6.四海兄弟
ふう。予想通りカウント終了と同時に視界が暗転したわけだが。いつもよりあの遺跡の景色が広がるのに時間がかかるな。
「よく来たぞ、我が神子よ」
と思ってたらちゃんと着いた。それで案の定エンリルが出てきたな。なんだかにやけ面さらしてるんだが気持ち悪いな。
「エンリル神! 三人揃って参上致しました!」
うえ、本当にルーツェは気色悪いな。さっきから誰かを気持ち悪がってばかりだけどまあ状況が状況だから仕方がない。
ルーツェは騎士みたいに跪きやがった。てかおい、ニンガルまでやってるじゃないか! おれもやらないと浮くよね。
「わ、我が主。早速ご指示をいただければ幸いであります」
「長田快、先ほどからモノローグが多すぎる。あれを聞かされた後に貴様のその言葉を聞いても俺は何とも思わんぞ」
はいはい。てかいつからあんたの一人称は俺になったんだよ。
「フン、馬鹿が。この世界で一人称に相当する単語は一語だ。貴様の感覚が変化して無意識の内に訳出が影響を受けたのだろう?」
「…………」
さっさと本題に入りやがれボケが。
「…………長田快、今後の活躍に期待しよう。さて、本題に入る。貴様ら神子には本日から毎日、生贄を捕らえてきてもらう」
また嫌な仕事を持ってくるもんだな。
「承りましたが、それは何ゆえ?」
ほらほら、優等生ルーツェ君も疑問に思ってるじゃないか。
「よくぞ聞いてくれた。それはずばり、プレートの力の保持のためだ。プレートとは本来ウル・ディーメアの生の力を利用してその不安定さを抑えている。従って、今貴様らが保持しているプレートもなんらかの生の力を与えなければならないのだ」
「え、ニンガルさんうちのヤツそれやってますか?」
「当然、いいえ、です」
ですよねー。貴族が毎日人攫いなんてしませんよねー。
「貴様らは何か生き物、出来れば人間がよいのだが、を生きたまま連れてきて台座の中央にある紋様の上に立たせろ。その先は俺がやる」
え? それだけ? ならーーーー
「分かりました。ですが、非常に申し上げにくいのですが……何故に私たちを揃えてここへ?」
うん、そういうこと。
「ああ、ここからが本題であるぞ! 貴様らにはこれから、全力で殺し合いをしてもらう!」
静寂。俺はこういう雰囲気嫌いじゃないけどね。まあでも実際若干やりにくくなるってのはあるわけでして。
「は? なんか結団式みたいな感じで仲良くなろうぜってやるんじゃないの?」
「違うな。俺は貴様らに温く神子をやっていて欲しくはない。全力でやって欲しいのだ。それと同時に今回の成績を見て生贄を捕らえる頻度を決定する。ちなみにここでの負傷は現実には一切反映されない上にここならすぐに生き返ることができる。思う存分戦え!」
ああああ、面倒臭いなぁ。エンリルは多分あれだ、俺に一番強い異能を与えたことを自覚してこれを言ってる。実際そうだし。ほら、あいつこっち見て不敵な笑みを浮かべたぞ。
まあ、と言いつつも全部想定済みなんだけどね。だからぶっちゃけさっきは久々に人殺せると思って興奮しちゃってさ。まあ面倒なことに変わりはないんだけど。
「よし、ならば長田快! まず俺と戦え!」
うっわエンリル大好きルーツェ君だ。パパに良いところ見せて褒められたいんだろうな。なんて。どうしたんだろう、さっきから考えが脳から溢れてくる。
「はいはい」
ルーツェが開けた場所に進むので俺もついていく。俺は今日はケースリットを出る時から魔法陣を身体に巻いてナイフも用意して鎖分銅も右手首に装着している。
ルーツェが黒剣を鞘から抜き構える。俺はナイフを抜き構える。ニンガルが空気を読んでカウントを開始する。数字が小さくなるごとにルーツェの纏う空気が濃くなっていくのを感じる。
やば、もしかしたらもしかするかも。
「ウオオォォォッ!」
ルーツェが突っ込んでくる。おそらく初手は突きだ。全くきらめかない黒剣を真っ直ぐ俺の胸に向けて伸ばしている。速い。でもニンガルの転移を見慣れてる俺からすれば普通に速い、というのは体感的には遅い。
ルーツェの剣が俺に届くにはまだまだのところで、ルーツェの上半身が爆ぜた。この異能を発動するときに一瞬くらつくのはどうにかならないのだろうか。本当に一瞬なので大したことはないのだが。
「流石だ長田快! ハハハハッ! あっぱれあっぱれ!」
エンリルはどうやら自分の『作品』の鑑賞を楽しんでいるらしい。俺はそんなことより目の前に広がっている『搾りたてルーツェジュース』を飲むために前に進む。
腰のあたりの最も血がたまっているところに顔を近づけると、突然目の前が真っ暗になった。
「なんだなんだ!」
って、まじかよ。ルーツェが何事もなかったかのように復活してる。これじゃあ血が飲めない! てかルーツェめっちゃ不機嫌だし。まあ瞬殺しちゃったしなあ。
「……クソが! 覚えていろ……!」
あーあ。
負け抜けらしい。ルーツェがそのままエンリルの方に近づいていくのと同時にエンリルの近くにいたニンガルがこちらに向かって歩いてくる。
「快君のその異能はやはり恐ろしいですね!」
なんだこいつ興奮してやがる。やっぱり戦闘狂なんじゃないか? 転移の方が強いと思うんだけどなぁ。ルーツェのカウント始まっちゃったし。それにニンガルは俺の背後に転移することも余裕だし。多分負けるなぁ。
「クッ…………」
やっぱだよ。クソ。なんとか避けられたけど。クソ。避けるたびにまた。クソ。背後に転移される。クソが! 焼き殺してやるわ!
