◆中学二年・春その三◆
「ほら、かーくんも!」
そう言って俺のTシャツを引っ張ってくる。こうなったらウララの気が済むようにする他ない。
俺は決心して、息を吸い込み声を張り上げた。
「ユウくんママいませんかー?」
声を出すと一斉に周囲の視線が刺さる。
うわ、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか。
「ママー! ママー!」
ユウくんも泣きそうな声で必死にママを呼んでいる。
必死過ぎて俺の髪の毛を鷲掴みでグイグイしちゃってる。
頑張れユウくん、頑張れ毛根たち。
五分くらいだろうか。
突き刺さる視線と、たまに聞こえる「うわ、でか」という呟き、そして頭上で叫ぶ園児の握力に耐えながら声を張り上げていた。
すると「ユウ!」と名前を呼びながら、人混みをかき分けてユウくんの母親らしき人がこちらに駆けてくる。
母親の声に反応して、ママママと連呼して暴れだしたので、危ないから下ろした。危なかったのはユウくん本人と俺の毛根だ。
ユウくんの母親は必死に探し回っていたのか、肩で息をしているが、ユウくんを抱きしめるとそのまま抱っこする。
ウララより少し背が高いくらいの小柄な人(たぶん百五十センチちょいくらい)なのに、結構重いはずのユウくんを何でもないように抱えている。
日差しは温かくなってきたがまだまだ上着がいるような時期に、Tシャツで汗だくだ。
なんか、ほんとご苦労さまです。
ウララと俺にお礼を言うと、幼い息子にもお礼を言うように優しく諭すユウくんの母親。
「本当にありがとうございました。ほら、ユウもおねーちゃんと……、おねーちゃんの……おとうさん(?)にお礼言いなさい」
迷った挙句そっちか、そこは普通におねーちゃんとおにーちゃんでよかったよね。何択で迷ってそうなっちゃったの?
ユウくんは母親に抱っこされながら、恥ずかしそうに呟く。
「あーがと、おねーちゃ、ジャイアン」
もう迷子になっちゃダメだよーっと手を振るウララ、ジャイアンではないが俺も手を振ってユウくんたちと別れた。
俺たちは本来の目的である、映画館へと歩き出した。
今度は勝手に走り出すようなことはなく、俺の左右を動きながら、たまに体当たりしてくる。
ずいぶんご機嫌がよろしいようで。
「可愛かったね」
「そだな、でもあれくらいの子って大変だろうな」
「そうだよー、おかーさんもかーくんが小さい頃は大変だったんだって」
ちなみにウララがいう『おかーさん』とは、俺の母親のことだ。ウララは自分の母親のことを『ママ』と呼ぶのでゴッチャにはならない。
なんでそう呼ぶようになったかと言えば、まあそれは今はいいか。