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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
第1章 伝わらない異世界
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11.言語レッスン




図書館についた快は以前エレシュに紹介された童話の本を手に取った。見た目も明らかに子供用で、絵本でこそないが文字も大きく何故これが大学にあるのか不思議になるほどだった。


それを適当にパラパラめくっていると、最後のページにこれがここにある理由があった。


そこには、異常な小ささと量の文字が並べられていた。おそらくこの最後のページがこの本の肝なのだろう。童話から推測することができた何かしらを記しているような気がしてならなかった。


他の童話の本にも目を通したが、どれも同じように最後のページが情報でいっぱいだった。


そうこうしているうちにエレシュがやってきた。今日も実に可愛らしかった。翠の瞳を瞬かせ、先に来て本を開いていた快に驚いた様子だった。


『すごいやる気だな。生徒がこんなにやる気なら、先生のボクも全力投球しなければいけないね』


『よろしく頼むぜぃ』


もはやテンションがおかしい快に、エレシュは感心したのと困ったのとが混ざった顔をして寄ってきた。


二人は机に並んで座り、エレシュは快に大量の紙を渡した。


『よし、じゃあ早速始めよう』


こうしてはじめての言語レッスンが始まった。



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方法は昨日話し合ったものとは少しだけ違っていた。なにせチート万年筆を手に入れたので、エレシュの負担軽減とそれによる授業内容増加を期待できるということだ。


具体的にはエレシュが送ってきた文字や単語、意味を紙に書き付け、エレシュが口にした音を真似して出す。というものだ。さらに、単語は宿題制になり次回の予習のような位置付けになった。


初回は文字と基本的な単語をやっただけだった。


文字は、日本語のように一つで決まった一音を請け負い、英語のように組み合わせで読み方が変わるなんて面倒なシステムはなかった。形はミミズが張ったような形で、行書はおそらく無理だった。


これを声を出しながら丁寧に書き付けた。万年筆のおかげか、三十分ほど後には平仮名と同じくらい自分の中の〔当たり前〕になっていた。


残りの三十分は代名詞やここに住む人たちの名前の書き方を一通りやっておしまいになってしまった。


『やっぱり一時間は短いよ、先生』


『本当だったら次回分の単語練習も半分は授業中にやる予定だったんだよ。それを音だけにして書くのは宿題にしたんだから明日君の脳は悲鳴を上げているだろうよ』


エレシュが珍しく本気で心配した顔をして忠告してきた。さすがの快も乙女にこんな顔をさせておいてなおも食い下がるだなんて無粋な真似はできなかった。


『じゃあ、これ書いて昼寝してまた後でね』


快が、単語が左端に並べて書かれている紙をひらひらさせて、自室に戻っていった。


その背中を見つめる瞳はただただ期待に満ち溢れていた。




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自室に戻った快は、早速授業の復習に入った。習ったばかりのことを全体的に捉えてカテゴライズしていく。その上でそれぞれのポイントを押さえ直して、再びファイルに収めていく。


エレシュと万年筆のおかげでそれほど時間はかからなかった。そして予習としての、次回の授業でメインとなる単語の練習に入った。ちなみに復習としての例題のような宿題は無かった。


一日五回の授業は朝食後、昼食前、オヤツの時間、夕飯前、寝る前で実施されている。今が春休みだからこんなに贅沢に学べる。そう思える快はやはりガリ勉だった。


初回は文字と代名詞のみだったが次回からは簡単な文法に入るらしく、単語練習は一般動詞が中心的だった。


それらの練習で紙を一枚黒くしてから、記憶の整理、つまり昼寝に入った。




しかしベッドには入ったものの全く眠くなかった快は一人で動詞テストをしていた。


「にしても、本当にエレシュとこのペンすごいな。文字なんか、最後には自分が数年前から知っていた感覚だったしなぁ。この動詞もテストする意味を感じないくらいに覚えてるからなぁ」


快はそのままベッドから出てしまった。自分の脳のキャパを信じて。そのまま暇つぶしにと棚にある像の謎を解くべく、像を手にとって机に向かった。そこでゆっくりじっくり観察しているとあるものに気づいた。


「なんだこれ? ダイヤル?」


像の眼球が動くようになっていた。そして、入れ替えられる黒目たちの右下に小さな文字が、先ほど習ったばかりの文字が彫られていた。


この二つの眼の文字を決められたものにすれば何かが起こる。そう思わざるを得なかった。


「やっぱり勉強は大切だな!」


文字の勉強をして、像の瞳の文字の存在に気づくことができたので、快は満足げに像を机の端に置き、昼前の授業まで暇つぶしのためにフラフラ歩き出した。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




第二回の授業は、予告通り簡単な文法に入った。中一の前期の英語の授業を思い出すような内容で快はやや物足りなかったが、新しい言葉を知るということへの興奮は全く冷めなかった。


エレシュは快が本当に動詞を全て覚えてきたことに驚いていた。


『まさかこれ全部覚えたのかい⁉︎ 五十個だよ⁉︎ 前回の内容の抜き打ちテストも満点だったし…… 前回の授業が終わってから二時間しか経ってないのに……』


『え? まあ、初日だしちょっと張り切ってて……』


快はこれが通常営業であることを隠しておいた。


ーーーーまあ、何より今の俺にはチートアイテムがある!


