第三話 朝霧の駅
気動車の窓から農作業をしている人が見える。向かい合わせ担っているボックスシートの窓側に彼は大きな口を開けて、おにぎりを三口で食べ終えようとしていた。
「んまぃ、この塩むすび。塩の塩梅がちょうどいいむ
「ねぇちょっと、いい。あなたのこと何て呼べばいいの」
「ん、なんでも。伊之助とでも」
「て、いうか、なんか古臭い名前していて呼びずらいんだけど」
「なにを、言う姫君っ」
「んーとね。どこの時代の人なの」
「説明をすると長くなるし、自分でもよくわからん」
「わからないで、私を案内しているの」
「わからなくてもいい」
そういうと伊之助は二個目のおにぎりをかぶりついた。
「おっこれは梅干しだ」
「聞いているの」
「ん、聞いている聞いてる」
二個目は、ふた口で平らげた。
「食べないの、食べないなら、代わりにそのおにぎり食べてもいい」
私の手元には二つおにぎりがあった。少ししか口がついていない。
「そうじゃなくて、今私がなんでどうしてこんなことになっているか、説明してほしいの」
「そもそも、だ。姫君が時の印を表に出したのが原因なのだ」
「これが」
私は鞄から巾着袋を取り出し、もその中から時の印と言われている金属のような破片を取り出して見せた。
「あっ、それお借りするから」
「えっ、ちょっと借りるって」
「そなたの、時の印も預かるようにと遠き者より聞いておる」
私は時の印を巾着袋にしまった。
「返してくれるんでしょうね」
「ああ、ちゃんと返す手段はあると聞いている」
私は伊之助に、自分の時の印を渡した。
「どうやって返ってくるの」
「時空便というものがあるらしい」
「なら私自身今からにそれで元にもどしてよ」
「それはできない」
窓の外は相変わらず畑と山が続いている。自分の住んでいるところと比べてだいぶ田舎を走っているようだ。
「本当に私、元のところに戻れるんでしょうね」
「一応」
伊之助は三個目のおにぎりを口にした。最後は一口で食べようとしたが突然むせこんだようだ。
「ごふっ、んんん」
「あのねぇ、無茶ブリして食べるものでないでしょ」
少し悶絶している様子だった。
「ようやく食事終わったようだからもう一回いい」
「いいって、なに」
「まず、あなたは、どこの時代の何者なの」
「・・・説明しずらが、君と同じ時空にいるんだ」
「どうして、変な電車に乗ってこれるの」
「まず、言っておくと、時空は共有されている」
「重なっているということ」
「部分的に重なっている。けれども普段はその境目がそなたの時空にでは気が付かぬ」
「じゃあ、なんであなたが私の案内につくの、出会った直後は多少はまともだと思ってたけどねおにぎり一気に食べる姿見ると別の人がいいかなとも思うの」
「いやぁ、そんなにいうとは。これでも選ばれせしものなのだぞ」
「どこがですか」
「ちゃんと高等修練所で研鑽をしだね」
「ところで何とか時空航海士準3級って何回落ちたの」
「落ちた。落ちたって」
「まさか」
「二回だけ」
「それって、普通なの」
「人それぞれと言っておこう」
「ええっ」
「でも大丈夫だ他の星の民が場所ごとにいる」
「どうやって連絡取っているの」
「あるのだよ、連絡網が」
丁寧に気動車は駅を停車していく。ようやく次の駅で列車交換となった。朝霧の中太陽の光線が斜めに差し込んでくる中、柿色に近いオレンジの気動車が「ふぉん」と間の抜けた音を出して駅に入ってきた。
「姫君少し休まれては」
「あのー、姫君だとそんな呼び方されると目立つんでは」
「ふむ。では何と」
「留美さんでも君でも」
「わかった。君も休んだら」
そういうと向かい合わせになっている座席の向い側に足を乗せて伸ばした。
「ずいぶんと行儀わるいのね」
「まだ次の乗換えまで時間は山ほどあるよ」
「変なやつらまた襲ってこないでしょうね」
「この中見渡すと誰もいないでしょ」
「確かに私たちのほかには乗っていないし」
「なので一休み]
「ちょっと」
そういうと彼は窓側に頭を持たれかけスヤスヤと眠り始めた。
気動車は山と畑と田んぼと川を縫うように淡々と走っていくと突然大きな湖かダムが見えた。
「ねえ、見てよ、すごいきれい」
私が声をかけるとなにやら モゴモゴと
「真由殿、なんということを」
寝ぼけているのかこいつは
「おい、そこの君、何だマユ殿とは」
「ん、あっ」
「彼女か」
「いや、そ、そういう真柄ではない、もっと別の立場だ」
「ほほぅ、そう言いながら」
伊之助は話をそらそうとしたの、
「そういう留美さん、その恋する人はいるのか」
「痛いところついてくるわね、いないよ」
「そうですか」
「そうですかって言われても」
「なんとなく恋する人がなにかと大変かと」
「あのねっ」
ダムの駅を過ぎた後また、山間の線路を気動車は規則的なレールのリズムを刻みながら進んでいく。途中で二人ほどおばさんが乗ってきただけで、平和な時間が流れていた。