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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第3章 民の軍、神の軍、そして神の子
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18.再び洋館へ

 



 ルーツェは騎士の息子だ。


 したがって殺めた相手の死体で遊ぶようなことはしない。どこかの誰かさんとは違って。ただその剣についた血や脂を拭い、そして亡き父親へと想いを捧げる。敵討ちの第一歩を踏み出したと。


 相手はなかなかの強敵だった。それこそ仲間である二人の神子がいなければ自分が死んでいたと確信するほど。それほどの死を撒き散らす悪魔だった。


 そんな悪魔がもう一体、この世界にはいるらしい。そいつをこの手で殺すまで剣を振り続ける。そう誓った。


 そしてその間、あの『どこかの誰かさん』は、なんとじっとしていた。ルーツェの中で非常識な欠陥人間として認識されている彼なら、自分が殺めた者の身体に貪りついているものだと考えていたのにも関わらずだ。


 ただただもう一人の神子の隣でつまらなさそうにぶらぶらしているだけだ。さらに驚くことに、彼はルーツェの視線に気がつくと申し訳なさそうな表情をした。


 それがルーツェの傷口に舌を入れたことに対するものなのか、はたまたルーツェの仇である騎士に実質的な致命傷を与えたことに対するものなのか、ルーツェには分からない。


 だが一つだけはっきりすることがある。それは、案外彼の中にも常識的な一面があるのかもしれないということだ。


「ルーツェ、そろそろ本題の方に行きたいんだが。大丈夫か? 怪我とかいろいろと」


 そんな彼がこちらを見てそう言ってきた。そんなこと、答えは決まりきっている。


「すまない、問題ない。行くぞ」


 ルーツェはもう一人の神子が差し出す手のひらに触れる。するとまだ慣れない感覚、転移の感覚が刹那に全身を覆ったかと思うと、目の前に広がったのは先ほどまでいた暗い部屋の景色だった。




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 この部屋にはもう誰も何もいない。ただただ寂しげな空間が広がっているだけだ。快は先ほどの索敵の異能がもうすでにすっぽりと抜け去っていることを感じる。


「ルーツェ、ウル・ディーメアはこの奥か?」


「ああそうだな、先ほどのお前と同じくらいの恐ろしい殺気を感じるからな」


 快はルーツェの言葉に思わず笑ってしまう。まさか自分があの狂った被造物と同じだなんてどうかしていると心から思う。


 ルーツェがそのまま奥の扉へと足を進める。自分の身体でルーツェの異能を体感した今なら、ルーツェがそうやってずんずんと歩くことができる理由がわかる。仮に扉の奥で待ち伏せをしていようものならすぐ分かるからだ。


 したがって快はルーツェに全幅の信頼を預けてその後ろを歩く。ニンガルもそれに続くように歩いてくる。ルーツェがドアノブに手をかける。先ほどと同様にカウントが入る。


 カウントゼロと同時に開け放たれた扉の奥に立っていたのは、手足が異様に長い英国紳士のようないでたちの男だった。




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「おやおや、いらっしゃい君たち」


 彼はルーツェが先ほど口にしていた『恐ろしい殺気』とは裏腹に柔らかな笑みを浮かべて三人に頭を下げる。快は今回のウル・ディーメアの悪趣味さから前回のような気持ち悪い見た目の化け物が出てくるものだと考えていた。


 しかし目の前に立っているのは手足の長い英国紳士だ。手足の長さこそ気味が悪いが、だがそれでもやはり予想外だ。


「やあおじさん。これからあなたのことを殺すんだけどさ、どうやって村人を誘拐したのかだけ教えてくれないかな。今後の僕のために」


 快は平常心を保つべくいつもの自分を演じる。その演技力の低さは恐ろしいものだ。演じながらこれがいつもの自分ならば自分は相当な変態だと実感しながらも返答を待つ。


「まあまあ落ち着いてくださいよ、私だって喧嘩したいわけではないのですよ?」


 しかし返ってきたのは内容のない適当な言葉。快は彼がまともに取り合うつもりがないことを悟ると、すぐさま彼の水月へと意識を向ける。


 彼にも何かこの異能を打ち消す能力があるかも知れないので、一撃で確実に葬り去ることができるよう、全身全霊で取り掛かる。十分に命を散らせられるまでに持っていく。


 一瞬の力んだ声とともに、ウル・ディーメアの上半身が爆散する。前回の怪物と同じように灰色の液体を撒き散らしながら。


「なぁんだ、本当に紳士的だったね」


 快はあまりのあっけなさに失望感を隠さない。しかし、その安堵から来る失望も束の間の出来事だった。


「あなたは、あなたのご主人に相当愛されていますね」


 先ほど聞いたばかりの声、そしてもう聞くはずのなかった声が快の耳に入ってくる。しかもそれは、二重になって。


 先ほどまでウル・ディーメアが倒れていたところに視線を移す快。彼の視線の先には、上半身から上が先ほどまでの二倍になって立ち上がっているウル・ディーメアの姿があった。


