第二話「そんなこと説明しないで、きっかけを語りなさい」
彼女がどのように捕まったのか、明らかになります。がんばれ助手ちゃん!
いやいや、先生のことが大好きだなんて告白しても本人には届いてないよ、私。早くここから抜け出さないと。
そういえばどうしてここに連れてこられたんだっけ。記憶をたどってみる。
確か、先生に連れられてお屋敷まで来た。
「先生、ここが例の脅迫状が来たお屋敷ですか」
「脅迫状が来たなんて言い方はあまり正しくはないな。届いた、が正解だ。しかし、脅迫状という点はあっている。よって50点」
「言葉使いで減点されちゃうなんて、ショックです……」
「君はもう少し日本語を勉強したまえ」
「もう十分勉強していますよ。これでも高校生です!」
「私よりも生きている年数が違うだろう。まだまだ、勉強不足だ。甘い。君の頭は砂糖菓子か何かなのか」
「だから頭をぺちぺちしないでください」
先生は噂によると30歳くらいだとか。私はまだ17歳。この年の差を埋めることはできない。どうやっても無理。
そんな茶番の後、お屋敷の広間にお邪魔して、誰が誘拐される対象なのかを確認した。その子は10歳。小学生の女の子だった。「名前は?」と聞くと少し怯えた声で、「鈴」と答えてくれた。誘拐されるのが怖いらしい。いきなり誘拐するぞ、なんて脅されたら確かにとても怖い。どうにかして安心させなきゃ、と何が効果的なのか考える。私がいつも持っている物は、とポシェットの中を確認する。
「あ、そうだ。飴、食べる?」
「飴?」
「うん、おいしいの」
「食べる!」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
少し笑顔になってくれた。緊張はほどけただろうか。先生は何やら警察の方とお話になっているようで、私のことは気にかけていないだろう。少しは気にしてほしいですが。
「おねえちゃん、あのね」
「ん? どうしたの」
「秘密の抜け道があるの。警察の人が知らないところに」
「本当?」
「本当。おねえさんにだけ教えてあげるね」
「ありがとう」
秘密の抜け道。私はわくわくしながら、鈴ちゃんについていった。
鈴ちゃんは広間から、廊下に出た。階段を上って、二階に行く。そして廊下の壁のすこし窪んだところをぐっと押した。ずずずっ……と音がして、人間が這えば通れるような道ができた。中は薄暗く、懐中電灯でもあれば、明るくして通れるように思える。懐中電灯は、いつも持っているポシェットに入っている。
「よし」
「おねえさん、とても暗いけれど大丈夫?」
「大丈夫! 懐中電灯あるから。でも、私がもし帰ってこなかったら、探偵の先生に伝えてくれる?」
「うん。絶対伝える」
「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」
そうして私は勇ましく道を進んでいき、そして帰ることができなくなった。
暗い道を懐中電灯で照らしながらゆっくり進んでいった。壁を伝いながら迷わないようにマスキングテープを壁に貼り付けて、先生が探しにきたらわかるようにしておく。そうしておかないと先生が怒りそうだから。どうして目印をつけておかないって、怒られてまた頭をぺちぺちされちゃう。
「さ、進みますよーっと、って、きゃー!!」
どうやら落とし穴に落ちたようです。さっきまで落ちる気配なんてなかったのに。
あぁ……先生これだめなパターンです。意識が、すぅっと消えて遠のいていきます。
気がついたら、冷たいコンクリートの上。と思った。真逆です。ふかふかの絨毯の上でした。
「お目覚めかな、かわいい探偵さん」
「あなたは、誰」
「僕? 君たちが敵視している者だよ」
「怪盗さん、ですね」
「あぁ、そうだよ」
「どうして私を捕まえたのですか」
「それは、教えてあげない」
声と体が震える。聞き出さなければと思うのに、声が出ない。怪盗を目の前にして、何をされるのかわからない恐怖に襲われている。
「震えてるね、僕が怖い?」
「こ、怖くなんか……」
「ふふ、探偵の先生、来ると思う? 僕は来ないと思うよ。君の残した証拠は全部回収させてもらったし、でもちょっとだけヒントを置いてきたから助けてくれるかもね。安心して、あの子には危害を加えてないよ。それに誘拐をする気もない。君を誘拐できただけで十分さ、先生を困惑させるためには、ね」
言葉も出ない。困惑? あの先生が、困惑するなんて、ありえない。
「じゃあね、かわいい探偵さん。せいぜいそこで悩んでみなよ。出口はきっとあるから」
「まって、どうして出口があるって伝えるの? あなたは私を拘束したいのでしょう?」
「それはね……」
――君のことが、興味深いからだよ。
そう言って、彼はどこかへ消えてしまった。「君のことが興味深いから」とか、先生が困惑するとかいろいろと頭から離れない。それよりも、証拠が全部回収されたってことは確実に怒られちゃうってことですよね。
私は落胆した。
読んでいただき、ありがとうございました。次回も気まぐれに投稿していきます。