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魔法少女ファイナル・インパクト  作者: 四宮銅次郎
第一章 魔法少女
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そして女の子へ…


 自分の理解力を超える出来事が続いて、頭がスパークしそうだ。変な杖を拾い、それを寄越せと言われ、挙句に殺されかけ、気づいたら性別が変わりました……何を言ってるのか分からねーと思うが、俺も何をされたのか分からない。


「なんじゃこりゃぁああ!!」


 俺は自分の手を、身体を、カーブミラーに映った自分の顔を、あるべきはずの象徴が無い股間を見て叫ぶ。


 地味で冴えない面をした(じぶん)はどこにもいない。代わりに小学生ほどの少女がいる。金糸のような細い髪を機械的デザインの髪留めで二つ結んだ、いわゆるツインテール。瞳の色はルビーのように紅く、纏う衣装はコスプレか何かだ。


 性別が変わった? 骨格も容姿すらも? そんなの今の技術だって不可能だ。だが、鏡に映っているのは紛れもなく俺自身であり、否定のしようがない。


「ジャ、ジャルディス!」

「承知!」


 理解が追い付かず、混乱している俺にミノタウロスがドスドスと足音を鳴り響かせ、突進してくる。


「ちったぁ考えさせろよ!」


 俺は振り向きざまに逃げ出そうとしたが、今度は悪魔少女が先程の血の塊を次々と撃ちこんでくる。


「どうすりゃいいんだ!?」


 咄嗟に曲がり角に隠れ、上がりかけた息を整えようとした。しかし極度の緊張のせいで心臓はちっとも落ち着かない。


「これが本当に魔法の杖なら――」


 その時、何かがフラッシュバックする。記憶が弾け、混乱する脳内に馴染んでいく。

 ――俺はもう知っている?


「――ッ、ええい、ままよ!」


 半ば自暴自棄。ヤケクソになって俺は強く念じ、その言葉を告げて角から飛び出した。


「【プリズミックコレダー】!!」


 俺の周囲から虹色の光軸がいくつも生まれて伸長し、ミノタウロスへと叩き込まれる。


「ぐぉ、何て奴だ! いきなり魔法を!」


 虹の奔流は巨体を強かに打ち据え、大きくのけぞらせるが決定打になった様子はない。

 しかし二人はそれ以上動こうとはしなかった。


「拙いな、騒ぎ過ぎたぞ。奴らに気づかれる」

「く、まさか覚醒したばかりでこんな……」


 悪魔少女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ――、やがて諦めたように首を振る。


「でも次は確実に、絶対に、逃がさない」


 何とも熱烈なラブコールを吐き捨てて、次の瞬間には二人の肉体は闇に溶けるように消え去った。

 俺は暫くバカみたいに棒立ちになっていたが、ようやく助かったのだと理解する。


「あ、あれ?」


 ぐらつき、暗転する視界。何とか倒れないように壁に身体を預けながらも、俺はあっさりと意識を手放した。




 夢を見た。たまに見るいつもの夢だった。

 それは遠い世界の夢。曖昧で虚ろで、目が覚めた時にはもう忘れてしまうような夢。

 なのに後味の悪さがいつまでも残る。


 その夢の中では、いつも誰かが泣いていた。




「……知ってる天井だ」


 目を覚ませば、何度も見てきた自室の天井。カーテンの隙間から差し込む朝日。


「………」


 そして、変質した俺の身体。

 服装はサイズの合ってない半そでと、パンツ。

 いつもの格好だ。……ただし女だが。


「……はぁ」

「目覚めたか。朝ごはんは何が良い?」

「目玉焼き」


 俺は敷布団から起き上がり、欠伸を噛み殺しながら洗面所に向かい、顔を洗う。冷たい水は眠気を吹き飛ばし、冷静な思考力を取り戻す。


「誰だアンタ!?」


 俺は台所で勝手に調理している男を指差す。


「ご挨拶だな。せっかくお前をここまで運んできてやっというのに」


 振り向いた男は中肉中背の背広姿。目も頭も黒く地味で、顔から身体まで特徴らしい特徴はまるでない。

 強いて言えばそんな男が、エプロンをつけていることくらいか。凄まじい印象だ。正直顔よりもこの姿の方が記憶に残りそうだ。


「運んだ?」

「道端で倒れていただろう。あのまま放置すればよからぬことを招く」


 た、確かに……男ならまだしも、今の俺は一応女だ。


「……ありがとうございます」


 って、何で俺が謝るんだよ! 


「アンタだって怪しいわ! 勝手に人んちの台所使って何してやがる!」

「朝飯の用意だが?」

「あ、わざわざどうもです……じゃなくて!」


 何で俺もそこでお礼を言うんだよ!


「面白い奴だな、一人でボケたりツッコんだり」

「ナチュラルに心の中読まないでくれません!?」


 何なんだこいつ……会話の主導権が握れねぇ!


