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魔法少女ファイナル・インパクト  作者: 四宮銅次郎
第一章 魔法少女
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誰かを助けるのに理由なし


 陽炎のように揺れる歪みから出てきたのは、頭が鳥で身体は人間の化け物だった。背中には折り畳まれた両翼があり、見たところ武器は携行していない。

 一目で肉弾戦大好きと分かる大男だ。


「探せぃ! 時間はないぞ! この秘密ルートとてすぐに嗅ぎ付けられる!」


 ……あんな歪んだ嘴でどうやって人語、しかも日本語を話しているのかすごく気になる。この前のミノタウロスや悪魔少女も日本語だし、ヴィトーも平然と使いこなしている。

 ヴィトーは立場上、当然だとしても悪の組織の奴らはどっかで勉強してるのか?


 鳥人の一喝に呼応するように歪みから全身黒タイツの男(?)たちが飛び出してくる。身長から体格まで目立った差異はなく、まるで量産されたコピーのようだ。


「さあ、急げ急げ! 魔法少女と自衛隊の連中が来る前に見つけ出せ!」


 急かす声に追い立てられ、黒ずくめたちは方々へと散っていく。幸いこっちに来ることはなかった。


「やれやれ。まったく、大総長殿も人使いが荒い」


 やがて一段落ついたらしく鳥人は用意した椅子に座り込んだ。傍には側近と思しき、豪華なマントを帯びた黒ずくめが数人控えている。

 ……俺もいつまでも覗き見してないでヴィトーに教えないと。見事に裏を掻かれてるじゃねぇか。


 しかしどこに向けてもアンテナは一本も立たない。樹海ならまだしもここは街中だぞ。どうなってんだ? 

 俺はあれこれ模索してみたが、おかしなことにまったくダメだった。ならば【個人無線機8号】ならと試してみたが、どの周波数でも聞こえてくるのはノイズだけ。

 

 まさか電波自体が阻害されている……?

 この人気のない現象と関係があるのだろうか。だとするなら、その原因たるあいつらを何とかしなきゃいけなくなる。


 うーん、どう考えてもムリゲー。戦い方すら一つも習ってないのに実戦とか死ぬわ。この前は運が良かっただけだ。向こうも半ば不意打ち喰らったみたいなものだし、二度目の奇跡は起こらないだろう。既に俺の存在は知られてるんだから。

 とにかくジッと隠れていよう……。


 そのうちミナツや自衛隊が来るだろう。もしかしたらその前に引き上げてくれるかもしれない。俺はそんな期待を抱き、この場から離れようとして――。


「ギギッ! ヴェルダス様、見つけました」

「そうか。持ってこい」


 振り返ると、一人の黒ずくめが鳥人の前で跪いていた。

 ……あいつら喋れるんだな。


「ですが、その」

「なんだ?」

「人がいます。そいつが持ってるんです」

「何?」


 鳥人――ヴェルダスとかいう、どっかのおじいさんの飴みたいな名前の奴が、腰を浮かせた。その表情も険しい。


「バカな! ついこの前、新たな魔法少女がこの街で発見されたと言うのに、二人目か! なんてことだ」


 額に手を当てて嘆く鳥人間。つーか新しい魔法少女って……俺のことだよな。ああ、やっぱりもう知れ渡っている。


「どうします?」

「連れてこい」

「かしこまりました」


 黒ずくめが片手を上げると、また別の黒ずくめが誰かを連れてきた。

 水色の髪をポニーテールで束ね、毎年最下位チームの青い野球帽を被った女の子だ。


「おい! 何なんだよ、お前ら! ボクをどうするつもりだ!?」


 抱きかかえられた体勢のまま、その子は激しく暴れている。


「そいつが?」

「はい。首にかけてるペンダントがそうです」


 黒ずめは女の子を下ろし、逃げられないように左右から両腕を掴む。

 首には小さな卵形の首飾りが下がっていた。


 あれが財宝?


「……うむ、間違いない。【インペリアル・イースターエッグ】――大総長が欲しがってるコレクションの一つだ」


 インペリアル・イースターエッグ……聞いたことがある。確かどっかの皇帝のために作られた至宝のシリーズで、全部で58個存在するらしい。

 しかし王朝の崩壊で各地に散逸し、今でも所在の分からない卵があるとか。


 あの子の持っているのが、そのうちの一つ? 現存するものは全て美術館か、コレクターの手にあるはずだし。


「よし、獲れ」


 鳥人間は満足げに笑みを浮かべ、手で合図を送った。


「な、やめろ! これは婆ちゃんから貰った大事な宝物だ! お前らなんかに渡すもんか!」


 当然女の子も激しく暴れ、抵抗する。ヴィトーや自衛隊は何してるんだ? 早く来いよ。一般人が巻き込まれてるんだぞ。


「チッ……面倒だ、黙らせろ」

「ギ!」


 鳥人間が命令すると一人の黒ずくめが動く。片手を振り上げ、何をするのかと思った次の瞬間、乾いた音が鳴り響く。

 俺も、女の子も茫然としてしまった。


 あの野郎……。


「いいか、二度は言わぬぞ」


 鳥人間は凄まじい形相を近づけ、凄みのある声を放つ。


「次騒いだら、殺す」


 叩かれた子もようやく状況を理解したのか、涙を浮かべてコクコクと頷く。


 だが俺はもう吹っ切れていた。

 細かいことなんかどうでもいい。

 助けなんか待っていられない。


 ――ふざけやがって。


「こい! 【極光の杖(アルコ・イリス)】ッッ!!」


 突き出した右手に虹色の光が迸り、七色の宝玉を据えた杖が現れた。更にその光は全身を包み込んで半そでハーフパンツから、あの魔法少女の衣装へと変化していく。


 ようやく俺の声に気づいた鳥人間たちがこちらを見るが――遅い!!


「【怒り、猛り、吼え狂え!! その憤怒を体現せよ、爆雷の鉄拳】ッ!!」


 脳裏に閃く魔法の名前。口を衝いて出るのは、考え抜いた黒歴史(えいしょう)。だが、もはやそれは無意味な妄想ではなかった。

 握り締めた拳に帯びる、翠に輝く稲妻。明らかな怪異――魔法的な現象。


「な、魔法少女だと!?」


 俺は拳を握り締め、鳥人間に吶喊した。


「【叩き潰れろ(ツォルン・レヒト)】ッ!!」


 空間を灼き、染め上げる翠。渾身の一撃は狙い違わず鳥人間の顔面へと吸い込まれ、炸裂。


「ぐはぁ!?」


 直撃と同時に稲光がスパークする。落雷のような轟音が鳴り響き、鳥人間は文字通り吹き飛ばされた。その際に何人かの黒ずくめを巻き込み、背中から建物の壁面に叩き付けられる。


「その子を放せ!」

「ギギィ!?」


 続けて女の子を押さえている黒ずくめ共を虹色の弾丸で蹴散らす


「……君、は?」


 呆けたようにペタリと座り込んだ女の子。

 俺を見上げるその子に、少しだけ笑いかけ答える。答えるべきセリフは、決まっている。


「俺は極光の魔法少女ツキハ。虹の輝きと共に悪を殲滅するものだ」


 その場のノリとテンションって怖いね! と、今日のことを思い出すたびに布団の上で悶え苦しむのは、また別の話……。


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