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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第2章 神の慈悲
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1.事後処理

 



 時は快とニンガルが地下から帰ってきた翌日、二人と責任者であるクローヴィスは事後処理に追われていた。


 快は数日間にわたり冷たい態度を取り続けていたイアンナとエレシュに対しての謝罪に走った。それぞれは相応の冷たい対応をして来たが、最終的には仲直りすることができたと思う。


 対してニンガルとクローヴィスは大変だった。


 まず地下の清掃がニンガルを待っていた。快が汚しに汚した地下は相当な異臭と汚物によって、下水施設としての機能上の大問題を抱えていた。


 しかしニンガルもこれ以上ない優秀な人材。むしろ騒動前よりも清潔な状態にして帰ってきた。もちろんそれを労われることはないが、ニンガルはそこにこそ自らの仕事の美点があると考えているので彼女は幸せであった。


 では、クローヴィスは何をしたのか。それは処理というよりもむしろそれに関して決定するという方が適切だろう。




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 校長室にて。クローヴィスはニンガルを呼び今回の騒動に関して最も重要であり今後のタイラーゲート陣営にとって避けることのできないことに関して話し合った。


「快君は一体何者なんだ? あれほど返り血に塗れていたのだから普通じゃない殺し方でもしたのだろう?」


 それはやはり、今回の騒動で気付かされた快の存在の危険性だ。魔法陣で身体能力が上がっていたとはいえ、それを扱いきるか扱いきれないかは全くの別問題だ。


「はい、彼が戦闘している時は恥ずかしい事ながら気を失っていたのですが、先程現場の清掃を行って来たところあの日には気が付かなかったことが数多くありました。

 昨日はただ四肢を切り離しただけかと思いそうお伝えしましたが、実際はその四肢も傷のない部分が見当たらないほど斬り付けられており、何よりも内臓が全て取り出されて並べられていました。脳みそもあちこちに散らばっていたので相当暴力的な死を与えられたかと思われます」


 ニンガルは昨日、冷静に現場を観察することができなかった。しかし今日観察して浮上した問題。それは、


「魔法陣か、陽魔法の。私としてはあの時護身用として魔法陣とナイフを二本渡したのだ。それがこんな結果を引き起こしていたとは」


「そしてそれを譲ってしまわれた」


 そう、昨日は特に何も考えずにニンガルを救った褒美として譲ってしまった魔法陣一式とナイフ。これが今後タイラーゲート陣営にとって災いを引き起こす原因になりかねないということだ。何せ持ち主は血に飢えた狂人という可能性もあるのだ。


「ああ、そうだ。どうだ、回収するべきか否かお前はどう思う?」


 クローヴィスが問う。


「私は回収する必要はないと思います。というのも、まずここ一棟には何かしらの攻撃意思がある者は侵入できません。彼は頻繁に三棟と行き来しているので実質的には彼の心境に何らかの変化が起きてもすぐに安全は確保されるはずです。またここに住まう彼以外の四名は全員彼を無力化できる程度の実力は持ち合わせているかと」


 つまりニンガルは快が魔法陣を得ようがそもそもの実力的に危害は加えられないはずだと主張する。


「まあ、そうだな。しかし実力はさておき彼の嗜虐性はどうする? 危害は無くとも子供たちに悪影響を与えかねない上にその後の人間関係の軋轢なんかが生じたら面白くないぞ」


「しかしクローヴィス様もおっしゃっていた通り彼は異世界から来たと思われる、絶対に押さえておかなければならない人物です。彼との間に元の世界に戻すからという条件で研究の手助けをしてもらっています。そこは丁重に扱って問題を未然に防ぐ他ないかと」




 そこまで話してからクローヴィスが軽く笑った。


「ニンガル、いつからそんなに彼に肩入れするようになったんだ?」


 ニンガルは全く動じずになんのことかという顔をしている。客観的に見ると確実に騒動の後から快のことを上げているのだが、自覚があるのか無いのかクローヴィスでさえ分からない。


「まあいい。私も全くそう思う。それじゃあ変わらず一式は彼の手元に残し、嗜虐性にだけ注意しておこう。君がいるから安心だがな」


「はい、失礼します」




  ニンガルの去った校長室ではクローヴィスが大幅な予定変更を入れていた。


「駒が一つ増えたな。軽くつつけば彼もうまく扱えるだろう。当初の予定よりも早く結末を見ることができそうだ」




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




 そして残りの三人も似たようなことを行なっていた。


「快、ボクたちと一緒に今後について詳しく話し合おうか」


「え? さっき二人とも仲直りしたじゃん⁉︎ あと何で筋肉弛緩されてんの?」


 仲直りし切ったと快は考えていたが、どうやら二人の怒りは想像以上らしく、何故だか中庭で昼寝をしていたところを襲撃されエレシュの陰魔法で筋肉弛緩をかけられて動けずにいる。


