12.フォールカの町
今回は読んでる間にあれって思って頂きたい部分があります。最後の文に答えが載っているので、脱お正月モードのミニ・頭の体操だと思って読んでみると面白いかもしれないしそうでもないかもしれません。
快は目の前に広がった光景に驚いた。シン都ではかなりのマイノリティだった獣人が、人間と同じ数だけいるのだ。
獣人は哺乳類が人間の姿をしているといった様子で、例えば犬や猫、ねずみなどがいる。長閑な様子のこの町には畑があり、自給自足の生活をしているようだ。
暖かい印象を受ける木製の家々が立ち並ぶ中、快はまず最初に衣類を売っている店を探した。快は今猛烈にローブが欲しいのだ。それは防寒のためであり、また目立つ黒髪を隠すためでもある。
クローヴィスから頻繁にもらっていた軍資金も全て持ってきているので、多少は質のいいものを購入することができそうだ。
快はざっと町を見回って唯一だと確信した服飾店に入る。そこはこの町に相応な、あまり広くないような店だった。店員もおばあちゃん一人で、盗みが入ろうものならなすすべもなく全て盗まれてしまいそうだ。
快は少し不安に思いながらも店内を見回ると、ローブのコーナーを見つけた。そこに行くと、案の定いくつかの種類のローブがあった。
一番安いよれよれとした、デザイン性もイマイチなもの。並の値段で並の品質、並のデザインの普通なもの。そしてその隣には『献上品』とかかれた札があるローブがあった。
「すみませーん、この献上品って書いてあるローブなんですか?」
「…………」
聞こえていないのだろうか。耳も悪くなった年寄りならば店などやめて仕舞えばいいのに。快は面倒ながらもおばあちゃんの近くに寄る。
「あのぉ! 献上品ってぇ! 書いてあるぅ! ローブってぇ! なんですかぁ!?」
きちんと聞こえるように大声を出した甲斐あってか、おばあちゃんが快の方を見て答えた。
「うちの最高級ローブは特別なんじゃよ。秘密のせーぞーぎじゅつというやつじゃな。それを大昔からお偉いさんがたに献上しおるんじゃえ。あんた色男だから似合うとおもうんじゃけどなぁ」
歯が少ない口で言われるとどうしても笑ってしまいそうになるのだが、ここで笑うと色男と言われたことに照れたようで癪なのでどうしても堪える。
しかしそれだけ良いもののローブならば、お金も余裕があることだし購入してもいいような気がする。そもそも快自身割と良い家の出なので出来る限り高級品を身につけるということを当然と考えている。
快は再びローブコーナーに向かう。献上品とついたローブは黒、白、深緑の三色あった。快は黒を手に取るがそこでふと止まる。
快以外の神子は二人とも漆黒に身を包んでいる。武器まで艶消しの漆黒だ。快は黒色は大好きなのだが、白銀の武器に価値を感じているのと同様に、衣服も彼らと違うものがいい。それは彼自身の自分に対する意思表明にもなる。
それから深緑はなんだかおかしなことになりそうだ。したがって快は白いローブを手に取った。見た目以上に軽いそれをおばあちゃんのところに持っていく。
「これください」
「はいよ」
四次元チューブから財布を取り出し、お金を払う。
「言い忘れておったが、こいつは破れにくいから壊れたって責任はとらんぞ」
「ええ、壊れにくいのなら十分です」
快はそう言いながらローブを受け取り、その場で袖を通し外へ出た。プレートが保管されているという大きな古屋敷を探すために。
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町の中心部には屋敷などなかったので、快は町の外縁部を回っていくことにした。外縁部には柵が張り巡らされている。獣からの襲撃を防ぐためのものだろうか。柵の内側を歩いていると、住人たちとすれ違う。
彼らは狩りに出て行こうとする男たちであったり、追いかけっこをしている子供たちであったりする。しかし、彼らが誰であろうと老若男女だれでもかれでも快が着ているローブを見ると頭を下げた。
おそらくこれを着た人を見たら頭を下げなさいとでも決められているのだろう。国の端にあるこの町を出来る限り発展させるために。しかし、そんなこんなで一周したのだが屋敷は見つからなかった。
その後も町の中をあちらこちらに行ってみるが屋敷は見つからない。そこで快は先ほどの店のおばあちゃんに尋ねることにした。
「すみません、この町に古い大屋敷があると聞いたのですがどこにあるんですか?」
「おっおお大屋敷かえ? あそこは……あそこは今は町の外じゃ……」
なんだろう彼女のこの様子は。まるで大屋敷に嫌な思い出があるかのような様子だ。聞いてみるしかない。
「おばあちゃん、あそこで何かあったんですか?」
「何かも何も、昔村の周りに柵が無かったころ、子供たちが定期的にあの屋敷に誘拐されていたんじゃよ。五十年くらい前に、あんたによく似た黒い色男があの柵を作ってからそれも無くなったんじゃがな」
どういうことだ。あの屋敷にいるのはウル・ディーメアのはず。彼らは快たちと違ってプレートの維持のために誘拐をする必要はないはずだ。それに、黒髪の色男はおそらく神子だ。なぜプレートを回収しなかったのか。それとも既に回収していて、ここではないどこかにあるのだろうか。
