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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第1章 伝わらない異世界
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16.ネズミサガシ




突然だが、快はしっかり者だ。


小学生の頃から友達が気にしないようなことを気にし続け、ある人は快を優秀で気が回ると評価し、ある人は堅苦しくてつまらないと評価した。


中学一年生の頃、快は友人と先生の意識の低さ、レベルの低さその他諸々に関して強い不満を抱いていた。使えない奴らだと、そう思っていた。


他人のことを出来が悪いと思っていると最終的にはどうなるか。それは自己嫌悪だ。他人の悪いところが目につくと毎回気になる。そして今までは気が付かなかったような自分の欠点も目につくようになる。するとだんだん自分も他人と大して変わらないのではないかと思ってしまう。他人では気づかないようなことも自分では気づけてしまう。


いわゆる完璧主義だ。そんな快が中一の冬に始めた〔遊び〕が、クビシメゲームだ。剣道部だった快は手ぬぐいを大量に持っていた。そして手ぬぐいが濡れるととんでもない摩擦を生み出すことも経験で知っていた。


暇さえあれば濡らした手ぬぐいで自分の首を絞め、一山越えた後にある、意識が朦朧とし深い眠りにつくかのような、優しく包み込まれるかのような快感に浸った。


その光景は周囲からは見ていられないほどだった。


その後家族との話し合いやカウンセリングを重ね、他人を信用しないという処世術を学びある程度のストレスを軽減することができた。


それからというもの信用するのは自分だけ。他人は自分の駒。それも、使えない不良な駒。そんな思考で数年を過ごした。


他人を駒のように扱えるように実用的な心理学の本を何冊も何冊も買い、一冊のノートにまとめたほど読み込んだ。


しかし突然異世界に転移した快は自分すら頼ることができなかった。言葉も通じなかったのだから当然だ。


かわりに、自分と同じような思考の少女や国内最強の頭脳のことを信用した。これもまた当然だ。


さて、そんな状況だった快が異世界に慣れてきて、今まで信用していた人たちの判断が甘く杜撰だと感じるとどうなるか。さらにこれもまた当然のごとく、反抗する。







快は二匹目の鼠の出現後は暇さえあれば鼠探しに没頭した。




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「あいつらはどこから来てるんだ? 外からの侵入なら入口を最初に突き止めたいものなんだがなぁ」


快は一人中庭で思索に耽っていた。


授業の合間にはこうして外気を浴びリフレッシュしつつ、どうやって鼠の情報を集めるか考えていたり、それを実行したりしている。


「そもそもなんだ、クローヴィスは一棟には結界があるとか言ってたけど逆に敷地全体には結界を張ってないって、訳がわからないだろ。ああ、あいつらのことを考えるだけでイライラするなぁ」


現にあの日以来は食事中も授業中も必要な連絡以外は三人に対して口を開かなくなっていた。他の三人はと言うとこちらも特に対処はせず、険悪な雰囲気は拭えていなかった。





その後快は特に情報は集められず、さらに一週間が経過していた。


「はぁ」


この日も快は中庭に出ていた。


すると、隣に正義感に溢れる深紅の髪を伸ばしながらも判断力がイマイチで、天才一族に生まれながらも危機管理能力は低い令嬢様が座った。


「これはこれは、我らがケースリット大学次期校長のイアンナ=タイラーゲート様が何故に私のような半端で異端な存在の隣にいらっしゃるのかっ!」


「…………」


イアンナは快の不自然な態度にかなり困った様子だった。快の顔は見ずに固まっている。むしろ泣きそうなほどのその表情に快はどこか快感を覚えた。


「おっとこれは失礼! 私の隣にいらっしゃったものですからてっきり私に用があるのかと思いましたよ! 次期校長様からしたら私など大学に侵入する鼠と同じくらい意識する必要がない存在でしたね!」


