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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第3章 民の軍、神の軍、そして神の子
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15.血肉は血となり肉となる

 



 状況は依然として変わらない。快の視界に入っているのは、八頭八尾の大蛇と黒剣を振るニンガルのみ。転移の異能を駆使して八岐大蛇を翻弄しようと試みるが、四方八方から突っ込んでくる頭や尾に妨害され、なかなか思い切った剣撃を叩き込むことができない。また、仮に当たったとしてもピンポイントで急所をなんとかしない限り相手にダメージは入らないだろう。


 だがしかし、それに対抗することができそうに思えた相手を内側から攻撃する快の異能も、あの巨体相手では効果がない。ここで快は一つ、大きな懸念を抱えている。それは、相手を倒すことに時間と労力をかけすぎてしまうかもしれないというものではない。目の前の大蛇が神獣ではないのか、そして負けてしまうのではないか、というものだ。


 このような異形の獣が神獣でないはずがない。神獣といえば、獣でありながら魔法を扱い、人間並みの知能を持つ存在だ。古くでは人と獣の境なく崇められていた存在。


 そんなものを相手にして、果たして自分たちは勝利することができるのであろうか。そんな懸念だ。


 今のところはあの大蛇は蛇らしくうねうねと巨体を引きずってニンガルへの反撃を試みている。噛み付いたり尾で薙ぎ払ったりするその動きは、誇り高い印象がある神獣のものとは思えない。しかしそれも『あれ』の作戦かもしれない。


 一刻も早く決着をつけなければならない。そう思いながらもニンガルを見守ることしかできない。彼女は先ほどから何度か八岐大蛇の頭部の皮膚を切り裂いたり、突いたりしている。しかしやはりそれは攻撃力不足で、攻撃が当たるたびに出血とのたうちを頂戴することはできるのだが命はそうはいかない。


 どうにかならないものだろうか。加えて快はさらに最悪のパターンを想像する。それはこの大蛇の首がヒュドラのように切断しても二倍になって復活するというものだ。


 仮にそうだとすれば、快たちに勝ち目は一切無い。依然としてニンガルと八岐大蛇は激しいようでお互いダメージを入れることができていない戦いを繰り広げている。自分の異能がもう少し使い勝手の良いものであればよかったのにと、快はそう考える。


「いや、まだ試したことはない。試す価値は、ある」


 そうだ。快はこの異能の能力を、無意識のうちにあの彼岸花畑で見た光景を引き起こすものだとのみ考えていた。つまり、現在の限界を作り出しているのは快自身だ。


「なら、どこからあいつを絶命させてやろうか」


 仮にこの異能が腰あたり、この蛇においては首の分かれ目のもと以外でも発動することができるとして、それでもってあれの命を奪うにはやはり頭しか狙うべきところは無い。


 だが仮にあれがヒュドラのように首が二倍になって再生するのだとしたら。そこで快は気がつく。


「こいつは、ニアリーイコール八岐大蛇でノットイコールヒュドラだ!」




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 理由はずばり、その外見的特徴だ。八岐大蛇は、八つの首と八本の尾をもつ。対してヒュドラは、九本の首が一つの胴体から伸びている。


 ここから推測できることは、伝説においてヒュドラがその首を再生できるのは胴体がたった一つであるから為せる技であるということだ。


 言葉にすることは難しいが、簡単に言えば損失を元に戻そうとする『流れ』が九倍なのだ。


 それに対して八岐大蛇は一対一。普通の蛇と同じようなものだ。ただ八倍になっているだけ。たまに一と一の和をニよりも大きくしようと言う人がいる。ヒュドラは一と九の積が無限大。八岐大蛇は一と八の積は八。つまりあれも再生を起こさない可能性が高い。


 推測だが。


 だがこれが決まれば全て同時に潰して勝利するというハードルートを通る必要性はない。一つずつ潰していけばいい。勝った。


「ニンガルさん!」


「はい!」


 やはり彼女は一瞬で快の隣に現れる。だが先ほどと違う点は、彼女の息が若干あがっているということだ。ここで快がこのお試し案を思いついていなければ、ふとした瞬間に攻撃を入れられるところだったかもしれない。


「勝ち筋が見えました。一つだけ、あいつの頭になるべく深い傷をつけてください! そこから実験です!」


「承知しました!」


 ニンガルは再び一瞬で戦地に舞い戻る。先ほどまでは相手を翻弄させることに重きを置いていたのだが、一つの頭を狙うことに重きを置いた彼女の動きは先ほどまでのものとは一味も二味も違う。


