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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第1章 伝わらない異世界
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13.影




自室に戻った快は休憩して勉強後の冴える脳を落ち着けようと、エンリル像をいじろうと机に向かった。特に何も考えずに眼球を回して遊んでいると、あることに気がついた。それは、


「あれ? 色が薄い……? いや、違うな。これは………………劣化が進んでいない?」


左眼の黒目の周りの色が、一つの周りだけ若干綺麗な状態を保っている気がした。


考え過ぎかもしれない。しかし、考え過ぎかもしれないが、これが正解の黒目ならば、一番劣化が進んでいないことも辻褄があう。


「試して損はないな」


左眼と右眼を慎重に選びカチッとセットすると、果たして棚が横にずれ、奥に部屋が見えた。




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動悸が激しくなり、緊張から軽い目眩が引き起こされた。


中は真っ暗闇だった。外からの光を完全に遮断しているようで、快の部屋の明かりは隠し部屋の中を何一つ照らし出さなかった。


明らかに異常だった。魔法でもかけられているのだろうか。まるで、中には誰にもみられたくないものが入っているような状態。


それが町にあるならともかく、信頼している人のところでこのようなものを見ると、何か知ってはいけないものを知ってしまったような気がする。


「まあ、入ってみるしかないか? 開けた途端に襲われる、なんて事はなかったし、ワンチャン行ける⁉︎」


そう言いつつも強張る足を前に踏み出し、快は中に入っていった。





中に入って快が見たものは、ただの闇だった。全く何も見ることができない。すぐに足がすくんだ。方向感覚がおかしくなってきた快は無意識のうちに地面に手をついた。


このまま体も横にして全身で、何か動かないものに触れていたいという衝動に駆られたが、そこは何とか我慢して、いますぐにでも自分の部屋に戻ろうと振り返った。


しかし、振り返っても振り返っても後ろに光はなかった。振り返るうちにどっちが部屋かわからなくなってきた。


「あれ? やばい、やばいやばい、いややばい。これは、これはこれはやばい。あれ? どうしよう? あれ? あれ? あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ?」


パニックで過呼吸を起こしかけながらもそろりそろりと歩き始めた。壁に手が付くと安心して壁に沿って歩き始めた。そうすればいつか出れるはずだ。


しかし角を五回曲がっても出口はなかった。快はそんなはずはないと、もう一周、もう二周と歩き続けた。そんな快のことをじっくりと見つめる影が、快の横で並んで歩いていた。




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何時間歩いたのだろうか。いや、何分か。もしくは一分も経過していないか。快は狂ったように部屋の中をぐるぐると回り続けていた。


突然快は腕を振り回し、頭を掻き毟り始めた。しかも一切声を出さずに。そして、何の前触れもなく起きた快の行動は隣の影の意表をもつき、


「うっ!」


軽い声を上げさせた。


視覚が使い物にならないために研ぎ澄まされた聴覚はその音を過剰に拾い、警戒度最高だった脳は快の筋肉を完全に緊張させるのに苦労しなかった。


その場で前方に倒れ込み、まともに受け身も取れなかったので鼻を打った。ツーンとした痛みが涙を誘い、鼻血と混ざってその顔はぐちゃぐちゃになってしまった。


「んんっ!んんん、んんんんんんっ!!!」


快は、顔を覆われた感触に、声にならない叫び声をあげた。











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「***落ち着きましたか? 驚かせてしまって******でした」


「すみません。ぼくも取り乱し過ぎてしまいました」


明かりのともった部屋に、割としっかりした見た目の寝巻きを血で汚した少年と真っ黒な服に包まれた美しい女性がテーブルを挟んで向き合っていた。


「クローヴィス様からいくつかお話しは聞かせて********。****貴方、私の服の***を持っていますよね?」


「これですか?」


やはり、リスニングと訳出の能力がまだまだだ。と、先程までの恐ろしい時間の名残をできる限り遠ざけられるように勉強のことを考えた。そう、先程までの時間を。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


布で顔を覆われた快は、そのまま気絶させられた。しかしすぐに目は覚めた。脳が少しだけ働きはじめると鼻血が止められ顔も綺麗にふかれていたことに気が付いた。


思考力が回復してくるといくつかの疑問も上がってきた。まず、部屋に明かりがついている。あんなに何も見えないほど暗くしていたのに、気が変わりすぎではないか。そして顔が綺麗になっている。最後に、声を上げた人、今思うと声からして女性だと思われる、が見えないということだ。