「あら! さすがでーーーー」
アッハァ! 何回見ても人が爆散してるのって見てて気持ちいいよな! イキそうだこれ!
「なっ! 卑怯じゃないか長田快!」
……五月蝿いな。
「どこがだ。背後への転移を予測してそこに火球を放って、相手が転移地点を変更したその隙に殺しただけだ」
「それが卑怯なんだろう! 男なら正々堂々と戦うべきだ!」
正々堂々と? 殺すチャンスを見逃すのを正々堂々だと言うのか? いや、違うな。日本史の合戦云々でも、アニメの戦闘シーンでもそうだ。なんだかあれにはゆとりがある。剣道をやってる俺からしたら気持ち悪くて仕方がない。
「それか、それがお前から感じられる固さか。形式と固定概念に囚われた愚かな行動基準が、俺自身の利益を最優先にする俺の行動基準と合致しないからお前を見ていると不快なのか」
あ、あのルーツェの雰囲気はーーーー
「ふん、なんだなんだ。お前は自分が弱いからそうやって自分のことしかーーーー」
うぜえ。あと百回くらい散らしてやりたい。てかエンリルと二人っきりになってしまった。
「……長田快。お前はこの空間の影響を受けているからそうやって過激なことを言い、そして考えているだけだ」
違う、本心だ。この空間の影響を受けて本心が漏れ出てるだけだ。
「フフ、知っている。そして俺は、そんなお前を…………誇らしく思う」
はいはい、分かりましたありがとうございます。はあ、やっぱ俺ここ嫌いだわ。
<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<
「サン、ニ、イチ、ゼロッ!」
最後にニンガルとルーツェの戦いだ。二人とも俺に負けたからこれで順位が決定する。ニンガルはともかくルーツェは本気も本気だ。
おそらくこれでもニンガルが押すところから始まるとは思うが、その後どのように展開していくのか。気になる。そして案の定最初はそうだ。
ニンガルがルーツェの周囲を理解不能の速度と軌跡で動く。しかしルーツェはニンガルの攻撃を全て直前に防ぎ切っている。索敵とアシストの連携によるものだろうか。
「全くその通りだ。この俺も何も考えずに異能を二つずつ与えているわけではない」
ということだそうで。形勢が逆転するということはないのだが、ニンガルも決定打に欠けている。ここは攻め方を若干変えた方がいいんじゃないか?
前方背後に左右上下、すべてを使ってルーツェを貫こうとするニンガルなのだが、ことごとくあの黒剣に防がれている。逆にルーツェは押されっぱなしで攻撃に転ずることができない。
あ、ニンガルが距離を取った。まあ賢明じゃないかな。そして黒針を八本取り出した。ここから面白くなりそうな予感。
ニンガルが黒針を六本一気に投げた。三本セットを全く同じ軌道で二回。それがルーツェにたどり着く前にニンガル自身がルーツェの針の反対側に転移する。
二本の長針で攻めるニンガル。ルーツェに近づく六本の黒針。勝負ありだな。
「おお! よくやったぞルーツェ!」
マジかよ! 何と言うんだろうか、ルーツェがその場で長剣をぶん回しながら回転してニンガルの全ての攻撃を跳ね除けた。
だがニンガルは流石だ。回転の直後のルーツェを狙い転移して首元に二本刺す。
ルーツェは死んだ。しかしルーツェはただ死んだだけではなかった。手首を返して背後のニンガルの首を落としていた。
<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<
「貴様ら全員よくやった。今後も戦闘力の向上に励みたまえ。そして、生贄を捕らえるのは、長田快が七日、ルーツェ=ランドールとニンガルが三日ずつを一週間の内にやれ。本日開始。努力によっては主としてほうびをやらんでもない」
結局こうなるのか。まあいずれにせよ外に出たいとは思ってたからな。一般市民に実害を与えるってのは気持ち良くないけど、まあそこは独我論的思考で乗り切るしかありませんかね。
>
快が狂っているというのは作者として認識はしておりましたが文字に起こすと何というか……




