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1章-3 「矜持とガーターベルト」☆


 何度か休憩を挟みつつ、3時間程馬を走らせると、数日ぶりのアジトが見えてくる。アジトは林の中の広めの洞窟を改造した造りになっており、その入口の前には15人程の団員がロジャーの出迎えの為、待っていた。


「テラグア。遅かったな。」


 そう切り出したのは、集団の先頭に居たアーロンだった。アーロンはダークブラウンの短髪に紳士的な口髭が似合うロジャー盗賊団の上級幹部だ。剣の腕は団員の中でも3指に入る腕前だ。


「で、お頭はどうした?それと、そいつは誰だ?まさか…その女を攫っててへましたんじゃないだろうな?」


「ち、違うぜアーロン。オラはヘマはしてねぇ。お頭はこの通り脱獄させてきたんだからなぁ!」


 そう言ってテラグアはロジャーを指す。ロジャーは指名に答える様に、前へ出ていく。夜風にロジャーの銀髪が靡き、キラキラと月夜を照らす。団員達は見た事も無い美少女の余りの美しさに息を飲む。そしてこれまた見たことの無い大きさの胸に生唾を飲む。

 そんな中アーロンは、冷静にテラグアの言葉に反応する。


「おいおい、テラグア。ついに頭がイカれちまったのか?」


「ち、違うんだ。これがお頭なんだ!オラもビックリしたんだけどよぉ、この娘がお頭なんだよぉ!」


 そうして盗賊団一同がざわつく。


 何言ってんだ?

 有り得ないだろ…。

 かわいい…。

 でけぇ…。


 そしてロジャーがざわめきを破る様に口を開く。


「アーロン。お前と初めて合ったのは、盗賊団同士の抗争でだったな。お前がアーロン盗賊団の頭をやっていた時だ。うちとの抗争中、お前が一騎討を挑んで来た時の一戦は今も鮮明に覚えている。あれは激ったなぁ。」


 またもざわつく盗賊団一同。


 アーロン盗賊団がロジャー盗賊団の傘下に入った時の事か!?

 まさか本当にお頭なのか…?

 かわいい…。

 でけぇ…。


「で、俺に負けた数日後、お前は護拳の裏側にロジャー盗賊団の団印を焼き入れたサーベルを見せて、

『これは今後アーロン盗賊団がロジャー盗賊団に刃を向けないという意味の印だ』

そう言って、俺に見せてくれたよな?」


 これはロジャーとアーロンしか知り得ない情報だった。


「……確かにこの剣にはその焼印がある…。」


 さらにざわつく盗賊団一同。


 アーロンさんが認めたぞ!?

 あの娘がお頭…?!

 かわいい…。

 でけぇ…。


 一部関係ない声も混じっているが、概ねこの少女がロジャーである事は伝わった様である。


「だが、お前が本当にお頭であろうがなかろうが、俺は俺より強い奴にしか従わん。」


 アーロンはそう言い放ち、サーベルを抜く。


「まぁお前ならそうゆうと思ったよ。」


 ロジャーは手前に居た下っ端の盗賊を一睨みすると、下っ端は慌てた様に自分のカトラスを差し出した。歳は15歳程に見えるその少女の瞳からは、まるで幾千もの死地を乗り越えて来たかの様な覇気が感じられたのだ。

 ロジャーは下っ端から受け取ったカトラスを手にし、感覚を確かめる様に握り締める。


(テラグアとの組手で分かったが、力が大分落ちてるらしい。ここは高レベルの剣技ダブルスラッシュで一気に決めるか…。)


 ロジャーの元々の剣技はレベル7であり、アーロンはレベル6である。剣技レベル7で覚えるダブルスラッシュは、一撃目と同じ場所に追撃を発生させる強力なスキルだ。さらに、他の剣技とも併用可能である為、非常に使い勝手が良いスキルである。

 そして暫くお互い睨みあった後、アーロンが上段に構え、ロジャーに向かって踏み込んだ。その一撃をロジャーは危なくなく交わし、すぐにアーロンの後ろをとり、アーロンの背中を狙い斬り下ろす。ロジャーの想定外のスピードに驚くアーロンだが、咄嗟に身体を捻り、手甲を振り上げロジャーのカトラスを受ける。


(ここでダブルスラッシュだ!こんな小娘の斬り下ろしなんて、手甲で受けれると思っているんだろうが、こっちにはダブルスラッシュがある!)


 そしてロジャーのカトラスがアーロンの手甲を斬り付け、ダブルスラッシュが発動…!しない!

 逆にロジャーのカトラスが手甲に弾かれ、宙を舞ったのだ!


(な、何でだ!何でダブルスラッシュが発動しない!まさか剣技スキルまで無くなってるのか…!?)