三つの答えは一つになって、目の前に出てきた。


「***大丈夫になりました?」


まず先に言っておこう。美人の基準が低いわけではない。


二十代前半と思われる体型や顔立ち、顔は薄いベールで隠され全身を真っ黒なドレスのようなものに包んだ黒髪黒瞳の美人が現れた。


「どうかしました?」


女性が首を傾げて聞いてくる。ヤバイ。


「い、いえ……」


状況がまだ飲み込めない上に突然の美女の登場で快の思考力はもはや皆無のだが、女性は勝手に話を始める。


「まさかクローヴィス様以外の人間がこの部屋に入って来られるなんて********ので驚きましたよ」


「申し遅れました。私はクローヴィス=タイラーゲート様に秘書兼護衛兼**兼諜報兼遺跡下見兼**兼大学安全維持担当を任せられております、ニンガルと申します。実は私の存在を知っているのはクローヴィス様だけだったのですが、貴方を眠らせている間に*****ところ快君は特別だとおっしゃっていたので、今ここで伝えておきます」


ーーーーえ? なんて言った? 諜報? 聞き取れなかったところで暗殺とか言ってないよな?


「どうも、オサダカイです。この前異世界から来ました」


訳がわからなかったが、とりあえず挨拶しておかないと後でヤバイことになるかもしれないと思い、返しておいた。エレシュと何気に練習していたスピーキングの効果によって、あまり緊張せずに自己紹介できた。今は別の理由で緊張しているが。


「************。まだこちらに来てから二、三日しか経っていないのにそんなにウル語を使いなさって素晴らしいですね」


「あ、どうも。そんなことより話し方が少し固すぎるんでもう少し崩してください。あと、さっきはすみませんでした」


といった調子で先ほどの場面に来る。


二人で向かい合って座り、快はよくわからないままポケットの中の黒いシルクの布切れを取り出した。


「ああ、それです!」


ニンガルは自分の予想が当たったことに喜んだ。


「これはですね、私が***************の一部なのですが、快君が不安定な様子だったので応援してあげたくなってしまって、今快君の手元にあるってことです。そして、クローヴィス様がこの服***粗末にしないだろうとおっしゃってこのような服装になってしまったのです」


ニンガルはさっきから聞いてもいないことをどんどん話してくる。まあ、実際気になってはいたのだが。しかし、


「あれ? ちょっと待って。もしかして、イアンナやエレシュも知らないってことですか?」


「はい、この世界に私のことを知る人物は二人しかいません」


いわゆる主人しか知らない存在なんて怪しすぎる。彼女の存在を快が知ることさえ、もしかしたらクローヴィスの策略かもしれないと唐突に疑心暗鬼になるが、考えてどうにかなることではなかった。なので適当に話をした。


「ここで働くきっかけは何ですか?」


「子どもの頃にクローヴィス様に保護されまして、そこからその御恩を返すべくこうして働いております。確かエレシュ様も引き取られたんだとか」


クローヴィスは女を引き取る癖があるのか、なんてひねくれた考えは一瞬しか思い浮かばなかった快は、もう少しだけ質問をすることにした。




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あまり聞きすぎても何だか悪いことをしている気がしたので、あまり深くは聞かずにうわべだけ聞いておいた。


例えばここはどこか、ご飯はどうしているかなど。まず、例の部屋は同じ階の鍵のかかっていた部屋らしく、あそこの扉は絶対に開かないらしい。ニンガルのために改装されたとのことだった。また、食事は快たちの料理が出来た時に取りにくるらしい。方法は教えてくれなかったが。


快が時計を見ると、午前二時だった。元の世界ではそのくらいに寝て六時におきていたのでぶっちゃけ余裕だったが、色々あって心労が酷かったのですぐに眠りについた。




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例の部屋から出る方法をニンガルは語らなかった。なぜなら、聞かれなかったから。


ちなみに、正解は校長室に繋がっている、だった。ニンガルは微笑みながら傲慢な神の名をつぶやき、校長室に向かった。主人に会うために。


「どうだったんだ?」


赤髪の男が、いつもは見せない険しい表情をして、黒い女に尋ねた。


「はい、最初は動揺していましたがすぐに状況を飲み込みました。異世界から来た自分が特別扱いされることに違和感は感じていないと思われます」


「結構結構。それじゃあ引き続き彼の監視を頼むよ」


「承知致しました」


ニンガルは深くお辞儀をすると影に溶けて消えた。




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