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1章-4 「酒と泪と男と女」


 ロジャー達はカルチェの街につくと、酒場は深夜にも関わらず煌々と光り、存在感をアピールしてた。

 カルチェの街はバイカル国の首都に近く、行商人もそれなりに行き来しており、かなり栄えていた。


「この酒場に来るのも久々だな!」


 ここら一帯で有名人であるロジャーが街に来れば、盗賊が街に襲撃に来ただの、それはもう大騒ぎになる為、ロジャー達が街に来ることは最近殆ど無かった。

 ガチャりと、酒場のドアを開け、ロジャーを先頭に酒場へ入る一行。

 そして中に入った瞬間、沢山の酔っ払いから一斉に好奇の目を向けられるロジャー。

 それもその筈、こんな時間に酒場にいるのは男達が殆どで、少女それも飛びっきりの美少女が入って来たのだ。騒がしかった酒場内が一瞬静まり返ったのも無理はない。そんな事を気にも止めず、空いているテーブルに座るロジャー。

 マタリだけは周りの視線を気にしつつ、早足に席につく。


「ダークラム4つだ!」


 ロジャーは席に着くとすぐに、整えられた髭が良く似合うロマンスグレーの店主にオーダーを通す。

 その間も他のテーブルの客はロジャーに声をかけようとする者がいたが、強面のロビンとウブルに一睨みされると視線を外して呑み直すのであった。


 暫く待っているとダークラムのショットが4つロジャー達の机に運ばれてきた。


「じゃあ乾杯と行くか!」


「そうっスね!頭のだつご…ぐがぁ!」


 そうロビンが言いかけた所で、ウブルの踵がロビンの足に炸裂する。


「余り迂闊な事は、お控え願えますかな?」


 そう言い、ウブルはロビンを律した。こんな所で脱獄だのと話せば、領主等に通報され、御用となる可能性があるのだ。

 そして無難に乾杯を済まし、ロジャー盗賊団のこれからの身の振り方を話し合う4人。


「まずは当面の金だが…お前ら今の手持ちはどれ位だ?」


「私は20000グラ程ですかね。」

「オレは2000グラ程っスね…。」

「俺は5000グラ程ですね。」


 グラとはこの国での通貨で、ダークラムが1杯500グラ、安宿素泊まりが2000グラ程度の物価である。

 いつ返り討ちに合い、殺されてもおかしくない盗賊稼業。ロジャー含め、宵越しの銭は持たない者が多い盗賊達は、大した金を持ってはいなかった。


「全員合わせて30000グラ弱かぁ…。当面の問題は生活費だな…。」


(だが今はクソビッチの呪い?の効果がどんなものか把握していない。俺の力がどうなっているのかがハッキリとする迄は、当分は盗賊はできない。)


「金策については私の方でも動いて見ましょう。」


 そうウブルが切り出した時だった。酒場の扉が荒っぽく開き、4人程の男達が入って来た。


「邪魔するぜ!!」


 そう言って入って来たのは、スキンヘッドに濃い髭面の身形みなりの良い男だった。

 そしてその男が入って来た瞬間、あからさまに嫌な顔をする店主と客達。どうやら街では有名な男らしい。


「何の様だ?アンブレ。お前んとこの酒は買わないって前も言ったはずだが?」


 店主はそう言い、アンブレ達を追い払うように手を払う。


「おいおい、そんな邪険にするなよ?今日は客として呑みに来てやったんだ、部下と一緒にな!」


 そう言ってアンブレはカウンターの店主の前に、引き連れた部下と一緒に座る。その際ロジャーの方を一瞬見て、厭らしい笑を浮かべた。


「一番キツイ酒をくれ!」


 店主は客と言われては対応せざるを得なく、アンブレ達にショットグラスを出し、ダークラムを注いでいく。


「おいおい、俺は一番キツイ酒って言ったんだぜ?あっちに座ってる姉ちゃんが飲んでる様な飲みもんが、この酒場で一番ってのか?それならウチがとびっきりの酒を卸してやるよ!」


 そう言って部下と馬鹿笑いするアンブレ。アンブレは商人をやっており、客の居る前でその店の商品にあやを付け、自分達の商品を無理やり買わせるのがアンブレ商会の手口であった。