「別にボクは仲直りしただなんて一言も言っていないが」


「私も言ってません」


 ーーーーあれ? まあ確かに言ってはなかったけど態度的にオッケーかなって思ったんだけどなぁ


「甘い! それが甘いんだよ。そもそも快はボクたち二人の気付いて欲しいことに全然ーー」


「ニンガル! あなた何を言ってーー」


「うるせぇよ!」


「今の君にそれを言う権利は無い」


 ヒートアップしたかと思うとすぐに冷静になったエレシュに快は何も言い返すことができず、ただ目をキョロキョロさせている。


「エレシュ、あなた余計なことは言ってはいけません! 今は快君に反省してもらうべくこうして三人で集まっているんですよ!」


 イアンナが何を恐れてこう反応したのかは言うまでもなかろう。しかし彼女の一言で場の空気は変わった。彼女の発声法には何か特別な感じがする。それはさておき、


「ああ、そうだ。本題から逸れ過ぎてしまった。では快、君はボクたち二人を傷つけた」


 エレシュがそう言うと、女子二人は動きを止めた。何をしているのだろう。快がそう考えていると二人が動き出した。




 二人は倒れている快の境にギリギリ入るところで座った。


「それじゃあ早速授業を始めよう」


 エレシュがイアンナに話しかけた。しかし何故いきなり授業を始めるのか。


 イアンナは前を向いたまま不機嫌そうな顔で無視している。否、手元はパラパラと動いている。まるで本をめくるかのように。


 エレシュが説明をする。いつか聞いたことのある内容。


 イアンナが返事をする。しかしそれは『はい』のみで他に何か感情のこもった言葉は一切発されない。


 そんな状況が続いた。もはや何分経ったか分からない程続いた。


 そんな中、快はと言うと悪い汗で額や脇、手などがビッチャビチャだった。


「ぁ……いや……その……」


 これはおそらくあの日の授業の再現だ。あの時は滞りなく授業が進んだので快の中では特に問題になっていなかったが、こうして再現されると中々キツイものだ。


 エレシュはそんな快には目もくれず再現を続けている。これは早く手を打たなければ。


「本当に申し訳ございませんでした!」


 快は思い切って土下座をした。というのが理想ではあるが今の快は強制脱力状態。まさかの寝っ転がったまま謝罪という異様な光景がそこに広がっていた。そしてエレシュはそれを無視する。


 ーーーーあれだ、魔法に抗ってでも土下座するのが誠意の表し方だとか言うんだろ


 そう思うと何故か魔法が気持ち弱まった。正解に近づいたのだろうか。


 そこで快は腕をプルプル震わせながらなんとか土下座のポーズをとり、


「誠に申し訳ございませんでした!」


エレシュが手を止め、


「ふん、まあボクは心が広いから許してあげるよ」


 エレシュはクリアした。




 嫌な予感がしていたが、二人は再び黙り今度はイアンナと快のあの会話を再現し始めた。


「これはこれは、我らがケースリット大学次期校長のイアンナ=タイラーゲート様が何故に私のような半端で異端な存在の隣にいらっしゃるのかっ!」


 エレシュが面白いくらいに顔面を歪めて悪態をついた。彼女はおそらく今の状況を全力で楽しんでいる。


「…………」


 イアンナはあの時見たのと変わらない悲痛な表情でエレシュを見つめていた。


「ヤメロォ! キツイからやめてくれぇ……」


 二人は快に見向きもしない。


「おっとこれは失礼! 私の隣にいらっしゃったものですからてっきり私に用があるのかと思いましたよ! 次期校長様からしたら私など大学に侵入する鼠と同じくらい意識する必要がない存在でしたね!」


「…………」


「…………」


「あまりお近くにいますのもあなたのお体に毒でしょうから私はそろそろ失礼いたしますね」


「待て、これ以上先には行かせねぇ! ダメだダメだ!」


「……まってよ」


「ああぁぁぁっ…………」


「はい?」


 もはや快には口を挟む気力はなくなっていた。側から見ると本当にそれほど残酷なシーンだった。まさか自分がこれほど悪意に満ちていたとは驚いた。セリフは多分同じだ。キツイ。


「ねえ、なんでそんなに冷たいの? 最近の快、なんか感情が無いみたいで、恐い……」


 幼い少女のような発言。エレシュはほくそ笑む。


「私はどうやら精神力が弱いようでしてね、たまにこうして感情を作るのを休まないとやっていけないんですよ」


「マジックジム行った時はあんなに楽しそうだったのに? 私、あの頃の快の方が、いい……」


 快が誰にも聞き取れない声で謝罪している。


「まあ、私の不安要素である鼠に関して決着がついたらああやって笑えるかもしれませんねぇ」


「それは、時間が解決するから…… だからっ!」


「やはり無理ですね。私は結局一人じゃないと何もできないんですよ。ああ! 別にお別れしましょうなんて話ではないですよ! 私も今時間が欲しいというだけの話ですから」






「…………イアンナ、ごめん」


「べ、別に自分がどれほどのことをしたのか自覚すればいいんです、うん……」


「…………うん」


「イアンナは優しいな。さすがだ。ボクには真似できない」


 エレシュがイアンナに賞賛の言葉をもちろん本意で述べた。こんな状況でもやはり彼女はイアンナが大好きだ。


「はあ、とりあえずはこれでおあいこだよ。もうボクたちも変なことはしないからこれからはまた仲良くやっていこう」


「そうね、私はむしろ今のでより仲良くなれた気がするわ!」


「「え?」」


 最後にイアンナが不思議な顔で二人の顔を見る羽目になったが。この日はあともう一度、ラストの言語レッスンがあった。そして騒動翌日は穏やかに幕を閉じた。


ーーん? エレシュは今後について話そうとか言ってなかったか? あれじゃただの復讐じゃ?









 

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