7.ふぁーすとさくりふぁいす
あけましておめでとうございます。2020年もよろしくお願い申し上げます。
「ハッ!」
三人の神子は、そろって目を覚ました。とても気持ち悪い終わり方をした。これから三人で頑張っていく流れのはずなのに殺し合いをし、さらにあの空間の特異性のせいでお互いの印象が悪くなるような内容。さらにエンリルはその後始末をしようとはせず、さっさと帰らせた。
ニンガルはあの場でも大人であったのだが、まだ子どもの快とルーツェはなかなか酷いものであった。それは少し経った今でも自覚できるほどだ。
このままでいいはずがなかった。エンリルがややこしくしたこの状況をなんとかしなければ負けな気がした。
「…………あ、二人ともさっきはその…………ごめん」
快が最初に謝った。その真意のほどは分からないが、しかしその言葉にはそれなりの気持ちがこもっているように感じられた。
「…………なんだ急にしおらしくなって。まあ俺も少し言いすぎた感はある。謝罪しよう」
ルーツェも、あのお固いルーツェも謝った。おそらくそれは、エンリルを全面的に支持するルーツェでもあの空間のいやらしさには困っていたことによるものだろう。
「いえいえ、二人ともこれから頑張りましょうね、ご褒美もあるそうですし。先ほどの戦闘も非常にレベルの高いものだったと思いますよ」
大人としてまとめようとした後に最後のあの殺し合いのことを掘り出してくるあたりニンガルの数少ない抜けている部分を垣間見ることができるのだが、別にそれを嬉しくは思わない。
「それじゃあ、早速あの七三三をどうやって組み合わせますか? 僕だけ七で大変なんですけど」
「普通に交互でよくないか? 快俺快ニンガル快俺快ニンガル快俺快ニンガル快だ。週が変わるタイミングではお前が二連続になるが」
「ああ、それでいいな」
ということで本日開始の生贄狩りは、快から始まることとなった。その後三人はすぐに解散した。ニンガルはケースリットの警備、ルーツェはスラム街からシン都のパトロールをするために。
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快はシン都下層の繁華街を歩いている。快は人を殺すことに快感を覚えているのにも関わらず、街中で一般市民を誘拐することに罪悪感を感じている。その気になっているだけだという可能性もあるのだが。
いずれにせよ快は対象を殺すことはできないので、快としてはこの仕事はあまり楽しいものではない。なので、なるべく平和的に終えられそうな作戦をたてた。その名も『街頭インタビュー風誘拐』だ。
その名の通り、人の多い場所で街頭インタビューをしているように見せて、近づいてきた誰かを人の少ないところへ連れて行きそのまま気絶させる。
快の予想では、ニンガルは転移を使っていとも簡単に、ルーツェはスラムで誰かを誘拐するはずだ。したがってこれほど自分らしい方法はない。
快は早速大通りに繰り出した。
「すみませーん! インタビューを行なっておりまーす! ご協力お願いしまーす!」
恥を捨て大声を出す快。叫んだ直後にたくさんの眼がこちらを向いたのを感じるとどうしても耳元が熱くなってきてしまうが、我慢する。
しかしどれだけ叫んでもどれだけ待っても誰も寄ってこない。そこで快は気がついた。この文明レベルになると、市民が興味を持つ『記事』とはずばり、国政にまつわるもののみだということに。つまり街頭インタビューなるものに慣れていないのだ。人が寄ってくるはずがない。
大きく肩を落とす快。なかなかいい案だと思っていたのに、その大きな欠点に自分で気がつくというのは何とも虚しい。どうしたものか。陽魔法の魔法陣も身につけていることだし、普通に誘拐しても問題無いように思えてきてしまう。
ということで、快は大通りから少し離れて人通りの落ち着いた道に出た。ここは常に二、三人歩いている。もう少し少ない方がいいのだが、誘拐も可能なはずだ。
そう思い道端にヤンキー座りをして時間を潰す。腰が痛くなってきたところでちょうど良いターゲットが現れた。中年の女性で質素な服装をしている。
彼女は手元に抱えた籠の中身を漁っている。どうやらそこには今日買った野菜やらその他消耗品が入っているようで、全て買ったか確認しているように思われた。
となると彼女は家庭に身を置いているということだ。年齢的には反抗期あたりの子供と夫と暮らしていてもおかしく無い。つまり、快が今ここで彼女を誘拐するということは一つの罪のない幸せな家庭を潰すことになるのだ。
「何それ、最高じゃん」
快は思わず口から出た言葉に驚いて手で口を塞ぐ。二つ目の異能が開花してから自分のそういった面が大きくなったような気がしないでもない。元から自分の中にあったような気も、当然する。