『なんだか恐ろしいことが聞こえたような気がしたけど触れずにいようか』


すでに例題に取り組んでいた快にその声は聞こえなかった。




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その後も、食事と授業と自習を繰り返し二日目最後の授業になった。


『ボクはもう君には驚かないことにしたよ』


授業の最後、抜き打ちで一日分の総復習テストを行い満点を取った快に、エレシュが諦めたような笑みを浮かべて言った。快はドヤ顔でエレシュに迫った。


『少しくらいは褒めてくれてもいいんですけど』


『ああ、凄いよ。凄すぎる。実はね、今日は予定の三、四倍のペースで進めたんだ』


エレシュから語られる衝撃の事実。それに対して快は割と本気で困ったような顔をし、


『だからついていくので精一杯だったのか』


エレシュはそれを完璧にスルーした。


『だから基本的な文章はもう終わっちゃったんだよ。このあとやるとしたら、仮定法だとか挿入だとか、実際に話したり書いたりするときによく使うようなものなんだよね。だから、本当は今日やった分を四日でやって、三日間復習にあててから進もうかと思っていたんだけど、どうやら時間の無駄らしいから明日からは次のステップだよ』


快の学習速度はエレシュの予想をはるかに超えていたらしい。もちろん万年筆の存在もあるのだが、そもそも脳のキャパのせいで途中で頭打ちになるはずらしい。


快も早く次のステップに行けることは嬉しかったが、個人的には一歩一歩確実に進んでいくのが好みなのでいささかの不満もあった。それもエレシュの話の続きですぐに消し飛んでしまったが。


『明日からは、ボクが一冊絵本だとか童話だとかを持ってくる。そして、授業中に決めた範囲のキーワードや重要表現をボクが解説するから、復習の宿題として指定した範囲を君の言語に訳してきてね。それを授業の最初に確認して、次の範囲へ、という形で行こう。だから、予習がなくなって宿題が出ることになる。まあそれはともかく、とりあえずさっさと寝て休みなさい』


再びエレシュは快のことをよく考えた行動に移った。授業を生徒に合わせて細かく調節している。果たして今回の調節が細かいのかは議論の余地があるが、快のことをとてもよく考えていることは明らかだろう。


「ありがとう、エレシュ」


「どういたしまして、快。明日も頑張ろう」


早速ウル語で簡単な会話をしたが、


『ごめん、後半なんて言った?』


『明日も頑張ろう、だよ』


どの言語でも大きな壁となるリスニングが快の前に立ちはだかった。初日にリスニング云々は基準がおかしすぎるが、日々の生活で自然と身につくのてあまり心配する必要はないとエレシュは考えている。


「分かった。おやすみなさい」


「おやすみ」


快の背中を見つめる瞳には、朝と同様に期待で満ちていた。しかしそこには明らかに別の、もっと純粋な感情が宿っていた。




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四人全員が自室に戻ると、エレシュはテレパシーの応用で他三人の脳の状況を確認した。


快は流石に疲れからかぐっすりと寝ている。他三人は朝のクローヴィスの言いつけ通り起きている。


ここから、エレシュの能力を媒介として三人による快についての情報交換が始まった。


『先に言っておきますが、ボクのこれは五分程度しか続きませんので早く進ませましょう』


『もちろんだとも。君には今日一日全力で働いてもらったのだから』


低く深い声がやや遠くから聞こえる。一人だけフロアが違うからだろうか。


『私は何もありませんよ。一日中一人でしたし』


今度は近いところから声がした。どこかは不満がありそうな口調だったが、考える暇もなくクローヴィスも特にないと言った。


『それではボクから。今日はウル語を学んでもらいました。そこで、彼には驚くほどの記憶力と理解力を見せつけられました。一週間で進める予定だった範囲を一日で終えてしまい、明日から早速次のステップに入りたいと思います。また、明日の朝はウル語でどんどん話してください。やはり聞き取りの能力は経験不足で全然です。なので、彼のために、彼はいないものとして話してください』


エレシュのスパルタな要求はキチンと受け入れられ、さらにイアンナが続けた。


『エレシュ、私やっぱり怖いの。彼はどこか安心して受け入れることができないの』


イアンナがようやく本心を吐露した。するとクローヴィスが提案をしてきた。


『それなら明日か明後日に魔法でも見せてあげたらどうだい? 彼も魔法に関しては流石に何も知らないだろう? 何より、使えないんだし』


エレシュはイアンナに同意を促した。


『お二人がそう言うのなら……」


その後も少しイアンナの心配を取り除く作業をした。


『すみません、もう時間です。とりあえずはここでおしまいです』




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ある部屋に黒い女性がいた。彼女の装いは大きく変わっていた。黒子がキチンとしたレディーに変わっていた。


彼女は漆黒のドレスに身を包み、主人の新たな指示を心待ちにして、一棟で休んでいた。



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