2018年1月4日 神様の独り言
いつも私のお話を読んで下さっている皆様、たまたまこの短編を読んでみようと思われた皆様、あと、間違ってこのページを開いてしまった皆様も。
あけましておめでとうございます。
このお話は初詣の前後にお読みする事をお勧めしておりますが、暇つぶしにお読みいただいても一向に構いません。
尚、話中に登場する神様には性別はございませんので、それなりにお読みください。
私は神様である。
神様とは言っても、有名でもなければ偉大な存在でもない。
北海道の片田舎にある小さな神社に祭られている、コロポックルが友達のローカルな神様だ。
そんな大したご利益も与えられない無名の神様だが、さすがに正月ともなればけっこう参拝されている。
現に三が日にお願いされた数は、神様であるこの私のキャパを超えていたくらいだ。
すんません、キャパの小さい神様で……。
今日は1月も4日なので、随分と参拝客もまばらになってきた。
帰省していた人々も仕事の為に都市部へと戻り、来るのは地元在住の人がほとんどになっている。
おっ、また参拝客が来たようだ。いらっしゃいませー。
男で二十代後半ってとこか……つか、願い事言う前に自分の名前と住所くらい言いなさいっての。
どこの誰かも分かんないのにお願い事されても、叶えてあげられないぞー。
まぁいいか。で、お願い事は何? 聞くだけ聞いてあげるから、言ってみ?
なになに……『今年こそジャンボ富くじで一等があたりますように』……。
君ね、そのお願い事ってどんだけ倍率が高いか知ってる? 全国の……それこそ八百万の神様たちが、山ほどそのお願いされてるって分かってる? 私みたいなローカルで力の無い神様がその願いを叶えるのが、どんなに大変な事か……。
ぶっちゃけそういうお願いは、そっち系専門の神様にお願いした方が、確率は高いよ。
やってはみるけどさー、期待しないでね? もしなんとかなりそうなら、住所と名前調べて叶えてあげるから。
私ってなんて親切な神様……。
…………
あ、もう次が来た。
キャパ小さい神様なんだから、もう少し間あけて~。
今度は……夫婦かな?
けっこう年配の男女の二人連れ。いいですなー、穏やかな笑顔で夫婦で参拝、なごみますなー。
で、お願いは何?
『今作ってる不健康な食事が早く効いて、となりのクソ旦那が早く死にますように。保険金が欲しいです』……。
いやいや、そのお願いはさすがに旦那さんが可哀そうでしょ。
ね、旦那さ……『となりの鬼畜嫁が早く死んで、愛人と一緒に堂々と暮らせますように』……。
うん、悪い事は言わないから早く離婚したほうがいいよ。
願い事、変更しておくね。
怖いなぁ~、仮面夫婦……。
…………
今度は大学生男子がきた。
なんで大学生だと知ってるかというと……ふふふ……この私が合格祈願のお願いを聞いてあげたのだよ!
私だって、ちゃんとお願いを叶えてあげる事ができるのさー。
もう三年前の話だけど。
今年のお願いは何かなー。
『今年から【小説家になるぞ】で小説を書こうと思います、人気が出て、ポイントがたくさんついて、出版社の目に留まって、書籍化されて、人気作家になれますように』……。
そのお願い、ここ三年同じだよね……。
お願いする前に小説書こうね。
はい、次ー。
…………
今度は可愛らしい女の子が二人きた。中学生か高校生というところかな?
さっきみたいなしょーもないお願いは勘弁してね。
さて、お願い事を聞こうじゃないの。
『翔馬くんが隣にいる萌奈と付き合わずに、私と付き合ってくれますように』
へぇー、恋のお願いごとかぁー……で、こっちの女の子は?
『翔馬くんが隣にいる優真菜と付き合わずに、私と付き合ってくれますように』
あら? 三角関係?
えーと……ごめんね。半分しかお願い事叶えてあげられないや。
実はその翔馬くんて男の子、元日に彼女と一緒に初詣に来てたんだよね。
『『いつまでも一緒にいられますように』』
なんて可愛いお願い事もされちゃったしねー……という訳で、『私と付き合ってくれますように』の部分は無しね。
ごめんねー。
…………
今度は中年のおじさん。
あれ? おじさん確か、去年本厄のお祓いに来てたよね。覚えてるよー。
『今年一年、無事に過ごせますように』ってお願い事も、ちゃんと叶えてあげたしね。
それで、今年のお願いは何かな?
『去年一年、無事に過ごさせていただきありがとうございます。あと投資でかなり儲けさせてもらいました、ありがとうございます。おかげさまで今年は、春には仕事を辞めてファンタジーのゲームにハマる日々を過ごす予定です。どうか充実したファンタジー三昧の日々になりますように』……。
投資云々の件は身に覚え無いけど、お賽銭に三万円もありがとね。
せっかくだから、今年もお願いを叶えてあげよう。
というか……そんなにファンタジー世界が好きなら、行ってみる? 確かできるよ、異世界転移とか転生とかいうの。知り合いにそのファンタジー世界の神様ってのがいるから、あっちに行けるように話しとくねー。
うん、私ってやっぱり親切な神様……あ、こら、交通安全のお守りは買っちゃ駄目だってば。
…………
親子連れがきた、ワンコも一緒。
神社の中にはペット連れは禁止という場所もあるが……そこは田舎のローカル神社、そんなうるさい人はここいらにはいない。何といってもこの私、神様が許す! モフモフok! カモーン!
コホン! 取り乱しました、失礼。
それで、お願いは何?
『家族みんなが健康に過ごせますように』……。
『家族みんなが笑顔でいられますように』……。
『ことしぼくはいちねんせいになります。ともだちがたくさんできますように。あと、かみさまもともだちになってください』……。
これこれ、これだよー! 私が求めていたお願いってこういうのだよー!
もうさー、年明けてからこっち私利私欲にまみれたお願いばっかりで、いいかげん嫌気がさしてたんだよねー。
よし、叶えてあげようじゃないの! 任しとき!
「ほら、だいふく、おまえもおまいりしろ」
お子様くんがワンコを抱き上げて……うん、ご主人様への思いが伝わってくるね。
君のお願いも叶えてあげよう。
今年もご主人様と、たくさん遊べるよ。
「たかしー、おみくじ引かないのー?」
「いまいくー」
走ると危ないよ、足元は雪で滑りやすいからね。
もう昼時か……しばらく参拝にくる人は途切れるかな。
…………
私は神様である。
神様とは言っても、有名でもなければ偉大な存在でもない。
北海道の片田舎にある小さな神社に祭られている、コロポックルとたかしくんが友達のローカルな神様だ。