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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第2章 神の慈悲
40/93

19.快の火急火球修得

 





 2☆+256$(|72(<4*.3%2→9\4




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 エンリルの神子である二人、長田快とルーツェ=ランドールが邂逅し、エンリル派神子陣営の勢力数が二名に増えた日から数日。


 ウル神国シン都中層、ケースリット大学一棟七階の一室。長田快は最も深い夜の時間を机に向かって過ごしていた。


「よし、火花も火もマスターしたことだし、明日からは火球だなぁ」


 先ほどまで、やけに広い最高級スイートのような部屋の中で時折ボーッというガスバーナーを使用しているような音がしていた。


 それは果たして快が書き上げた魔法陣から出るものなのだが、その機能の高さは快が自己評価しているものよりも数段上の評価に値する。


 快としてはイアンナの魔法と比べてしまうのでどうしても評価が低くなってしまう。しかし彼自身も魔法陣のスペックだとこれが頭打ちだということは理解しており、きちんと一週間でやれるところまではやれたと考えている。


 そこで明日、週が変わるのに合わせて次のステップでありほとんどゴールのようなものである、火球の魔法陣の作成に移行しようと考えていた時。扉をノックする音が聞こえてきた。


「どうぞ」


「失礼します。快君、ようやく予定が決定しました」


 予定。わざわざこの白い肌を黒い洋服に包んだ美女が伝えに来るような予定。そんなものは一つに決まっている。


「プレート回収ですか?」


 快はつい先日ルーツェと話し合った時に見せたあの瞳を再び見せた。


「ええ。出発日はちょうど今から二週間後。日付が変わる頃に出発します。場所はあなた方がついこの間観光したマリナの街のはずれにある海蝕洞です」


 マリナの街。だからクローヴィスがあそこまで協力的だったのかと快はつい考えてしまう。


「へぇ……」


「移動は私の転移魔法で三人同時に飛びます」


「転移魔法ですか。となると、下見にはすでに行ったということですね」


 転移魔法とは、一度存在したことがある座標に一瞬で転移する魔法。そして、彼女の仕事の一つに下見というものがあった。


「そうです。三人方が楽しく過ごしている間に少し」


「あははは! もしかして馬車の下にでも張り付いていたんですか?」


 快がらしくない乾いた笑い声を出す。


「ふふ、その通りで」


「となると、帰りに僕たちが厄介に巻き込まれていたところも見られてたんですね」


 快は今度は声を小さくして、確認を取るように尋ねる。


「いえ、帰りは転移して帰りましたので。私も暇ではないんですよ?」


 快はーーーー。


「いいや、話を逸らすのも飽きたや。それで? 体を鍛えておけとでも言うんですか? まぁ、そのつもりですけど」


「いえ、ただ期待しているとクローヴィス様がおっしゃっておりました」


 ちょうど部屋の時計がガシャンと大きな音を立てて、日が変わりそして週が変わったことを告げた。




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 翌日から、快はひたすらに火球の魔法陣の修得に努めた。


 目を覚まし、朝食をとり、部屋にこもり机に向かう。昼食をとり、部屋にこもり机に向かう。夕食の前には日中にできたものの最高の出来のものをマジックジムまで持っていき試し撃ち。すぐに帰り夕食をとり、入浴を済ませて部屋にこもる。


 運動はマジックジムの行き帰りをスーパーパルクールするだけ。


 そんな日々を過ごして七日目。週の真ん中の日。この日もルーティーンに合わせて行動する。


「やあ。おはよう」


 朝すぐに済ませた朝風呂の余韻に、一日で最もといってもいいほどリラックスした快はあと半週で火球を仕上げ、さらに来週には火の魔法陣応用編もマスターしなくてはいけないというハードスケジュールを何とかなるだろうと楽観視しながら、タイラーゲート家、エンキ派奪取陣営の面々に挨拶をする。


