防衛戦
「さすがはカルロス軍曹。この距離はお手のものか」
M2重機関銃にスコープをつけて狙撃する大技をくりだす。
このカルロス軍曹こと、カルロス・ハスコックは「白毛戦士」と異名をもつ海兵隊のスナイパーだ。今やっているようにM2重機関銃にスコープを装着し狙撃する様は後に、対物狙撃銃などの開発の参考にされたともいわれる。
「はは、これぐらい簡単さ!」
赤毛のショートヘアーでまるで少年みたいな顔立ちの少女、彼女こそがホワイト・フェザーこと、カルロス・ハスコックだ。その印象深い白い羽を帽子に留めている。
バンッ!
M2重機関銃を用いた狙撃は外すことなく命中する。M2重機関銃の有効射程は2,000メートル。ここから前線地までは1,000メートル。カルロスにとっては手の届く範囲のようなものだろう。
「次弾も命中!どんどん行くぞー!」
明るい笑顔が魅力的だ。口にだしたら武蔵に拗ねられるので、あえて出さない。
「カルロスはそのまま狙撃を。」
「うん!」
「ほかは帝国軍の横から奇襲をかける。充分な距離をとり、戦車の砲撃と銃撃を中心に。接近してきたら歩兵がカバーするんだ。いいか、公国騎士への誤射や暴力は禁止だ。」
「了解!」
500メートルぐらいまで近づいた。前線を見れば明らかに帝国軍が有利だ。このままではセニア達も危ないだろう。
「戦車隊、砲撃開始!」
73式特大型セミトレーナから降車したM1A2と10式戦車は一斉に砲撃する。両者の44口径 120mm 滑腔砲 M256が轟音と火煙を立ち上げ、砲弾は帝国軍の騎士が集まるところを的確に正確に着弾させる。
高い土渋きをあげ、騎士を排除する。突然の砲弾により帝国側は混乱し、連携が乱れつつある。
「次弾、装填!」
すぐさま装填し、狙いをつけ撃つ。装填、標準、発砲、そのループが続く。
「総督!敵がこちらに向かって来ます!」
「ストライカーとLAV―25で排除しろ。」
「はっ!」
LAV―25はM2重機関銃で掃射を始める。そしてストライカーはなんと、敵のなかへと進んでいくではないか。
「なんだあれは!」
「一気にやっちまえ!」
ノコノコと敵軍のなかへと入ってきた見たことのない鉄の塊に帝国騎士は恐れながらも立ち向かう。
「キィーン!」
しかし、何度も開発を重ねて造られた特殊な装甲に剣は効かず、かすり傷もなかった。
「うわぁ!」
「あ、あしが!ギャアァァァァア」
騎士の一撃をものともせずに人体を轢きながら進んでいく。バキバキと骨が踏み潰させる音をたて、進むストライカーに皆恐れを抱き逃げるばかりだった。
バスッバスッ!
キューポラから胴体を出さずとも搭載されている40mm 擲弾発射器 Mk19を連射する。それはRWSのカメラによって車内のディスプレイから目標を探知、攻撃を可能としている。これでストライカーは攻守どちらも強力な戦力になった。
40mm 擲弾発射器 Mk19はグレネードランチャーの一種で一見、マシンガンのようなものだが中身はまったくの別物。弾丸ではなくM203などと同じ弾薬である40×46mmグレネード弾を使用する。
だが、Mk19は単発式のM203とは違い連発、しかも毎分300~400の弾薬を打ち出すことが可能だ。
「道は切り開いた!全軍、進め!」
もはや敵軍のほとんどは腰を抜かし、戦意喪失だ。今のうちに敵軍のど真ん中を突き抜ける。
「くそ!奴等は何者だ!」
いきなりの襲撃に怯える味方を目にしていて意表をつかれた気分だ。不思議な鉄の塊、不思議な武器。どれも自分等では敵わないことを実感する。
「は・・・はは・・。やっぱり戻ってきたか」
敵の混乱よりもあの男が来たことに感慨に浸る。
すると老将はセニアの髪を無理矢理といわんばかりに掴む。
「あうぅ!!」
「知っているのか!誰だ!奴等は何者だ!」
掴むなり、強引に聞き出そうとする老将。だがセニアは耐え、口を開こうともしない。
「くそ!なら直接相手するまでだ。」
セニアの髪を離すと剣をとる。
「させるか!」
「ぐ!貴様!なにをする!」
「あいつのところには行かせない!」
「なら貴様から死ぬがよい!」
剣を逆手持ちにするとセニアに矛先を向ける。
だが、
バンッ
「ぐわぁぁぁあ!」
手首から先が吹き飛ぶ。それは切断されたのではなく、手首そのものが消し飛んだようだ。
「そこを動くな!」
HK416やベネリ M4を装備をした歩兵が次々と帝国騎士を無力化していく。自分等に手助けすることを知った公国騎士も士気をあげ、形勢逆転となり、帝国騎士を撤退させていく。
「大丈夫か?セニア。」
カオル・・・