快の口からは人を傷つける目的の言葉しか出てこない。


「…………」


「あまりお近くにいますのもあなたのお体に毒でしょうから私はそろそろ失礼いたしますね」


これ以上何かを言うのは正解じゃないと、会話を切った方がより相手の心に傷を負わせられると思い快は足早に去ろうとするが、


「……まってよ」


イアンナはまさに泣きそうな声でいつもと違う口調で呼び止めた。誰を? 快を。


「はい?」


「ねえ、なんでそんなに冷たいの? 最近の快、なんか感情が無いみたいで、恐い……」


幼い少女のような発言。快はほくそ笑む。


「私はどうやら精神力が弱いようでしてね、たまにこうして感情を作るのを休まないとやっていけないんですよ」


「マジックジム行った時はあんなに楽しそうだったのに? 私、あの頃の快の方が、いい……」


「まあ、私の不安要素である鼠に関して決着がついたらああやって笑えるかもしれませんねぇ」


「それは、時間が解決するから…… だからっ!」


「やはり無理ですね。私は結局一人じゃないと何もできないんですよ。ああ! 別にお別れしましょうなんて話ではないですよ! 私も今時間が欲しいというだけの話ですから」


そこにいるのは、ただただ汚い悦びに浸る少年と幼子のように相手の顔をうかがう少女だった。


側から見たら。


快はイアンナに何も言わせず、今度こそ足早に三棟に向かった。





「それじゃあ早速授業をはじめよう」


イアンナに対して、エレシュの快に対する態度は特に大きく変わっていなかった。それこそ打ち解けた話をしなくなったくらい。


お互い絶対に何か言いたいことがあるはずなのだが、クールなのかコールドなのかよくわからない距離感を保っている。


快も喧嘩をしたいわけではないので、授業はスムーズに進み、普通に終わった。


「ありがとうございました」




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その日の夜。


「本当に手がかりがつかめないな。誰か他に何か情報を持っている人はいないか?」


鼠は想像以上に痕跡を残しておらず完全にお手上げ状態だった。


「あ! そういえば! ニンガルさん! あの人は俺と同じように二回とも鼠を見てるし、そもそも俺が見てない奴らもいるかもしれない! で、そいつら全員を知ってるなんてあの人しかいないじゃん!」


完全に忘れていた。そもそもいつも姿が見えない人のことをしっかり覚えておけだなんて荒れていた快には無理な話だった。


「そうと決まればっ!」


快はすぐさま例の隠し部屋に入った。






相変わらず中は不気味なほど暗く何も見えなかった。しかし今度は入ってすぐの場所で待機していた。ニンガルの反応を待って。


しかし、いつまでたっても部屋の明かりはつかなかった。ついに快は諦めてしまった。


「ああ、使えねぇ」


ベッドに倒れ込んだ。気づくと朝だった。




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人は寝ている間に情報の整理をすると言う。この日の快は完全にそれに助けられたと思っていた。


ついにニンガルに会う方法が分かったのだ。昨日の様子だと正攻法では会わせてくれないだろう。そこで彼女の職業を利用することにした。


それはズバリ、身投げ作戦だ。


クビシメゲームで死と快感を無意識のうちに繋げている快はこの作戦にも特に抵抗はなかった。


詳しい内容はこうだ。結界がなく、階数も十分にある二棟の屋上に登り、身を投げる。


大学の警備をやっているニンガルなら多分人命は救ってくれるだろう。


特にクローヴィスの秘書もしている彼女は、どれだけ彼が快のことを重要視しているか理解しているだろうし、今まで二回の登場シーンからして陽魔法の身体強化が得意なのではないかと踏んでいる。


ということで快はニンガルの救出を半ば確信し、決行に向かった。




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元の世界のマンションの五階の屋上と比べまあまあ高かった。おそらく本棚の分も考えて一階分が高いのだろう。


そんなこんなで快は縁に立った。


「あれ? やっぱり恐いな。まあおれも生き物だからな、仕方ないか」


快の脚は無意識のうちに震え、気付いた時にはスクワットを千回やった後のようにガクガクだった。


「あれ? おかしいなぁ? 何でだろうなぁ?」


乾いた笑みが張り付いた顔で、しかし着実に一歩ずつ前進した快は、突然の風に煽られ、落下。


「ひっ! ひぃーーーっ!」


そのまま快はなすすべもなく逆さまに落ちていってーーーーーーーー





クビシメゲームもスクワット千回も実体験です。後者は真似していいけど前者はダメです。

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