大戦
「やはり、グランジ帝国が絡んでいましたか・・・」
ベルグ騒動から一時間ほど経った現在は女王の部屋にいる。
セニアは部下達にベルグの後処理を任せると俺たちをこの部屋に連れてきたのだ。
「陛下。先日の暗殺者もグランジ帝国の者でした。この国に簡単に入れるとなれば、それを手回しした恐れが・・・」
つまりこの国に裏切り者がいるというわけだ。それはさすがに落ち込むな。
「セニア、グランジ帝国とは?」
ここで最も気になる質問をぶつける。
「グランジ国はこの国と敵対関係にある国だ。奴等は軍事力をもって次々と国を滅ぼすまるで悪魔のような国だ。」
「つまり、侵略者ってわけか」
「そうだ。ここ最近で武器開発は進んでいる。なるべく戦争はしたくなかったんだがな。それも無理な話だろう。」
「なぜ?」
「実はグランジ帝国には何度も和平条約の言伝てを送ったのですが返信はなく、協和は不可能かと。」
「陛下への暗殺者、ベルグでの襲撃してきたことから察するに・・・」
「次の標的はここだろう。」
俺の台詞に重く辛辣としたどんよりな空気が漂う。頭を下げ項垂れている。
「それでどうするつもりだ?」
「戦うしかありません。おめおめとやられるわけにもいきませんし。なによりこの国の民を守るために。」
「・・・」
「カオル、今すぐこの国から出てけ。お前らがいては邪魔だ。」
セニアは残酷なことを突きつけた。ラファールと武蔵が驚くなか、アリアは何かを察したようでそっとセニアを見つめる。
「あなた!カオル様に向かってなんてことを・・・」
「待て!武蔵!」
俺が邪魔だと言われ怒って刀に手をかけようとする武蔵を抑える。
「わかった。お前の言う通りこの国を出よう。」
「カオル様!?」
「武蔵、みんなに撤収の令を、」
「・・・はい」
渋々と兵士に伝えるためにこの部屋を出ていく武蔵。後に残ったのはさらなる静寂とした空気だ。
「カオル様、申し訳ありません」
「私からも謝ります。どうか許してやってください。」
ラファールとアリアが頭を下げてくる。セニアの乱暴な言葉を謝罪しようとのことだろう。
「気にするな、じゃあな。」
俺は武蔵の後を追うようにこの部屋を出ようとする。去り際にチラッとセニアを見てみると悲しい目をしていた。
「セニア様、ほんとにいいのですか?」
「いいんだ。あいつらはこの国となんの関わりもないし、帝国とも関係ない。ここにいて無駄な血が流れるだけだ。」
「ですが!彼らの力を見たでしょう!彼らと同盟を結べば強力な仲間同士となり、共たたかってくれるはずです!」
「ダメだ!これ以上あいつらを危険な目に遇わせたくない!それにだ!今ここで同盟を結べばまるでその力を利用としようとしてるようだろ!」
「っ!」
「これでいいんだ・・・」
「ラファール、セニアは彼らを危険な目に遇わせたくないのよ。セニアの大切な友人でもあるんですもの。」
アリアの淡々とした口調を最後に部屋は沈黙に包まれた。
「・・・」
HMMMVでフリーデンに向かう道中、カオルは腰の拳銃ホルスターからM92Fを引き抜き、オーバーホールする。
マガジン、スライド、バレルの順に分解し、異常な部分がないか点検する。
「カオル様、いいのですか?」
「なにが?」
「ドレイク公国のことです」
「・・・」
「正直にもうしますと、あの兵力や武力では太刀打ち出来ないかと。」
「知ってるさ」
「助けないのですか?」
「助けるさ」
「へ?」
「セニアからはこの国を出てけとは言われたが来るなとは言われてない。」
「ということは・・・」
「作戦を練り、準備をしよう。それからセニア達の元へ行くか」
「はい!」
~フリーデン 本部~
ここはフリーデンの本部。縦長のテーブルに囲うは陸海空の将校達が座っている。
「今回、あつまってもらったのは他でもない。ドレイク公国のことだ。まずは・・・」
将校達にこれからの事を伝えた。ドレイク公国とグランジ帝国の争い事に介入することを。無関係な自分等がわざわざ出る幕はないのも。それでもセニア達を助けたいと乞う。
「嫌ならここから出てっても構わない。最低、俺一人でも戦うさ。」
「総督、誰が嫌だといいましたか?総督が望むのならば我々はそこへついていくだけです」
「そうです。我々は総督の部下であり、仲間でもあります。仲間が困ってるのに無視するなど有り得ません」
次々と賛同してくれる将校達。よかった。これで充分な戦力となってくれるだろう。
「緊急連絡です!」
突然そこへ一人の兵士が駆け込んでくる。
「何事だ!」
「先程、ブラックバードからの通信が!」
「無線を!」
武蔵に無線を用意させ、電源をいれ、しばらくの雑音のあと対話を開始する。
「こちら、フリーデン本部、大場だ。一体何があった?」
『!?。そ、総督。』
「落ち着け。何があったかゆっくりと話せ。」
『はい。我ら、『クロウ』はドレイク公国周辺の空域高度一万メートル上空から偵察中。機器に反応が・・・』
『クロウ』こと、高高度偵察機 SR―71 ブラックバードにはドレイク公国周辺の偵察を命じた。その黒いボディーと滑らかな流線型が生み出すステルス性は偵察にはぴったりだ。
対話の相手はRSO (偵察機器を操作する乗員)からの通信だろう。
『ドレイク公国へ軍が進行。現在、公国は防衛線を張っている模様。』
