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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第3章 民の軍、神の軍、そして神の子
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4.ウル神国聖光騎士団

 



 エンリルにリベロー草の場所は教えてもらえなかったものの、自分や他の神子とウル・ディーメアが四重らせんだということは知ることができた快は、今度は問題が解決したことによる虚無に襲われた。


 何もない暇な時間。それが無限に続いているように思えてくる。そこで再びこの国の軍隊について考える。聖光騎士団。正規軍はともかく、エンキが立ち上げたと言われているそれは、途中で大きな山を迎えた正規軍に対してどのような歴史を持っているのだろうか。そもそも歴史が浅さそうなのだが。


 快は聖光騎士団に二人、顔見知りならぬ鎧見知りがいる。そのうち片方とは何度か言葉も交わしている。そう、閣塔の門番だ。快に正規軍本部の秘密である究極の魔法陣を教えてくれた彼ら。せっかく時間があるので、向かうことにした。




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「おい! いくらお前さんでも武器を持ってここに近づくのは許されねぇぜ」


 快が閣塔に近づくと、例の門番の内話したことのある方が快に槍を突きつける。それにしてもやはり立派な装備だ。正規軍の地下牢番のやつとは全く違う。そして槍捌きも目にも止まらぬ早技で、快は素直にすごいと思う。


「武器?」


 しかし快も突然そのようなことをされては困る。特にそれが身に覚えのないことならば。緊急時用に四次元チューブは持ってきているが、ナイフはその中で外には出していない。


「それだそれ!」


 門番は苛立ちを募らせる。


「どれだよ⁉︎」


「右袖!」


 あ。鎖分銅だ。快はウル・ディーメア戦で全く役目がなかったそれの存在をすっかり忘れていた。服は脱いだはずなのだが、いつのまにかそれをただのブレスレットと認識していたようだ。


「すみませんすみません。はずし忘れてました。四次元チューブの中にしまえばいいですか?」


「ああ」


 ところで、なぜ四次元チューブの中ならば武器を持っていてもいいか不思議だろう。これには一つ決まり事があるのだ。


 四次元チューブが発明された当初、当然その危険性は多くの上層部において議論された。小さな筒を持っていればどのような武器でも、どこでも取り出すことができるのだ。


 そこで四次元チューブを作成している団体にある指示が下りた。それは、四次元チューブから物体を取り出すのに一秒の遅れを発生させること。


 この世界では一秒で危険人物を無力化することなど容易い。したがって四次元チューブに入れておけばいいのだ。快が持っているのはクローヴィスが改造してゼロ秒で取り出せるのだが。


 快はそれがバレないように鎖分銅を四次元チューブにしまい、そのまま前の門番に質問する。


「あのー、突然なんですけど聖光騎士団に興味があるので教えてもらえませんか?」


「おう! 俺らに興味持ってくれたんなら頑張って修行してる甲斐もあるってもんだな!」



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 昔、代表たちはエンキを除き、それぞれが得意とする異能と民の一部を利用して小規模な内部紛争を起こした。


 それはごくごく小規模で、国内での影響は出ない予定だった。しかし蓋を開けてみると国内は大混乱。


 シン都から離れた荒原で行われた小規模の合戦では、異能や魔法が飛び交い、地形が変わるという事例すらあった。そんな中でも代表たちは手加減に手加減を重ねていたらしいのでまた厄介だ。


 巷では神々が戦っていると噂された。しかもそれは手を抜いているのに地形すら変えると。噂は一瞬で国内全土に広がり、神々に恐怖し絶望した民は各地で暴れ回った。


 神々もだんだんと手加減をしなくなり、本格的に死者が出てきた。そこで動いたのが、かのエンキである。エンキは暴走する代表たちを身体の石像と力と魂のプレートに分割した。


 同時に自分が合戦のために『形の上で、使うつもりなく』用意していた仮の軍を使い、各地の混乱を収めた。


 これが、最も最初期の聖光騎士団である。若者たちは冷静に動き回る聖光騎士団に憧れを抱き、それはどんどん大規模になっていった。


 現在の形になったのはかなり昔で、その頃から聖光騎士団は志願兵制であった。したがって小規模ながらも実力の高い集団となったのだ。


 正規軍のシステム上、大半の場合正規軍に徴兵された者たちのうち、『国を守りたいが正規軍は嫌だ』というものが流れてくるらしい。


 そしてその場合正規軍の何かしらを嫌に思ったわけであって、その正規軍よりも国のために動きたいと思っている。そこから聖光騎士団の高い質が生み出される。




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 ニンガルと大体同じようなことを言われた。おそらく聖光騎士団の始まりがエンキの仮軍だったということは確かだろう。なぜならこうして閣塔を守っているのだから。


