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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第3章 民の軍、神の軍、そして神の子
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14.フォールカのはずれにて神子三人

 



 地下神殿に、一人傲慢な神が佇んでいる。彼はその口が裂けそうなほど横に広げ、そしてことが全く自分の思い通りに進んでいることに興奮していた。彼の神子は、全く完璧に行動してくれていた。




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 ここはスラム街にある神子の拠点だ。日が落ちてからかなり時間が経過し、あと少しで日付が変わるというタイミング。月明かりが窓から入ってきてわずかな明かりの役目を果たしている。


 ここで生活しているルーツェは言うまでもなく、快とニンガルも転移を用いてケースリットから抜け出してきていた。そこでは神子三人がテーブルを囲み、ルーツェが出したお茶をすすっていた。


「これまたどうしてお茶を?」


 快は今の状況を不審に思いルーツェを怪訝な表情で見る。全く持って疑問だ。


「このお茶は父上が常に飲んでいらっしゃったお茶だ」


「…………出た」


 快はこの間エンリルに聞いていた、ルーツェの父親に対する思い云々を思い出して一人で笑いそうになる。


「何か言ったか? まあいい、このお茶には身体能力を高め、判断力を上げる効果がある。是非と思い、出したのだ」


 ルーツェがなぜか誇らしげにそう話す。だがその効果が本当ならかなり嬉しい。


「ルーツェさん、わざわざありがとうございますね。これを飲んで皆で頑張りましょう!」


 場を盛り上げる方向へときちんと持っていくニンガル。快と五歳ほどの年齢差で、ここまで対応や気の回りに差が出てくるとは。快ももっと大人にならなければならない。


 快はと言うと、そのお茶を飲みながら感じる、ひんやりと心地よい何かが体の中を駆け巡る感覚に顔をしかめていた。しかめるべきものではないのだが。


 この明らかに快にとってプラスにはたらくように感じられるものが、ルーツェのいう効果と関係しているのだろう。たしかにこれは効果がありそうだ。しかし、快はそれ以上に自分にプラスにはたらくものを知っている。


 血だ。特に四重らせんの持ち主の血。これほど自分に合う薬は無い。あれさえあれば何でもできる。快はそう確信している。だからここで自分の血をこのお茶に混ぜたいのだが、さすがにそれをすればルーツェが激怒することは目に見えている。


「ごめん、ちょっトイレ」


 快はそう言いテーブルから離れる。背後でルーツェがマナー違反だと声を荒げているのを聞き、もう飲みきったとだけ伝えて裏にある便所に向かう体で外へ出た。


 初夏の夜風は非常に気持ちが良い。誘拐を重ねて少しだけ泥がついてしまった白いローブがはためくその感覚もまた気持ちが良い。


 建物を出た快は便所の裏へ隠れ、自分の左手のこうにナイフで軽く傷を刻む。そこからつつと流れる鮮やかな朱を快の舌が舐める。


 だがその傷は快が十分な量を得る前に塞がってしまう。したがって再び傷つける。それを繰り返すこと三回程度だろうか、ようやく快はナイフをしまい、拠点の中へと戻っていった。




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「よし、それでは行きましょうか! 二人とも私の手をつかんでください!」


 ニンガルがそう呼びかけると、快とルーツェの二人はニンガルの手を握る。次の瞬間、三人の目の前にはあの屋敷が構えていた。


 フォールカの夜は、やはり寒かった。快は転移が終わった瞬間に手を離し、ポケットの中に手を突っ込んだ。月明かりを受け不気味にたたずむ洋館は、築何年なのかさっぱり見当もつかない。


「俺らなら正面から入っても問題あるまい。さっさと行くぞ」


 ルーツェがバサリとマントを鳴らして剣を抜き、ズンズンと歩いていく。彼には索敵の異能があるので、おそらく心配いらないだろう。


 ニンガルと快はそんなルーツェについていくが、二人はまだ武器は抜いていない。なぜなら二人の異能は武器必須では無いから。


 ルーツェが正面の巨大な扉を蹴り飛ばす。轟音を轟かせて倒れる扉と舞い上がる埃。その瞬間鎖が擦れる音が鳴り始めた。何かをぶら下げた鎖が降りてくるような音。快とニンガルも一瞬で武器を構え、三人で闇の奥を睨んだ。


