第6章-幸運-
「と言っても・・・私自身が戦う訳ではありませんがね」
聖音は闘志を残したまま微笑む。好戦的な笑みを浮かべたのだ。
「ほう?ではどう戦うと?」
「こう戦うのです・・・!」
聖音が言い終わった瞬間に紳士が「始めっ!」と叫ぶ。
ゼウスは紳士の掛け声が聞こえた瞬間、瞬時に警戒した。
どうも嬢さんの言葉が気になるのォ・・・。一体何を仕掛けてくるのか楽しみじゃの・・・!!
「行きます!セイレーンさんっ!」
すると突如ゼウスの周りに複数魔法陣ができ、セイレーンがでてきた。
「皆さんっ!耳を塞いでください!」
聖音の言葉を聞いて俺達は急いで耳を塞いだ。
その瞬間耳を塞いでいなかったらどうなったであろうか分からない程のかん高い音が・・・いや声がゼウスの作り上げた世界に響く。
「ぬぁっ!?」
ゼウスは幻獣が出てくるとは思ってもいなかったので咄嗟の判断で耳を塞ぐ。
しかしそれが聖音の狙いだった。
「今です!グリフォンさん!!」
聖音の後ろの上空に魔法陣が浮かび上がる。
ゼウスは姿勢を崩している。セイレーンの声を一瞬だが聞いてしまったのだ。
すると魔法陣からグリフォンが現れとてつもないスピードでゼウスに襲いかかる。
「GYAaaaaaaa!!」
鳴き声と共に降ろされた爪はゼウスの腕にヒットした。
「くっ・・・!!」
だがゼウスはその痛みでセイレーンの混乱から少し目が覚めた。
「うっそでしょ・・・!?」
ゼウスに傷を与えたことについて一番驚いてるのは俺でもゼウス本人でもない。
そう、さっき戦って一傷も与えられなかった麗奈が一番驚いていた。
と言うより、だ。俺達は聖音の真の能力に今初めて気づいたのだ。
なぜなら、召喚できるという事について麗奈は一言も喋っていたわけでもなく向こうの世界で1回も使っていなかったからだ。
驚きました?と言わんばかりに聖音はこちらの方を向いて
ぺろっと可愛らしい笑みを浮かべたのだ。
「一本取られたな」
「そうね~、本当っよ!まったく」
クハハと俺もつい笑ってしまう。
だがもうゼウスはセイレーンの混乱から完璧に目を覚まし。反撃しようとしていた。
・・・が遅い、その時にはもうゼウスの目の前にとてつもなくでかい魔法陣が出来上がっていた。
「出てください!ニーズヘックさんっ!!」
「GUGAYaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
全身を貫くバインドボイス。
グリフォンとは比にならない程の声。
誰もが本能的に危険と察しさそのボイスに耳をまた塞ぐ。
どんなに力を極めた神や幻獣でもその大型幻獣が放つバインドボイスには本能が抗えなかった。
「ニーズヘックじゃと!?!?あんなのも従えると言うのかこの小娘は!!」
ゼウスは守りに徹した。しかし行動を移し尽くすその瞬間にニーズヘックは攻撃の行動に移っていた。
ユグドラシルの根をかみ続けたその顎の力は大地を砕く。
ゼウスはその場にいなかった。
さっきいた場所からやく3m後ろに存在した。
「おっと、危なかったのぉ・・・お主がニーズヘックなどという化物を出すから少しビビって本気出してしまったわい。」
ゼウスは余裕そうな笑み浮かべながらも鼻下のヒゲを触っていた。
だがゼウスをしっかり観察していた矛人は気づいていた。
そう、微かに刹那ではあるがゼウスが本気で負けると思った恐怖の顔が。
「私の負けですわ」
聖音が降伏宣言をした。
その声を聞き、紳士が
「そこまでっ!」
と叫ぶ。
ニーズヘックは聖音の元へと移動すると、聖音はよく頑張ってくれたとニーズヘックの頭をよしよしと撫でた。
「私の今の最大の一撃を交わされたのであれば、もう私の負けです。これ以上お友達の幻獣もいませんしなにより、エースはこの子ですから」
そう言うとニーズヘックは少し申し訳無さそうに
「GAYu・・・」
と鳴く。
聖音は
「いいのよ、相手はゼウスですから」
とニーズヘックの鼻先に頭をコツンとくっ付け、また撫でる。
ニーズヘックは嬉しそうに尻尾を振っていた。
「しかしニーズヘックとはのぅ・・・鷲獅子とセイレーンも驚いたが・・・。ニーズヘックまでも使役するとは。魔王クラスの幻獣を使役されたらたまったもんじゃないのぅ・・・」
「私自身の力では神にも及ばない一般の人間並ですけどね」
ゼウスの呟きに聖音は言葉を返す。
ゼウスもニーズヘックに触ろうとするとニーズヘックは
「GAYuAa!」
と噛み付きにかかる。
「おっとっと」
言葉と共に即座に手を引っ込めて、怪我のなかったことを確認するとふぅ・・・と心底安心していた。
セイレーンもグリフォンも聖音の元へと駆けつける。
聖音は
「ありがとうございました。」
と頭を下げるとニーズヘックと共にこの場から姿を消した。
「次は俺か・・・」
だるそうに放ったその言葉とは正反対に矛人の心は燃えに燃えたぎっていた。
とここで疑問点が浮かぶ
「しかし、どこでこんなのと出会ったんだ?俺ら全く合わなかったぞ?」
「それは、ここに来るまでの道中です!」
聖音は心の底から、ふふっと笑みを浮べた。
しっかり幸運が発動していたようだ