「そう言えば俺はこっちの陣営にも所属してるっちゃしてるんだよな」


「なんだい?」


「いや、独り言だよ」


 怪訝な顔をしたエレシュの質問を一言で撃ち落とした快は、そのまま特に他の誰とも会話せず、自室へと向かっていった。


 残された三人はそれぞれの表情をしていた。満足感、疑心そして驚き。内二名はその時意思疎通をしていた。




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 部屋に戻った快は、早速魔法陣第一巻第三章、火球

 編の途中ページを開いた。


 火球編に取り組んで初日は、十時間程度かけて火球編の該当ページをひたすらに読んだ。


 章の最初に描かれている例の魔法陣を見た快は、最初言葉を失った。というのも、今までの二つとは比べ物にならない量の円が描かれていたからだ。まさに池に投げ入れたいくつもの砂利が生み出した波紋のように。


 その後その日はコツコツコツコツと読み進めていき、一通りの理論は押さえた。


 次の日からは演習だった。数学や物理と同じように。


 と言っても、二日目にマジックジムで試し撃ちした魔法陣はほんの少しの黒い煙を吐き出したのみにとどまり、クローヴィスから貰った火球の魔法陣のレベルの高さをようやく感じた。


 そんな快は、明らかに焦りを感じていた。焦っても成果など得られるはずもないのに。


 二日目と三日目はなんとも情けない気持ちになった。




 次の日、四日目。快は自分の親指を見つめていた。


「円…… はぁ、円にエンリルにエンキに、えんえんうるせぇなあ」


 快は自分の魔法陣の弱さの原因がわからないまま、ぼんやりと親指の指紋を眺めていた。しかし指紋を見ても何か上手くなるわけでもなく、ただ無為な時間を過ごすのみ。


 その後なんとかクローヴィスに貰った魔法陣と自分が今まで描いたものを見比べて、違う部分を出していく。のだが、その違いが魔法そのものの違いが存在していて、それによるものなのか、はたまた全く別のものによるものなのか全くわからない。


 とりあえずたくさん描こう。




 そんなこんなが続いて現在週も七日目。その間、快はあまり成長することが出来なかった。


 とはならなかった。快は自分のやり方が間違っていたことに気がついたのだ。それは、一日にマジックジムで試し撃ちする魔法陣を一枚だけにしていたということだ。


 それを、その日描いたものはすべて試すようにした。というのも、快は上手く作ることが出来ない自分の目を信じることの愚かさに気がついたのだ。


 まだまだ魔法陣入門者である快が、試す前から魔法陣に良し悪しをつけることは明らかにおかしい。快の目には止まらなかった重要な何かがあるかも知れないのにも関わらず、その可能性の芽を数え切れないほど摘む。


 それを愚か以外何の言葉で表せよう。


 そしてそれからと言うものの、日中かきあげたもの全てをマジックジムで試すようになり、そして夕食後はそのデータを分析して成功例の共通点を探しに出たのだ。元の世界の理系の研究そのものの手法だが。


 そして得られたものは、快が描いたものの中で高性能の魔法陣の共通点と出来損ないの共通点。円の距離、半径の長さ、中心を結んだ線の交わる角度などなど。


 したがって、今日という日は火球の第一段階としてひとまずの完成を目指している。


 午前中をいっぱいに使い、極上の出来に仕上げたそれは、昼食後しばらくの間快の部屋に置かれたままだった。




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 その日の午後快が何をしていたかというと、それはナイフ戦闘の練習だ。


 最近は魔法陣にかかりきりになってしまい、あまり触れていなかったナイフ。その握り心地は相変わらず気持ちの良いもので、その二本のナイフで奪った命のことを考えるとなんとも言えない快感が全身を駆け巡る。


 大学の中庭に出て学生たちに奇異の眼差しを送られることはすでに慣れており、むしろ最近ではいかに彼らに目にも留まらぬ早業を見せつけて驚かせてやろうかと考えている。


 ナイフ二本を取り出した快は、その構え方について考えている。今までの快は、剣のように持ち前に構えていたのだが、最近になって忍者の苦無のように持ち、脱力して構えるのも良いのではないかと考えている。