「だったら試して見りゃあいい。」


 ロジャーはアンブレの不快な馬鹿笑いに水を指す様に、言い放つ。ロジャーはこの様な狡い、女が腐った様な嫌がらせが嫌いだった。

 元々盗賊も、最後まで立っていたものが互いの有り金を全て貰い受ける、という博打にも似た考え方が好きだったのだ。所謂脳筋である。


「おう、いいぜ。姉ちゃんも付き合ってくれるんならな?」


 待ってましたとばかりに、厭らしい笑を浮かべてアンブレが答える。


「あぁ、いいぜ。ただし、ただ一緒に呑むだけってのもつまんねぇ。飲み比べといこうか?」


 ロジャーのこの発言に対し、アンブレは驚き、横の部下と顔を見合わせる。

 そして次の瞬間部下と同時に笑い出した。


「こりゃいい!見ねえ顔だなと思ったら、とんだ世間知らずのお嬢様みてぇーだな!よし、いいぜ!で、賭け銭はどうする?」


 アンブレは主に酒を扱う商人で、趣味が先か稼業が先か、この街一番の酒豪で有名だったのだ。

 その事を当然知っている他の客と店主は、気の毒そうにロジャーを見る。


「生憎だが大した金は持ってない。」


 賭ける金を見せろと言われればそれ迄だ、ここは正直に答えるロジャー。


「だったらよぉ。姉ちゃんを朝まで好きに"使わせて"貰うって事でどうだ?」


 そう言ってアンブレは、下衆な笑を浮かべる。


「ああ。いいぜ。」


 何と即答である。流石にアンブレもここまで上手くいくとは思わず、一瞬驚いたが、

ここまでの上玉を好きに出来るチャンスなど、一生に一度もないであろう、ニヤけ顔が止まらなくなっていた。


「じゃあ俺が勝てば、今晩ここにいる奴全員の奢りだ。」


「あぁ、好きにするといい。」


 正直アンブレはロジャー側の条件など、どうでも良かった。朝までこの胸を好きに出来る。もうその事で頭が一杯であったのだ。

 まかり間違っても、自分がこんな小娘に飲み比べで負ける筈が無いと、そう鷹を括っていた。

 そしてロジャーとアンブレはお互いカウンターに並んで座り、店主がダークラムのショットを並べる。

 他の客はと言えば、全員総立ちで二人の勝負を観戦していた。この街は娯楽が少なく、人々は娯楽に飢えていたのだ。

 しかも、勝負はあの大酒豪アンブレと美少女の飲み比べだ。もう既に観客の中には、どっちが勝つかで賭けを始めている者もいた。本命は勿論アンブレだが、面白半分でロジャーに賭ける者も居た。

 そして、観客のベットが一段落した所で、ロジャーの5杯目のショットがカウンターに置かれる音が響く。


「こんなショットじゃ拉致があかねぇ。マスタージョッキに代えてくれ。それとダークラム、樽ごと持って来な!!」


 ロジャーの発言とまだ見ぬポテンシャルに、後ろの観客は大盛りし、ロジャーへの声援が響く。


 いっけー!嬢ちゃん!

 タダ酒期待してるゼー!

 アンブレ何か蹴散らしちまえー!


「くっ…!」


 面白く無さそうにロジャーから数秒遅れて、5杯目のショットをカウンターに置くアンブレ。

ギャンブルにおいて、観客の応援というのは精神面で非常に大切であり、それを自分が勝った時の報酬という形で観客全てを巻き込んだロジャーは、勝っても観客にメリットが無いアンブレと違い、精神面でかなりのアドバンテージを得ていたのだ。



 そしてダークラムがエール用のジョッキに変更されてから、11杯目のジョッキをロジャーがカウンターに置いた時、異変が訪れた。

 酒場にガラスの割れる大きな音が響いたのだ。アンブレがジョッキを持ったまま、カウンターから崩れ落ちたのであった。

 涙、涎、鼻水、諸々を垂れ流しながら無様に床に倒れるアンブレ。そして勝利宣言とばかりにジョッキを高く掲げるロジャー。


 その瞬間、深夜にも関わらず観客も店主も大騒ぎし、みんな自分の事の様に喜んでいた。


 飲み比べは一見すると、量を競い合う行為に見えるが、酒豪同士の場合は早さと精神面が重要になってくる。

 だが、常にロジャーに先にグラスを空けられ、それを観客に揶揄されるアンブレは、無理やりロジャーのペースで飲まざるを得なく、さらに自分より早く飲み終わるロジャーに対し底知れぬ恐怖を感じていたのだった。

 その結果、本来この程度の量で倒れたりはしないアンブレが、このざまであった。


 いつもならとっくに客も少なくなり、そろそろ看板を降ろす時間だが、今日の酒場はまだまだそんな気配を見せなかった。


活動報告にも書きましたが、酒場編が次も続きますので、次週は2話投稿します。

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