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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第2章 神の慈悲
35/93

14.クローヴィスと愛すべき、

先に言っておきます。

いつかに同じ構成で書いたのでデジャブ感があるかもしれませんが内容はかなり違います。

 



 マリナの街から帰還した快たちは、翌日からは普段通りの生活に戻った。


 イアンナとエレシュはケースリットで講義を受けたり自ら研究に参加したり。

 快は魔法陣について学んだりナイフを振ったり。


 変わったことと言えば、イアンナとエレシュが快に対して『ほんの少し』冷たくなったことと、魔法陣の勉強が進み、出力の目標が火花から火に進んだ事だ。


 前者は、二日間かけて二人に弁明したことで解決した。


 議題は『何故商人の腕を認識したにも関わらず切り落としたのか』と、『何故エレシュに汚い手を使って頭の中を覗かれることを拒んだのか』の二つ。


 議題一。快は隊列を組まれたため、そうしなければ商人と自分の身を守ることができないと判断したと弁明。それに対して質問者は、快が猪が弱かったと発言したことを掘り返した。


 相手が弱かったなら他の手もあったのではないかと責められる快。しかし快は、負けないこととその場にいる他人を守ることの難易度は大幅に変わると弁明。結局質問者の個人的な感情も影響し、無事解決。


 打って変わって議題二。弁明を求められた快は早々に口ごもった。一日目の半分と二日目いっぱいを使って彼の口から紡がれた言葉は恥ずかしいような内容で、結局三人とも赤面してしまった。


 イアンナとエレシュは深追いする気をなくしてしまい、快は流れで許されることとなった。ということで一件落着。


 後者、魔法陣で出せるものを火花から火にレベルアップさせようウィークに関しては、今まで通りここでまとめて一週間分述べようと思う。




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 まず魔法陣には、すべての魔法陣に共通する外殻が存在する。そこの中に各魔法に対応する文様が組み込まれ、さらに中心にはその魔法が拡散する次元、例えば二次元的に広がり盾の役割を果たしたり、三次元的に広がり敵を包み込むように攻撃したり、を決定する文様が刻まれている。


 快が『火花』だとか『火』だとか言っているものは、外殻の次に描かれるものだ。特に火の魔法陣は円をその要素として取り入れている。


 先週取り組んでいた火花の魔法陣では、円を三つ重ね合わせるような形の文様だった。


 それに対して火はいきなりレベルが上がる。そもそも火と言ってもアルコールランプほどの火しか燈らない。


 だのに重ね合わせる円はそれぞれ大きさを変え、円同士の距離もキッカリ決められている。さらにその数は十八個前後。


 この世界の住人なら、何度も何度も描くことでその距離感、サイズ感を覚える。この世界の住人なら。


 そう、快が生まれ育った世界の住人ならそのようなことはしないだろう。


 円には中心がある。座標の概念を導入すれば式で表すことができる。そして様々な『公式』たるものが存在する。異世界に転移してこの魔法陣に出会えば、少なくとも理系人ならそれを解析して式で表すだろう。


 快もその一人だ。クローヴィスに鉛筆のようなものはこの世界に存在するか尋ねると、いわゆるフリクションならあるかと思われる返答があった。


 そこでリュークの店、快が二度お世話になり万年筆と魔法陣用のインクを購入した店で、そのフリクションインクと一番安い羽ペンを購入した。


 店主と思しきおばあさんにはすでに顔を覚えられており、「勤勉だねぇ」と言われた。いや、リュークは男性名だから彼女は店主の奥さんだろうか。


 さておき、快はそのフリクションインクを用いて、図書館から借りている魔法陣シリーズである彼の教材に座標軸をとり、そこから感覚的にではなく理論的に理解を深めた。もちろんあとでインクは消した。


 と、これが快が火の魔法陣第二段階『火』の章を一週間でクリアした方法だ。ちなみに自分の手で書き上げた魔法陣で一度お試しをしてみたものの、当然のごとく物足りないものがへろへろと出てきただけだった。