カオルが数時間ぶりにセニアを見る。そこには城で会った騎士の概念はなく、ただのボロボロの女性だった。
「たくっ・・・出ていけと言っただろうが。」
「たしかにな。だが、来るなとは言ってないだろ?」
「ふふ。」
「はは。」
「やはり、減らず口は変わらないな」
「誰が減らず口だ。クレイ、彼女の手当てを」
「はっ!」
セニアは兵士の用意した担架によって後方の医療テントに運ばれた。
あとは、
「総督、この男はどうしましょう。」
セニアに手をかけたこの男をどうするかだな。生かす気はない。セニアを傷つけたからな。
「殺せ」
ゾクッ
クレイは見た。いつもは優しい青年、そしてこの兵士達を家族と呼んでくれる総督からはただならぬ殺気が纏う。人間の殺気ではない。獣、まるですべてを食らいつくす獣のようだ。
「は、はっ!」
一人の兵士が老将にベネリM4を向ける。しかし、イタリアのベネリ社の最新散弾銃の口径からは弾は発射されることはなく、
「うおぉぉぉ!死ねぇぇぇ!」
隠し持っていたナイフで道ずれにせんかのようにカオルへと刃を向け走る。
だがそのナイフの刃は届くことなく、
「!」
別の業物で自らの身体が分断される。
「カオル様には指一本触れさせません」
その華奢な細い両腕にもつ日本刀を愛用し、袴姿の少女はそう呟くように発した。
「バ・・・カ・・・・な・・・。」
それは、分断された上半身からは最後の言葉だった。
「・・・!」
その太刀筋を読めるものはおらず、兵士もただ見とれていた。
「すごいな、武蔵。」
「はい♪」
つい先程までの羅刹から豹変し、元の武蔵へと戻った。そのギャップに少し驚きながらもカオルは彼女を褒め称えた。
「うぅ・・・ん?・・。」
目が覚める。
カーキ色のテントとそこから覗く曇り空が目に映える。
ふと、自分の身体を見れば全身を包帯で巻かれ、左腕の関節からは管が繋がれている。身体を起こそうとしても起きれない。
「ここは・・・。」
野営テントだろうか。自分と同じように怪我をして運び込まれた騎士が隣、さらにその隣に寝ている。
「目が覚めましたか?」
私が気づいた女性が駆け寄る。白衣を身に纏い、眼鏡をかける女性だ。
「私はミランダ。ここの軍医をしてるの。あなたの傷は大したことはないけど疲労が原因ね。」
「そうか、近ごろ働きすぎたかな。」
「身体はもう心配ないからそこら辺を散歩してきたらどうかしら?少しぐらいリラクゼーションしても罰は当たらないわ」
「そうするよ。治療してくれて感謝する。」
セニアは内心驚いている。見たことの道具、嗅いだことのない刺激臭、どれも驚くのには充分な要素だ。
(なんなんだここは?)
疲労困憊な足取りで外へでる。
「よお、起きたか。」
「カオル!?」
出口で命の恩人と鉢合わせした。戦場で会ったときとは服装が変わり、まるで貴族が着るようなコートに身を包む。
「今から容態を看ようかと思っていたがその様子だともう心配ないようだな。」
「すまないな、貴殿らに迷惑をかけたようだ。」
無関係な争い事に介入してくれ、仲間の世話までしてくれた。誇り高い公国の騎士がならず者に世話になるとは。面目つぶれもいいところだ。
「気にすんな、こっちも好きで介入したんだ。お前らが責をとう必要性はない。」
それなのにこの青年は当たり前のように手を差し伸べる。セニアはこの青年になんだか好感を持ち始めていた。
「ここらは俺の仲間が展開してるテントだ。あっちで炊き出ししてるから腹が空いているなら飯でも食ってくれ」
「しかしいいのか?食料まで提供して・・・」
「いいんだよ。こっちは何一つ不充分していないからな。」
「そんなにすごい軍だったのか、お前らは。いよいよ怪しくなってくるな」
「詮索はやめてくれ。」
「総督!」
「ん?どうした?」
「我軍の被害は少なかった模様です。重傷者9名、軽傷者15名、死者0。死人がいないことは何よりの救いです。」
「遠くから砲弾ぶちかましていたからな。敵の数も減ったのが勝因だろう。」
「これで失礼します!」
そう報告し終わると駆け足で去っていく。
「今のは?お前の部下か?」
「ああ。たしか戦車兵だったな。」
「戦車?」
「戦車ってのは俺らが使ってる兵器だ。ほら、変な砂色のとか、斑模様のとかいただろ?」
「あの敵の攻撃をものともしない兵器か?そういえばゴーレムも簡単に倒したな。」
「石の巨人か?ありゃ、一発食らっただけで死んだよな。」
「・・・お前らが規格外なだけだ」
もはや、最強といっても構わないほどの軍。一台の兵器で千の兵を踏み倒し、一発の砲弾で主翼戦力を破壊する。
喉から手が出るほど欲しいほどの戦力だ。