 しかし振っていると気がつくこともある。それはその持ち方だとどうしても力を加えにくく、さらにリーチが極端に短くなるということだ。


「やっぱ今までのでいこっか」


 その日中庭の木の内一本が、ボロボロの木屑になっているのが発見された。




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 その夕方。快はマジックジムで渾身の一枚を試した。するとーーーー


 ボアッと大きな音を出して、見たことのある大きさ。クローヴィスの魔法陣と同じ大きさの火球が放たれた。


「あっ! やったー! 第一段階突破ー!」


 快の火球は、さらなる強化に残り七日間で晒された。




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「ああ、よく寝たー!」


 昨日の火球の魔法陣の成功は彼の精神にとって非常に重要な役割を果たし、彼の目の周りを覆っていたくまは綺麗さっぱり消え去った。


 快のこの日から六日間の目標は、今までにない魔法陣の効果を上げる法則を発見し適用することだ。


 とは言っても、ここ数日はそのようなことをやっていた上、手元にあるクローヴィス魔法陣と快魔法陣の共通点、類似点、相違点をそれぞれ洗い出し少しずつ組み合わせを変えていけばどこかで山が出てくるはずだ。


 ということで、快はこの日も自室にこもった。ナイフも振りつつひたすら描く。そうして根気よく向上心を忘れずに机に向き合った結果。週末のマジックジムにて。


「ではこちらの部屋を一時間。どうぞ頑張ってください」


「ありがとうございます」


 受付を済ませた快は弾むように、というより弾みながら防魔法の魔法陣が施された壁に囲まれた広くて空虚な一室に足を入れる。


 そこではこの一週間、数え切れないほどの火球を生み出した。思い返してみれば最初は煙しか出なかった。それが心霊現象のような火の玉に成長し、その後も少しずつ少しずつその大きさを増していった。


 昨日は最後まで取っておいたチェック項目を試し、思い通りの結果を得ることが出来た。


 そして今日持ってきた魔法陣は三枚。


 一枚目は、昨日のチェックで威力の増強効果があるとのデータを出した部分を組み込んだもの。

 二枚目は、快が七日目に仕上げたもののところどころの結合部分に、増強効果の見込みがあるものを組み込んだもの。

 そして三枚目は、上のどちらも組み込んだもの。


 こういったものは、欲張って組み込みすぎると逆に消費魔力がだとかその他諸々の別問題が出てくるものなのだ。なので分割して三枚持ってきた。早速快は試す。


 一枚目。

 ゴゴォッ!

「おおぉ!」


 やはりデータを取り続けるというのは非常に有効だ。この魔法陣は過去最高の威力を発揮しており、さすがに火魔法が得意なタイラーゲート家の天才であるイアンナの魔法には及ばないが、大迫力だ。満足満足。


 二枚目。

 ブォッ!

「……うーん」


 自分の努力に執着しすぎるのは実に愚かだとだけ言っておこう。


 三枚目。

 ドドドドォッ!

「ウオォー! なんじゃこりゃ!」


 快の目の前に現れた火球は、彼が異世界に転移してからすぐにここで見せてもらったイアンナの魔法と全く同程度だった。


「これはキタァッ! よっしゃァッ!!」


 その巨大な火球は周囲の空気まで焼き尽くすのではないかと思われるほどの高温で、快の頬はチリチリと焼けるような感覚におちいる。


 壁に当たったそれは他の火球と同様に消滅する。しかしその過程に明らかな差がある。


 今までのものは、壁に当たると当たった部分がそのまま無くなっていた。それに対してこの最高傑作は、壁に当たるとその大きさは小さくなるのだが、当たった部分が渦を巻いて広がるのだ。


「……壁の無効化を上回る威力ってことか?」


 とにかく、今までの比にならない。


 快は新しいおもちゃを買ってもらった子どものように、急ぎ足で家、もといケースリット大学に帰った。


 その日の晩、さすがに落ち着いた興奮をさらに抑えて机に向かった快がたてた一つの仮説。


「魔法陣はインクそのものに魔力が込められているため、インクを増やして最適な紋様を描くことができれば従来の頭打ちを打破できる」




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