 快はその様子を見ながら自らの腕を斬りつける。拠点でやったような、手の甲を優しく傷つけるのとは全く違う。袖をまくり肉が見えるまでナイフを入れる。


「……クッ!」


 当然それにはなかなかの痛みが伴う。熱線が腕の中に埋め込まれたような感覚。あらわになった痛点をナイフが、肉が、空気が刺激する。


 ちょうど動脈に当たったのか、腕からは滝のように血が流れる。それを一滴も無駄にしないように舐める、飲む。


 舌がそれを感じるたびに快はとてつもない満足感に満たされる。異能が発動し傷が塞がり始めるが、快は自らの舌でそれを阻止して血を啜り続ける。


「快君!」


「………………ん?」


 快は自分の血を啜ることに集中するあまり状況を全く見ていなかった。目の前には、一つではあるがその頭部に大きな傷をつけられのたうちまわる八岐大蛇と、また別の頭部を攻撃し始めているニンガルがいた。


「ああ、ごめんごめん」


 ここからが勝負だ。快は左腕を口元に持ってきたまま、八岐大蛇の頭部にある大きな傷に集中する。肉が剥き出しになっているあそこを起点に、小爆発を連鎖的に内部へ向けて起こしていくイメージ。




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「クッ……フフッ…………ウフハハハッ!」





 スタートから最高だった。


 快が念じたところは、脳が溶けてしまいそうなほど美しく爆散した。ピンク色の血肉を撒き散らしながらその爆発は奥へ奥へと進んでいき、ついにはその頭部を完全に散らした。


 瞳が破裂し、口からは大量の血液が噴水のように上がる。快はあまりの興奮に、口元にあった腕の傷口を噛んでしまった。さらに溢れる快の血。それが快の体内に入れば入るほど、八岐大蛇の身体は蝕まれていく。


 長い首は内側から四散し、堅牢な骨格まで露わにする。肉が裂けて飛び散る心地よい音がさらに快の快感を掻き立てた。


 爆散の因子はどんどんと胴体へと進んでいき、ついに残りの七本の首と八本の尾までも侵食し始めた。必死で笑い声を抑えようとする快は、喉の奥から奇怪な声を出しながら口元から血を溢している。


 鱗が飛んでくる。皮が飛んでくる。肉が飛んでくる。骨が飛んでくる。血が飛んでくる。牙が飛んでくる。眼球が飛んでくる。舌が飛んでくる。脳が飛んでくる。そして、そしてーーーーーー




 神子二人の前には、ただ肉片と化した八岐大蛇『だったもの』と、そこから流れ出る血液を嗤いながら啜る狂気の塊があった。


「なんだ、ただの魔獣だったんだ」


 快は八岐大蛇の血液を口に入れるなりそう言った。クローヴィスとエレシュの血液と比べてはるかに劣る生の香り。一重のあの生臭さこそないものの、安物のコーヒーのような『なんでもない味』がする。


「まあ、神獣様が召喚なんてされちゃったらたまんないもんねぇ」


 床一面に広がる朱は、蝋燭の火の中不気味に輝いている。ニンガルとルーツェの二人はこの光景を快いとは思わず、早く次に進みたく、そしてそう快に伝える。


「いやいや、さっきのコイツの死に様見たか? これは二重だからあんまかもだけどさ、血を飲めば俺の異能は強化されるんだよ」


「……ですが、未処理の血液を飲むと毒ですよ?」


 ニンガルが快の身を案じてそう言う。当たり前だ。魔獣の血液など、どんな有害物質やウイルスが含まれているか分からない。常識人ならば近づくことすら避けようとする。


「多分大丈夫なことになってるよ。だって俺血に味を感じるようになってるし。あ、当然鉄以外の味だよ?」


 快はニンガルの言葉がこれ以上ないと悟ると再び血溜まりに顔を突っ込む。ぴちゃぴちゃという音と啜る音、そして荒い鼻息の音がしばらくの間館一階で響き続けた。




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 しばらくしてから、快はヴィーガンが数年ぶりに肉を食べた後のようにすっきりとした顔をしてニンガルの隣に立った。彼女の反対側にはルーツェがいる。


「それでは、二階へ進みましょうか」


 次の瞬間、三人は崩れた階段の上にいた。ルーツェが周囲に敵がいないことを確認してから一行は前へと進む。二階になっても相変わらず館は不気味な雰囲気を醸しており、ルーツェの索敵無しにはまともに進むことも難しそうだった。


 そして廊下の反対側にあった上りの階段の前に着いた。


「おいルーツェ、さっきもお前がちゃんと索敵できていれば良かったんだぞ」


 快がこのタイミングでルーツェに文句を言う。当然ルーツェは面白くないのだが、先ほどの戦闘で全く活躍することができなかった自分が八岐大蛇を爆散させた快に反論するということは、彼の信条において認められないものだ。


「…………すまない、俺の力不足だ」


 ルーツェは仮面の下で悔しげにそう言うと、目を瞑り常以上に索敵に集中する。目を瞑っているのは二人には見えないのだが。


「ああ、三階は大丈夫そうだな。ここも敵はいるが大丈夫そうだ」


 ルーツェがそう口にした瞬間、天井を踏み破って、大量の敵が上から襲ってきた。その数は数え切れないほど。一体これのどこが大丈夫なのだろうか。




 >



ルーツェくん何かとかわいそうな位置よね。

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