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魔法少女ファイナル・インパクト  作者: 四宮銅次郎
第一章 魔法少女
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フラグが立った

 目が覚める……。

 俺は寝返りを打ち、時刻を確認。


 時計の針は午前10時を少し回ったところ。部屋の中にヴィトーの気配は、ない。

 

 良かった。


 理由は知らないが、何故か組織は深夜から早朝にかけて出現することが多く、ヴィトーが俺の家に押しかけてくるのも大体その時間帯に限られている。

 つまり今日はもう大丈夫だということだ。多分。


 グッと伸びをして、大欠伸。アイテムボックスから【ダグザの巨釜】と、あらゆる飲料水が出せる【万能ドリンクバー】、様々な調味料に対応した【味付けの小瓶】を用意した。


「今日のご飯は……ハムエッグでいいかな。あとご飯と豆腐の味噌汁セットで一人前」


 ダグザの巨釜のすごいところは出せる量まで設定できることだ。早速、釜の中に食器に盛り付けられた白いご飯やハムエッグが出てくる。


「いただきます」


 出来立ての温かいご飯。厚いハムの上にのった卵黄と白身は胡椒で味付け。味噌の風味が漂う味噌汁。手間もお金も不要で、こんな美味しいものが食べられる。やっぱり魔法少女になれてよかったかも……。

 ヴィトーに振り回される毎日だが、それを帳消しにできるだけの恩恵があった。


 ……今日もいい天気だな。


 ご飯を食べながら窓の外を見る。夏らしい青空と入道雲が広がっていた。たまには外に出ようかな。新しい漫画やラノベも買いたいし。

 ゴタゴタのせいで全然チェックできてないからな。食べたら買いに行こう。




 田舎町だが駅前の方はコンビニや商店街が並び、人通りも多い。本屋もちゃんとあるので少なくとも不便に感じたことはない。

 ……バスが一時間に一本しか来ないこと以外は。


 俺は通いなれた本屋に入り、店番のバァサンがいるカウンターに新刊のラノベ数冊と、旧紀元社が出している創作活動ご用達の参考資料を持っていく。


「小さいのに、こういう本が好きなのかえ。もしかして時楸さんの親戚かい?」


 バーコードリーダーを本に当てていきながらバァサンは言う。


「よく分かりましたねー。夏休みだから遊びに来てるんですよ」

「やっぱり……あんまり、影響されちゃだめよ? あの人、根は良いんだけど少し中二病だからねぇ」


 ……なんか危険人物か何かと思われてるようで。若気の至りなんだ、見逃してくれ。


「き、気をつけますよ」


 笑顔が引き攣らないようにしたけど、多分引き攣ってるだろうな。


「ああ、ごめんなさいね。別に悪気があるわけじゃないから……はい、これはオマケよ」


 そんな俺の表情を見て、何か勘違いしたのかバァサンは申し訳なさそうに笑い、飴玉を一つくれた。


「ん、ありがとう。別に気にしてないです。また来ますね」

「はい、いつでもいらっしゃい」


 手を振ってバァサンと別れ、俺は本屋を後にした。次はどこに行こうか。飴玉を紙袋から取り出し、口に放り込む。ソーダ味。

 せっかく外出して街まで来たんだし、寄り道するのも悪くない。


 ゲーセンでも行くか。


 俺はポケットから小銭を取り出し、掌でもてあそぶ。軽く空中に飛ばしたそれらをパシッと掴み取り、弾んだ足取りでゲーセンを目指した。




 集まったギャラリーからどよめきが上がる。俺はそれを意識の端で聞きながらも、目の前の画面に集中する。

 レバーとボタンを素早く操作、画面内のキャラはその指示通りに動き、コンボ数を増やしていく。


「す、すげぇ! 玉井さん相手にここまでコンボ決める奴、初めて見るぞ!」

「何者だこの子! 下手したらチャンピオンと互角だぜ!?」


 俺がその‶チャンピオン〟なんだけどな……フクザツな気持ちだ。

 

 トドメとなるコマンドを打ち込み、フィニッシュ。ド派手な演出が入って俺の圧勝に終わった。


「……信じらねぇ」

「マジかよ……」


 観客たちが思い思いのセリフを吐く中、向かいに座っていた男は立ち上がった。時代錯誤としか思えないリーゼント頭に学ラン姿で、何故が下駄を履いている。

 一体どこの昭和の人間だと聞きたいが……本人は至って真面目に考えた上でこの恰好にしたとか。


「やるじゃねぇか。ガキだと思って甘く見てたぜ」


 ある種の爽やかさを感じさせながら、手を伸ばしてくる。


「今日の敵は明日の友! 俺は玉井ハヤトだ。友情の証の握手をしようぜ!」


 ……こいつはこーゆう奴だ。夕日をバックに殴り合って友情が芽生えるとか、青春ドラマのような展開を本気で信じている。


「ハヅキだ。よろしく」


 どうにもハヤトを見るのは苦手だ。眩しいっていうか、ここまで真っ直ぐに生きられるのが羨ましいというか。


「玉井さん! 集会の時間っス」

「む、もうそんな時間か。ではまた会おう、ハヅキよ」


 にこやかな笑みを残し、ハヤトは取り巻きの学生たちを引き攣れ去っていく。一応いわゆる不良に属するんだろうが……。


 やってることは改造してバイクっぽく見せた自転車乗り回すくらいだ(当然交通ルールは守っている)。煙草や酒は吸わないし、カツアゲも恐喝もしない。深夜、騒いで人に迷惑かけたり、コンビニの前にたむろしたりもしない。


「俺もあれくらい社交的だったらな」


 ずっと黒歴史を書き綴っていた日々が恨めしい。俺の携帯の電話帳なんて空白だぞ……。




 外に出ると夕暮れ。少し遊びすぎたか。人に見られないように注意し、クレーンゲームの戦果をアイテムボックスにしまう。


 ついでに【ダグザの巨釜】を使って焼きトウモロコシを一個出した。この時間はどうも小腹が空く。


「ん?」


 トウモロコシを齧りながら、他愛もないことを考えていると俺は違和感に気づき、足を止めた。

 

 人が……いない?


 いくら田舎でもここは駅前商店街。町の中心だ。買い出しや仕事帰りのリーマンで賑わうはずなのに、いつの間にかどこを見ても人気が消え失せている。

 それどころかヒグラシや車の走る環境音すら聞こえないのは、完全に異常としか言えない。夕焼けで紅く染まった街並みは不気味なほどに静まり返っている。


「なんか面倒なフラグぶっ立てたっぽい?」


 とりあえず隠れよう。ラノベだと大体こういう現象に巻き込まれた主人公はロクな目に遭わないのだ。

 俺は素早く路地裏に飛び込み、そこから少しだけ顔を覗かせる。


 すると――。


「おいおい、マジかよ」


 道のど真ん中に生まれる不自然な空間の歪み。

 それはヴィトーに連れ出され、戦地で何度も目にしてきた光景。


 ――悪の組織が、出現する予兆だった。


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