「さあ、できたぞ」


 当然のように男は出来上がった料理をテーブルに並べていく。

 真っ白なゴハンと目玉焼きにソーセージ、あとはサラダがそれぞれ皿に盛りつけられている。

 ……美味そうだ。まさか毒とか入ってないよな?


「安心しろ。何も入ってない」

「………」


 そのまま食事を始めた男を俺はジーッと見つめる。

 何なんだ、ホント……。


「いただきます……」


 そう思いつつも欲求には勝てない。俺も箸を取って食べ始める。

 味? ムカつくくらい美味いよ。


「で、アンタは一体何者なんすか」

「私はヴィトゲンシュタイン」

「嘘つけ!」


 んなわけあるか! どこの哲学者だ。


「なに、気軽にヴィトーと呼んでくれたまえ」

「………」


 何か言おうとしたがやめた。ツッコんでも空しいし、疲れるだけなのでヴィトーって呼ぶことにしてやる。


「……で、アンタは何? この、今の俺に起きている不可解な現象を知ってるのか? 昨夜の二人組は?」

「慌てるな。お前の疑問には全て答えてやる」


 ヴィトーは箸を置き、咳払いした。


「私はこういうものだ」


 内ポケットから取り出したのは一枚の名刺。


「防衛省、超自然災害対策本部長官?」


 そんな役職あったか? いや、ない。


「秘密裏に用意された役だ。お前が昨晩遭遇したあの二人組――その組織への対抗手段としてな」

「組織?」

「言ってしまえば、悪の組織だ」


 ある日、突如日本に対して攻めてきた謎の集団。目的やその背後関係も謎。ただ彼らの兵員や兵器が戦隊モノに登場するような悪の組織と瓜二つなので、便宜上そう名付けられたらしい。


「はぁ?」


 あまりにも荒唐無稽。鼻で笑ってしまいそうになるくらいぶっ飛んだ絵空事。しかし俺は信じる――否、信じざるを得ない状況下にある。

 実際に目で見て、耳で聞いて、身体で体験したのだから。


「何だソレ……意味が分かんねぇ」


 じゃあ、あの二人が俺を見て叫んだ単語は。

 拾った謎の杖は。

 そして性別の変異は。


 全て、紛れもない現実。

 ある種の方向へ無駄に鍛えられた思考回路は冷静に答えを導き出してくる。


「魔法少女……俺が」


 謎の組織に、魔法少女。これは一体何なんだ。まともな職につかない俺への罰か。

 昨日までは平凡に暮らしていたのに。


「やけに順応性が高いな。理解が早くて助かるが」

「まあ……そういうフィクションが好きなもんで」

「話を戻すぞ――魔法少女とは、次世代の結晶。技術大国である日本が生み出した未来の可能性だ」


 ヴィトーは俺が拾った杖をテーブルに置く。そこら辺の100円ショップで売ってそうな安物に見える。

 これが技術の結晶? とてもそうには見えない。


「思春期の少女たちを中心に、その胸に抱く想像力を現実世界に投影させる媒体物……要は、中二病の産物をリアルに打ち出すと言うものだ」


 何それすごい。

 でもなんで少女限定?


「女の方が多感だからな。適合性がある。まあ、お前のようなタイプは初めてだが……」

「ですよねー。これ、元に戻れます?」

「………」


 あ、これはダメなパターンだ。せめて何か言えよ。


「……これから俺はどうすれば?」

「一つは政府の下で保護を受け、元に戻るまでそこで生活する」


 要は収容か。字面だけでもロクなイメージが湧かない。嫌だな、おい。


「もう一つは今まで通りここで生活し、戦うことだ。悪の組織とな」

「えっと、三つ目とかどちらも選ばないってのは――」

「却下」


 僅かばかりの期待を込めて懇願するも鋭い眼光で睨まれ、一蹴。

 どっち選んでもハードな未来しか見えないんですが! 


「あのぉ理不尽すぎやしませんかね」

「諦めろ。杖に適合してしまった以上、無関係に過ごすことはできない」


 まさかこいつ……他の少女たちにもこんな脅迫まがいなコトやって、押しつけてるんじゃ……。

 ロクな説明もせず奇跡を釣り餌に、ゾンビみたいな身体に変えるド畜生よりはずっとマシだろうけど。


「まあ、すぐに答えを出せとは言わない。一週間後、また聞きに来よう」


 いっそ夜逃げ……。


「ああ、しっかりとお前の行動はマーキングしているからな。時楸(ときひさぎ)ツキハ」


 言葉に詰まる俺を尻目にヴィトーは立ち上がる。


「くれぐれも他言無用に。どこに行こうが逃がさんぞ」


 そして背筋が震えそうなセリフを吐き、部屋から出ていった。

 遠くから聞こえてくるセミの鳴き声だけが、静かに俺の鼓膜を震わせていく。


「人生って、何が起こるか分かんないな」


 本当にさ。



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