9.シン都
二人はそのまま外へ出た。快にとっては初めての外の世界だった。
外には多くの人がいた。否、多くの種類がいた。人間や獣人、さらには爬虫類人や鳥人間までいた。大学を回っている間にもしかしたらとは思っていたが、実際に見てみるとやはりかなり驚いた。さらに、いわゆる地竜に引かれた荷物もあり、今更ながら異世界転移を実感した。
『気持ちがわからないでもないけれど、そんなにキョロキョロとしていると怪しまれてしまうよ。まあいいや。よし、じゃあ行こうか。ちなみにここはウル神国の首都、シン都だよ。ここの中心部には閣塔と大統領邸があって、特に裕福な人たちが住んでいる。その周りには少し裕福なくらいの人たちが住んでいる。ちなみにケースリット大学も中層にあるよ。さらにその周りを下層が囲んでいるんだ。下層といってもシン都だからかなり商業が盛んに行われているんだけれどね。だから、中層と上層に行ってから最後に下層で少しお店を見てみてもいいんじゃないか?』
『お店寄るの? お金持ってないんだけど……』
『いや、ボクが持ってきたよ。いつまでもそのへんな服装じゃいられないから、異世界転移祝いとして一式買ってあげよう』
ここはエレシュの優しさに甘えておこうと思い、賛成した。学ランを変な服だと言われたことは困ったと思ったが。
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まず、中層を回った。中層の商店街のようなところでは、主に騎士用の鎧や剣などが売っていた。また、魔法使いのロッドのようなものなどもあり、ファンタジーゲームのショップ感が強かった。
二重らせんの快には関係ないのだが、やはり少し未練が残っていたのでどうしても魔道具屋さんには入りたくなってしまった。
中に入ると、丸い体のお婆さんが出てきた。可愛らしい笑顔で、入店した二人を迎えてから棚の整理を始めた。あまり店員に絡まれたくない快には嬉しい配慮だった。
中世映画風の店の中にはローブや帽子などの衣類やロッド、魔法陣を描いて対象に貼り付けるシールのようなものなど、実用的なものが数多く陳列されていた。
全て一通り見回った後、特に気になったものは黒い万年筆だった。
真っ黒な軸に薄く彫られた細工が施されていた。かなりオシャレな見た目をしていて、文房具マニアだった快はペンを見つけるとすぐさま向かった。
しばらく眺めていると、おばあさんが寄ってきた。何かを言っている。もちろん何を言っているのかわからない。
状況を見てすぐにエレシュが寄ってきたが、何故か快にはすぐには通訳せず二人で話し始めてしまった。理由はしばらくしてからわかった。
『この方が君にこのペンをタダで譲ってくれるとおっしゃっているんだよ。初めて見る顔だからって。ボクも始めてきた時は一番最初に手に取った帽子を譲ってもらったから、反論できなくて。だから快にも受け取る義務みたいなものはあるよ』
『それは申し訳ないですね、でも俺三重じゃないから……』
通訳エレシュが再びおばあさんと話し始める。
何故だか途中からエレシュが満足げに微笑みはじめ、事態はいよいよ訳が分からなくなった。最後にはエレシュが深々とお辞儀をしてしまった。受け取るとでも言ってしまったのだろうか。
『今説明を受けたんだけど、この万年筆には〔永久利用〕と、〔記憶力強化〕の陽魔法が魔法陣で付与されているから二重らせんの快でもしっかり効果を受けられるようになっているよ。ちなみにもう感謝を述べたから返品不可だよ』
いたずらっぽく笑うエレシュを眺めながら魔法陣の効果がようやく分かり、一人で合点し今後のやることリストに魔法陣の勉強を追加してから感謝を述べた。
二人で共にお店を出てから、エレシュが話しかけてきた。
『いいものを選んだね。ボクなんか帽子だよ? 本当にもったいないことをしたよ。それに、記憶力強化が付与されたペンだなんて今の君にとって最も需要があるものじゃないか。あぁー! 羨ましい!』
快も心から自分の幸運に感謝した。エレシュの言う通りこれは今の自分にとってかなり有用なものだった。意匠も凝っていたため元の世界で使っていたシャープペンシルと同じくらい気に入った。早く使いたくてウズウズするほどだった。これなら異世界語も余裕だろう。
『それじゃあ、上層へ行こうか』
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上層は、まさに貴族街だった。江戸時代の江戸城下には各藩の大名屋敷があったらしいがまさにそれだと思った。
上層の中心に見えるのは閣塔だろうか。石造りの塔が堂々と建っている。真下まで行ってみると、すぐ隣には大統領邸があった。