「勝負あった様だな…。」


 アーロンがサーベルを収めながら言い放つ。


「だったらこいつはあっしが…。」


 そう言って下衆な笑を浮かべた奴隷係のザニアが前へ出る。奴隷係とは捉えた娘を調教し、奴隷商との交渉をする係だ。


「ちょっと待って下さらんか?」


 ロジャーとザニアの間に入る様にしてウブルが言った。ウブルはロジャー盗賊団最年長の白髪の髭が良く似合う先代からの幹部だ。主に工作、交渉を得意とする。


「さっきのアーロン殿との戦いを見せて頂きましたが、紛うことなき若様の太刀筋でした。アーロンも戦ってみてどう思われましたかな?」


「…確かに太刀筋はお頭に似ていた。だが重さ、技術共に前のお頭には遠く及ばない。」


「ほっほっ、そうですな。確かにそこは異なる様ですが…。」


「兎も角俺は自分より強い者にしか従わない。悪いがロジャー盗賊団は抜けさせてもらう。」


 そう言ってアーロンはロジャーから背を向け歩き出す。


「「ま、待ってくださいアーロンさん!」」


 それを見てぞろぞろと下っ端達もアーロンに着いていく。元アーロン盗賊団の部下達は全員付いて行く様だ。


「私は先代より、若様の補佐をする様に仰せつかっております故、若様が居る場所が私の居場所です。」


 ウブルはロジャーに向き直り、ちかう様に言った。


「オレも頭に付いて行きますゼ!」


 そう言ってロビンがロジャーの前に出た。ロビンは元海賊で、漂流した所をお頭に助けられ、そのまま入団した。若いながらも剣の筋は良く、お頭に対しての忠誠心は高い。


「オレが漂流しても愛刀を離さず持っていたのを”大した胆力だ”って言って褒めてくれたのは忘れないっス!あれはオレの禄でもない人生の中で初めて認められた瞬間っス!」


「ロビンか!お前は筋がいいからな、助かるぞ。」


 そう言ってロジャーはロビンの肩を軽く叩く。ふとウブルの方を見るとロビン達と違い、今のロジャーには付いていけないとばかりにアジトに戻っていく団員達に、冷ややかな視線を送っていた。


「さて、これで全部か…。」


 そう言ってウブルとロビンの方へ向き直り、銀色の髪を靡かせる。月に照らされ輝くその髪は、どこか妖艶な美しさがあった。


「お、俺も付いて行かせてください!」


 最後に名乗りを上げたのは、食事係のマタリだった。マタリは背が低く小太りで、元商人の三男という少し変わった経歴を持つ。


「おぉ!マタリか!お前が来てくれるんだったら食事には困らないな。」


 そうして最後の名乗りが終わった時、100人以上居たロジャー盗賊団はたったの4人になっていた。


 4人は一旦アジトの中に戻り、一旦別れ各自準備を整える。


「流石にこの服は着替えたいな…。」


 ロジャーは囚人服を掴みながら、過去に商人や冒険者から奪った戦利品を物色する。

とは言っても既に先にアジトに戻っていた者達に物色された後で、余り大した物は残っていなさそうであった。

 しかし、盗賊団は殆どが男で構成されている為か、女性物の防具はそれなりに残されており、その中に女性用のキュロットとチューブトップとニーソックスを見つける。


(助かった。こいつは使えそうだ!)


 しかし、問題はニーソであった。単なるニーソであれば靴下の延長上という言い訳で穿けたかもしれないが、これはガーターベルトとセットになっている魔法武具であった。

 魔法武具とは、装備しているだけで全身に効果を及ぼし、耐性強化やステータスの底上げができる武具のことを言う。

 そして魔法武具の中には、このニーソの様に特定の武具とセットで装備しなければ、効果が発動しないものがある。


(お、俺がガーターを穿くのは…!だが、魔法武具は捨てがたい…!)


 さらにこれは黒ガラス繊維で作られており、魔法武具の中でも高価なものである事が伺われた。

 盗賊を行い金品を巻き上げた後は、闇商人に売り捌く必要がある。その際に自身に鑑定眼がなければ、せっかくの戦利品も二束三文に買い叩かれてしまう。その為、ロジャーには商人並の鑑定眼があったのだ。

 しかし、ガーターベルトを穿いて仕舞えば男としての矜持を失ってしまう。ロジャーはそう考えていた。

 だが、テラグア、アーロンとどちらも元々格下の相手に、全く手が出なかった事を考えると、「これから生き残っていけるのか?」という疑問があった。

 この世界は街の移動だけでも大型の狼、猪、さらには魔獣と、生命の危機を脅かす脅威が蔓延している。

 ロジャーは今は少しでも生存率を上げることが大事だと考え、羞恥心を捨て、ニーソとガーターベルトを装備するのであった。


 そしてロジャーは男の矜持との戦いに決着を着け、ウブル達と合流する。


「よし、揃ったな。取り敢えず街を目指すぞ。まずは3日振りの酒だ!」


 そう言ってロジャーは、自身の格好の事に対し、ツッコミを入れさせない様に矢継ぎ早に目的地を告げるのであった。


 微笑ましく見守るウブル。

 あまりの変わり様に驚くロビン。

 頬を染め、見とれるマタリ。


 各々はロジャーに対して様々な感想を抱きながら、街を目指すのであった…。


 しかし、ロジャーはこの時気が付かなかった。ロジャーの特異体型に合うチューブトップが、都合良くアジトに落ちているという不自然さを…。






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【現在のお頭の装備】

ホワイトメタルのカトラス(ATK+)

布のマフラー(DEF+)

スノーラビットのチューブトップ(DEF+、RES+、水氷耐性+)

布のキュロット(DEF+)

黒ガラスのニーソックス&ガーターベルト(DEF+++、AGI+、疲労軽減+)

炎狼のブーツ(DEF+、脚部炎耐性+)


挿絵(By みてみん)


<補足>

魔法武具:その部位以外にも効果

例)スノーラビットのチューブトップ、黒ガラスのニーソックス&ガーターベルト


属性武具:効果は武具の範囲のみ

例)炎狼のブーツ


HP:体力値(0になると死ぬ)

MP:魔力値(0になると魔法は行使できない)

ATK:攻撃力(武器のATKとSTRに依存)

STR:力(武器を振るう為の力)

DEF:防御力(防具のDEFに依存)

AGI:敏捷性(物理、魔法攻撃の回避に影響)

RES:デバフ系の魔法抵抗力に影響(攻撃魔法の抵抗力には影響しない)

 今回主人公の初期装備イラスト公開です。こんな感じで主人公が装備を変更する度にイラスト更新していく予定です。(ドM企画…)


 次回、お頭酒場で大暴れ!?

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