「そうなんですか、ありがとうございました! お勤め頑張ってください!」


「おうよ!」


 快は門番に挨拶して坂を下っていった。向かった先は、NinQluraだった。



 重たいが滑りがいい扉を開くと、中にはマスター以外誰もいなかった。


「お待ちしておりましたよ」


 マスターがいかにも優しげな笑みを浮かべて快を迎える。ちょうど店内の音楽が変わり、ベースの細かい音楽が流れ始めた。


「ロードランナーで」


 マスターは了承して早速作り始める。しかし本当に彼の手つきには慣れたものがある。そして快も気付けばすっかりカクテルにハマってしまった。未成年なのに。


「そう言えばランドール殿が長田殿をお探しでしたよ。なにやら話したいことがあるんだとか」


「ああ、なんとなく想像つきますね。いつか会ったら済ませておきますよ」


「いつかって、そんなことを言っているのを聞かれたら悲しまれますよ?」


「あはは! それもそうですね!」


 マスターとの会話は純粋に楽しい。それも快がここにくるようになった理由の一つなのだ。何というか、無駄のない会話をしているように感じる。会話として最も洗練されている感じだ。


「それで、まだ僕にはマスターの名前は教えてくれないんですよね?」


「ええ、そうですね。でもその様子だといつかは教えられそうな気もしますがね」


 鋭い。何がとは言わない。


「その心は?」


「長田殿が珍しく瞳の奥の衝立をどかしてくださったからですよ。私のような凡人でも、歳を重ねればある程度は成長できるものですからね」


 論点をずらされた。全くこれだから賢い人は困るのだ。うまく切り抜ける術を持っていて、かつそれを自然に扱える。おそらくもうこれ以上は踏み込めない。そう判断してその話題は捨てた。


「じゃあ、正規軍と聖光騎士団云々について何か知ってます? 昔から今までを見て」


 するとマスターが珍しく唸った。


「うーん、すみません。私は昔から勉学と酒以外に興味がありませんので。徴兵も貴族だということで免除されましたし」


「マスターは貴族なんですか⁉︎」


 するとマスターの顔が曇った。


「今は違いますがね、若い頃に他貴族に家ごと譲りました。なんせ家の滅亡が確定する事件があったので……」


 そんな大きな出来事があったのか。それでバーをやるというのもマスターの粋な部分が窺われるものだ。


「……すみません、なんだか嫌なこと思い出させてしまったみたいで。でも大変でしたね」


「ええ、お心遣いありがとうございます。ところで長田殿、ランドール殿がこちらに向かっているようですがどうなさいますか?」


 マスターは優しい。こうして情報を与えて快に選択権を与える。エンリル大好きなルーツェがマスターのことも信頼しているのはこういうところだろう。


「そうですね、たまには待ってあげましょうかね」


「それはお優しい! ランドール殿も喜びなさるでしょうね」


 マスターは自分のことのように顔を綻ばせて喜ぶ。快はまた邪念が振り落とされるような感覚になる。しかし快の場合はその邪念に当たるものが多すぎるため、またまだ残っている。


 例えばその嗜虐性。


 もともと、快は血を見ることすらできなかった。血を見たり生き物の体の中の話をするだけで手足から力が抜けて動悸が激しくなる。優秀な頭脳から同級生には何度も医学部に進学するのか質問されたが、無理だと答えるのが彼の常だった。


 しかし、ある事件、前話でも触れた、をきっかけに彼は変わってしまった。手元にあるスマートフォンでは、国を越えて様々な動画を閲覧することができる。


 ある晩、特に訳もなくそういった暴力的な、人が死ぬ光景が収められた動画を見たくなったのだ。おすすめのサイトを探してそこに入り、初めてその手の動画を見た。


 そこには、いわゆるギャングに自動小銃で撃たれまくった人間の顔面や刃物に滅多刺しにされる男、電車に轢かれて上半身と下半身が別れた直後に蠢く人間っての動画が溢れていた。いわゆるスナッフフィルム。


 初めてこれを見たときの興奮は忘れられない。


 一日に数え切れないほど自分の目に収める、この世に溢れんばかりの数生息しているヒトが、この世界を支配しているヒトが、その尊厳を失われて恥を晒されている。


 気がついた時には快は毎晩そのサイトを閲覧しながら口元を緩めていた。


 この世界に来てからは当然そのサイトは見ることができない。しかしその分以上に快は三つの命を奪い、魅力的な光景を自ら作り出し、そしてこの目に焼き付けることができた。


 そんなことを思っていると、背後から光が差し込み一人の男がその身に纏った衣をはためかせて入ってきた。




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最終章の構想がヤバすぎて早く書きたい!(気が早い)

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