4.自己分析
数話の間、物語中の時間があまり進みませんがお許しください。
快が魔法陣第一巻で勉強をしていた約一週間、つまり約十三日間で彼はただペンを握ることしかしていなかったわけではない。
クローヴィスやニンガルが気がかりにしていた部分を快だけが気にせず呑気に暮らしていた、なんてことはあり得なかった。
そう、快自身もまた騒動での自分の行動を振り返り胸焼けのような感覚を覚えていた。
快は元の世界にいた時から、時折ああいった残虐性を見せた。そしてそれは自覚していた。
しかし、動物虐待などはしていなかったのだ。他人を痛めつけることなどもってのほかだった。なんとなくの無力感や脱力感を感じるとパソコンやスマートフォンで過激な画像や動画を閲覧する程度。
確かにそれらを見て一種の快感は感じていたのだろう。
しかし、だからといってそれは今回のように自らの手で他人を傷つけ、さらにはそれをおもちゃのように扱ったということに直接的な関係は無いようにも思われる。言い方を変えると、少し方向性が違うのだ。というより方向性を調整しているのだ。それが理性というものではあるのだが。
しかしそこまで辿り着いて快は気づいた。ということはあの時の自分は理性のない獣だったのではないかと。
そういえば転移してすぐの時も鼠に対して割と普通ではない行動を取っていたような気もする。思い返してみると、過去にも自分の一種の狂気のカケラのようなものが見えてきた気がした。
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よし、きょうはなにしてあそぼっかな!
小がっこうもなれてきて、ともだちはまだあんまできてないけど、まいっか。
そうだ! もうのらなくなったハコみたいなクルマののりものおとしたらどうなるかな⁉︎ やっぱこわれちゃうのかな⁉︎ きょうのあそびけってい!
えっと、このアパートは五かいだてだからいちばんうえまでもってっておとしたらおもしろいだろうなぁ、そうしようっと!
ベランダからもって行こうとしたらおかあさんにとめられた。
「今更そんなもので遊ぶの?」
「まあね」
おかあさんはへんなかおしてたけどもうなにもきいてこなかった。セーフ!
五かいまでこれをもって上がるのはたいへんだな。
「よいしょ、ふんしょ、よいしょ、ふんしょ…………ついた!」
ちょうどま下にはアパートにくっついてる公えんになってるからそこにおとそ!
「よっと、そりゃっ!」
やった! おとせた!
こわれろこわれろこわれろこわれろこわれろこわれろこわれろこわれろこわれろこわれろこわれろっ!
こんなにおねがいしたのにこわれなかったや。なんだ、つまんないの。じゃあこれからどうしよう。あーあ。
あ! 中にすなをつめたらこわれるかな⁉︎ やってみよう!
下におりてかくにんしてもやっぱりこわれてなかったや。でもこんどこそ! ここにはすなばもあるからそこからすなをたくさんもらってもっかいだ!
でもこれでかいだんのぼるのたいへんだなぁ。ん? エレベーターつかえばいいのか。なんでさっきつかわなかったんだろ。
エレベーターでラクチンしちゃった! よし、こんどこそこわしてやる!
「おもっ! よーいしょっと!」
おちてる! これならちゃんとこわれてくれるでしょ!
でも、やっぱりダメだった。なんでこわれてくれないのかなぁ。うーん。かたちがわるいのかなぁ。そういえばドングリの中なんて見れないけどまつぼっくりの中はまわりのやつをペリペリはがしたら見えるから、あんなかたちのほうがいいのかな!
こわせそうなものないかなー?
あ! この三りんしゃとかいいんじゃない? だれのかわかんないけどこれならぜったいこわれてくれるよ!
「とりゃっ!」
やったぁっ!せいこうだっ!こわれたよ!
いそいで下にかくにんしにいくとハンドルの上についてる、クルマのうんてんしゅせきのまえにあるとけいみたいなやつと、ペダルのくろいぶぶんと、それからうしろのおかあさんがおしてくれるやつがちらばってた!
「やったぜー! でももういっかいやりてー! こんどはハンドルをぶっこわしてやる!」
こんどはもっとこわしてやるっておもってもういっかいのぼった。そしたら下に女の人とちっちゃい子がいた。
これ、人にあてたら人もこわれるちゃうのかなぁ? たぶんこわれちゃうよね、だって三りんしゃのほうがかたいし! やってみよっと!
「よいしよっと、とりーーーー」
「何やってるの⁉︎ 危ないでしょ!」
しらないおばさんにじゃまされた。
「じゃま! いまからこわすの!」
「うちの子の三輪車をですか? 全く何を考えているのよ⁉︎ それに、そんなことより下にいる人に当たったらどうするのよ⁉︎」
「どうなるかしりたかったからやろうとしたんじゃん」
このおばさんバカじゃん。へんなしつもん。
「とりあえずお母さんを呼びます。君はどこに住んでいるの?」
「ん? 三かいのいちばんあっちだよ」
おばさんは三りんしゃをげんかんの中に入れてどっかにいっちゃった。
するとすぐにおかあさんとふたりでこっちにきた。なんでかわかんないけどおかあさんがすごいおこってる。なんかわるいことしたかな?
