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異世界と神とDNA  作者: 夏井 悠
プロローグ
1/93

フィギュアを買った帰りに

彼は陰鬱に嗤っていた。周りには身体が半分蒸発した人のようなものがゴロゴロと転がっている。


彼女は憤怒と苦痛に顔を歪めていた。自分だけは壊されないで目の前の少年と向かい合っている。


彼が何かを愉しそうに語る。その一語一句には、自己の存在意義以外を認めないという彼の傲慢さが溢れていた。彼と彼女の関係を幻想であったと錯覚させるほどの暴力性を孕んでいた。


少年と少女から出たとは考えられないほどの、感情がごちゃ混ぜにされたような聞き難い絶叫がこだまし、空気が完全に凍る。


ふと、先に動いたのは彼女だった。といっても魔力に干渉するだけだが


突如水が彼女の正面に現れた

そして彼は血で咲く彼岸花を咲かせようとして――




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<





「お疲れ様ー」


「お疲れ様でした長田先輩!」

「お疲れ、快」


彼、長田快は急いでいた。なぜなら今日は……


「やっとこの日が来たよ。待っとけ、俺の嫁っ!」


最高品質のフィギュアの発売日だからだ。

土曜日の午前中の部活が終わってから、全速力で最寄駅のアニメショップに向かう。

彼は1日に最低でも2本はアニメを観る高校生オタクだ。


彼のモットーは『人生3回分楽しむ』で、『ガリ勉』『陽キャ』『オタク』の3属性を併せ持つ存在だ。


丘の上にある高校から坂を下り、駅を少し抜けたところにある大きなアニメショップ。

そこについて、舞踏会用のドレスを身にまとった特別フィギュアを見つける。


――ようやくだ!


ついつい顔が緩んでしまう。急いで店員を呼び、購入。

彼の胸を達成感やら何やらが駆け巡る。


そして今、それが入った袋が彼の手に収まった。




開封の儀はもちろんネットカフェで行う。


「おっふ!」


あまりの美しさに頬を紅潮させ悶える。美女がこれをやっていたら様になるだろうが、高校男児がやるからぶっちゃけ気持ち悪い。


その後約1時間の鑑賞会と昼寝会の同時開催を1人で行い店を出る。


「いやあ、地下鉄は近未来でいいなぁ」


なんて、いつも通りの光景にさえ感動し余韻に浸り続けながら駅のホームを歩いていると、


「ぇ、あれ?」


彼は突然の堪え難い目眩に襲われた。自分が立っているのか寝ているのか逆立ちしているのか、全くわからない。


そのまま彼は線路に転落。状況が上手く判断できないままライトが横から差し込み、大きな金属の塊に轢かれ――――





なかった。


時間が止まった。それは、走馬灯などではなく本当に。


時空が歪み身体がバラバラになる錯覚を得た。否、分子レベルでバラバラになった。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




目が覚めた。快は地下神殿の様な暗い石造りの部屋の中にいた。


さっきまでの事を思い出す。


「フィギュア買って帰る途中にホームで目眩がして、それで、轢かれた……?」


しかし身体の感覚は確かにあり、精神世界で感じられるものとは思えない現実感だった。そもそも彼は精神世界に対して否定的だった。


「じゃあここは……?」


その問いに答えるように暗がりの中から一人の無表情の老人が出てきた。

容姿と態度から溢れ出る『賢者』感。それに圧倒されつつも、聞くことはちゃんと聞く。


「すみません。ここってどこですか?」

「死後の世界だったりしますかね?」


老人は無言を貫くが、低い声で何かを要求するでも、責めるでもないその態度から、もしかしたらと希望を見つける。


「できれば帰してほしいんですけど」


理解力が高そうなおじいさんに頼めば返してもらえると、そう思った。


しかし、それは大きな間違いだった。



老人の指が突然目の前に現れ、思わずつむった両目と額に触れたと思った瞬間、


「グッッアアァァーッッ!!」


激痛が全身を走った。蝕んだ。食い散らかした。これなら電車に吹き飛ばされた方がマシだと思った。


全身の細胞が引き裂かれるかのような痛みだった。身体の全てが余すところなく痛めつけられるような、ひどくひどい痛みだった。


痛みはどれくらい続いたのだろうか。たったの30秒だったようにも思われるし、一日中だったようにも感じられる。


しかし、痛みは突然にひく。何の前触れもなく。それとどうじにいしきもひいていく。




<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<




目が覚めた。今度はどういじめられるのか。激痛によって脳は次の危機の事しか考えられなくなってしまった。


しかし視界に入ったのは大きな図書館だった。



どの本の表紙の文字も全く読めない。


「何だよ、ここ」


すると誰かの足音が聞こえてきた。闊歩するかのようなその音にあの老人の足音が重なり、彼はとっさに角の棚の隙間に身を隠した。

上手く隠れたと思った。足音も遠くで止まり、無音が続く。


が、すぐに本当にすぐに見つかってしまった。閉じた目をさらに硬く閉じて痛みに耐えられるようにする。


しかし、脳に飛び込んできた情報は痛覚ではなく――


「¢%^○♪☆¿<×」


「×%°>・=¥」


「は……?何て言ったの?」


音だった。それも、まるで知らない言語を聞いているかのような気持ちにさせた。


「×+*€%×<=×%・×」


『ええと、キミはどうしてこんなところにいるんだ?』




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