「なっ!!」


 まさか、八岐大蛇のあとにヒュドラ人間と戦うことになるなんて思いもしなかった。


 快が驚きに一瞬の隙を見せた瞬間、激しい戦闘が始まった。


 四本の長い腕で左右から殴りつけようとしてくるウル・ディーメアに対して、ルーツェはその黒剣でもってその腕を肘の辺りで切り落とす。しかし次の瞬間彼の腕は肘から二倍になって生えてくる。すでに彼の姿は人のものではない。


 ニンガルは身体強化の異能で光の速さで敵の懐に入り込む。刺突ならば二倍になって生えてくることはないはずだ。ここにいる全員がそう考えた。


 否、ウル・ディーメアだけはそうはならないことを当然知っていた。二つの心臓を同時に貫かれた彼は一瞬よろめく。しかしそれもまた束の間のこと。


 体勢を立て直した彼の胸からは、無意味に飛び出た肉の棒があった。醜い。実に醜い。


 快はその醜さにとてつもない嫌悪感を覚える。快は本人的には芸術的な方面に強いつもりだ。当然彼が死に対して恐怖というよりもむしろ憧れと陶酔の感を見出しているのもこれによる。


 快はそのあまりもの嫌悪感に目を細め口角を大きく下げる。すぐさまこの異物をこの世界から消し去りたい。それしか考えられない。


 ルーツェもニンガルも、攻撃が通用しないどころか相手にとってプラスに働くことを恐れて、積極的な攻撃をしない。ここで相手の攻撃がそこまで致命傷を与えうるほどではないことが唯一の救いだろうか。




 やるしかない。今快が考えられるウル・ディーメアの討伐方法は、たった一つだ。


 快は再び自分の腕を傷つけ、そして流れ落ちる血を啜る。今日だけで一体どれだけこの赤い液体に口をつけたのだろうか。


 そんなことを考えながら、体の中を駆け巡るとてつもないエネルギーとウル・ディーメアに集中し始める。


 再生の苗を残さない。あれを倒すにはそれしか考えられない。全身全霊でもってあれの細胞を一つも残さず爆散させる。そのためにもっと集中する。


「どうです? 流石にお手上げではありませんか?」


 もはや英国紳士のかけらも残っていない恐ろしい多足生物がそう笑いかける。その声に応えるように目をカッと見開いた快。その後の光景は恐怖というべきか絶景というべきか、とにかくものすごいものだった。




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 その破壊は中心から始まった。ウル・ディーメアの二つの胴体の分かれ目、そこはやはり機能的にも外見的にも弱点だった。そこからピンポイントに始まった破壊。


 今までの一息で爆散させる方式から細かく丁寧に破壊していく、当然スピードは落とさず、という方式に変更する。その意識を強く持った結果として、皆の目にはウル・ディーメアの身体がまさに崩れていくように映った。


 ミリ単位で破砕していくように肉を、細胞を、破壊していく。もはやそれによって舞い上がっている赤いものが血なのか肉なのかさえ判別がつかない。


 ただただ細かくなっていく。ウル・ディーメアは声も上げずに無くなっていく。ぶちぶちという音とともに煙を上げながら崩れていく。


 それは段階的に、しかし瞬間的に全身に広がる。内から外へ、まさにその存在すら初めから危ういものだったものだと錯覚してしまうほどの勢いと様子で無くなる。


「…………す、すごいですね」


 今回のものはかなりの負担で、快は床に座り込む。それに対してニンガルとルーツェは快が成した生命の蹂躙の結果を見て胸をざわつかせる。


「ど、どうだ。終わったのか」


 ルーツェは流石にあの再生能力も『粉塵』にされてしまえばはたらきものにならないと考える。そしてそれを裏付けるように有機物の山は一向に集まったり盛り上がったりなどのそれらしき動きを見せない。


 しかし、まだウル・ディーメアが絶命していないことは明らかだ。


 なぜなら、藤色の淡い光を発するプレートが現れていないからだ。




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