第七話 川沿いの駅 一方通行の朝
夜行高速バス。断続的に聞こえるエンジンとタイヤの音。数回目が覚めて浅い眠り。
一回目は、どこかで止まり『コツコツ』とタイヤを叩いて点検する音。窓を開けてみるとどこかのサービスエリアかパーキングエリア。
二回目は、窓の隙間から見ると夜明け前青色の空。大きな山が見える。
隣の伊之助は気持ちよさそうに熟睡している。爆睡と言ってもいいだろう。誰が姫君を守りますといったのだろうか。大きく口を開け、鼻の穴が見えた。そんなの見たくないのに。
そこからまた短い眠り。規則的で単調なノイズに包まれて気が付くと終着手前だった。
けだるくも、ぼんやりとした、安堵感に包まれた朝。
「ふぁぁぁっ。おはよう姫君、お目覚めいかが」
「お目覚め?、少ししか寝てない。よくも口を開けよだれ垂らして寝られるねぇ」
「…さて、降りる準備をしないと」
私たちは最小限のカバンを荷物棚から下ろしてバスの外にでた。季節的は出発した機能と同じなのだが、少しだけひんやりとしている。
「こっちだな」
路線バスの乗り場案内から、目的のバス停を探す。バス停から降りて少し歩く。
「道間違っていない」
「ちゃんと覚えている」
伊之助は記憶力と体力と野生のカンだけは抜群である。
「留美さんす」
「えっ」
年下のコイツ突然下の名前で言われても。
「寝ぼけておるのか、お前は」
「留美さんとか星野さんより姫君のほうが呼びやすいけどたまにはいいでしょ。特に意味はない」
イケメンに言われれば多少はときめく。王子様でも憧れの君でもないイモっぽい彼である。
たわいののないやり取りの後、古い日本の民家みたいなところについた。早朝だけに人影はほとんどいない。
「誰もいないじゃないの」
「いやどうかな」
スッと背後から気配。ラフな仕事着。配達終わりましたの服装みたいな男の人。なんだろう。食べ物の配達なの。
「星の民星住直樹星田と申す。鍵言葉を申し上げる。東雲の 流れて消えゆ うぶかたに」
「んっえっ」
「ほら、寝ぼけているっ」
「えっと、なんだっけ タイコどんどん」
「・・・うぶかたに 明の太白 光り輝く」
「確認しました、こちらが、次の鍵言葉の元列車の中で見ること。すぐに食べないで読んでから食べること」
「どうして」
「どうやら見つかったようだな、ほれ」
私たち三人を含め人がいないはずなのにも人が近づいている。
「急げ、こっちだ。乗るんだ。荷物忘れるな」
さんが手招きしたのは営業車。ザ営業車とでもいうべきもの。車の側面に、冷麺・じゃじゃ麺 製麺 とか書いている。
「あ、あの」
「何か」
「なんかこの展開どこかで体験したような」
伊之助がつぶやいている。
「なんだろう、普通だから。ベルト締めて出発するよ」
そういうと
<<ザァッ>>
<<キャイ>>
と音を立てて走り出した。
星住さんがルームミラーを覗き込みながら
「んー、一台か、つけられたのか」
「いやあちら出発したときには全滅のはず」
私がそういうと、
「となると、泳がせて捕まえるつもりかな。さてと」
地味な自家用車。けれども乱暴な速度でこちらを威嚇している。
「この車一台でどうするんですか」
伊之助が心配そうに話しかけた。
「この辺は一方通行が多くてな、地元民でも苦労するのさ。まかせてねっ」
「くっ」と路地に入る。一台スレスレの道。ソコソコのスピード。けど前みたいに怖くない。慣れもあるのだろうけど。けど伊之助はきっちり取っ手を握りしめているる
「まだついてくるか」
こんどは二回ほど路地を曲がって川沿い。
「この橋・・・いっちまおーかなー」
「なにっなにっ、なんですか」
「今回だけ特別ね、前方車両っなし一通だぁ」
「ひっ」
一方通行の橋を逆行
「おぅおおおっ。」
伊之助が引きつった。声を上げる。
「あの、ちょっと星住さん」
「なんだい星野さんだっけ」
「逆、逆っ」
「だってこっち速いでしょ」
「前、まえ、まえ」
<<キャアィィィィィ>>
方向転換して回避。前から来た車もかろうじてよけたが
<<ズザーガギィーー>>
後ろから来た車はガードレールと熱い接吻をした。
「星の民はこういう人だらけなの」
「だから偶然」
「偶然も重なると必然になるでしょ」
「そうとも言う。ところで彼伊之助くんだっけ」
「…あんなことするからでしょ」
前の車から人が下りてくる。
「ん、作戦通りか」
「だな、複数張り込んでよかった」
「あとは車交換だな。こっちだ」
「何、何よ」
「昨日から複数のチームで君たちを守ることになっている」
「ひどいじゃない。何も言っていなくてむ
「話していたら、ゴネるだろ」
「さあ、こっちに乗り換え」
「バス…」
「ん、自家用だけどね」
なんか会社の名前だろうか、そんなのが書いてある。
「運転できるんですか星住さん」
「免許はもちろんある。じゃ借りるよ」
「壊すなよ」
「もちろん」
不気味なやりとりだ。
