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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第1章 伝わらない異世界
19/93

18.作戦・改




ニンガルが鼠の出現の原因調査へ向かってから八日後、快はニンガルが作戦失敗したことを悟った。


あの優秀な女性が、たかだか転移して不審な輩を叩く程度のことに八日もかかるはずがない。したがって、失敗。


「これは、ヤバくないか……」


快はとてつもない焦燥感と罪悪感に襲われていた。


敵陣は何かしらの罠を張っていたのだろうか。それとも単に敵の戦闘力が、あの光速のニンガルでも勝てないほど高かったのか。陽魔法と転移魔法によって黒い影にしか見えないスピードで動き回る、あのニンガルでさえ。


どちらにしろ快に何かできることがあるのかと聞かれたら、頷くことはそう簡単ではなかろう。


「…………つみ?」


何もできない。


問題を解決できなかったのみならず、ニンガルを失ってしまったこと、これはかなり快の精神力を削いだ。




その日の昼食、クローヴィスがエレシュに今日の快の午後の授業を中止にすることを命令し、快を校長室に呼び出した。


「快君、君はニンガルの存在を知っているね?」


ああ、その話か、と思った。


「はい。ここに来てから割と最初の方に事故で。ニンガルはやっぱり居なくなってしまいましたか?」


「そうなんだ。ここ半週間程度姿がない。おかげで大学に侵入してくる鼠の数はどんどん増え、おそらく一棟以外はどこにいても半径十メートル以内には一匹いるだろう。何か知っているか?」


ニンガルがいなくなっているのにどうやって鼠の存在を確認できるのかは気になったが、どうせ魔法だろう。


「ええ、知っていますよ。三人が鼠に対して無関心すぎたので、危機感を覚えた僕とニンガルで少し話したんですよ。それで、ニンガルの転移魔法を使って敵陣に乗り込もうってことになった訳ですが、見ての通り失敗に終わってしまいましたね」


クローヴィスはこの返答を予測していたのか、全く驚いたそぶりを見せなかった。むしろ、どうやらこれからが本題に入りそうな感があった。


そして、それは間違いではなかった。


「やはりか。まあいい。そこで、快君にはニンガルの救出を頼みたい。なぜ自分が、と思っただろう。理由を説明しよう。私にはニンガル以外にこういった仕事をする人物がいないんだ。あまりいい仕事ではないからね、人員は減らした方が得策だろう。ならば技量の優れた人物一人がベストだ。ということで、非戦闘員に頼むしかないのだが、そうすると選択肢は君かイアンナかエレシュだ。エレシュは戦闘に関しては論外だがイアンナも魔法に頼りすぎるので単独戦力としてはあまり優秀ではない。そこで、魔法陣の扱いがかなり上手いと二人から聞いた君に、私の持つ中でも特に効果の高い物を特別に使用を許可してやるのが一番適当なんだ。わかったかい?」


ただただ快は驚いた。警察は? クローヴィスは? なぜ自分より明らかに立場が低い者たちばかり?


「なぜ、ご自分ではやらないのです?」


この間にイアンナに向けたものとは比べ物にならないほど冷たい声が出た。元々快は馬鹿なくせに上から見てくる大人が大嫌いだった。今まではクローヴィスのことを優秀だといって尊敬していたが今回は話が変わってくる。


「大人の事情だ」


「ーーーー」


使えない。


「わかりました」


快のニンガル救出が決定した。




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クローヴィスに渡された装備は万全を期したものだった。客観的に見ればこれがクローヴィスの快とニンガルに対する心配と戻ってきてほしいという希望の表れではあるのだが、快にそれを汲む余裕はない。


火、水、風、土それぞれの基本魔法の魔法陣。これはそれぞれの魔法属性の弾を射出するものらしく、魔法陣中では最高火力かついくらでも使えるという超一品だ。イアンナの魔法とは比べ物にならないほど低火力ではあるが。


また、陽魔法の魔法陣もいくつか渡された。身体能力強化と嗅覚強化だ。身体能力強化は同時に渡された刃渡りが三十センチもあるナイフと二十センチほどのナイフが護身するのに便利だからと言われて渡された。そして、嗅覚強化がこの作戦の肝だった。


転移魔法を使うことのできない快は自力で鼠が沸くところを探さなければならない。


「それを犬みたいに探せってか」


鼠の匂いを辿って敵のいる場所を見つけ、突入するというのがこの作戦の内容だった。また、この嗅覚強化によってニンガルの居場所もわかるのでこの作戦において一切の無駄がなかった。


探索、近距離戦闘、遠距離戦闘全ての場面において完璧に立ち回ることのできるこのセットがあればクリアできるだろうというのはクローヴィスと快の両者とも思ったことだった。


そして、快が恐ろしい速さの四足歩行で大学を飛び出していったのは近くの恒星がほんの少しだけ西に傾き始めた頃だった。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




快は十五分程度で大学内の鼠を見つけてその匂いを記憶すると、すぐさま大学内でその匂いが収束する場所を見つけた。そしてそれはすなわち鼠の侵入口だった。


鼠の侵入口は下水路の隙間で、元の世界でいう側溝の蓋が取れている部分だった。快はすぐに側溝の中を匍匐前進しようと考えたが、どうやらその強烈なスメルが石畳の街の地面を抜けて地上からでも嗅げるらしいことに気づき、地上をダッシュすることに決めた。



途中何度か嗅ぎ失いそうになったものの、ゴール地点に地上からあたりをつけるところまで容易に進んだ。


「ここか。でもなんだ? ここら辺は地下空間が割と広めに広がっているとか? じゃないとニンガルは側溝の中でぎゅう詰めだぞ? いや、それで帰ってこれないとか。て、違う。これは人為的なんだから」