 鎖が伸び切る音。そして屋敷の廊下に存在する蝋燭が不気味な炎を灯した。三人の目の前に現れたのは、鎖が巻かれミイラ化しかけた、黒い髪を生やした男の死体だった。


 蝋燭の炎が三人を招くかのように上へ続く階段を照らしている。


「……チッ……喧嘩売ってんのか、今回の対象は」


 快の予想は的中していた。推定神子は本当に神子だった。そしてウル・ディーメアに敗北し、こうして次代の神子に対する脅しとして道具のように扱われている。


 服飾店のおばあさんの話を聞く限り、柵を設置しただけ有能であったが死んでしまうのなら意味はない。快は自分こそ殺さなければと、そう覚悟を決めた。


「この先にはまだ敵はいない、進むぞ」


 ルーツェが索敵で安全を確認してから進む。階段のカーペットは劣化で変色し、所々下の木材が見えている。


 そして三人が踊り場まで進むと、突如にして敵が現れた。




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 現れたのは、八つの頭と尻尾を持った大蛇、快の知識でいうところの八岐大蛇だった。それはあまりの大質量に階段の踊り場をぶち抜き、神子三人を巻き込みながら一階まで落ちた。


「十拳剣は持ってないんだがなぁ……」


 睨み合う両者の上から、足音が聞こえてきた。しかしそれはちょうど真上の踊り場があったところあたりで止まる。


 それを感じ取った瞬間ニンガルがふっと消える。頭上で呻き声が上がったかと思うと、彼女は一人の獣人の首元に黒針を突きつけながら帰ってきた。


「おそらく彼が召喚したのでしょう。ウル・ディーメアではなさそうですが」


 獣人は表情一つ変えず立っている。中年と思しき彼は体毛を伸ばしたままにしており、ここで生活しているものと思われる。しかしここはウル・ディーメアのプレート保管場所だ。なぜこんなところにいるのだろうか。


「殺せ」


 快はよくわからなかったがニンガルにそう命じた。術者が死ねば召喚されたこの八岐大蛇も消えてくれるかもしれない。


「ですがーーーー」


 ニンガルが反論しようとした瞬間、白銀のナイフが一瞬で伸び獣人の首を掻っ切った。ため息をつくニンガルとルーツェ。その瞬間大蛇な大きな口が突っ込んできた。


「お前、召喚魔法は術者を説得させるところから始めるって、常識だぞ」


 ルーツェが快を睨みながらそう言う。


「ああ、術者を殺したらコントロールが効かなくなる方のパターンね」


 快はそう言いながら八岐大蛇の頭が分かれている付け根のあたりに集中する。そこから連鎖的な小爆発を起こす。そうイメージするが、八岐大蛇には全くダメージが入らない。外から見ていても何かが起きたようには思えない。快の想像通りだったが、やはり相手の身体が単に大きいだけでこの異能は使い物にならないらしい。


 一瞬ニンガルの転移で上の階に逃げようかとも考えたが、この巨大な身体だと下から床を崩されてもおかしくないと思い却下する。


「どうしたものかねぇ」


 快は陽魔法と鎖分銅を駆使して難なく攻撃をかわすが、攻勢には転じることができない。ニンガルも快と同様に避けてはいるが、まだ転移地点の設置でびゅんびゅんと飛び回ってばかりだ。


 ルーツェはそういった方法がないので、勇敢に黒剣を振り回しながら八岐大蛇の皮膚に傷をつけている。しかし明らかにそれは攻撃力不足で、この状況を打開できるとは考えにくい。


 ようやくニンガルの準備が整ったようで、上から横からまえから後ろから、四方八方から攻撃を始める。しかしそれは、ルーツェの剣でも決定打を与えられないことから当然の如く、全く何でもない。


 三人の攻撃が通用しない。快は離れたところから作戦を考える。時折飛んでくる口や尻尾を避けつつ脳をフル回転させる。


 そこで快は一つ、良い案を思いついた。


「ニンガルさん!」


「はい」


 快はいつまで経っても慣れることができずに、横から聞こえる彼女の声に驚く。


「ルーツェを安全なところに避難させてから、彼の剣で頭を狙い続けてください」


「わかりました」


 手短に指示を済ませ、快は様子を見ることにする。ニンガルがルーツェの元に飛び、そしてまた消える。第一関門突破だとそう思った。だがしかしなかなかニンガルが復帰しない。


 どうしたのだろうか。ルーツェが騎士の誇りだなどといってあの剣を貸そうとしない情景が浮かんだが、次の瞬間ニンガルがあの長剣を携えて現れた瞬間快の顔は綻んだ。


 だがここで問題が一つ生じた。八岐大蛇も狙うべき敵が一人に減ったため、そもそもの攻撃を当てるということが困難になってしまったのだ。


 ニンガルは相手の裏をかくように転移を重ねるがなかなか当てられない。快としては実にもどかしい。こんなならその異能を自分にくれれば良いのにと思う。


 だがしかしそうはいかない。快は、自分の異能で彼女に貢献しなければならない。この動きそうもない状況を動かすために。





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