第六話 トンネルが吠えた - 4 -
「ふぅ」
「ちょっと、なんてことするの」
「しょうがないだろ、アッチがぶつけに来たんだから」
車は、か細い道を走っている。まだ町の灯は見えない。けど少し道幅は広くなった。
「こちら遊撃手、カワセミ指令どうぞ」
「カワセミ指令、状況を報告せよ」
「よくもまあ平気に言うな・・・定点通過した。応援頼む」
「カワセミ指令、中継点応援連絡済みです」
星海さんは業務無線機のマイクを切った。
「もう、変な車来ないですよね」
私が念を押すと。
「わからんナー」
星海さんは、事態を考えているのか考えていないのか、運転をしていた。
十字路を曲がって、太い道に出る。前を照らしているライトだけではわかりにくいが坂道を登っていく。
「ずいぶん平穏だな」
星海さんがふとつぶやいた。
「平穏っていいことでしょ。普通は」
そう言っても。わたしがそう言っても。いやだまると私も不安になる。
伊之助が黙っているのも不気味だ。あいつは、動物的カンみたいのがあるのか、静かになっているときは何かが、あるような気がする。
そんな気ないほうがいい。
坂道を登りきると、大きな橋を渡った。湖いや、ダムなの。車の交通量はほとんどない。そういう。ところなのだろうか。
「なにか、いないか」
伊之助がつぶやいた。
「いないでしょ」
私がそういうと。
「いるっ」
星海さんはボソっとつぶやいた。
周辺はお土産物屋だろうか。営業時間が終わり、灯が消えているのがほとんど。その向こうにトンネルが見える。
<<<フォンッフォッンフォォォォォッ>>>
トンネルが吠えた。トンネルからの雷鳴。
エンジンの雄たけびが響いた。
<<<<<<キャァァーーーイィィィィィッ>>>>>>
<<<ズォオオオオオオッ>>>>>>>>
「あっわっ、来た」
「落ち着いてよ伊之助」
「正面、向いてる」
「バカ、しゃべるな」
「星海さんどうすんの」
「二人とも、しゃべるな。舌かむぞ」
真正面に、まぶしい光。眼が見えない。とその時。
<<<ズアァァァァッ>>>
直前で星海さんは右側のわずかな車線にでて交わした。
こちらはトンネルに突っ込む
背後で
<<<キャアィィィィィッ>>>
<<<フォン<<<フォン<<<フォォォオオオオッーー>>>
「うっ後ろ」
「解っておる」
星海さんはそう言うとハンドルとシフトレバーと足を連動させ車にカツを入れた。
「近づいてるどぉするの」
「お嬢さん、逃げるしかないですよって」
「よくそんなこと言っているわね」
トンネルを抜けた。
ちらと後ろをみた。車体は黒。黒くてライトがポンと出ている。とがっている。小さいけど、なにか《とても速いんです》そんな雰囲気が全体から出ている。
<<<<クォォォォォォォッ>>>
後ろの車のほうが速そうな済んだ甲高い音を立ている。
こちらの車は
<<<<ブォォッンォォォッ>>>
本日頑張っていつもより余分に回しています。そんな音だ。
「こちら遊撃手。カワセミ指令、応援まだか」
「応援手配してます」
「その言葉信じるぞ」
信号を曲がる。
<<<<ずぁぁぁーーっ>>>>
体がもっていかれるような感じだが、車体はズンと路面を蹴り飛ばしている。
後ろの黒い車は、まぶしいライトを照らしながら
<<<<キャアアァァァィィィィィィ>>>>
<<<<ズァァァァァァァアアッ>>>>
<<<ブァン<<<ブァンッ<<<フアァァァァっ>>>
盛大な音を立てて近づいてくる。
その差が、だんだんと縮まる。
「なんとかしてよ」
私が絶叫すると
「ああ、なんとかしたいね」
そっけなく星海さんは答えた。
伊之助は。邪魔になるのをさとったのか、びびっているのか、静かになっていた。