「早速攻めこんできたわけか・・・」
『総督、ご指示を。』
「よし、クロウはそのまま偵察を続けてくれ。何かわかったら連絡してくれ」
『了解!』
電源を切ると今度はこの場にいる将校達に命令を告げる。
「陸軍はすぐに戦闘準備を。空軍と海軍はここを頼む。」
「「「はっ!」」」
バタバタと動き出す将校達。俺も武装を施し、エアポートへ向かう。
エアポートへ来るなり、陸軍大佐が近寄る。
「閣下!すべての準備を完了しました!」
敬礼しながらその凛とした顔からは冷静と覇気が感じられる。彼女の後ろを見れば数々の兵器が立ち並ぶ。
デザードカラーの装甲に身を包み、44口径 120mm滑腔砲 M256、対物・対空に優れた12,7mm M2重機関銃を搭載するM1A2。
黒、茶、灰色の斑模様の装甲、M1A2と同格の装備をもつ自衛隊の顔、10式戦車。
連発式のグレネードランチャーである40mm 擲弾発射器 Mk19と車体上面にノルウェーのコングスベルグ・ディフェンス&エアロスペース社製の「プロテクターM151」RWSを搭載する装輪装甲車、M1126ストライカーICV。
その他もHMMMVやLAV―25が勢揃いだ。
軍事戦略でも各国を代表する兵器が集められた。これだけで他国との戦争もできる。
「武蔵はどうだ?」
「すでに完了しました。あとはカオル様のみです。」
「なら乗り込むとするか。」
いち早く、HMMMVに乗り込むと銃をコッキングする。いつ、何時、応戦できるように準備に抜かりはない。
すぐにエンジンを鳴らして走行する。
土煙をあげて走る車輌達。前方はストライカーやLAV―25が、横をM1A2や10式戦車を運搬する73式特大型セミトレーナが走る。
「すごい数だな」
「これも総督の人脈というやつでしょう。」
横に座っているのはこの大隊を率いるクレイトン・エイブラムス。第二次世界大戦のナチスドイツとのバルジの戦いにて英雄となり、アメリカ陸軍参謀総長にもなった男だ。
しかし現在座っている英雄は男ではなく、女。金髪ショートカットの美少女だ。
「クレイ、俺のおかげじゃないさ。」
「またまたご謙遜を。あと、クレイとは?」
「愛称さ。クレイトンから文字とってクレイ。いい名だろ?」
「・・・総督は中々の女殺しですね、」
「ん?なにかいったか?」
「いえ、なにも。」
「・・・総督、戦争前になにイチャついているのですか?」
ただならぬ殺気を纏い睨み付けてくる武蔵。
「いや、イチャついていないけど、」
「ふん!」
何やらお怒りの様子だ。これは機嫌を治すのに一苦労だな。
「くっ!奴等め、ゴーレムを使ってくるとは!」
ドレイク公国の防衛線の最前線。セニア達は鎧に身を包み、襲いかかってくるグランジ帝国の騎士と鍔競り合いをしている。
最新の魔法具や戦略を用いてジリジリと追い詰めていくグランジ帝国に対しドレイク公国はなす術もなく後退を続けるだけだった。
「逃がすな!奴等を血祭りにしろ!」
逃げるセニア達に追い討ちをかけるように後を追う帝国の騎士達。
「おい!」
「は、はい!なんでしょうか?」
「先に逃げろ!私が盾となる。」
「な!?」
そういうといきなり振り返り追い付こうとしていた騎士の首を一太刀。瞬殺ともいえるその太刀筋は帝国騎士を留めるには充分な見世物だ。
「さあ、どうした!ここから先、一歩も踏みいることは許さん!」
「くそ!数でかかれ!女だからと容赦はせんぞ!」
「無論、そのつもりだ!」
老将ともいえる敵将が命令をだすと一斉にセニアへかかる。
「セニア様を守るんだ!銃、構え!」
逃げている騎士達で編成を組み、セニアを保守するため公国最新の武器、マスケット銃を構える。
「撃て!」
指揮官の一声で一斉に引き金をひく。単発ではあるが一発の威力が高いため、足止めには効果的だ。
「ぐわぁ!」
「うわぁ!」
なんとか足止めする。しかし連発できず、一発ごとに弾込めをしないといけないため2発めには時間がかかる。
「いまだ!かかれ!」
好機とみてか、帝国騎士が襲う。次々と斬られていく公国騎士もいれば、銃剣をつけたマスケット銃で応戦するものもいた。
「どうした?小娘」
度重なる乱戦で体力を消耗したセニアの前に立つのは指揮官の老将。数々の戦いを潜り抜けてきたその鋭い眼光からは闘気がみなぎってる。
「くそ・・・帝国め・・・!」
「何とでも言え。」
見下し、蔑み、憐れな目でセニアを睨み付けてくる。それは強者を連想させる目だ。
「主に恨みはないがこれで終いとかせてもらおう。」
その武器、剣を高く振るい上げる。
「最後に言い残す言葉は?」
「・・・帝国の・・・・バカヤロ・・」
「ふん!」
豪傑な腕っぷしを振るい、刃を向けた。
と、その時だった。
ドオォーーン!
「なんだ!?」
老将が狼狽える。突然の爆発と轟音。
タタタタタタタタタタタタタタタタタタ
リズミカルな太鼓のような断続的な音。
「これは・・・」
それはセニアも聞き覚えがある。ごく最近。
「何事だ!」
老将が部下に尋ねる。するとその部下は混乱しつつも返答した。
「わかりません!なにやら」
その部下の台詞が途切れたと思いきや頭部が引き飛ぶ。水袋に水をパンパンにして破裂させたような音がして、血を辺りにぶちまける。
「ふふ、奴か・・・」
セニアの呟きには老将にも聞こえなかった。