第四話「君は全く話を聞いていない」
先生サイドのお話。
私は明石和成。まだまだ未熟な助手を傍らに、探偵をしている。警察の方から事件を事前に防ぐために呼ばれたのであった。相手は怪盗。怪盗が関わるとなると、決まって呼び出されるのだ。有能である探偵を使いたがるのはよくわかるが、少しは自分で考えることをしないのだろうか。
「……でかけるぞ……まったく、君は全く話を聞いていないな」
「へ?」
「その間の抜けた声、聞こえていなかったのだろう」
「うえぇ……」
「ならば先ほど私が言ったことを言ってみろ」
「え、あの……その」
「また怪盗が現れたから出かけるぞ、と私は言ったのだ」
「え! またですか? 私も行きます! 行きます行きます!! 行かせてください!」
「また君は駄々をこねて。そんなんじゃ連れて行かないぞ」
もし連れて行って迷子になってしまったら困る。
「そんな! せんせぇー私も連れて行ってくださいよ! 私、絶対役に立ちますから!」
「まずはその無駄な自信を無くせ」
ぽんぽんと頭を叩く。その無駄な自信が命に関わることもあるのだ。自分から首を突っ込んで、抜け出せなくなったらどうする。私が助けなければならないではないか。
「頭を叩かないでください! 脳細胞が死んじゃう!」
「はっ、君の脳細胞なんか既に半分は死んでいるだろう。空っぽだ、空洞だ」
その空っぽな頭だからいろいろなことを考えるのだろう。隙間を埋めるために。
「死んでいたら困りますし、空洞じゃありません! ちゃんと入っていますよーだ」
「きっと埋まっているものはガラクタだろうな」
「なっ! それはひどいですよ」
「どうだろうか」
「それより、やっぱり連れて行ってくれませんか? 気になります……」
やめておくれ、そんな目をするのは。いつもの元気さを失った潤んだ瞳で上目遣い。いつの間にそんな技術を身に着けた。
「それで、先生。今回の事件はどうやって解決するつもりですか?」
「……君には少し難しいかもしれないな」
「それってどういう……」
私はいつもの口癖を言った。
「答えは自分で見つけなさい」
そうではないと、楽しみがなくなってしまう。答えは自分で見つけるべきだ。何に関しても、知る喜びは何事にも代えがたいものである。
ほらまた君は深く考えこんでいる。まだわからないのか、このポンコツめ。考えている間も表情がころころと変わる、そこは面白い。しかし、言動も行動もうるさい。もう少しスマートにできないのか。
「ええい、早く現場にいくぞ」
「はいっ!」
嬉しそうに笑顔でついてくる君はまるで犬のようだ。しっぽをぶんぶん振っているのが容易に想像できる。
「君は犬のようだな」
「犬ですか? 私、どちらかというと犬よりも猫のほうが好きですよ?」
「そら、一回ワンと鳴いてみろ」
「ワンッ!」
「ほら、犬じゃないか」
「そんなっ!」
騙されやすいのか、素直なのか。それとも天然なのか。まったく理解ができない。移動中もさんざん「私は犬じゃありません! 猫ですよ、猫。にゃーん」だとか「私そんなに犬っぽいですかね……」だとか、独り言なのか私に向けて言っているのか、何かをぶつぶつとつぶやいていた。
「着いたぞ」
「先生、ここが例の脅迫状が来たお屋敷ですか」
珍しく真剣な顔をしているではないか、感心だ。
「脅迫状が来たなんて言い方はあまり正しくはないな。届いたが正解だ。しかし、脅迫状はあっている。よって50点」
「言葉使いで減点されちゃうなんて、ショックです……」
「君はもう少し日本語を勉強したまえ」
「もう十分勉強していますよ。これでも高校生です!」
「私よりも生きている年数が違うだろう。まだまだ、勉強不足だ」
「だから頭をぺちぺちしないでください」
君はまだ若い。高校生なんぞ、もうとうの昔に終えている。まだまだ、若いのだ。その分、学べることはたくさんあるだろう。たくさんのことに挑戦し、経験することによって知識やこれからの生きる術を獲得してくことができるだろう。私はまだ遅いというわけではないが、以前よりも記憶力が落ちているようにも思われる。もっと学んでおくべきだったものはたくさんある。その後悔を君にして欲しいとは思わない。せめて、後悔のない人生を送ってもらいたい。
君をつれて歩くことは君の経験を作り出すこと。
私にも考えがあって連れて行くのだ。
次回も先生サイドのお話にする予定です。