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羅刹


~帝国陣地~


ここは帝国騎士の陣営。軍事力に力通しているグランジ帝国は年々武器の強化や開発に力を入れている。そのため、ドレイク公国が長年かけてマスケット銃をしたのに対してグランジ帝国は大量生産するかのような武器開発のおかげで軍事力が増加してる。


そのかいあってか今回の進行作戦では大砲や重装備の近衛兵、さらにはベルグを調教して竜騎士と呼ばれる新たな戦力を投下しつうある。


「ふふふ。先月の進行は愚かな将軍のせいで無駄なものとなったが私はそんな凡ミスはしない。」


彼はこの進行作戦の指揮を任命された若き将軍のミゲル・ベルトーニ。家が大金持ちの家系なのか甘やかされ育ったせいで、何事も家を後ろ楯として将軍の地位まで上り詰めた。


さらに他人を見下す癖があり、先月のドレイク公国への進行の失敗もフリーデンの部隊のせいなのを否定し、老将が弱いせいだと言い放ってる。しかし、彼が後にフリーデンの部隊に大敗することは誰も知らない。


「全軍前進だ!奴等にものをいわせてやる」



/※/



「敵さんはバカだな~。普通に前進しやがって。」


「隊長、愚痴を言ってる暇があるなら弾薬運ぶの手伝ってください。」


「そんな面倒くさいのなんてしたくないね。あたしはこうして酒を飲んでるが好きなんだ」


高高度偵察機 SR―71 ブラックバードの偵察機器が捉えた写真ではこの小高い丘を通過すると予想された。見事予想は当たり、こうして先回りして迎撃の準備をしてる。


その迎撃部隊の隊長である赤毛のポニーテールにズボンとタンクトップしか身につけない女性はこの緊張感のなか、呑気に酒盛りしていた。


彼女の名前はチャールズ・ケリー。西部戦線で活躍したアメリカ軍人で「コマンド・ケリー」と異名をもつ。アルタヴィッラ近郊でナチスドイツ国防軍の弾幕に晒されながらも鬼人の如く奮闘し、数時間後には国防軍を全滅させた話が有名だ。

その鬼人は男ではなく、女。男勝りな部分はあるが現在はれっきとした女である。


「ケリー伍長は酒ばっかりですね。そんなんじゃ食生活も心配ですね。」


彼女は部下のサラ。上司であるケリーを止めるストッパーのような存在だ。


「食生活なら心配ない。毎日五人前食ってる。」


「・・・。よく胃に収まりますね。」


「あたしは食べることも好きなんだ。スカッとするからな。」


「そんなに食うと太りますよ。いずれ総督にも愛想つかれますよ。」


「え!?・・・なら少しは自重してやるか。嫌われたくないしな・・・。」


頬を赤く紅潮させる。男勝りとはいえ彼女も一人の女。カオルに惚れているのだ。しかし自分では不釣り合いなのでは?と考えてしまいなかなか想いを打ち明けることができなかった。


「ふふふ。ですけどこの任務を成功させれば総督も振り向いてくれますよ。」


「・・・よし!てめぇら!さっさと準備しろ!敵がお出ましだぞ!」


「うう・・・結局は手伝ってくれないのですね・・・。」


みたいなことを挟みつつ準備は着々と進んでいた。

陣形は二の字形に前衛と後衛に別れて射撃する。後方の砲撃部隊は榴弾砲による主な敵勢力の撃破を、前方部隊は機関銃などによる騎士個別の掃射を担当する。


ケリーは後方の砲撃による援護の指揮をとるが彼女は戦闘狂(バトルファンキー)な性格なために戦いたくてしょうがないのだ。


「たくっ・・・あたしは前衛で戦いたいのになんで止めるんだよ」


「なんでってあなたはここの指揮官でしょ。指揮官が持ち場を離れてどうするんですか。」


「指揮官ならお前に譲ってやるよ。あたしは二等兵でもいいからさ」


「あなたを指揮官に命じたのは総督ですよ。文句は総督に言ってくださいよ」


「伍長!本部より連絡が!」


「なに!そーとくか?」


「はい!閣下でありました!」


「よこせ!」


肉に食らいつく豹のように通信兵から無線機を奪い取る。

ニヤニヤ顔のケリーには待ち望んだ通信なのだ。


「もしもし、そーとく?」


『ようケリーか。そっちはどうだ?』


「こっちは何もかも順調だ。準備は急がしてくてな」


『それは大変だな。帰ったらマッサージでもしてやるよ。』


「ほんとか!よし任せとけ。奴等なんてボロボロにしてやるさ!」


『はは、戦果に期待してるよ』


ブツッ


「ふふふ。帰ったらそーとくのマッサージか・・・」


(準備に急がしいって・・・)


(まったくの嘘ですよね?)