そうこう考えていると中年女性はすぐそこまでやってきていた。快は彼女が通り過ぎた瞬間、音を立てずに腰を上げた。
カチリという音に中年女性が振り返ると、そこには漆黒のシンプルな戦闘服に身を包んだ黒髪の少年がいた。彼女はすぐさま『黒髪』の噂を思い出した。
シン都の平和を守る『殺人』ヒーロー。しかし、当然のことながら彼女には全く身に覚えがない。そして彼女は、違和感を感じた。
噂に聞く黒髪は、仮面を付け長剣を腰に下げている。しかし今目の前にいる黒髪は、気味の悪い笑顔を顔面に貼り付けて右手首から下がる鎖分銅をぶらぶらとあそばせている。
「おばさん、ごめんな」
次の瞬間、目の前の黒髪が女性の頭上を転がるように飛び越えると同時にその鎖が彼女の首を絞めた。意識を失うのに数秒とかからなかった。
快は気絶させた中年女性を肩に担いでせっせと走っている。すぐに人が全く通らない裏道に入ったので目撃される危険性は少ないとは思うが、急ぐに越したことはない。
しばらく走っているとあの臭いが鼻をつくようになった。スラム街に着いたのだ。どうしても通らなければならないのだろうか、あの風俗が立ち並ぶ道を走り抜ける。
掃除に勤しむ子供達を傍目に、快はルーツェの、もとい神子の拠点に戻る。床の上で珍妙なタップダンスを踊り、地下への道を開く。
「……めんどくさ」
快は気絶した女性を地下へと続く階段に投げ込む。どさどさと落ちていく音と、その後に呻き声が聞こえる。ちょうどよく目が覚めたらしい。
快は階段をすっ飛ばして立ち幅跳びの要領で飛び降り、陽魔法の効果で見事着地する。そこでは、目の前で女性が上半身を腕で支えて起き上がろうとしているところだった。
「おーおー、何やってんだ」
地下室の明かりは、二枚のプレートから放たれる藤色の淡い光のみ。彼女は先ほどまでの記憶とこの暗闇を結びつけ、おおよそ正確な状況判断を下した。
「な、なんですか私をこんなところに連れ去って! 私に乱暴でもしてみなさい! 旦那が飛んでくるわよ!」
立ち上がった彼女は地下空間をゆっくりと歩き回りながら快を睨みつける。しかしその心はおそらくこの場の脱出方法にある。顔にそう書いてある。
「乱暴? 乱暴っていろんな意味がありますよね、僕もわりと成長してからそのことを知ったんですよね。でもまあ安心してください。僕はもう何もしませんし、旦那さんがいらっしゃってもなんら問題無いですよ?」
快は女性が階段に進むことのできるルートをつぶすように斜めに動く。
「どういう意味よ! 言っておきますけど、うちの旦那はウル神国最強ですから!」
快が最強という単語に反応して足を止め、目を細める。
「ほう、最強というと?」
「聖光騎士団トップの実力ですから!」
彼女はそういうと足を止めた快の隙を見て階段に向けて走り出す。彼女の夫が国内最強かどうかはさておき、しかし彼女の夫が軍に現在も所属していることは事実だろう。
日本でも古来から武家の妻はしたたかなものだ。なによりも堂々としている。彼女の服装はなんとも言えないものではあったが、軍人は武家とは違うことを考えると、彼女の性格からでも充分予想のキーになりうる。
快は鎖分銅で彼女の脚を絡めとりながら、そんなことを考えていた。彼女はいともたやすく脱出を阻止されたことに憤った様子で旦那がどうこう叫んでいた。
「僕は何もしないって言ったじゃないですか。ーーーーほら、あそこに立ってください。あそこに立てばすぐ終わりますよ?」
口調は優しさを偽りつつ、しかしその彼女の背中を押す手の力には抗うことを許さない強さがあった。
「…………旦那が……!」
俯きながら快に押されるがまま前進する女性がぶつぶつと呟いている。
「はいはい、素敵な旦那様でしたね」
紋様の目の前、快が彼女の背中を強く押すと、観念したように前に進む。あと三歩。二歩。一歩。ゼロ。
彼女が紋様の真上で両足を揃えた瞬間、プレートの放つ光が若干強まった。そして、女性の足が石化した。それはどんどん上へと進んでいき、膝が石化し腰が、腹が、胸が、肩が、顎が、鼻が、瞳が、彼女を無機物に変えた。
そして次の瞬間、それは頭から塵となった。パラパラと崩れていくそれは、空気中でさらに細かくなり、そして煙となった。煙は紋様の真上で停滞し、彼女の全身が煙になるのを待っていた。
そして全てが集まると、それは二分され、そして二枚のプレートに流れるように吸われていった。後には何も残っておらず、ただその光景を眺めていた快だけが残された。
「さて、僕に問題。この国で最も強い人物は聖光騎士団の最強騎士でしょうか? 解答に際してこの世界の住民に尋ねることを許可するが正規軍、聖光騎士団に所属する人物に尋ねることは禁止とする」
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活動報告を更新しますので目を通していただければ幸いです。




