エルフの村
「そうかよくやった!」
任務を終えたヘイヘ少尉達は顔に泥を塗ったままで帰還した。ニコニコ顔のミルフィとは対照的にヘイヘ少尉は不変な顔のままだ。いわゆるポーカーフェイスというやつだろう。
「総督、なにか褒美はないですかぁー」
「褒美?急に言われてもなぁ。なにを報酬として出せばいいんだ?」
「・・・なら頭を撫でて欲しい。それで充分。」
「な、撫でる?」
「・・・うん。それだけで奴等を掃除できる。」
「掃除って・・・まあ、ヘイヘ少尉がそういうなら」
ナデナデと猫を撫でるかのように優しく撫でてやる。するとヘイヘ少尉は気持ち良さそうに目を細めて紅潮してる。
「ずるい!総督、私にもしてください!」
「・・・これで用は終わった。兵舎に戻るべき。」
「あ!待って!まだ撫でてもらってなーい!」
「・・・あと、私のことはヘイヘではなくシモと呼んで欲しい。」
「え?名前で?」
「うん」
「じゃあ・・・これからもよろしくな、シモ。」
「・・・・・・恥ずかしい。これで失礼する。」
「待って、待って!まだ撫でて・・」
バタン
シモは駄々こねるミルフィの服を引っ張り無理矢理退室した。
「中々綺麗な銀髪だったな・・・」
シモの銀髪に感銘を受けていた。
/※/
「悪いな、カオル。本来ならば私達が受ける職務なのに」
「気にすんな。みんなあのデブ貴族が悪いんだ」
城に来るなり大物顔で歩く貴族に声をかけられ仕事を押し付けられた。内容は貿易の手伝いだ。どうやら馬車代の自腹が嫌なのか俺達のHMMMVなどを使って荷物を運べとか言われた。あんまり腹立つので一発殴ったらギャンギャン泣きわめき去っていた。スカッとしたぜ。一応運ぶぐらいはやるか。
「貿易っていってもなにするんだ?」
「獣人との貿易だ。この辺りにエルフの村がある。そこで採れるオリーブは最高級のオリーブで陛下の好物でもある。エルフ達との貿易は不可欠なんだ。」
「公国では亜人とも交流してるか?」
「そうだ。陛下も前国王も種族差別が大嫌いなため、積極的に交流を深め、亜人と人間の溝を無くしたんだ。そのかいあって今では公国にも自由に行き行きできる。」
「大変国民思いのご夫婦だな。前国王はどうした?」
「5年前に亡くなった。重い病だ。死に際に陛下にすべての権利を渡して息を引き取った。」
「だが今の女王が死んだらどうする?」
「残念ながら陛下にご子息もご息女もいない。この場合は遺言として陛下自らが後継者、いわゆる公国の新たな王を選ぶんだ。」
「ということは王に成り上がるため貴族が騒いでるたろうな。」
「恥ずかしい話、まったくその通りだ。」
「総督、エルフの村の圏内に着きました。」
「おうそうか。ご苦労だな」
「あと・・・カオル、いやカオル様と呼んだほうがいいか?」
「だからあの会議でも言ったろ。肩苦しいのはごめんだと。その呼び捨てで結構だ。」
セニアはおれがフリーデンの王と知った日から他人行儀みたいに敬語かつ様付きで呼んできた。あんまり恥ずかしいので止めさせた。
「ならカオル。ここからは私が先導しよう。この村のエルフとは顔馴染みだ。」
セニアを先頭に俺らが着いていく。万が一に備えて完全武装を施し、抜かりはない。
獣道ともいえる木々に囲まれた細い路地を突き進む。すると葦に紛れて所々に矢が木や地面に刺さっている。これは
「それは彼女らの村に手を出そうとした不届きものの憐れな末路だ。大抵はならず者だ。」
よく見れば鎧やローブ、錆びつい剣など散乱してる。さらには血塗られた鎧が多数、しかも若干、骨までも。村に害するものは容赦しないという訳か。恐ろしいな。
というより、
「彼女ら?」
そうだ。エルフは女性しかいない。エルフは誇り高い女戦士から為った一族だ。しかも男性禁制の村だ。
だからか。女性騎士を連れてきたのは。しかし、
「それ、俺が行っていいのか?」
「なんとか掛け合ってみよう。間接的とはいえ、帝国を追っ払ってくれたのだ。ここだ。」
村に着いた。村の入り口には見張りであるエルフがたっている。薄い布地の服に弓を携え武装している。しかも俺をきつい目で見てる。早速警戒されてるな。
「おお、セニアか。久しゅうな。」
「お前もな、ライカ。半年ぶりか?」
「ああ。それにしても今日は充分客人が多いな。それに見慣れぬ服装の者だな。ん?」
ライカとかいう褐色銀髪の女性と目が合う。すると彼女はツカツカとこちらに歩いてきて、
「貴様、男だな。」
「え?あ、ああ」
「覚悟!」
いきなり腰の小型の剣のようなものを抜いては斬りかかってきた。なんとか避けたものの彼女はさらに斬りつけてくる。