閣塔の入り口はビクともしない扉で閉ざされており外を見上げるしかなかった。所々にどこかで見たことのある物があったが、それはなんと、快の部屋の棚にあった像と同じものだった。
「またかよ、なんだこれ」
快は不快感をあらわにし、足早に大統領邸に向かった。当然のことながら今も人が住んでいる大統領邸に入ることなど叶わなかったが、立派な外観を目に焼き付けることはできた。
目の前に現れた大統領邸は元の世界の国会議事堂の縮小版のような見た目だった。快はぶっちゃけセンスが無いと思ったが、閣塔と並べてみると調和が取れているように見えるので、少し離れたところから見ればおそらく今よりも評価は上がるだろうと思った。
ちなみに、警備に騎士が沢山ついているということはなく二人が門の前に立っているのみだった。しかし先ほど鼠が大学の一棟に侵入できていなかったことから、なんらかの魔法陣が付与されているのかもしれないと思い元の世界よりも随分と便利だと感じた。
道中の左右対称な貴族屋敷もおそらくは同じような対策がとられているだろう。貴族屋敷はまさに圧巻の外観で、中の部屋はケースリットの部屋とは次元が違うことも容易に想像できた。
庭には美しい植え込みや花畑まであり、ぶっちゃけケースリット大学よりここに転移してみたかった、なんて事を快が考えているとエレシュがいきなり貴族について説明し始めた。
『この国の貴族たちは大半が神国の発展に寄与した者たちの子孫なんだ。代表も身体は一つしかなかったからね。簡単にいうと、かつての地方領主たちの子孫だよ』
そんなことから始まり優秀な貴族とそうでない貴族の違いについて語られ、その後の記憶は快にはなかった。理由は全く不明なのだがエレシュは貴族についても事細かに説明した。
それから、上層に店は一切なかった。景観のためなんだとか。快はお店が一切なかった高層マンション群を思い出し、どの世界でも同じようなことをするもんだと思った。
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最後に二人は下層へやってきた。ここは首都の最も外側ということで非常に混雑していた。
大学を出てすぐに目にした人らしき生命体の割合も少し増えた気がする。
町は道沿いに巨大な雑貨屋からカフェ、そして服屋などまさに東京の下位互換だった。快は胸を弾ませながら子どものように周りをキョロキョロと見回していた。
『なんかもっと中世っぽいかと思ってた』
『ここはシン都だよ⁉︎ このくらい栄えていても全く疑問じゃないじゃないか?』
快は内心で納得いかない思いを我慢しとりあえず頷いておいた。しかし本当に服屋が多かった。
『それじゃあ、本題に入って君の服を揃えよう。好きなものを選びなね』
そして、異世界ファッションの勉強が始まった。
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『とりあえずボクがいいと思ったセットを三つ持ってきたから、試着して見せてよ』
早速一番大きなお店に入ったものの、若者たちが多く集まっている棚周辺の服を見てもどれも微妙だったのでエレシュに選択を任せたのだったが、エレシュは案外早く持ってきた。
一つ目。イギリスの作品に出てくる例のあの人のような服装だった。黒で統一され、長いローブが特徴的で、確かにカッコいいといえばカッコよかったがあまりしっくり来なかった。
二つ目。銀色のタイツだった。論外。ここは原宿なのだろうか。
三つ目。フランス革命の絵画に出てきそうな格好だった。ワイシャツのようなものと茶色いベスト、さらにこげ茶のズボン。こちらも気に入ったものの自分に似合うか自信を持てなかった。
一つ目と三つ目で迷っていたので、エレシュの判断に任せることにした。そしてエレシュに答えを聞くと、
『シャツとベスト』
即答された。
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店は新調した服で出ることにされた。学ランはこの世界の感性だと見たことないくらいダサいらしい。実際見たことないのだが。シャツは元から着ていたものも使えるので、毎日洗濯しても問題ない。
『やっぱり新しいパリッとした服を着ると心も正されるな! 払わせるなんて悪いけど、ここは素直に喜んでおくよ。ありがとうね!』
快は本日二度目のプレゼントをもらい、異世界転移初日とは思えない足の軽さで夕焼けを背に美少女と住まうところに帰っていった。
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