 では、時系列を週の三日目に戻そう。




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 ようやくイアンナとエレシュとの関係を元どおりに戻せた、と少なくとも快が感じた日の翌朝。


 快は久し振りに窓から差し込む、青くて黄色い朝日で目を覚ました。というのもここ二日間は二人に対する罪悪感と、自分の何かが失われてしまうのではないかという不安で、朝に日が昇る前に目が覚めてしまっていたのだ。


 自分の目が朝日で覚めたことから、三人の関係が元どおりのなったのだと確信し、一人胸を弾ませる快。朝日で起きたのは彼の中で解決したからであって根本的な解決とは無関係だと気付かないあたり、彼も未熟だ。


 どちらにせよ、この日はこの日でまた別の心配事がつい先ほどできたのだが。


 それはさておき、いつかに二人と賭けをして、正式に手に入れた朝風呂に行く権利を行使すべく、着替えとタオルを抱えて風呂場へ向かう。


 そこでは相変わらず多くの湯船が新しいお湯や水を張っており、さながら高級温泉旅館のような光景だ。


「でもメイドの人はご飯を運ぶあの人しか見たことないんだけど…… どうしてるんだろう?」


 そんなことを呟きながら炭酸風呂に浸かる。炭酸風呂は、何というか、不純物が皮膚から溶け出しているようなそんな錯覚を覚える。


 三十分でも浸かっていたいという欲望を全力で押さえつけて、一分で上がる。そのあとは慣れた手つきで流れるようにシャツ、ズボン、ベストで身を包んでいく。


 そうして彼なりに早く動く。これが彼が賭けに勝ちながらも二人の意見に耳を傾けて決めた妥協だ。毎回クローヴィスと同時くらいにタイラーゲート食堂、大学の食堂であるケースリット食堂と区別するためそう名付けた、に入っている。


 そして例のメイドが食事を運び、四人で朝食を食べる。そんな普通で幸せな日々は何よりもかけがえのないものであり、特にこの世界では巨万の富を築いて初めて得られる。否、得られないかもしれない。


 そんな日々を送っている快は幸せ者以外の言葉で表すことはできない。特に、普通異世界転移の先に待つのは多くの艱難辛苦だというのがお約束だ。


 しかし、どうしたものか果たして今の快は刺激不足を懸念している。昨日まで軽い修羅場にいたことも頭の片隅に追いやり、次の障害を求める自分がいることを大いに認めている。


 もちろんこの幸せな時間も大切だから、しばらくしてからでもいいが。そんなまるで人生をゲームのように考えている快は、早速行動に移した。


「んぐんぐ…… クローヴィスさん、あとでお話し付き合ってください」


「ああ、付き合ってあげよう」


 少ししてーー


「僕もプレート回収のお手伝いしたいなと思い始めているので、もう少しプレートについてお話ししましょう」


 そう、プレートについてだ。




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「ほう、しかし私が知っていることの大半はすでに話してしまっているよ」


 クローヴィスは朝食の席で見せる『優秀で優しくて娘思いの父親』の顔から『優秀で貪欲で正解に執着する男』の顔に、文字にすると悪役のようだが簡単に言えば一目見て頭いい奴だと分かる顔になって、快にそう投げた。


 しかし快としてもその返答は容易に想定できたもので、全く怯まない。


「ええ、そうでしょうね。僕に何かを隠すメリットなど、どこにもないでしょうから。なのでいくつか僕が独自に仕入れた情報とのすり合わせのような作業に付き合ってもらいます。

 まず一つ目、プレートを集めると何が起こりますか。

 二つ目、どなたの指示ですか。

 そして最後、僕に協力させていただくことはできますか」


「なんだかアグレッシブだね、どうかしたのか?」


 固い口調に眉をひそめるクローヴィス。快はいいえ、と軽く返事をするのみ。


 それもそのはずだ。快が今朝ぶち当たった心配事というのが、これに関わっているからだ。


 昨晩落ち着いた夜を迎え、快が引き摺り込まれた世界には、例の黒髪黒瞳で、威厳というもので何重にもコーティングでもされているのかとツッコミたくなるような老人がいたのだ。


