◆高校一年・梅雨その二◆
「と、とにかく、念のため荷物を確認させてもらっていいかい?」
ほらきた。結局こうなるなら潔くさっさと見せてしまえば話が早いのだろうが、こちらとしてもあのブツが鞄の中にあるので説明が面倒くさい。
しかしこうなっては諦めよう。
俺はいつもの様に学生カバンを肩から下ろし、ファスナーを開いた。あとは前もって説明すれば大事にはならないだろう。
なんて油断をしてたら、開いたファスナーの隙間からハゲロンゲこっちを見ていた。まるで生首が入っているかのような状態に一瞬ビクっとなってカバンを落としてしまった。
カバンの開かれたファスナーから、白い粉状のモノがファサーっとアスファルトに散る。
「白いっ!!」
「粉っ!?」
警官二人が驚愕の表情で、一単語ずつ口走る。
待て待て待て、誤解なんだ!
「ちがっ、こりゅは!」
焦って説明しようとしたら舌噛んだ。
その間にも警官の一人が無線で応援を呼ぶ。
「これ、しお! 清めの塩だから!!」
□□□
俺は塩原海斗、高校一年生だ。
我が家は代々見える家系なのだが、それを実感したのはばーさんの葬式だった。
なんせ、葬式の総指揮をしていたのは当の本人だったのだからだ。葬儀屋はここ、遺影はこの写真、葬式を取り仕切っていたのは全部ばーさんだった。実働は親父たちだったが、ばーさんは満足した顔で旅立っていったっけ。
それからは、はっきりしなかった生物と霊の違いがなんとなくわかるようになった。
用事を頼まれたり、成仏するための手助けなんかをしたこともあったが、今のようにワラワラと付きまとわれることなんてなかった。
理由はわからなかったが思い当たる節はあった。たぶん、あいつのせいだろう。俺の周りで起こる面倒くさいことのほとんどがあいつのせいだったんだから。
桜木麗は、俺の幼馴染の女の子だ。背が小さいのを気にしていて、ドジっこで、そのくせ困ってる人を見過ごせないトラブルメーカーなのだ。落ち着きがなくて、感情表現が全身で飛んだり跳ねたりするようなやつで、笑うと笑窪ができる。
そんな幼馴染に、想いを寄せ始めたのはいつ頃からだっただろうか。これと言ったキッカケがあった訳ではなく、いつも一緒にいたから気付いた時には目で追うようになっていたと思う。
なぜ面倒事はいつもウララのせいかと言えば、あいつの困ってる人を見過ごせない精神に起因している。
自分でどうにかなりそうなら何も言わずに駆けて行くのだが、自分一人でどうにかならない場合は俺にも手伝わすのだ。
面倒なら断ればいいって?
それが出来れば苦労しないっての。
そんな事を考えながら寝たもんだから、懐かしい場面を夢で見た。あれはたぶん中学二年生の映画を見に行った時の事だ。