快は早速地下へ下る場所を探し始めた。ちなみにこれに関しては嗅覚はあまり頼りにならないので完全に勘だ。



周りを見てみるとここは小さめの広場だった。様子を見る限りシン都下層で、噴水を中心に広場が少し広がり、さらにその周りを果物屋やら魚屋やらが取り囲んでいる。


なるほど噴水の下なら下水施設も広めに設計されているだろう。


魚屋なら水を多く取り扱うから、もしかしたらと思い、いつもに以上に鼻につく魚の生臭さを我慢して聞き込みを始める。


「すみませーん、地下の下水施設に入る場所知ってますかー?」


「うるせぇ! 今忙しいんだよ! あの暇そうな羊肉屋にでも聞いとけや!」


確かに今のは快が悪かった。何せこの魚屋は広場にある店の中でも一番活気付いていたから。この世界でも魚はきちんと食されていた。多くの主婦があれこれと声を張り上げていて、今の緊迫した快からするとやかましくて仕方がなかった。


次に羊肉屋に向かった。四軒ほど時計回りに回ったところにあり、魚屋のおっちゃんが言った通り割と暇そうだった。


「すみません、地下の下水施設に入る場所知ってます?」


「ええ? 昔はここの裏にあったんだけどね、しばらく前にぶっ壊しちまったなぁ」


「どこかに移動したみたいな話聞いてますか?」


哀れむような顔で首を横に振られた。どうしようか。これ以上見知らぬ人に尋ねるのはキャパオーバーだ。そう思っていると工事をしてそうな姿格好の〔にいちゃん〕達が二人で歩いてきた。


工事関係ならもしかしたら移動先も知っているだろう。そう思ったのだが。


「おいおい、チオリー組が今季の最優秀担当組とかやってらんねぇよー!」


「それなぁ! どう考えたって我らがキールさん率いる俺らキール組が最優秀だろ! あいつらが給料手当つくとかガチやってらんねぇ」


正解だった。演劇もたまに見に行く快は、以前工事の現場作業員の人間ドラマ的な作品を見たことがある。そこで同じような会話がなされていたのを鮮明に覚えている。


しかし……めちゃくちゃ怖い。


元々にいちゃん系なのにさらに今は機嫌が悪いとなると、話しかけることは大いに憚られた。


「す、すすすみません。地下にある下水施設に入る場所をご存じないでしょうか?」


とりあえずできる限りの敬語は使っておいた。


「何だガキ、あんな気色わりー奴が住んでるとこなんか行かねぇに越したこたぁねぇってもんだぜ?」


ーー気色悪い奴が住んでる? どういう事だ? ディーメアは確かに気持ち悪い奴がいるかもしれないけど一応国教関係の人なんだからそんな風に罵倒されるのはおかしい……?


そんな疑問は一旦忘れて


「僕の友人がどうやらそこに行ってしまったらしくて、心配になって行くことにしたんです。場所を教えていただけませんか?」


一抹の不安はさておき、すでに決めたことである突入のために必要な情報をきちんと聞き出さなければ。


「まぁいっか、入り口はあっちの方にある人気の無い、珍しい魚を売ってる店の裏にある。店主はまあまあのやり手だからこっそり入った方がいいかもしんねぇな」


やり手が喧嘩に関してのことだろうと想像はついたがそうでないことを祈りつつ、にいちゃんに礼を言って足早に例の店の前に行った。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




店には果たして深海魚のようなアブナそうな魚ばかりが並べられていた。臭いもこれまた強烈なもので、警察に通報したくなるレベルだった。


そして店の奥には先程話に出てきた男がいた。


あれはおそらく半巨人だ。


あの身体と大きさを比べて勝てる物は脳味噌くらいだ。立ち幅跳び二メートル七十センチを叩き出した競輪選手並みの太腿すら彼の物と比べたらゴボウだった。


「やり手ですねぇ」


そう言いつつ快は記憶の中のニンガルから学んだ、陽魔法式ステルス術を発動しつつ店内に入っていく。ニンガルの高レベルな陽魔法だと姿自体が消えてしまうが、快も気配を消すことくらいはできた。


半巨人は相当鈍感らしく初心者の快にすら気付くことができなかった。しかし、問題は何も解決していない。入り口はどこだ。


扉は見つけにくいようになっているのか、時間と体力だけが過ぎていった。


そこで快は作戦変更をした。それはーーーー


「おい、俺の質問に答えろ。さもなくば貴様の髄液を啜るぞ」


刃渡り三十センチのナイフ、サブナイフ、身体強化。


夢にまで見たアサシンプレイ。


アサシンプレイは妄想の中で様々な動きを練習している。



「フンッ! いきなり現れてこの俺を脅すとは、そのタマの大きさだけは褒めてやんよクズが」


確かにこいつはやり手だ。背後から首元にナイフを当てているのにも関わらず全く動じていない。このままではだんだん快の方が危なくなってくるが。


「二度は聞かない。三秒以内に答えろ」


快がカウントを始める。半巨人はその三秒後に起きることに対して全力で返そうと思い静かに力を溜める。


「ーーーーーーゼロッ!」


一瞬で片がついた。そもそもこんなものが戦いになるはずがなかった。身につけているものが違いすぎだ。










その三分後に警備団が魚屋に来た時、そこには右拳と首が切り飛ばされた大男が倒れていた。若い男二人組の証言によると、犯人は立っていた状態から突然空中で小さく丸まり、再び立つとそこには死んだ大男が倒れていたらしい。


ちなみに犯人はずっと確認されなかった。



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