に隠された素顔は人を喰い殺す鬼と見間違うほどに歪んでいる。


 侵入者からすればおそらくルーツェの存在は想定外。となればギリギリまで自分の存在は知られていない方が良い。自分ができる最速の忍び走りで両親の部屋へと向かう。


 時間的には今頃自分はクローゼットの中に隠されて、母親の支援を受ける父親が敵の数を減らしているところだろう。結局それはーーーー


 いや、余計なことを考えるのはやめよう。目の前の敵に対処するだけだ。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




「ガハァッ…………!!」


「ビウール!!」


 何ということだろうか。


 間に合わなかった。ルーツェは二度目の父親が殺される瞬間を見て、全身の血液が一瞬固まるのを感じる。ビウールが剣から発生させていた風はパタリと止み、その命が消失したことを明らかに知らせる。


 室内には敵のものと思われる死体が五つほど転がっている。それに対して立っている敵は二人。その七人全員は輝かしい鎧を身につけ、地に伏せていようが立っていようが、その姿はまるで英雄だった。


 だがそんなものではない。彼らは一つの家庭を潰した悪鬼だ。


 夥しい量の出血でカーペットを染めるビウール、そして彼の死体に縋り付き絶叫するリサ。そんな彼女の首も敵の双剣によってはねられた。


「お……まえは……!」


「あ? 誰だお前?」


 その双剣、ルーツェはつい最近に相手をした。彼はあの騎士、グレイ=ジャーンだ。そしてもう一人は閣塔を守っている“あの”もう一人。つまり、元の時間軸における閣塔守護の二人だ。グレイは既に死んでいたが。


 グレイ=ジャーンは手持ちの槍を分解して双剣として扱い、もう一人はまだ槍のままだ。ルーツェはクローゼットの隙間から覗き込んでいる幼き日の自分のことなど忘れ、剣を構える。


 彼らとの実力は面白いものではない。もう一人の戦闘力は明らかではないし、そもそもグレイ=ジャーン一人で相当の戦力だ。それでも俺はここで立ち向かうしかない。それが自分がここに来た理由なはずだ。そう考え黒剣を握り直す。


「俺はルーツェ=ランドール。ビウール=ランドールの一人息子にして貴様らを殺す存在だ」


 その一言によって戦いの火蓋は切って落とされた。ルーツェはグレイの戦闘法、つまり転移魔法を駆使した光の如く敵を覆う斬撃を知っている。


 したがってそれに対抗する術を知っている。ルーツェの身体はあの時から成長し、グレイとは対等な戦いが繰り広げられるはずだ。


 そんなルーツェの予想は的中し、自分の周りを飛び回るグレイは光というよりむしろ羽虫のようだった。脅威ではないわけではない。だが『死』ではない。


 異能を最大限に駆使してグレイの攻撃を打ち落とす。その度にカウンターを狙うのだが、そこはさすがと言うべきかなかなか当たらない。


 だがそれも時間の問題だ。魔力消費の大きい転移魔法と、消費という概念がないルーツェの異能。快の異能ならばそうもいかないところだったが自分ならば最後に押し勝てるはずだ。


 甲高い音が絶え間なく鳴り響く。しかしその間隙に別の音も混じるようになってきた。


「チッ……!」


 ルーツェの黒剣がグレイの皮膚を切り裂き始めたのだ。それによるグレイの舌打ち。まだ致命傷には至らないが、精神的な弱点をグレイに負わせることができる。


 クローゼット内のルーツェには全く何が起きているのかわからないような戦闘がしばらく続くと、それに合わせてグレイの動きも鈍くなってくる。


「ハァハァ、何なんだお前! 父親より強いじゃねェかよッ!」


「当然だ。俺はお父様よりも貴様を殺したいと願っているのだから」


 ルーツェのその言葉とともに放たれる漆黒の斬撃。


 それは今までのどのルーツェの剣よりも鋭いものだった。無駄が無く、容赦も無く、そしてすぐ近くに倒れている愛しき両親への弔いである剣。


「……クッ!」


 魔力不足で反射的な転移が発動しなかったグレイ。彼は双剣を二本重ねて斬撃を防がんとする。


 その瞬間響く、先ほどまでは出なかった音。バキリという音を二度も立て、グレイの双剣がへし折れた。


 噴き出す鮮血は漆黒に身を包んだルーツェに降りかかり、その勝利を祝福する。何年ぶりだろうか、本気で笑うことができたのは。


 そう考えた次の瞬間。槍がルーツェの胸を貫いた。


「……ガハァッ…………ッ!」


 異能が、一切反応しなかった。アレの攻撃は異次元だ。そう、それだけなんとか認識することができたが、そんなことは何にもならない。


 死ぬのはこのようなものなのか。ルーツェはゆっくりと目蓋を閉じてそう思案する。結局よくわからなかったが、一つだけ言えることがある。それは、やはり自分は家族に愛されていたと。ふと思い出したクローゼット内の自分を思ってそう考えた。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




 どれだけの時間が立ったのかわからない。ほんの一瞬だったように思われるが、百年の歳月がたったようにも思われる。


 目を開いたルーツェは、再び目の前に広がった自らが幼少期を過ごし、そして両親が殺された家の景色。三日前に見た景色にただただ驚き、そして胸をざわつかせたのだった。




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私はなろうでこんなストーリーを投稿しても読んでくださる皆さんに感謝しております!

(遊びで物凄いなろう感の強い文章を投稿して感じました笑)

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