でも、おかあさんにおこられるかとおもったらおばさんはおれとおかあさんをおこった。おかあさんはなんでかわかんないけどずっとあやまってて、おれもなんとなくあやまっといた。
そのあといえにかえると、こんどはおかあさんにもおこられた。おんなじことしかいわれなかったからあんまりきいてなかったけど、おかあさんに『そんな子に育てた覚えはない』っていわれたらなんかかなしくなって、それでなみだがでたらなんかゆるしてくれた。
あとすこしだったのにな。
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思えばあの日からだったろうか。自分の中に破壊欲のようなものが芽生えたのは。
今思えば自分はとんでもないことをしていたと快はつくづく思う。あのときあのおばさんが止めてくれなかったら、それこそ今の自分にも影響を与えかねないほどの何かが自分の心の中に巣食い続けていることだろう。
快はそのまま翌日を思い出す。
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よくわからないまま公えんにきた。二十分くらいあるいたところにある。
ぼーっとじめんをみてるとダンゴムシがいっぱいいた。つかまえようとするとすぐにまるくなる。それがおもしろかったからなんかいかやったけどだんだんあきてきた。
だから、ダンゴムシのからだをひきちぎった。
べつにプチッとかいうおとはでなかったけど、ちぎれたところからオレンジ色とプリンのたれみたいなやつの色のあいだみたいな色の、ドロドロのえきがでてきた。
ちぎられたダンゴムシはもううごいてない。つかまえてもまるくならない!
こわれた! ダンゴムシがこわれたよ!
まるくならないダンゴムシも、ドロドロのえきも、どっちもなんかおもしろかったから、ベンチのいたが一まいぶんダンゴムシだらけですわれないくらいやっちゃった!
やっぱ、こわすのってきもちいい!
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今は小学校最後の夏休みだ。
宿題は自由研究以外は七月中に終わらせたから、家族で出かける予定が無かったら暇だ。
本も地元の図書館で借りられる限界まで借りてしまって、それもすでに読み切ってしまった。だからトランプ二組でトランプタワーを作ることにした。
崩れることはもちろんあったけど割と簡単だった。
「母さん! 見てこれ! ついでだし写真撮ってよ」
母さんは笑顔で俺を褒めてくれた。べつに褒められることでもないんだけど。そう思いつつ写真に入る。
気付くと母さんの顔が引きつっていた。写真は撮ってはいたのだが、なんとなく残念そうな、よくわからない表情をしていた。
どうかしたのか、と聞こうと思ったのだが手元を見て驚愕した。トランプタワーが崩れていた。そしてその犯人は俺だった。右手にはクシャクシャになったスペードのクイーンが一枚握られていた。
確かに、シャッターを切る直前に被写体が壊れるシーンを想像してその時の人間のリアクションがどうなるか、気になることはあった。
しかしまさか自分が無意識のうちにそれを実行しているとは考えたくなかった。しかしそうとしか考えられない。
だんだん破壊欲が制御できなくなっているような気がする。
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高校初の夏休み。全国で見ても十番目くらいのレベルの高校に入ったので夏休みはフルで使わなければ終えられないほどの宿題が出るかと思った。しかし量は相変わらず七月中に終わらせることのできる量。
楽だ。
しかし今日は部活帰りに嫌なことがあった。まあ大したことではない。ただ世の中の馬鹿どもに迷惑をかけられただけだ。いつも通り。
だがどうにも抑えられない。手はスマートフォンに向かっていた。
最近よく閲覧している過激な画像、動画をまとめたまとめサイトを開く。
新しい記事に、どこかの発展途上国でレイプした男が、被害者の親族にナタで殺される動画があった。
この手の動画はかなり多い。ありきたりなネタではあったが俺は好きだ。
だが、この動画は微妙だ。どこがかというと、ズバリナタの切れ味が悪すぎるところがだ。
殴っているのか斬っているのかわからなくなるほどのクソみたいな切れ味。出血も少ない。次の記事に飛ぶ。
今度はかなり興味深い記事だった。それはギャングに殺されている映像系だ。これはハズレなし。異論は認めない。
一度見る。これはヤバイ。ここ数週間ぶりのゾクゾクする感覚。被害者がかわいそうにみえる。
二度目。だんだん引き込まれていく。鼻息も荒くなる。
三度目。口元のにやけが止まらない。心臓もドキドキしてきた。
四度目。俺もやりたい。まあ、許されないからやらないけどね。
このサイクルを二周三周と繰り返す。
気付くと二時間が経っていた。
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ここまで思い返してみると、もしかしたらあの時の自分の行動が全て自分の意思で行われたのではないかと思えてくる。
実際、あの間に意識が飛んでいたわけでも体が言うことを聞かずに暴れまわったわけでもない。
快が自分でバラそうと思い、バラしたのだ。
「はぁぁ」
この世界に来て一番重いため息をついた。
「俺は殺したくない」
当たり前だ。元の世界で読んだ漫画やラノベの主人公にも、人を殺したくない者は数多くいた。自分はそれをただの綺麗事だと笑った。
しかしこうしてみると、やはり殺したくないものだ。
そしてそれを綺麗事だと笑う自分もいた。
結局自分でもわからない。自分が殺人、むしろ人間を壊すという表現の方がどちらかというと適切な感はあるのだが、をしたくないのか、したいのか。
簡単に言ってしまえば理性と欲望だ。ただのそのジレンマ。
そう考えてしまえば案外楽になったりした。なぜならそのジレンマは誰しもが抱えているのだから。
快はそれきりその問題を捨ててしまった。ジレンマは大抵時が解決すると考えて。
全くこれは油断でしかない。
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