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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第3章 民の軍、神の軍、そして神の子
80/93

24.日常

 



『聖光騎士団シン都支部、何者かによる襲撃により壊滅!』


 快は朝食の席で、平凡な家庭の父親のように新聞を広げている。手元にはコーヒーがあり、このシーンをイアンナの髪色補正だけすれば全く元の世界の様子と違いが分からない。


「……ん、こんな世界でも表現の自由があるのか」


 そしてその新聞のシリアスな内容とはかけ離れた、実に呑気な声を出している快を見ているニンガル。彼は昨日、一人で済ませると言って出て行き、そしてその仕事は十二分なものだった。


『昨日の午前中、支部は白昼堂々襲撃を受けた。しかしその反乱者が支部へと入っていく姿は門番も含めて誰も目撃していない。これは我が国においてセキュリティの常識を全く覆す大問題である。当然騎士団員の生き残りは怒りに震えている。一般市民もこれに巻き込まれぬよう注意すべきだろう』


 なんてことがつらつらと書いてある。快は自分がこれの犯人だとバレていないと知り口元を歪める。当然騎士団がメディアに圧力をかけて情報を歪めている可能性も否めない。しかし、実際快はその目で視界に映った騎士団員が全く全員散り死んでいった様子を見ている。


 今回の戦いは、快の完全勝利だ。


「快君なんだか嬉しそうですね」


 快は突然意識に割り込んできたイアンナの声でこちらの世界に戻ってくる。あと少しで戻れないところまで行ってしまうところだった。


「ああ、まあね」


 若干の動揺を隠しつつ、イアンナに笑顔を見せる快。この顔を見ただけではこの少年があそこまで外道だとは誰も考えまい。


「久しぶりにその顔を見れたので私も嬉しいです」


 その顔とは先ほどまでの顔だろうか、それとも今現在の顔だろうか。仮に先ほどまでの顔だと仮定しておこう。なぜならそうでなければこのようには話しかけないはずだからだ。


「久しぶりに?」


 快はイアンナの久しぶりに、というワードに反応する。というのもこの顔はあまり道徳的にいいものとは言えないタイミングに顕れる顔だと自覚しているのだ。


「ええ、前はウル・ディーメアの討伐に成功したときに見せてましたよ」


「あー、あの時ねぇ」


 それは間違いない。あの時は色々と興奮状態だったから確かにあの顔、というかこの顔を出していただろう。


 そのあとも適当な、しかし温かい会話を重ねる三人。いやむしろ家庭的な温かさとは、そういった適当さに宿るのかもしれない。まあむずかしいことは置いておいて、快は底無しの幸福感を覚えていた。


 そんな幸せな時間を三人は過ごしていた。これは本当に強調しておくべきことだろう。




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「何があったか説明してもらおうじゃないか」


 快とニンガルは、目の前に座る仮面でその素顔を隠した男の声を聞き萎縮している。


「ここ数日の生贄は全て俺が攫ってやったがな、これは俺らだけの問題ではないのだぞ」


「はい……」


 ここはシン都下層のスラム街にある、神子の拠点だ。スラムの住民が怖くなるほどの良心で建ててくれたもの。地上階は一般的な住居であるが、その隠された地下室には実に三枚のプレートが保管されている。


 そのプレート回収云々で現在国内で神獣が突然個体数を増やしているのだが、その保管にもなかなかのコストがかかる。それはずばり、一日一人の生贄だ。


 大勢の人間で溢れかえっているシン都から一日一人さらうことなどなんの損失も無いのだが、それでも褒められるようなことではないということは確かだ。


 そんな生贄の誘拐を、快とニンガルは二人合わせて三人分、することができなかった。そんな明らかな異常事態に、最近二人に心を開きかけているルーツェが心配かけることは当然のことだ。


「早く説明しないかッ!」


「……分かったよ、ええと。四日前にプレートを回収しただろ? そのあとにーーーー」


 快はあったことを洗いざらい話した。当然途中から快と別行動となったニンガルも別途説明したが、それはあまり詳しくなかった。思い出すだけでも負担なのだろう。そこはルーツェも察してくれた。


 そして快の話は佳境、つまり聖光騎士団支部に乗り込むところになった。そこからのルーツェの聞きようは快も若干押されるほどのものだった。


 ルーツェは聖光騎士団に恨みがあるそうだったが、それにしてもこれほどに人の死を喜ぶルーツェは見たことない。我ながらスイッチが入った自分を見ているようだ。


「そんなことをするのだったら俺を呼んでくれればよかったのに!」


 というのは快の説明が全て終わってからのルーツェの言葉だ。最初の心配していた様子はどこへ行ったのやら、心から呼んでくれなかったことに対するこざっぱりとした不満だけが今のルーツェを支配している。


 快とニンガルの表情を見てそれを察したルーツェは、咳払いをしてさっさとその場を切り上げようとする。


「よ、よし。二人が生きて帰って来てくれたからまあ問題はなかろう。今日からは長田快から順番に生贄を誘拐してくるように!」


 快とニンガルは最初、その言葉に対する不満を共有するために顔を見合わせた。しかし、フッとそれも消え去り、再び平穏な空気が流れた。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




