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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第2章 神の慈悲
29/93

8.未完の絆は寧ろその完成を迎えんがためにその存在を拡大する

ラノベ調のタイトルにしようとしたのですが冴えませんね。

 



 快がエンリルと精神世界で対話した日からおよそ十日。この日は待ちに待った休日。


 なぜこの日が待ちに待った日であるのか、それを説明するには五日ほど遡る。




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 快があの精神世界で抱いたエンリルに対する一種の尊敬や信頼の気持ちは、エンリルの言葉を信じるのであればあの場での最初の発言が原因となる。


 そして快はそれは憎いことにいつまでも、永久的に続くものだと考えていた。


 しかし驚くことに、そして喜ばしいことにあの日から数日後には再びエンリルへの疑いの念が胸中を駆け巡るようになった。


 もちろん、影響は残っておりエンリルの言葉にもいくつかは信頼できるものがあるとは考えている。


 歴史は勝者が描くものであり、この場合勝者とはエンキである。


 わざわざ歴史を変えるという大仕事を面倒臭がりだと評される人物がやったのだ。


 となるとその人物も全く信用に値しない。そんな人物の言葉を鵜呑みにするクローヴィス。


 繋がりが見えにくいが、つまり何が言いたいかというと、快からすると自分の目と脳しか信じないという方向で行くのが唯一の手なのだ。この誰を信じればいいのか分からない世界では。


 といっても元の世界でも快はそんなことばかり考えていたので大して変わらないのだが。


 そしてその快が考えて出した結論。それはタイラーゲートの四人、クローヴィス、イアンナ、エレシュそしてニンガルとの関係は今後さらに友好的に。というものだ。


 誰も信用できないのなら、不安の種、ここではプレートであるが、を自らの近くに集めてから判断を下す。


 そのためには自分に足りないもの、つまり情報と人と力を共有『させる』ことが必要だ。彼らを利用するのだ。


 というのは快の格好つけたい部分の言い訳だ。


 異世界に転移していろいろしてくれた人たちに囲まれ満足感を得ないはずがない。もっと彼らと一緒に過ごしたいというのが本音である。


 ということで、タイラーゲートに取り入るため、もとい彼らと楽しい時間を過ごしたいがために休日に外出を提案したのだ。




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「皆さん、えー本日はとある提案をしたいと思います」


 夕飯の席、ニンガルの姿は見えないがおそらく監視しているだろうし、ほかの三人は言うまでもなく顔を揃えている。そんな中での提案だ。


「ほう、聞こうじゃないか。エレシュも何かを『察して』ニヤニヤしていることだし」


「先生! ボクは何もしてませんよ!」


 エレシュが何やら赤面しているのだが、おそらく快の提案を先読みしたのだろう。快は言いたいことがないでもなかったが続けた。


「はい、僕がこの世界に来てから少し経って、だんだん慣れてきたんですけどそういえば休日に休日らしいことしてないなーって思いまして。なのでこの世界でまだ見ていない海に行きたいなと」


 快が三人の顔を見回すと、皆が笑顔で賛成してくれた。

 とはならなかった。エレシュは相変わらずニヤニヤしていたのだが、そこにもどこか憐れみと言うか、複雑なものがあった。


 タイラーゲート親子に限ってはあからさまに苦い顔をしていた。


「えーと、ここは割と内陸部だから海まで行くのは少々手間が……」


「そうだねぇ、海に行くとなると馬車を出さないといけないからなぁ」


「ふふ、まあボクは行ってもいいと思うけどね。彼だってがんばっているようだし」


 多数決だと二対二。想像以上に簡単ではないのか、この交渉は。


 と、ここで助っ人が登場した。


『快、ボクだ。あんまり長い間黙り込んでいても怪しまれるから手短に済ませる』


 エレシュの方をちらりと見ると、彼女はお冷を何気ない表情で注ぎ足している。さすがプロだ。


『まずとりあえず先生は休日もかなり忙しいから無理して来なくてもいいと言え。二人のことは自分が守るとでも言ってだ。それから馬車のことはボクがなんとかする。ちょうどいいタイミングで出るから、頑張れ』


 エレシュとは異世界に来てから一番長く一緒に過ごしたのだ。そんな二人の連携はエレシュの人をよく見ることができるという特性も相まってなかなかのものだ。実際目の前の親子は今のやりとりには気づいていない。


「ごほんごほん、えーと、先ほどの続きですが。クローヴィスさんはもしかしたら立場上忙しいかもしれませんね。なので無理して来なくてもいいです」


 三人からの視線が集まる。


「もちろん娘さんの心配はするでしょうがそこは僕が命をかけて守りますので! すでに僕はいろいろ持っていますしね。それから馬車についてなんですがーー」


「馬車に関してはボクが手配します。彼だけでなくボクたちもここ最近大学にこもりっぱなしだったのでたまには広大な海を眺めてーー」


「ははは、わかったわかった」


 クローヴィスがエレシュの言葉を遮り、笑いながら言った。


「わかったよ、そんなに二人してお願いされたら断るわけにはいかないじゃないか。馬車は私が手配しよう。しかし私は快君が言った通り忙しい。だから安心して三人で行っておいで」


 ーーや、やばい。この人聖人だ。もういいや、エンキ側に付こうかな。


 部屋を出るときにエレシュが下手くそだったねと笑いかけてきたのはまた別の話だ。




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 ということで、この日は快、イアンナ、エレシュの三人で一番近い海岸へ行くことになっている。