(ただ酒飲んでただけですし・・・)


いろいろ言いたいことはあるが言えなかった。彼女を怒らすことは鬼を怒らすことと同類なのだ。彼女一人で一個中隊を潰せるからだ。


「おい、なにサボってる。さっさと働け!」


「「「「はい~!!」」」



/※/



「ミゲル様。敵どころが障害物何一つありません。尻尾を巻いて逃げたようです。」


「ははは。敵は弱いネズミどもばかりか。大敗してきた老将はやはり、指揮官の器ではなかったようだな。」


帝国騎士は団体で列となり大名行列のように行進してる。これは騎士の流儀で魅せつけるように歩くのが基本なのだ。しかし相手からすれば戦場に固まってるのでいい的だ。実に狙いやすい

ミゲルは高貴な馬車に乗っており、周りは近衛兵で警護されてる。


「ワインを持ってきてくれ。敵もいないからじつに暇だ。」


「わかりました。」


副将の男が馬車に取り付けられてる棚からとりだすすは古いワイン。かなりの年代物だ。


「こちらはシャトー・ペトリュス。今朝、倉庫から出されたばかりです。」


「じつに気が利くではないか。誉めてつかわすよ」


「恐縮です」


「ふむ・・・。いい香りだ。色もだ。これぞ、ワインのなかのワインだ。」


ゆっくりとワインを飲み堪能してると遠くのほうで雷のような大きな音がする。

そして少しの間をおいて、


ゴオォーーン!!


地響きとともに近くに砲弾が着弾した。


「何事だ!」


「大変ですミゲル様!どこからか大砲による砲撃が!このままではただやられるだけです!」


「く、くそ!なにをしてる!さっさと敵を倒しにいかんか!」


「し、しかし・・・敵の補足地点もまだ・・・」


「いいからさっさと行け!できなければ打ち首だ!」


「はい・・・(だから嫌だって言ったんだ!このバカのお守りは!)」


ミゲルに命令され嫌々と騎士を率いて戦場を駆ける。だが敵がどこにいるのかも知らないのにできるはずがなかった。



/※/



「いけいけー!どんどん撃ちまくれ!」


後方の支援部隊は155mm 榴弾砲 FH―70による砲撃を続けている。砲身後端の下部に砲弾装填用トレイと半自動式装填補助装置を搭載してるため、トレイに次弾を置いた状態で砲撃すると砲身の前進運動と連動して尾栓が開き、素早い装填と高い連射速度を可能としている。

そんな連射力と遠距離砲撃が充分に発揮され、敵地に砲弾の雨を降らす。


ゴロンと排出された薬莢が転がる。その薬莢を足で転がしながら暇そうに呟く。


「正直、暇だなぁ~。なあ、前衛と合流していいか?」


「ダメに決まってるでしょ!」


あっさりと提案は却下された。しかし、行けないと知ると尚更行きたくなる。


(こっそり抜け出すか)


見つからないようにテントに戻り装備を携える。太ももに2本の大型ナイフ。背中にはククリナイフ。肩からはM32グレネードランチャーを下げ、AA―12を手に持つ。彼女の完全武装だ。


「どこ行くのですか?」


不意に背中に声が突き刺さる。ギギキッと油がきかなくなったロボットのように振り向けばそこにはサラがいた。


「や、やあサラ。」


「前線に行こうとしても無駄ですよ。それともそこにある椅子に縛りつけましょうか?そうすれば2度と動けませんね。」


「やめよ~よ。ねぇ?。あっ!足元に虫が!


「ひえぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


サラの弱点は虫。極度の虫嫌いなのだ。咄嗟の嘘にしては結構有効だと思ったケリーの嘘だ。しかし嘘に気づかずにしっかりと怯えてしまい、テントの隅でブルブルと震える。


その隙にテントを出て前方部隊と合流する。



/※/



「M2の弾丸が切れた!弾を持ってこい!」


「これか?ほらよ」


「すまない・・・て隊長!なぜここに!」


「後衛が暇だからここに来た。敵はどこだ?」


「敵はこちらの砲身に気づき、攻めこんできてます。ですが少数なのでそれほど苦戦はしてませんが・・・」


「ならあとは私が殺っていいか?戦いたくてうずうずしてんだ。あと発砲するなよ」


そう言うと武器を手に塹壕を出ては飛び込んでいった。


「撃ちかた止め!撃ちかた止め!隊長が混入した!流れ弾が危険だ!」


「え!隊長が?」


ケリーが敵集に紛れているのを知った兵士たちはすぐに銃の引き金から指を離す。これでは敵を迎え撃つことができない。


「まったく・・・。総員、許可するまで待て。」


「しかし、助けなくてよいのですか?」


「隊長の強さを知ってるだろ?近接戦闘の訓練で100人抜きするような人だ。」



/※/


M32を連発しながら突撃する。グレネード弾は高い土埃をあげて着弾地点から半径5メートルほどの圏内にいる騎士に被弾する。6発すべてを撃ちきるとM32を捨てAA―12に持ちかえる。


「おらぁ!」


右手のAA―12をフルオートで撃ちまくる。高い連射力のショットガンであるAA―12は弾切れも速いため、ドラムマガジンも開発された。そのおかげでマガジンチェンジが少なくてすむ。


「死ねぇ!」


襲いかかってくる騎士を撃つ。

12ゲージの弾丸は小粒の鉛弾を撒き散らし、鎧を破壊し身体の芯まで深く抉る。


あまりに撃ちすぎるので速くも弾切れだ。これではドラムマガジンの意味がない。

AA―12を捨てると背中のククリナイフを2本とも引き抜き、正面の二人の騎士を切り捨てる。


「くそ!女一人に何してる!数ではこっちが上だぞ!」


「いくら数が多くても使えないんじゃ、話になんねぇな!」


前、右、後ろ、右、左、前。

かかってきた順に深傷を負わせる。乱戦に興じる羅刹には誰も止められない。敵を滅ぼすか、自身が力尽きるか、そのどちらしかない。


「大砲だ!大砲を撃て!」


アームストロング砲のようなこちらに劣る大砲を向ける。だが弾丸をセットする前に左手のククリナイフを投げつけるとナイフは円弧を描き額を叩き割る。


「隊長に続け!総員着剣!」


こしのM9バイオネットを着けたHK416を槍のように扱い、乱戦に参加する。突然の敵の突撃に対応する間もなく、その鋭利な銃剣の餌食となっていく。


「くそ!貴様ら、なにをしてる!我が最強の軍だぞ!女などに負けおって!」


先程までの爽やかな雰囲気はなく、ミゲルは取り乱して命令を下す。しかし、そんな彼の命令も聞こえず一人、今度は二人と逃亡を図る。次第に逃亡者は増えていきやがて、軍全体で撤退することとなった。


「なにをしてる!さっさと戦え!副将、貴様!敵前逃亡する気か!」


「あんたなんかについていく義理はない!ここでおさらばだ!」


「おい待て!」


ミゲルの停止命令も無視して置いてきぼりにして逃げる。やがて残ったのはミゲル、ただ一人だった。


「おい、そこの。逃げないのか?今なら逃げてもいいぞ」


ケリーのジョークに兵士達がクスクスとくすみ笑う。それにはさすがのミゲルも激怒する。


「な、なんだと!貴様ら、よくも僕の軍を!」


「僕の軍?なにを言ってるんだが。いいか?これは戦争だ。生きるか死ぬか、そのどちらかしかないんだ。だから、」


ケリーは太ももにあるナイフを手に取り、


「死ね。」


ナイフをミゲルの首筋に当てる。するもミゲルは自分の死期を悟ったのか命乞いをする。


「ま、待て!僕を殺すと有力な情報が聞き出せないぞ!それでもいいのか?」


「別に~。」


「な、なら金はどうだ?僕にはたんまりと財産がある。山分け、いや9割りは君のものだ!」


「いらねぇな。あたしが欲しいのはな・・・」


ナイフを横に一閃。蛇口から水が溢れるかのように大量の血が吹き出る。

首が半分まで斬られたミゲルは呼吸も間もなく後ろへと崩れ落ちた。


「そーとくだけさ。おい、帰るぞ」


「は、はい」


全身を血塗れにして微笑んでいるその顔はまさしく鬼。その鬼顔には兵士たちも恐怖する。


「たくっ・・・汚ねぇ血がべっとりついちまったじゃねぇか。帰ってシャワーでも浴びるか」


その静かに歩む後ろ姿さえも鬼の倫であった。






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