 快はシン都下層の路地裏を歩いている。すでにそのローブは完全に血で染まり、純白の清らかさはすっかり赤黒い禍々しさに塗り替えられていた。


 しかしそれはそれでデザインとして不自然ではなく、これを見て快を殺人鬼だと判断することは難しいように思われる。禍々しさが取り除かれるということはないが。


 快が今ターゲットとしているのは、目の前を歩く屈強そうな大男だ。今までは簡単に誘拐できる女子供をターゲットにしてきていたのだが、昨日の騎士団潰しの際に試してみた手足を吹き飛ばして胴体と頭だけの状態にするということの有用性に気がついたのだ。


 そして最大の理由が、弱者を狙わず強いものを獲物にするということ。つまり男としての誇りを守るため。


 などという吐き気がするような綺麗事ではなく、ただ強者がその『強い』というアイデンティティを喪失して見せる哀れな表情を見たいという、それだけだ。実に快らしい理由だ。


 この辺りは鍛冶屋だとか料理屋の裏側なので、決して人目が少ないというわけではない。したがって快は彼が人目の少ないところに行くことを望むしかないのだが、そんな快の希望に反して男は大通りへと戻る道を辿ろうとする。


「おい猿ッ! お前だお前、何を考えて俺の前を歩くッ!」


 快は傲慢なキャラを演じて男の注意を引く。男はその声に果たして反応し、のっそりと振り返る。その瞳は血走っており彼が何がそういったものに手を出していることを思わせた。


 すると男は何やら訳のわからない叫び声を上げ、快に突進してくる。ターゲッティングをミスったか。周辺で作業していた人々は窓を開けてこちらの様子を確認している。


 だが、それと二人がこの場から姿を消したのはほぼ同時のことであった。ふたりは驚異的な身体能力で路地裏を駆け回り、すっかり人目のつかないところまでやってきた。


 快は鎖分銅を引っ掛けて、全身で大きな円運動を描く。大男は突進の勢いを当然消すことなどできず、そのまま前方へとブレーキをかけながらも走っていく。


 快は四分の三ほど回転したタイミングで顔を上げ、大男を視界にとらえる。そして次の瞬間、大男の身体は一つの大きなパーツと無数のカケラに分かれ、その命は最も弱々しいところまで弱められた。


 苦痛と屈辱に顔を歪める大男の視界に、なんとも形容し難い気味の悪い笑みを浮かべた少年の姿が現れた。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




 太陽は沈むか沈まないかの微妙なあたりをふわふわと漂っている。そんな中途半端な時間帯に、正規軍本部の地下牢に瞬時に現れた人影が三つある。


 彼らはいつも通りに鉄格子に金属を擦り合わせて音を出し、看守に自分たちがやって来たことを知らせる。看守は慣れた手つきで鍵を開き、そのまま三人を地上階へと送り届ける。


 そこで看守と三人は別れ、そのまま一番医務室へと足を向ける。その目的はただ一つ、タイラーゲート家現当主クローヴィス=タイラーゲートと、彼に引き取られたエレシュ=セルバントス、この間のプレート回収で大怪我を負った二人のお見舞いだ。


 扉を開くと、中にはいつもどおり三人がいた。そのうち二人は前述の怪我人、そして最後の一人はオーリ軍医だ。彼は丁寧で落ち着いた様子で開いた扉へと視線を向ける。


「おやおや、ちょうどいいタイミングじゃないかぁ」


 オーリ軍医はその動作と同じようにゆったりとした声を投げかけた。しかし、ちょうどいいタイミングとは一体どういうわけか。快がそう思ってクローヴィスとエレシュの様子を確認しようとすると。


「お父様! エレシュ!」


 イアンナの感情の昂ぶった声に反応するように、クローヴィスとエレシュがゆっくり瞬きをした。


 二人の意識が戻ったのだ。快はその点に関しての心配は一切していなかったのだが、それでも実際意識が戻ったという事実は快にとって非常に大きなことだった。


 三人はベッドで横になっている二人の元に半ば駆け寄るようにして行く。オーリ軍医はその様子を見ておやおやと呟いているが、そんなことには構わずふたりに話しかける。


「何か身体に不調はありませんか? 食事はきちんととってますか!?」


 二人の意識が戻ったことに興奮しているイアンナ。しかし、ここで三人は異変に気づき始める。クローヴィスもエレシュも、一度も声を上げて返事をしてくれないのだ。


「まぁまぁ落ち着いてくれないとねぇ。ほら、意識は戻ったと言っても脳をやられてた訳だからねぇ? まだ機能までは完全には回復してないんだよ」


 イアンナはそんなオーリ軍医の言葉に声をあげて落胆する。


「はぁ……そうですか。ちなみにいつ頃に退院できますか?」


「いやぁ、それもたいしてかからないよ。大体一週間程度かねぇ」


 一週間と聞いてイアンナは微妙な表情をする。一週間、つまり十三日間というのは決して長くない。むしろ言語機能云々の回復のための期間と考えると実に短い。


 しかし、つい先ほどまで完全に回復したと勘違いしていたとなると話は変わってくる。一日待てと言われても長く感じてしまう気もするのに、一週間などなかなかに耐えがたいものだ。


「わ、わかりました」


 快は、そんな様子で若干むすっとしてしまったイアンナを見て頬を緩めるのだった。




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いやあ、人が一人しか死なないだなんて、かなり平穏なお話でしたね今回は。

それはさておき最近ビーク見ないな。ビークって誰かって? 

いや、彼だよ彼。

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