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白い死神

――ザー ザー ジッ


『こちら、フリーデン本部。そちらの様子はどうだ?』


「・・・さっきと変わってない。それだけ」


『あの~。もう少し真剣に・・・』


『・・・私はいつも真剣。わかったら任務に集中させて』


『はい・・・』


ブツッ


「いいんですか?ヘイヘ少尉。本部にそんな連絡をして」


「・・・別に構わない。総督じゃなかった。」


現在、ドレイク公国から西に10kmを二人組が移動中。周りの草木に溶け込むようにギリースーツを纏い、その純白な肌には目立たぬように泥が塗られ、綺麗な顔が台無しだ。しかし本人は全然気にしてない。


一人はアルビノのような白い肌にサラサラな銀髪。目は鳶色の瞳孔だ。手にしてるのはモシン・ナガンM28。時代遅れともいえる古い銃を使うのは彼女のポリシーかもしれない。

その彼女こそがフィンランドとソビエト連邦における冬戦争の英雄、「白い死神」と呼ばれソビエト全土から恐れられたフィンランド軍人でスナイパーのシモ・ヘイヘ少尉だ。


「少尉、何度も言いますがスコープは要らないのですか?」


「・・・あっても邪魔。私の目のほうが正確。」


彼女の視力は遥かに常人を越える。記述によれば300メートル位ならほぼ100%の確率で頭部を撃つことが出来る。つまり絶対半径(キリングレンジ)は最低でも300メートルというわけだ。スコープをつけないのはレンズが反射して居場所がバレるのを防ぐためといわれている。


「この先が崖となっており、そこから敵の陣地が一望できるみたいです。」


彼女は観測手のミルフィ。このワガママスナイパーの相方でもある。


「・・・あそこ。」


「あっ!ここが目的地の崖です。」


森を抜けると岩石が切り立った崖につく。崖といっても高さ25メートルくらいでそんなに高い崖ではない。しかし、ここから敵の陣地が丸見えなのでスナイパーにとっては絶好のコンディションだ。


二人は身体を屈み匍匐状態になり狙撃の準備をする。先に双眼鏡で陣地内の様子を見ていたミルフィは敵が外へ出ているのに気づく。


「ふふふ。バカな敵ですね。こんないい天気ほど、気をつけろと情操教育で習いませんでしたか?」


「・・・アホなこといってないで任務に集中。」


「ですけど日も高いですしゆっくりしましょ。ほら、少尉の好きなフィンランドのアロマティー、NORDQVIST(ノードクヴィスト)を持参しました。ここで一杯どうですか・・アイタタタタタタタ!!」


「・・・さっさと観測して。」


シモは躊躇なくミルフィの頬を力一杯引っ張る。餅肌はのびーんと伸ばされいい感触を証明してる。


「分かりました分かりましたよ。イテテテテ・・・」


再びミルフィは双眼鏡、シモは愛銃のモシン・ナガンM28を構える。


「正面に敵、二人。」


「・・・排除する。」


バスッ!


正面の見張りの騎士の頭部が砕け散る。すぐに遊底を引き、コッキングしてまた戻す。このコッキングによって新しい弾薬が薬室に送られ再装填される。


バスッ!


「・・・二人目も命中。」



/※/



敵陣地では偶々見張りの騎士が倒れるところを見ていた。そのことをこの隊を率いるリーダーに伝えた。


「何事だ!」


「わかりません!見張りをしていた騎士が突然倒れて・・・」


「くそ!原因を突き止めろ!我々に手を出したことを後悔させて・・」


言葉が何かに遮られる。彼の額を見ればぽっかりと穴が空いていた。


「隊長!どうしましたか!おい!早く増援を呼んでこ・・・」


彼も敵の正体が分からぬまま、その額を撃たれた。



/※/



スコープなしというのにこの正確に撃ち抜く技術と視力。稀にみるスナイパーだと隣にいて感じる。


バスッ! ガチャ、バスッ! ガチャ、バスッ!


