第十話 高原の駅 - 2 - 坂道を越えてソフトクリーム
途中からサイクリングロードに入り坂道がキツクなってきた。時折振り向いて綿とがついてくるのを確かめているが、彼はペースを落とさず前へ前へと進んでいる。
サイクリンクロードはつづら折り
の所を上っていくのだが、こんなことだったらバスにすればいいものを。
「早すぎる。ゆっくり行ってよ」
「これでも、そなたに合わせている」
高原のさわやかさとは裏腹に息が上がり、ジトっとした汗も出てきた。
「もう少し」
そのもう少しが、もう少しでなかった。やつの距離感覚はどーなっているんだろる
急な坂道をようやく超えた。これでも女子だぞ。
「まて伊之助、ちょっと、息を整える」
空が青い。白い夏雲。
「行くよ姫君」
「おい、もう行くのか」
本当にちょっとした休憩の後また自転車で走り出した。
彼の名は星村伊之助というのが本名らしいが伊之助と呼び捨ててる。わたしを守り彼自身の目的を達成するための私と居るのだが。
反対に伊之助のお世話を私がしている気分になる。ただ伊之助と一緒にいないと自分のいたもとの時空に戻れないのだ。
なんで相手を選べないのだろう。
「姫君こちら」
「なんで星野さんとか留美さんとか呼ばないの」
「そなたと旅するとき他の時空の人を呼ぶ区別、それと」
「それと、なに」
「そのほうが呼びやすいから」
まあ、こちらも伊之助と呼び捨ているわけだし。
牧場の中に入る。
チョコレート色の木造の建物があった。
「ここだ」
観光客がたくさんいる。ここで鍵言葉、暗号を照らしあい時の印というアイテムを受け取り私のいたもとの時空に戻るのだ。
しかし、なんで一発で元に戻れないのだろうか。
「ぼけっとしてしてないでコレ食べよ」
ソフクリームの売り場。
「また食べるのですか」
伊之助がそっと耳元で、
「ここで鍵言葉で先に進める」
「お店の人がそうなの、そうには見えないけど」
普通のソフトクリームの店員さん。これまであって来た鍵言葉をやりとりしてきた人たちは、とこか特別な、いや変な漢字のする人ばかりだった。
私たちは行列に並びソフトクリームを買うことにした。
伊之助がソフトクリームを買う。
「アイスクリーム、天玉・かき揚げ一つと、白一つ」
普通の時なら、ボケ言っているのかと思われるけど、鍵言葉なのだ。
チラっと店員さんがこちらを見た後、背を向けてソフトクリームの機械で作り始めた。
普通に、白のソフトクリームが出てきた。
後ろに並んでいた人には聞こえてないだろうね、このシュールなやりとり。
「さあ食べよ」
「じゃないでしょ、変なやりとりしただけじゃない」
「食べないと溶けるよ」
「あのね」
「食べてから考える」
「んー、濃い」
「牛っというより、乳、乳の味がすごい」
「こらっ女子の前でそんなこと言うか」
そのあと伊之助はガブっとソフトクリームに食らいついた。虫歯がない健康優良児なのか。
「んご、棒が。アタリが出たらもう一個か」
「…ちょっとまて、読め。なんか書いてないか」
あたり棒に書かれた場所に私たちは向かった。
緑の牧草にイーゼルを立て絵を一人で描いている。
高原の素敵なオジサマとこの時は思った。
この時は素敵なオジサマと…
伊之助が声をかけた。
「細かい絵ですね」
「いや、それほどでも」
「何を描いているのですか」
「昼間の星を描いてる」
コクっとオジサマが頷いた。
「星の者より星の民へ伝言。鍵言葉を述べよ」
「銀河を飛ぶ鳥は歌を歌う」
「星鐘達也、ほしがねです」
「星村伊之助と言います。姫君は星野留美」
「さて次の鍵言葉はこの絵の中だ」
「どこ」
「普通じゃわからない。見方を変えるんだよ」
そういうと書いているキャンバスの上下を変えた。上下を変えると
文字が書かれていた。伊之助が熱心に覚えこむ。彼は丸暗記だけは得意なのだ。
わたしも覚えようとするが、こういう暗記は少し苦手だ。彼に及ばない。
ただ、スマホで記録することもメモも取ることも禁止なのだ。
「さて、記憶したら消すよ。あと当たりの書かれた棒も粉々にするよ」
「おっ」
「声に出すな」
私も声に出しそうになった。もしかすると次で、次で元の時空にと書かれていた。
「時の印だ」
「この時の印、それぞれ形が違っているようですがむ
私がつぶやくと
「詳しくはわからないが、それに意味があるらしい」
そのあと星鐘さんは絵筆で建物を指して、
「あっちで着替えとか身支度するといい」
私たちは途中で別れて茶色い宿泊施設の一室で自分の居た元の服に着替えた。
このあと自転車はここに置いてく。星鐘さんは車で送るから、とりあえず駅まで一枚羽織っておけばあたりから服装違って見えないだろって言ってくれた。
もうすぐ、今度こそ戻れる。
この時はそう思っていた。
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