 彼は以前のような長話はせず、ただ一言『プレートを回収せよ、さもなくば貴様は絶対に帰ることができない』と。


 目覚めはスッキリしていた。それは間違いない。しかし炭酸風呂に入っていた一分間、彼の頭はずっとプレートについて考えていた。


 クローヴィスが聞いた念話のようなものの内容を信じるならば、プレートが揃えば世界はより良くなる。


 エンリルの言葉を信じると、クローヴィスを通してエンキの手に渡ればエンキの独裁が始まる。


 ウル・ディーメアが守り抜けば彼らによる、民意である大統領の傀儡化が続く。


 エンリルが神子、お告げをするわけではないのだが、を通して揃えればエンリルとその他の神々、『代表』による古来から続いていた最も国を発展させることができる体制が復活する。また、快は元の世界に帰ることができる。


 結局快が出した結論は『とりあえず集めて自分で決める』なのだが、情報収集は欠かすことができない。


 ということで、端的に言えば精神的に軽く詰んでいるのだ。状況的に今の快が正しい判断を下すことができる可能性は限りなく低い。


 というのが、先ほどの快の発言が固かった理由であり、朝食中に万が一エレシュに覗かれた時に困らないようにと隠していた本心である。


「まあいい、プレートを集めると何が起こるかなんてことはこの前に言った世界がより良くなるとしか。それからプレートの指示。それでもって君に手伝わせるかどうか、これはね、今すぐには決められないよ」


 ある程度は予測していた通りの返答だ。しかし快は、とりあえず集める。これだけは譲れない。


「僕の予想ですけど、今までの二枚はクローヴィスさんとニンガルさんで行ったんですよね? なら僕とイアンナとエレシュも連れてけば楽になりませんか?」


 そう言った直後、快は己の発言がどれほど不適切なものだったのか悟った。


「……愛する娘と姪を危険な遺跡に連れて行くことを提案したと、自覚しているのか?」


 クローヴィスがその髪と瞳のように燃え上がったと錯覚するような空気が存分に放出される。


 しかし、引けない。引けない。引いてはいけない。まだまだ青い今の快は多分に冷静さを欠いている。自分の判断を過信している。しかし、それでも彼の引けないという思いだけは本物だ。それが彼を後押しする。


「ええ、あなたは二人の力量をご存知ですか? 二人の能力はこの国でも最上位に入るのではないですか? ご存知なら、二人を認めるということもーーーー」


「ああ、二人の魔法は国内トップレベルだ。私が教育したのだから当然だろう。しかしそれと実戦は全く別だ。魔獣のような奴らに勝ったからといって図に乗りすぎだ」


「……」


 言い返す言葉もない。全く彼が正しい。


 だめだ、方針を変えねば。そもそも今論点になりかけているのはイアンナとエレシュの同行だ。しかし快が二人の同行を提案したのは自分が同行することを正当化するため。『子供達』というくくりで行けばエンリルやら何やらの複雑な事情を隠せると考えてのことだ。


 ならば別の方法で正当化すれば良い。なんだ、簡単な問題だ。


「なら、僕だけでもお願いします」


「ちょっと待て、初めから気になっていたのだがどうしてそこまでプレートの回収に興味を示すんだ?」


 来た、それでいい。俺は嘘をつかない。


「夢で正体不明の人物に、プレートを集めなければ帰れないと言われたからです」


 クローヴィスはこの答えを想定していたのか、眉一つあげることなくその言葉を受け止める。そして、


「だそうだ、ニンガル。彼の以前の活躍を考慮しても彼は十分戦力になる。私は賛成だが、君はどうだ」


「私の身としてはクローヴィス様の考えに反対するつもりはありませんが、それを以っても余りある同意と賛成を言挙げします」


 瞬きの間に現れた漆黒の影、もとい久しぶりの登場ニンガルが優美に立ち腰を曲げ、そう答えた。




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