 ここで軽く世界の地理について説明しておこう。


 この世界は超巨大な大陸が一つとそこからかなり離れた孤島に分けられる。


 大陸には、ウル神国、キール共和国そしてグラトゥル帝国の三国がある。


 今快がいるウル神国は大陸の中央部から南西部にかけてを支配しており、最大国である。


 キール共和国は北部をちょこんと支配しているような形である。詳しくは今は述べない。


 グラトゥル帝国は南東部を中心に支配している。というのは、この大陸にも昔はこの三国以外の国もあったのだが帝国がどんどん併合していったため飛び地がそこら中にあるのだ。


 ウル神国に近づくと流石に怖気付き、今のこの形で均衡が保たれているのだが。


 そして孤島、ゲネース島は都市伝説的な島でもある。


 賢者がただ一人で住まう島であると。


 他国のことはさておき、シン都の位置。それはちょうど国の中心なのだ。


 普通、都市部は貿易やら海運やらで海沿いにできるものなのだが、昔の代表がそう決めたので仕方がない。実際、陸運は安全性や利便性において驚くほど高水準で、首都の位置のせいで経済に悪影響が出ていることはない。


 ちなみに快たちはこの後真っ直ぐ南下して、マリナの街へ行くことになっているらしい。


『街』の字を使うことからも伺えるように、この街はかなり発展しているらしく、その美しい眺めを活かした観光業に力を入れているらしい。


 この日はいつもより一時間ほど早く朝の支度を済ませ、大学を出ることになった。


「行ってきまーす」

「お父様、行ってまいります」

「先生、今日のために色々とありがとうございました」


 三者三様な挨拶を浴びたクローヴィスは満足げに微笑みながら子供達を見送った。


 馬車は大学を出て少し坂を下ったところに停められているらしいのでそこへ向かって歩くのだが、その間装備の確認を快たっての希望で行った。


「じゃあまず俺、と言ってもクローヴィスさんに二人を守るなんて言っちゃったもんだからね。持ってきたのはナイフ二本と各魔法陣くらいかなぁ。ああ! あと何か気になるものがあったらそれを持ち帰れるような小瓶も持ってきた」


 と、かなりテンションが上がっている快の説明を聞いたイアンナとエレシュはというと、


「なんだいその背負っているものは。そんなものに荷物を入れて、大きすぎないかい?」


 快が元の世界から背負い続けているリュックサックに釘付けだった。


 そう言われて見るとイアンナとエレシュは二人とも手ぶらだ。この世界には四次元ポケットでも存在するのか。


 そう思いじゃあ二人はと質問してみると、驚くべき答えが返ってきた。


「この、物の大きさと重さを無視して入れられる筒に入れてるんですよ。まあ、この世界でもかなり高価なものですがここら辺に住んでいる人なら全員持っているでしょうね」


 なんと、『四次元チューブ』だ。しかもシン都に住む人々は全員持っているとは。


 快が口をあんぐりと開けていると、イアンナが実演してくれた。


 丸いカラフルなチョコレートが入っていそうなサイズの筒の口を空中に向け、軽くギュッと握ると、中からは財布が出てきた。


 ポンっという音が似合う飛び出し方をした財布はイアンナの手に収まった。


「おお! すごいな!」


 まさか自分の目の前でこんなことが起こるだなんて一分前でも想像できていなかった快からするとまさに驚きだ。


「じゃあついでに何を持ってきたのかも紹介しますね」


 そう言うとイアンナは財布を筒に吸い込ませ、筒から水筒三つ、サンドイッチの入ったバスケット、雨具などなど、最後には馬車の予備の車輪を取り出してみせた。


「ええーと、イアンナ? ボクにはどうして君がそんなに色々と持ってきているのかわからないんだけど」


 快も頷いて同感であることを示す。


「っ! いいんです! どうせ重くもなんともないなら持って行った方が絶対にいいじゃない!」


 イアンナが赤面して言い訳しながらスタスタ歩いた先には、果たしてもう馬車があった。




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 タイラーゲート家は大学に住んでいるため、貴族という感覚が皆無だが彼らは立派な貴族だ。


 昔からタイラーゲート家の役割は国の学問の牽引だ。


 したがって国から下りてくるお金は大半が研究関係に消えてしまうのだが、それでもありあまる財産がある。


 ということで馬車もそれ相応な拵えをされているのだろうと、そう思っていた。

 しかし目の前にあるものはなんだ。

 商人か配達人の馬車を間違えて引いてきてしまったのではないか?


 そう思うほどのシンプルな馬車に危うく文句を言いそうになってしまったが、イアンナが貴族の一人娘らしく御者に挨拶をしたので何とか持ちこたえた。


「本日はどうもありがとう。マリナの街へ行くということでわざわざその庶民用の馬車を用意するなんて骨が折れたでしょうに。父からはきちんと手当をもらってます?」


「もちろんですイアンナ様。私はあなた方の足を用意するために働いておりますゆえ、私は誠意を持って、そしてクローヴィス様には寛大そして畏れ多いほどの配慮をしていただいております」


 ーーおお! なんだこの人! 聞いた限りだとタイラーゲート家専属の御者さんか、こいつら貴族だし。確かに馬も毛色自体は灰色だけどなんかツヤツヤしてるし。観光地に行くから貴族丸出しの馬車じゃ行かないのか。


「それでは皆様、お乗りください」


 イアンナが先頭をリーダーとして、その次を快が足取り軽やかに、そして最後にエレシュが満足げに微笑をたたえながら馬車に乗り込んだ。


 快が、初めてシン都を出る。




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