「な、なにをする!」
「ここは男性禁制のエルフの里!なぜ男である貴様がここにいる!」
「ま、まて!ライカ、彼は・・・」
「はあ!」
ライカは聞く耳をもたない。しかも、彼女は夢中なのか自分の身体に気づいてない。
胸がぶるんぶるんと揺れているのを。
「くそ!やむを得ない!」
柔道の要領で前回りさばきで踏み込み体を沈め相手の右肩を掴み、背追い上げ投げた。背負い投げだ。ライカは勢いよく投げ出され剣を落としてしまう。
辺りが静まりかえる。兵士もセニアもこの村のエルフ達もただ、呆然としてる。
「はぁはぁ・・・危ないな」
「ライカ、大丈夫か?」
ライカを心配したセニアが近づく。
「くそ!やられた!もう一度だ!」
「待て待て!ライカ落ち着け。彼も客人の一人だ。」
「この村は男性禁制。お前、その意味分かってるのか?」
「もちろん。陛下からの書状もある。これで満足か?」
「・・・ちっ」
舌打ちしながら悔しそうに立ち去る。
「セニア、その書状は?」
「この村に男がやむを得ずに入らなければならない事情がある場合は陛下の書状が必要だ。事前に預かったのが幸となったな。」
「ありがとな。しかし、乱暴な奴だな」
「そう言わないでくれ。彼女が幼少のころ、村の外へ出てしまったことがある。そして近くを通りかかった盗賊らに暴行されそうになったことがある。」
「・・・」
「彼女が村に居ないことに気づいたほかのエルフ達が見つけ盗賊を倒したのはいいが、彼女はすっかり男嫌いしてしまった。」
「ひどい話だな。」
「少しは落ち着いてきたようだがまだまだ道は険しいな。」
/※/
「ほお、よく来たな。」
ここはこの村の村長の家。村長といってもヨボヨボの婆さんではなく美人な女性だ。
「また、いつものように取れ立てのオリーブを貰う。」
「構わん。それでこの村を養ってるようなものだ。今後もよろしく。」
「こちらこそ。」
「話は変わるがその男は?。アリアの頼みとはいえ、警戒することにたしたことはない。」
「彼はカオル。私の命の恩人だ。」
「ほう、命の恩人か。ならカオルよ、そちに一つ頼みがある。」
「頼み?」
「この村の近くに盗賊のねぐらがある。いつ襲ってくるかわからん。先に襲撃し、叩き潰す。」
「私も同行する!」
「ライカ?」
「ライカ、お主聞き耳してたな?」
「そのことはお許しください。しかし私はその者が公国の危機を救った者と信じられません。ならば、」
「その自身の眼で見るとわけか・・・」
「はい。」
「なら同行を許そう。どれだけその男が戦えるのをな。」
/※/
「こちらアルファー1。洞窟の目標ポイントに到着。」
『了解。1分後に攻撃を開始せよ。健闘を祈る。』
「何者なんだ。お前らは・・・」
少数の兵士を編隊した部隊で攻撃をする。武器もHK416とM92Fだけしか持ってきてないが、盗賊ぐらいなら充分ともいえる。
だが今回はライカも参戦してる。行きたいと駄々こねるので仕方なく同行させた。もちろん俺も同行した。彼女に良いところを見せつけるために。
「ライカは下がってろ。ここからは俺らの役割だ。」
「イヤだ!貴様などに手柄を渡すもんか!」
「手柄とか、そういう話じゃない!盗賊がどんな相手か分からない以上、迂闊にできない。」
「ちっ!腰抜けめ!こうなったら私一人で行く、」
「あっこら!」
部隊を抜け出して真っ先に洞窟へと向かう。これにはほかの兵士も驚く。
洞窟の入り口に立つなり高らかと声をあげる。
「出てこい盗賊!私が相手だ!」
パンッ!
発砲音がする。俺の部隊ではない。ならば
「やっぱり来たかエルフ。」
「いつ来るかと思えばやっと来たか。待ちわびたぜ」
罠だったか。わざわざ村の近くの洞窟に潜んでいたのはおびき寄せるため。そうして来たところをマスケット銃で撃つとわけか。
しかし、あのマスケット銃は・・・。ダメだ、今はライカの救助が最優先だ。
「全部隊、ライカを援護せよ!」
「はっ!」
草木に隠れていた部隊が発砲を開始する。これには盗賊も予想外なのか、あわてて逃げ追い打ちをかけられる。
「撃て!逃がすな!」
兵士が撃ってる間にライカを救助する。担架で後方に運び手当てをする。運よく急所を外し左側の腹に命中した。これなら助かるかもしれん。
「うぅ・・・ゴホッ・・・」
「喋るな。血が出るぞ」
衛生兵のシルクと共に傷口をガーゼで抑え圧迫止血させる。そのお陰で出血も少なくすんだ。
「まったく、世話がやけるな」
愚痴を吐きつつ担架で救援のHMMMVに乗せ任務は終わった。