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魔法少女ファイナル・インパクト  作者: 四宮銅次郎
第一章 魔法少女
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 時刻は深夜近く。すっかり遅くなった。ミナツは現在基地で寝泊まりしてるらしく、そのまま俺は彼女と別れ、再びヴィトーの魔法で家に戻ってくる。

 また来る、というできれば謹んでお断りしたい有難いお言葉を言い残し、ヴィトーも去っていった。


 正直このまま泥のように眠りたい気分だったが、流石に入浴しないと気持ち悪くてしょうがない。風邪を引いた時も風呂に入る主義なんだ。

 別に潔癖症や綺麗好きではない。汚い身体で布団に入るのが嫌なんだよ。


 俺は浴槽にガチャで出したアイテム【清水の杯】を設置し、起動させる。水や温水、果てには飲料水まで出してくれる優れもの。こいつがあればもう水道代は払わなくていい。


「設定【温度38】」


 俺の言葉に反応するように杯から温水が無尽蔵に湧き出し、湯気を放ち始めた。


「【浴槽の八分目程で停止】」


 それから俺は着ていた衣服を洗濯機に投げ入れ、鏡に映った自分と目が合う。


「―――!!」


 くそ!

 咄嗟にしゃがみ込み、全身を……主に胸と下半身を隠す。


 忘れてた……。こんなの、どうしろってんだ? 自分の裸に恥ずかしさを覚えるとか………サイテーだ。


 だけど風呂には入らないと。

 とにかく、意識しないようにしてタオルでも巻いておくか……。


「ふぅ……」


 平坦な身体なのがせめてもの救いか。意識しなければ胸に気が散ることもない。髪留めを外し、ツインテールからストレートに。温かいシャワーを頭から被って、それからシャンプーで丁寧に毛髪を洗っていく。


 男の時から俺は髪の毛や身体は丁寧に洗う方だ。デリケートで繊細な女の子になっても、その点は問題ない。シャンプーだってわざわざ高い奴を買ってるんだからな。


 問題は身体だ。身体が問題だ。胸は、まだいい。男の時と同じだと思えばまだやり過ごせる。

 だが……下半身は?


 まさに未知の領域そのものだろう。エロ本を読むより、中二病黒歴史をノートに書き殴るのが青春時代だった俺にとって、そこは魔境か秘境と言ってもいい。


「はぁ……」


 とにかく見ない、意識しない、感じないをモットーにやるしかなかった。こそばゆさと何とも言えない奇妙な感触、色々と加減が分からない状況に苦労しながらもなんとか洗い終え、丁度いっぱいになった湯船に飛び込む。

 ……これが毎日続くのか。


 口元まで湯船につかり、心の中で溜息一つ。

 怠すぎて笑える。




「ツキハ。第0航空団がスクランブルしたそうだ。敵が来るぞ」

「………」


 寝起き。ただいまの時刻は早朝6時。

 プライバシーは虚無。


「あの、俺見学もうしたよね?」

「誰が一回だといった?」

「………」


 なんと今度の戦場は雲の上。

 ミナツは俺の目の前で空戦機動を自在に行い、鳥よりも華麗に空を舞っていた。


「鍛錬を積めばお前もできるようになる」

「……そーですか」


 空戦機動は魔法少女における初歩の技術だ、と彼は語る。確かに相手より高い位置を維持するのは重要なことだ。太陽を背にできるし、勢いもつけられる。

 言わずもがな新米の俺にそんな技術などなく、ヴィトーの魔法で空中に浮かんでいるだけだ。とんでもない高度にいるはずなのに、平然としていられるのも魔法のおかげなのか、あるいは魔法少女特融の不思議効果なのか……。


「来るぞ」


 ヴィトーがそう言ったのを合図にしたように、ミナツと編隊を組んだF-35が一斉に蒼穹の彼方へと飛び去っていく。

 爆音がビリビリと鼓膜を震わし、それが収まる暇もないままに今度は激しい轟音が鳴り響いた。


 俺が見つめる先――ミナツたちが飛んでいく方角――の空間のある一点が不規則なまでに歪み、陽炎のように揺らめきながら渦を描き出す。


「あれがゲートだ。あのようにこの世界と私の世界をぶち抜くように存在する穴が、あちこちで観測されている。正規ルートは全て把握されているが、中には裏ルートもあってな……あれは、その一つだ」


 渦巻く中心から何かが出てくる。

 巨大な塊……いや、違う。あれは……。


「飛行船……?」

「パーサロ級型2番艦・蒸気飛空船『ミグラトーリオ』だな」


 散開したF-35は出現した飛行船の脇を走り抜け、ミナツは大剣を構える。


『警告する。貴官の船は我が国の領空を侵犯されたし。速やかに退去せよ。従わない場合は撃墜措置を取る』


 F-35パイロットの雑音交じりの音声が、俺の耳に取り付けられたヘッドフォンから響いてきた。


「しかし、お前も大した能力を持ったものだ。そのヘッドフォンを使えば世界の軍事バランスはひっくり返るな」


 ヴィトーはヘッドフォンを見て意地悪く笑う。少し前にガチャで出したアイテム、【個人無線機8号】はあらゆる周波数に対応し、どんな無線も傍受してしまうという隠密泣かせのチートっぷりである。


「だってまさかこれが現実化するなんてさ……」


 正直俺の手に余るシロモノなのに全世界を敵に回したくない。今だって周波数は空自のものだけに合わせている。


「さて、始まるぞ」


 ヴィトーがそう言った瞬間、戦闘機は一斉にミサイルを発射。飛行船の周囲で紅蓮がいくつも広がり、爆ぜ散っていく。


 この日も魔法少女と自衛隊の圧勝であった。


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