だがそれは駄目だ。彼らは同盟国でもない。他国の戦力を勝手に使うことも利用することもできない。
「あと、女王に言伝てを頼みたいんだが」
「陛下にか?して、その内容は?」
「同盟」
「え」
セニアのなかで何かが弾けとんだ。
「同盟!?ほんとによろしいのですか?」
「は、はい。カオルがそうと・・・」
一室にいる女王と貴族がざわめく。彼らも見たはずだ。あの強力な武器に兵力、ものとすれば公国は大きな一歩を踏むことになる。
「それでカオル様は?」
「今は別室に待機させています。呼んできますか?」
「その必要はないな。」
突如、後ろから声がする。見れば、そこにいたのは紛れもなくカオルだ。部下を連れてこの会議場に乗り込んできたようだ。
「貴様!ここをどこと心得る!このかたは現女王陛下で仰せられるぞ!」
一人の貴族がカオルの失礼な立ち振舞いに激怒する。しかしカオルは最低限のマナーを心得え、乗り込んできたようにも見える。
「突然の乱入は許してくれ。今の同盟はほんとの話だ。」
「近衛兵!この男をつまみ出せ!」
「はっ!」
「待ちなさい!」
「へ、陛下?」
武装していた近衛兵に停止命令を下す女王。
「この客人です。失礼なもてなしはいけません。」
「し、しかし」
「まだ言いますか?」
女王は穏和な表情を一変したかのように鋭い目力を発揮する。指摘された貴族は渋々と席に座る。
「それで同盟の話ですが・・・」
「もちろん結ぶさ。条件はあるがな。」
「わかりました。では1週間後、この城にてお互いの代表による相対を・・・」
「今やらないか?ぱぱっと終わらしたいのでね」
「「え?」」
アリアとセニアの声が重なる。
「し、しかし、そちらは代表者がおりません。国を束ねるもの、あるいはその王の副心か、」
すると横の武蔵が前に一歩でる。
「アリア女王。このカオル様が我が国、フリーデンを統治する王でごさいます。そちらの条件は成立してます。」
「な!?」
「カオルが・・・王?」
「はい、カオル様は我々の王たる人物。建国から日は浅いですが王に変わりはありません。」
「しかし、総督というのは」
「総督はすなわち、王と同格です。」
「・・・」
アリアとセニアが呆然としている。無理ないな。親しげに話していた俺がフリーデンの総督だと誰が思うだろう。
「・・・わかりました。ではこちらへ・・・」
セニアを引き連れてアリアは先導する。この部屋から出る際に貴族達を見てみると苦い顔をしていた。
「さて、ここなら誰もいませんね。」
「って、あんたの部屋じゃねぇか」
案内されたのは女王の部屋。つい最近来たばかりで見覚えがあるものばかりだ。
「ここは女王と私、ラファールぐらいしか来ない。外を見張っている侍女たちも信頼できる。」
「では、そちらの条件は?」
早速本気モードだ。
「こちらの条件は少しばかり土地を借りてる。その土地をそのまま我々の陣地にしたい。」
「・・・」
「・・・」
「それだけですか?」
「ああ。」
「ほんとに?」
「ほんとだ」
「なんとも、貧欲な方ですね」
「悪かったな。そちらの条件は?」
「こちらは戦力の共有化。それぐらいです、」
「お前も貧欲だな。」
「貴方ほどではないです。」
これで同盟完了。呆気ない会議だった。
場所は変わってフリーデン 。ここはフリーデンの滑走路。兵士たちが同盟記念に飲みたいとか言い出した。それで皆集めてパーティーとなった。
「酒だー!酒をもってこーい!」
あちこちで酔っ払いが増大する。後始末が大変だ。
「カオル様、お酌を・・・」
「あっ、悪いな」
武蔵にお酌をしてもらう。今夜は満月。月を肴に飲むのも悪くはないな。
「ねえねえ、今日の戦闘頑張ったでしょ?ボクを褒めてよ!」
いきなりカルロス登場。危うく酒を落としそうになる。
「ああ、すごいな、カルロスは。あの距離からの狙撃は見物だったぞ。」
「へへへ♪」
頭を撫でてやる。あの芸当はカルロスぐらいにしかできないからな。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
なんだろう。辺りが静かになった気がする。さっきまでの酒盛りはどうした。
「・・・カオル様、私もご活躍しましたでしょう?私も撫でてもらいたいです。」
「私もです。あの大隊を率いたこの私にも報酬はないのですか?」
武蔵とクレイも撫でてもらいのか、ねだってくる。
しかたないので両手で二人の頭を撫でる。
「あの総督、私にも・・・」
「ああ!ずるい!閣下、私にも!」
どんどん希望者が増えていく。いつのまにか酒盛りから頭撫でに変わったようだ。