中型の会社送迎バスが走り出すと、またもや後ろから追ってくる車がある。
こちらより少し小さい箱型の自動車。
「しつこいね、彼らは」
<<ブフォッ>>
ディーゼルエンジンを一発ふかしてハンドルをチョコッと右に切った後左にグイィィンとひねり回した。
バスが傾きながら曲がり道にスレスレ入る。
「まだついてくるのかね」
「あ、あの、まだですか」
伊之助が小声で言う。
「もうちょっと頑張ってね」
「どこだ、どこだぁ、ここかっ」
左にチョコっとハンドル切手右に大きく転回。
前方に人影が
「よし、もう一台乗り換えるよ」
「けど後ろの車」
私がそう言うと、
「しょうがない」
そう言うとハンドルそばの赤いボタン、PushButtonを押した。
すると大音響でラッパの音が流れた。
『パラリラリラリ、ラリラリ、ラー』
「な、なんなの、これ」
「ゴットファーザー六連ミュージックホーン」
「うるさいじゃないの」
「まあ見てなさい、衝撃にそなえよ」
ハンドルを右左にジクザクに切りながら一方通行
「ぐふっ」
伊之助が不気味な声を発した。
「我慢すんのよ、汚さないの」
伊之助はなんとか手で「わかった」と合図した。
朝の車の通りが少ない道。対向車がいない。
一方通行っ。
準備中の店先からゴミ箱が
ゴットファーザー六連ミュージックホーンのがなっている中
クラクションも盛大に鳴らした
『プァァァーーー』
すると
<<ドドン、 ズコンドカン>>
と店の影からドラム缶がころがりこんできて道を塞いだ。
<<ズカーーーン>>
衝突音と
ドラム缶は転がり追いかけてきた車に直撃した。
「ひゃっ」
星住さんは声を上げた。
破片がパチパチとかすかに当たる。
「次の信号の先にもで駅だよ」
比較的大通りに行くとバス停があった。
「ここからは二人だけ駅から列車に乗り込んで」
「また追いかけてきたらどうする」
交差点を曲がったところでまた別の車がやってきた。
「おいおいおい、まだいるの」
まだ、いる。中型トラック。
ゴットファーザー六連ミュージックホーンは鳴り続いている。
「ねえ、そのウルサイの止めることできないのですかむ
「壊れた。止めるボタン壊れた]
「はぁ」
「けど鳴り続けたほうがいい、仲間を集めているから」
しばらくするとその仲間は現れ始めた。
バイクの集団が前方と側面の道路から群がり始めた。
バイクも呼応するようにケタタマシイ音を発している
「どういう人たちなの]
「そういう人たちとしか。集めるの苦労したよ」
そのうちに白黒ツートンカラーのあの車も近づいてきた。
右側についているバイクの一人が手を上げた。
彼は車の先頭に出てきた。
「よしついていくか」
車の周りににいるバイクの皆様?は後方を走る車を妨害し始めた。
「さて着いたぞ、後は駅の中に居る星の民に連絡取る]
胸のポケットから小さな電話を取り出した。
「ソレは」
「PHSだけど」
「初めて見る」
「そう?」
「降りる前にだですけど、まだおってくることあるんですか」
「ありうる」
「そんな」
「大切なものだ、星の民の印と、次のだ。乗る列車はこいつ、乗車券はこれ」
車の中でカバンから星住さんは取り出した。
目の前にあるのは。ラップされていホットケーキ表面に文字列。その文字列を私達は次の鍵言葉として記憶しなくてはならない。メモはダメ。何回も繰り返しの儀式みたいなもの。
「あとは証拠隠滅な。お茶だ」
「わかりました」
と伊之助は一口で平らげた。
「あーーー」
「この先どうなることやら」
「彼がいるじゃないか」
「頼りになりばね」
「そうそう、これ、ついでに朝市で買って来た大福、まあ中につまむもの入っているから」
星住さんは白い買い物袋を伊之助に渡した。
「ありがとうございます」
「突っ走れ、とにかく」
頭の中に入れた駅構内の配置図をたぐりつつ。
というか言う言うときだけ野生のカンがある伊之助が便りになる。
丸覚えしているのだ。
地下道の方には目もくれず地上の連絡通路づたいに目的のホームまで。
「こっち」伊之助が指差図
人通りの少ない構内を駆け抜く。
背後から近づく足音。
まだいたっ。
「早くっ」伊之助が声を上げる。
けど後ろの人影との距離は縮まっている。
追いかけててくるのは男性なのか、そんなことより全力疾走。
「こっち」
後もう少し、後もう少し。けど追いつかれる。
そのとき
男性の背後から
『カッシャーーー』とすべるような音がする
なに
その次の瞬間チラとふり向くと
スケートボードに乗ってきた人が男性に多いかぶったる
「いいから、早く、早く乗れ。あっち、あっちの列車」
若い男性の声
返事をする間もなくそのまま突っ走る。
「こっちだっ」
伊之助は私の手わ強く引っ張り押し込んだ。
白い車体に赤い線。
床下からはディーゼルエンジンの音。
発車。
複線の架線のある路線を途中まで進んでいたが途中から非電化になった。
加筆修正