屋敷が柵の外にあるということは分かったが、それ以上に謎が増えた。とりあえずは向かってみるしかないが。
「分かりました。ありがとうございます」
快は屋敷の前に着いた。屋敷は洋館のようで、庭園もある。窓は割れ庭も荒れ、外壁もボロボロでツタも絡まっている。
「ニンガルさん、来て下さい」
「快君、お疲れ様です」
ニンガルが先ほどまでいたかのように快の隣に立っている。二人はまず一番最初に屋敷の周りをぐるりと様子を見ることにした。しかし、どこから見ても分かることはボロいということだけ。これはむしろニンガルの転移地点を設定するためだけではないかと思われるほどの無駄足だった。
「ボロボロですね」
「ええ、そうなんです。そこですこし話したいことが」
快はそこでここのプレートについて考えられる可能性を伝えた。何故か子供たちを誘拐していたということ、以前この三人以外の神子がここへやってきた可能性、そしてここのウル・ディーメアがその神子に打ち下されたという可能性。
全てを伝えるとニンガルも驚いていた。
「そうですか……果たしてどうなのでしょうね……」
この結果によって、今度神子三人でしなければならないことが変わってくる。ウル・ディーメアが生きているのなら、潰してプレートを手に入れれば済む。しかしその推定神子がプレートを手に入れていてどこかに保管しているとなると一気に面倒になる。
その保管場所が推測できないからだ。だから快は密かに推定神子の敗北を願っているのだが、結局どうなることやら。
「そう言えば快君、いいローブですね」
「え⁉︎ ありがとうございます!」
店員のおばあちゃんに褒められても何も感じなかったが、ニンガルに褒められると顔から火が吹きそうになる。
しかし、そんな幸せな感情も水をかけられたように一瞬で冷める。なぜなら、獣の唸り声が聞こえたからだ。
「…………」
二人はそれぞれ武器を構えて、一瞬で戦闘態勢に移行する。唸り声は一方向から聞こえるので、おそらく相手は一体。声質的に犬や狼の類だろうか。
二人は相手を両側から攻撃できるよう左右に分かれた。相手はまだ動かない。快は先ほどエンリルに気が付かせてもらった、戦闘前に殺すという思考を持ったまま少しずつ近づいていく。
次の瞬間、草むらががさがさと揺れ狼の群れが大量に飛び出してきた。
明らかに魔獣だ。一体だけが唸り声を上げ相手を油断させ、確実に殺す。そして快とニンガルはまんまとそれに引っ掛かったのだ。
快は異能で一体爆散させるが、後続の狼が次々に襲ってくる。ニンガルも快の近くに転移して狼の脳を貫いていく。しかしその圧倒的な数の暴力に押されている二人。
「上!」
快が短くそういうと、快は鎖分銅を木の枝に引っ掛けて上昇、ニンガルは陽魔法風の異能で飛び上がる。真下に狼が集中したと見た瞬間。快は火球の魔法陣を発動した。圧倒的な熱量を含んだそれは狼の魔獣を一瞬で黒焦げにした。
だが、安心できたのも束の間、残った火が燃え広がり森に少しずつ伸びていった。
「快君! 魔法陣は?」
「水はまだです!」
快は水と土の魔法陣を組み合わせて泥で消化しようとしているが、真下しか消火することができない上に火の勢いが強いところには効果がない。
「イアンナを連れて来て!」
「はい!」
ニンガルは返事をすると一瞬で消え去る。すると次の瞬間、合計しても一瞬である短時間で、彼女はイアンナを抱えて転移してきた。イアンナは困惑で顔を塗りつぶしていたが、真下の様子を見ると状況を察したのかすぐに水の魔法を発動する。彼女の周辺に海が持ち上がったのかと思うような魔法が発動する。
水が寸分の隙間もなく降る、というより落ちる。それは周辺の火をいともたやすく消し去り、土の中へと染み込んでいった。
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「いや、本当に助かりましたありがとうございます」
快はこの日は何回も誰かにお礼を言っているような気がする。別に悪いことではないのでいいのだが。
「どうしてこんなことになってるのよ」
イアンナが咎めるような口調で、しかし目元は笑わせながら快に尋ねる。
「ちょっと狼の魔獣の大群に襲われちゃってさ、つい火球を放っちゃったんだよね」
「なんですかそれは」
イアンナは笑いながらそう答える。
「全く、貴重な講義を受けていたのに何してくれるんですか」
イアンナが講義とは珍しい。彼女はすでに自らの研究を中心にしているはずなのに。
「ごめんよ、イアンナしか頼れなかったんだ」
「おだてても何も出てきませんよっ」
イアンナが上目遣いで快を見る。美しい。そしてしおらしい。
「はいはい、まあでもありがとうね」
三人はニンガルの転移で、ケースリットに帰ってきた。快はケースリットに帰ってきた瞬間に、推定神子がプレート回収に成功したことはあり得ないと気付いたのだが、それをニンガルに伝えられたのはその日の夕飯でのことだった。その時、イアンナは全くきょとんとしていた。
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YouTube上にアップされている仙水風楽さんの破滅機関車トーマスの音楽を聴きながら読むとまた面白い(?)
作者の頭の中……おっと喋りすぎた