立て続けに三人の騎士を撃つ。

これで外を歩いていた巡回兵は一通り始末した。あと何人いるかわからない。二人はそのまま陣地の様子を見る。


「居ませんね・・・」


「・・・根気よく探す。一人も逃さないで。」


「とはいっても、こうもいないんではどうしようもないですよ。」


「・・・ほらいた」


「へ?」


シモに言われるがままに双眼鏡を覗き直す。すると様子がおかしいと思ったのか奥のほうからぞろぞろと出てくるではないか。数は50人。


「どうしますか?」


「・・・排除する。」


「え!ですけどあの数は・・・。私は銃を持ってきてないですし。」


「・・・大丈夫。私がやる。」


そう言うと彼女はモシン・ナガンM28を構えて照星と照門が重なるように調整して、


バスッ!


引き金を引く。



/※/



どれだけ時間が経っただろうか。ボルトを引いては戻し、引いては戻すの繰り返しだ。相変わらず敵は多い。


「そこの木に隠れています。日光で反射してモロバレです。」


「・・・命中。」


「あと、その側の木にも」


「・・・命中。」


「まだいますね」


「・・・あと5人。・・・命中。」


シモの放った弾丸は必ずとも頭部を貫く。それは相手の騎士達も気づいたのか頭を隠したり兜で撃たれないように守ろうと無駄な抵抗をしてる。


「・・・命中。あと一人。」


「やっと任務が終わりますか。いや~、長かった。」


「・・・そういう訳にはいかないみたい。」


意味不振な台詞を口にする。双眼鏡を覗けばそこに映えるのは残った騎士がどこからか連れてきた女性を人質にして、その鋭利なナイフを首に当てている。


「くっ!なんて卑怯な!」


「・・・」


ガチャ


何も発せずにシモはモシン・ナガンM28のボルトを引いた。これにはミルフィも驚く。


「な、なにしてるのですか!人質が・・・」


「・・・分かってる。当てはしない。」


当てはしない。それはあの女性に当てずに正確にあの騎士を撃ち抜くというわけだ。運の悪いことに騎士はこちらを正面にして人質にナイフを向けている。居場所がバレたわけではないがあの騎士の直感なのだろう。いくらシモでもそれは不可能といえる。


双眼鏡を見れば二人は重なるように立っており、騎士に関してはわずかしか体が見えない。


「・・・奴の左目を狙う。そこだけがここから見える唯一の部分。」


辺りが静寂が包み、音がこの世界から消えたようだ。さすがのミルフィもふざけずにじっとシモを見守る。


バスッ!


引き金を引き、弾丸が発砲された。



/※/



「はぁはぁ・・・。」


「いやぁ!やめて!」


「動くな!くそ・・・。何なんだ!誰が俺らを殺った!」


「私は関係ない!おねがい、見逃して!」


「そうはいかねぇ!てめぇも道連れだ!おとなしくし・・・」


「死ね」と発音する前に左顔が吹き飛ぶ。眼球を中心に左耳、口の左側、さらには生え際まで到達した。それはまるでシモ・ヘイヘが現役時代に受けた弾痕と同じだった。


「ふえぇ・・・あれ?・・・」


ここで人質の女性が敵が死んだことに気づく。辺りをキョロキョロと見回しては我にかえり、自分の村へと帰っていった。



/※/



「やりましたね、ヘイヘ少尉!」


「・・・任務は終わった。さっさと帰る」


「あ!ちょっと、待って!」


いつの間に帰る支度を済ましていたのだろう。せっせと来た道をUターンした。


「やっぱり凄いですねヘイヘ少尉は。どうやったらそんな狙撃が可能なんですか?」


スナイパーとして腕の上昇は全スナイパーの夢だ。その技術の秘訣を知りたいのだろう。


するとシモはモシン・ナガンM28を肩に担ぎ上げ、こう言った。


「・・・ただ練習あるのみ。あとは・・・」


今度はその純白な頬を分かりやすいほど赤くしながらこう呟いた。


「・・・総督に褒めてもらいたいから。」


その顔は白い死神の表情ではなく、一人の少女の顔だ。


「いや~。可愛いですよ~、ヘイヘ少尉。まさに恋する乙女ですよ!」


「・・・むっ、お仕置き」


「痛い!痛いですって!やめて!」


やっぱりシモはシモであった。





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