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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第2章 神の慈悲
36/93

15.プレート

 



 クローヴィスとニンガルに、プレート回収の同行の許可を与えられた快は、少年のように、元から彼は少年だが、目を輝かせる。


「ありがとうございます!」


「しかし、快君、プレートは迷路のような遺跡の中で守護精霊に守られているんだ。君の身は危険にさらされることになる」


 だがクローヴィスも大人だ。よく見る親子のやりとりのようにクローヴィスが快に注意する。


「ええ、分かってます。覚悟もしています。……しかし覚悟だけだと不安なので二枚を回収したときのお話を聞かせてくれません?」


 快のその発言は全く文脈に即しておらず、不自然極まりない上にかなり身勝手というか、自分のことしか考えていないような、そんな発言だったのだが、クローヴィスは口を開いた。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




 異世界人、長田快が突如としてケースリット大学大図書館に転移するおよそ十七年前。


 ケースリット大学を首席で卒業し、校長の座を譲られたばかりのクローヴィス=タイラーゲートと、大学は実質的な中退をしながらも個人でDNAの構造と種族を超えた特徴の関係性を見出し、国からも一目置かれたクルラ=ローズは幸せな新婚生活を送っていた。


 二人とも校長、国属研究者としての重大な役割を果たしながら充実した生活を送っていた。そんな中、


「クルラ」

「あなた」


 夕飯後、特に彼らにとっては一日の中でもかなり貴重なリラックスすることができる時間帯。二人の互いを呼ぶ声は重なった。


「いいわ、お先にどうぞ」


 クルラが先に発言する権利をクローヴィスに譲る。


「ああ、ありがとう。実はいろいろな資料を見ていると気になる場所が出てきてね。そこに行きたいと思うんだ。どれだけかかるかわからないから君には心配をかけるかもしれないけれど」


 クローヴィスがつい先ほど快が見せたような期待に目を輝かせた顔で妻であるクルラの顔を見る。しかしその目に映ったのはクローヴィスを送り出す笑顔ではなく、少し困惑した顔だった。


「あ……そう、なの。分かったわ。無理はしないで下さいね?」


 クローヴィスは不審に思ったが、あえてそれを表情には出さずに自然体でいた。


「……ああ。それで? クルラが伝えたかった要件はなんだい?」


「いえ、いいわ。あなたの集中力を削いでしまうかもしれないし」


 なんだろう。


 しかしクローヴィスはこうなったらクルラは絶対に口を割らないことを知っていたのでそれ以上の追求はしなかった。


 結局答えは、クローヴィスがその要件を済ませて家に帰ってきた時にクルラに抱きかかえられていたのですぐに分かったが。


 それから数週間後。クローヴィスはその気になる場所とやらの最寄りの町の宿で、作戦を練っていた。


 まず気になる場所とは、当然ながら遺跡だ。数々の資料の中で、多くの歴史的なものは記述にズレが生じる。それに対して遺跡だけは何一つズレなく記述されている。


 何かしらの明確な理由があるわけではないが、そういった怪しいところを突いていくのが研究者というものだ。それは彼がクルラの姿勢から学んだことだ。


 そしてその宿の部屋には、クローヴィス以外の人物がいた。それこそ、現在ではクローヴィスの右腕であり超人的な能力を駆使しているニンガルだ。


 当時五歳の少女、いや幼女だったニンガルはある日、いつも通り母親に抱かれて寝た。


 すると起きて目の前に広がったのは暗くて狭い路地裏だった。当時の彼女にとってその光景はあまりにも恐ろしいもので、すぐに気を失ってしまった。


 そして次に目を覚ますと、今度は魔法を使えるようになっていた。早くこの空間から逃げ出したい。その一心で彼女は陽魔法と転移魔法を使って使って使いまくった。


 その結果表通りに出ることができた彼女は、しかし疲労で倒れかけ、そこをクローヴィスが保護したのだ。


 クローヴィスは最初、単に善意で彼女を保護した。しかし蓋を開けてみるとその幼女は人外級の俊敏な動きができた。体も小さく賢い、そして何よりもクローヴィスに従順な彼女はクローヴィスにとって最高の助っ人だった。


 幼女を危険に巻き込むのは倫理的に問題があるかもしれない。実際今のクローヴィスなら幼女ニンガルは置いていくだろう。しかし当時の彼はまだ若く、ハングリー精神に満ち溢れていたのだ。


 そうして二人で入った遺跡は洞窟のような作りだった。陸上ではあまり見ないような、蜘蛛や人間のなり損ないのような魔獣に囲まれることもあったが、ニンガルに翻弄させクローヴィスが一気に焼き払う。


