第十話 高原の駅 - 1 - ミルクポットの建物から貸し自転車
夏なのか。半袖の服が多い。熱いというよりもさわやかな空気。
「離れちゃだめだぞ」
「そちらこそ」
都会ではないのに、この人出はなんだろう。
「きょろきょろすんなよ」
「それはそちらのセリフでしょ」
時空を飛ばされて紛れ込まれてなければ、高原の楽しいリゾートなのかもしれないけど、この伊之助と一緒にくっついているのは、自分の時空に戻るため。ただ一つだ。
「とはいご飯か」
漬物屋の前にオレンジエプロンをかけた人形がある。その少し離れたところにカレー屋にも人形が立っている。どこかで見たことある。テレビにでている御意見番の有名な映画監督によく似ている。
「何見ているの」
「このカレー屋の人形なんか見たことない」
「知らないよ。それにそこで食事でないだろ」
「そこですか」
伊之助は自分より一つ下のはずなのだが、食欲だけが歩いているようなものなのだ。
「なんだぁ」
目の前に現れたのは、大きなミルクポットの建物。
「お前は彼女とこういうメルヘンなところには行かぬのか」
「そのことば、そちらにそのままお返ししよう」
こういうことだけコイツは言い返しがうまいのだ。
「歩いていくは大変だか考えなくては。次の鍵言葉の受け取り場所はここではないし」
「そうか」
相変わらず混雑。人のほかに車も。この高原にあちこちからあつまっているのだ。
踏切の音がする。そちらを見かけると小さな黒い客車、物置より少し大きいぐらいの客車が踏切をタッタッタと走っている。
どこまでもメルヘンメルヘンしているのだ。
「あった、貸自転車」
「自転車でぇなの」
「歩くよりいいでしょ」
彼はさっさと借りる手続きをして
「こっちこっち」
と手招きをした
「んもぅ」
はたから見たら都会から来たカップルに見られるだろうか。
めっそうもない。
自転車に乗り伊之助の後を追った。高原のサイクリングロード坂地。
「ぶぁかっ、後ろのこと考えて」
この坂道あいつはロードバイクのギア器用に使い登り始める。
こっちは伊之助の見失わないように必死で追いかける。
高原の風はさわやかなはずだが、キツかった。