 それだけで洞窟の最深部に行くことができた。


 しかしそこにいたのは、以前父親が客人として招いていた人物だった。そう、ウル・ディーメアの一人だ。


 ひんやりと冷たい空気に満たされたその空間の奥には、台座とその上をふわふわと浮いている石版がその圧倒的な存在感を撒き散らしていた。


 そしてそれを背後に、プレートと比較しても感じることができる存在であるウル・ディーメアの一人はその身を包む高貴な衣で身体を隠すような仕草をし、二人に口を開いた。


「何故ここへ? あなた方の目的は何でしょう。もしあなた方が我が主のおっしゃる相反の徒ならば私はあなた方を攻撃しなければなりません」


「私の目的はこの遺跡の謎を解くこと、それだけだ」


 ウル・ディーメアはそれを聞くと満足げに頷き、


「ならば、相反の卵ですね」


 突然にその手を前に突き出した。


 そこから始まる熾烈な戦い。ウル・ディーメアが放つ、魔法とは一味違う異能。駆け回るニンガル。焼き、融かし、焦がすクローヴィス。





 そして、クローヴィスはその右腿を抉られたものの、その他の被害を出すことなくウル・ディーメアを撃破。


 そうして手に入れたものが、一枚目のプレートだ。これを手に入れた日からクローヴィスはプレートの回収

 に興味を持つようになった。詳しい理由は前に述べた通り。


 クルラの力も借り、プレートが十三枚存在することやそれぞれの遺跡についての情報を収集した。


 その後エレシュの迎え入れとクルラとの死別を経て十年後。クローヴィスは二枚目のプレートの回収に赴いた。直前に親バカ抜きで優秀なイアンナに問い詰められ、彼女だけにはプレートについて少しだけ話したが当時十歳の彼女がそれを理解できたかは分からなかった。


 そうしてさらに長い年月が経ち、長田快が登場した。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




「へぇ! お二人の関係ってそんなに昔からなんですか!」


 関係ない部分にリアクションして場を白けさせる快。しかし、実際本音を言えばよくあるダンジョン系の話だったので途中から興味は薄れたのだ。


「でも魔法陣が敷き詰められてないならクリア不可能ってわけじゃなさそうですね」


 コール戦を思い出してそう呟く快。


「ああ、その通りだ。プレートをウル・ディーメアが守っているということと彼らが人間ではないということには驚きを隠せなかったが、彼らに守らせているからそういった罠がないのだろう」


「彼らの戦闘力はそこまで高くはありませんが、二人目は一人目よりも気持ち強かった気もします。彼らがプレートを奪われるほど残りに力が流れると仮定すると、プレート二枚は第三者に回収されてしまっているらしいので、次に戦う相手はさらに強くなっている、なんて可能性も考えられます」


 その後も三人で推測と覚悟を固め、結局回収は少し後

 にしようと決め、その場はお開きになった。


 自室に戻る途中、快は後ろから聞こえるニンガルのものと思しき足音を耳に心地よく感じながら、プレート回収作戦のことで妄想を膨らせるのであった。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




 場所はシン都の影である路地裏のさらにその奥にあるスラム街。そこでは一人の男がもてはやされていた。


 彼はスラム街を我が物顔で歩き、犯罪行為をためらうことなく行なっていた集団を一掃した。手に傷は負ったものの包帯を巻いたその手は着実に回復している。


 スラム街に住む人々は、そんなチンピラを消してくれた黒髪の男、年齢を判断することができないほど全身と顔面を漆黒で覆った男に対して最高の感謝を覚え、そしてそれをモノで伝えようとした。


「そっち持ったかー? 行くぞー、せぇーのっ!」


 多くの男たちが木と石を並べて、組み立てて、形作っているもの、それは建物だ。


 チンピラが集合場所として使っていた空き地はまるっとその黒髪の手元に入り、彼の頼みで周囲の住民が一日二、三時間の仕事が入っていない時間を返上して建物を建てている。


 普通なら考えられない状況だが、それだけ黒髪が成したことも普通ではなかったのだ。


 黒髪はせっせと働くスラムの住民の一人に声をかけた。


「……おい、少し来い」


「ハッ、ハイ!」


 背後から突然現れ、声をかけてきた黒髪に大工は情けない裏声をあげる。黒髪はそのまま空き地から少し離れた人の少ないところへ移動したので、大工もそれについていく。


 そして振り返った黒髪は突然大工と位置を交換し壁に押し付け、耳元で囁いた。


「お前一人で地下室を作れ。仕事には行くな。誰にも言うな。お前一人で、誰にも知られることなく、そして早急にあの建物に地下室を作るんだ。できなければここ周辺半径百メートル以内で息をするのを俺とネズミどもだけにしてやる」


 大工は顔を泣きそうに歪めながらも何度も何度も首を縦に振り、黒髪に放されるとダッシュで仕事に戻り、建物の方をチラチラと眺めた。





 その日から昼間の皆が仕事に出ている時間帯に、一人だけ建設途中の建物の中で何かをするようになった。




 >

読んでくださった人の中に、あれ設定違くない?って思った人いると思います。


違くないです!よく気づいてくださいました!


ミスじゃないですよ!


それ以上は言えません。


あと今回字数少なくて申し訳ないです。

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